Text:Mizuki Sikano
the telephonesが9thアルバム『Come on!!!』をリリースした。音楽が好きでとにかく踊りたいロック・キッズに数々の遊び場を提供し続ける彼ららしい、ハイテンションな10曲を収録! しかしこの作品、聴けば聴くほどこれまでthe telephonesが奏でてきた荒々しいスリリングなムードよりも、洗練された音で安定感のあるダンス・ロックを構築しているのが興味深い。今回は、作詞作曲の舵を取る石毛輝(vo、gt、syn)に話を聞いた。
目次
石毛輝(the telephones)インタビュー
家でも100%楽しめるthe telephonesを作ろうとした
―収録曲どれも非常にテンションが高いですよね。
石毛 メンバーと“家でも100%楽しめるthe telephones”を作ろうって話をしましたね。コロナ禍前はライブのときのエネルギーを注入して完成する曲が多かったんです。具体的には、お客さんとライブで掛け合えるメロディや言葉を考えていたりしました。でも、会場によってあらゆる制限がある中で、これまでと同じ作り方ではお客さんも自分たちも楽しめないと思いました。それで、今のライブ環境に適した楽曲を模索しました。その答えの一つがアレンジ上で引き算をして、今まで以上に一つ一つの音にこだわりたいってことでした。
―聴いた感じでは音色も種類豊富で、アレンジ面で細かく凝って音を足していったんじゃないかという印象を受けていたのですが、マインド的には逆?
石毛 曲によっては最初のデモ段階でたくさんの音が入っていたと思います。最終的には4人の演奏で成立するアレンジになることを目指して、引いていきました。でも同期を使ってライブするようにもなったので、総じて音数多めな曲も躊躇(ちゅうちょ)なく収録できるようになったのかな……でもアレンジを工夫すれば同期なしで演奏できるものも多いと思います。僕らはバンドなので生ドラムとMIDIで作ったシーケンスの調整にいつも工夫をしています。今作はほとんどのシンセを手弾きしています。シンセのフィルターの開け閉めも、オートメーションではなく実機を手で操作しているんです。
―演奏の手が見えるようなリアルな感じを出したかった?
石毛 ライブのテンションを音源にしたいとは思ってましたね。音源とライブってやっぱりつながっていて、レコーディング・スタジオでもライブ・ハウスでもお客さんの顔は見えているんです。制作では、今まで以上にお客さんのことを深く考えるようになりました。
ダンス・ミュージックの黄金の方程式をロックに落とし込む
―今回もプリプロは石毛さんのデモなどから始まりましたか?
石毛 そういう曲もあるし、僕の家に皆が遊びに来て合宿みたいな感じでデモを作ったものもあります。今回は4人でこねる時間が結構あったから、全員の意見も反映された感じですね。そんでもう一回僕がこねてから、また皆に渡して聴いてもらいます。
―曲の着想はどんなところから得ていますか?
石毛 テーマは一貫していて“自分の聴きたい曲を作る”なおかつ“バンドでやって楽しいもの”です。そこから始めて、たくさん作ります。自分でやって楽しいものを皆にも聴いてもらいたいから、魅力を伝えるためにアレンジを作る感じです。
―“伝わるアレンジ”のために、皆でどういう話し合いをしたりするのでしょう?
石毛 音の抜き差しを考えることや、バースからビルドアップ、そしてドロップに向かっていく、いわゆるダンス・ミュージックの黄金の方程式をロックにどうスマートに落とし込むか考えました。僕らは2000年代初頭の海外シーンの影響を受けて出てきたロック・バンドですが、今は2022年なのでまずは令和のムードに合うようにブラッシュ・アップしないといけないと思いました。もちろん本質的なところはブレないようにしながら。
―私は10代のときからthe telephonesを聴いてきて、荒々しいダンス・ロックの魅力を知りましたが、今回『Come on!!!』の洗練された音を聴くと雰囲気の違いを感じさせます。これまでに皆さんそれぞれバンド外で行ってきた音楽活動が影響しているのでしょうか?
石毛 影響は確実にあると思うし、皆が楽器を何十年も弾いてきていて、曲も何百と作ってきたし、単純に全員の考え方が音楽的になったのかなと思います。何となくやるとかがなくなって、全部に意味が宿っていく感じです。それが今回、一番やりたかったことではありました。
―石毛さんが皆さんに対して“変わったなぁ”と思う部分ってどんなところなのでしょう。
石毛 活動再開後に思ったこととしては涼平(長島/b、cho )は元々上手かったけど、さらにリズムの根元みたいのを突き詰めて考えるベーシストになってましたね。誠治くん(松本/ds)は……うーん、ガタイが良くなったっすね(笑)。
―それ褒めてるんですか(笑)?
石毛 いや、褒めてるんですよ!身体がデカくなったからキックは重くなって太い音を鳴らすようになった感じしますね。ドラムはフィジカルな楽器だと思うので。あとは、涼平の音を更によく聴いて研究してるように見えます。
―リズム隊の結束が深まると全体のムードに影響が大きいですか?
石毛 もちろんです。グルーブがかみ合うと、音楽的に気持ち良いすき間みたいのができるんです。そのすき間を、例えばギターやシンセで“埋める”のか“あえてそのままにする”のか、上モノの選択肢が増えるんです。
―岡本伸明(Syn、Cowbell、Shriek)さんはどうでしょうか?
石毛 良い意味で変わらないですね。ノブ(岡本伸明)さんは僕にとっては助監督みたいな存在で、アレンジを俯瞰して見てくれるんですよ。俺がいろいろ楽器を実験的に使っていると、ノブさんはそういうときに客観的な意見をくれます。今回はそういう場面がさらに多かった気がします。
ウェーブ・テーブル方式のシンセは速くてパキっとした音が作りやすい
―「Whoa cha」とかはアジアンな音色とリフを多用していますが、このアレンジの制作も相談を重ねて?
石毛 予期せぬアジアンだったんですよね。何となく頭に浮かんだ“ホワチャ”って言葉から連想して作った曲で、元は今の曲と全然違う雰囲気だったんですけど、涼平が“せっかくこのタイトルなら中国音楽とかを連想するサウンドにした方が良いんじゃない?”って意見をくれたので、そうすることにしました。
―リフも五音音階(ペンタトニック・スケール)ですね。
石毛 僕の音楽は、ほぼペンタトニック・スケールで出来ている気がします(笑)。スケールの種類をちゃんと知らないので、理論よりかは直感的に作曲しています。
―イントロの中国楽器の音はどういったシンセを使いましたか?
石毛 これはEAST WEST QL Silkというソフト音源の二胡の音をメインに使いました。あとNATIVE INSTRUMENTS のソフト音源EAST ASIAも加えています。その後にデジタルっぽいパキッとした音のシンセ・リフが出てきますが、これはKORGのハード・シンセModwaveとソフト・シンセのSPECTRASONICS Omnisphereを重ねて作っています。ウェーブ・テーブル方式のシンセは、波形の再生位置が選べるので、速くてパキっとした音が作りやすかったです。
―アナログ・シンセとソフト・シンセはどう使い分けていますか?
石毛 曲によって“絶対にハードの方が良い”ときと、“絶対にソフトの方が良い”ときは明確に感じるんです。それは感覚的に判断しています。僕は新しい優れたソフト・シンセがどんどん世に出てきた中でバンドを始めましたが、ビンテージ・アナログ・シンセ・サウンドを追い求めて、それを実際に使ってきた環境なんです。だから、ありがたいことに、実機のシンセの音をある程度知っていて、ソフト・シンセを使えているんです。
the telephonesを結成してからシンセを勉強
―そもそも石毛さんが最初にシンセを触ったのはいつですか?
石毛 ちゃんと触るようになったのはthe telephonesを始めてからなんですけど、中学生のときに、テストで100点を取って、CASIOのキーボードを買ってもらったんです。それで鍵盤を弾いて、譜面を書いて、曲を作ったりしてました。
―ピアノは習っていましたか?
石毛 小学校のときに1年半ぐらいピアノを習っていました。でも当時はピアノ弾く男子ってナヨナヨしたイメージを勝手に持っていたんです。僕は三人兄弟の末っ子なんですが、小学校4年生のときに兄からハード・ロックとへビー・メタルを教わって好きになって、“何で激しい音楽が好きなのにピアノ弾いてるんだろう”って思ってやめてしまいました。後悔しています。
―ギターはいつ始めたんですか?
石毛 中学のころですね。ヘビー・メタルが好きなのでメタリカを弾こうとしたんですけど、当然素人には難しくて挫折しました。高校くらいになったらHi-STANDARD好きの友達が増えて、その影響でパンクを聴くようになりました。それで、あらためてギターを練習するようになりました。
―軽音部に入ったんですか?
石毛 一瞬入って合わなくてすぐ高校ごと辞めました(笑)。なので他校に通っていた友達とバンドを組んで、埼玉県北浦和にあるライブハウスKYARAでライブをしたら、お店の人から“学校行ってないならここで働きなよ”って言ってもらったんです。それでKYARAで働きながらバンド活動をしていました。
―シンセを使った楽曲はいつから始めたのですか?
石毛 the telephonesを結成した2005年からなので、21歳のときです。当時はイギリスやアメリカでニュー・レイブ、ディスコ・パンクが流行していて、聴いたときに“今一番格好良い”って思ったんだけど、楽曲にめちゃくちゃシンセが入ってるから“シンセの勉強が必要だ!”って思って。それで初めてKORG MS2000を触ったんです。シンセ・ブラスの音が“ヴァン・ヘイレン「Jump」みたいな音がする!”と感動した記憶があります。実際に使われたシンセはOBERHEIM OB-Xaなんだけど当時は分からなかった。
―その後は、手探りでシンセの研究を?
石毛 そうですね。ギターと同じ考えで操作してました。考え方によってはフィルターの開け閉めはギター・アンプのEQとも通じていますし、ADSR(編註:アタック、ディケイ、サステイン、リリース)の考えもアタック遅くしたらギターのボリューム奏法に通じるなと思ったり。
―石毛さんは現在シンセ・オタクだと思うのですが、そうなるほど没頭した理由は?
石毛 もともとパンクと同時期に聴いたエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーの音にあこがれていたのですが、どうやったらあの音楽が作れるかが全く分からなくて、ギターに愛を注ぎました。the telephonesを組んでシンセを触ることで少しずつ音の作り方が分かって楽しくなったから、どんどんのめり込んでいったんでしょうね。あとバンド初期にプロデュースしてくれた白根賢一さんが、ミニ・アルバム『We are the handclaps E.P』のレコーディング時に、SEQUENTIAL Prophet-5を持ってきてくれたんです。そのシンセ・パッドの音を聴いて痺れた記憶があります。その後のアルバム『JAPAN』で渡部高士さん(OVERROCKET)のスタジオでレコーディングをしたときも、ROLAND JUNO-106やJupiter-6があって、自分らのチープなデモが本物のシンセで生まれ変わる瞬間を味わったんです。それでシンセの奥深さを知ってハマりました。
―最近見つけた気持ち良い音色はありますか?
石毛 僕はシンセを買ったときに、10時間くらいかけて一通り触ってそのシンセの音色を理解しようとするんです。 最近は新しいシンセを買ってもいじる時間があまりないので、特にコレってのは言えないですね。
―その方法だと特定の音色を何度か使うことにもなりそうなので、バンドの音楽のアイデンティティを維持していくみたいなことにも役立ちそうです。
石毛 ROLAND JUNO-60とDAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet ’08で作るシンセ・ ブラスとかは、アイデンティティになっていると思います。ただ僕は“この曲は、あの曲にあるこういう音がいいな”とか、シンセの音色から音楽を考案したりしないんです。曲に必要な音を使う感覚なので、プレイヤーのこだわりよりも、作曲者としてのこだわりの方が強いんだと思います。シンセは、曲にはまる音色を実験できるのが楽しいです。
自分がやってきていないことをやろうとしたら“お茶”が完成した
―そういえば「Whoa cha」にちなんでオリジナル・ブレンド茶を作っているのもある意味実験的ですよね。
石毛 誠治くんも「大宮まぜそば 誠治」という混ぜそば屋をやっていましたが(笑)、バンドを長くやっていると、自分がやってきていないことをやろうとするんじゃないかな。今までやってないことをやろうってことで……なんか捻り出たのがお茶だったっていう(笑)。ふざけてるけど、そういうふざけ方ってthe telephonesっぽいんじゃないかなと。今回協力してくれた埼玉の増田園の茶畑にも行ったんですが、担当してくれた増田さんという方も良い意味ですごく頭のおかしい人でビタッとハマりましたね(笑)。
―確かに『Come on!!!』ってアルバム・タイトルなのに、最初の曲「Adventure Time」から歌詞で“行きたくない”的なことを連呼していて、何でだろうと思っていました。
石毛 そのツッコミされると確かにそうなんですけど、細かいことを考えてなかったですね(笑)。ちなみにアルバム名はノブが付けました。“元気ない人、the telephonesのライブおいで!俺たちが手を差し伸べるから掴んでみて!”みたいな思いがこもってます。もう9枚目のアルバムだけど、本当にフレッシュで相変わらず個性が爆発していると思います。
石毛が考案するあったら良い機材「スーパーマニピ」
―最後に石毛さんがあったら良いのに、何でないの?と思う機材などはありますか?
石毛 多分皆も“こういう楽器あれば、睡眠時間が1時間増えるのにな”とか考えると思うんですけど、僕も普段から曲を作るときに“こういう楽器欲しい”とかすごい思うんですよね。でも今一つ挙げるなら……オーディオI/OとDAWが一緒になった、ライブで同期再生をするための、マニピュレーター専用機材が欲しいです。
―便利そうですね! でも、どうしてこれが欲しいんですか?
石毛 ここ何年かバンドだけでなく、アイドルの現場とかでもマニピュレーターの需要って高まってきているなと思うんです。なのに、それ専用のコンパクトにまとまった機材がないのは何でかな?と昔から思っているんです。これは題して「スーパーマニピ」と、適当に名付けておきます。2つのタッチ・ディスプレイが搭載されていて、下部に表示されているフェーダーは曲ごとに保存可能で、これ1台でライブのマニピュレートを完ぺきにこなすことができる仕様です。アウトプットもたくさんあって、個別にエフェクトをかけることができるので、パフォーマンスにもかなり役立ちます。これあったら便利だなぁ……。
―CV OUTを搭載しているのは何を想定しているのですか?
石毛 MIDI対応してないモジュラー・シンセなどを動かすためです。例えば、DJしながら即興でモジュラー・シンセも一緒に鳴らしたいときに、このCV OUTから信号を送って、同期することができます。この上の方のディスプレイ画面には、DAWのように波形でトラックを表示することができる。CPU負荷の限界までトラック数は増やせる。さらに、フット・スイッチ・インが付いているので、楽器を演奏しなくてはならないバンド・マンも、足で踏むだけで再生/停止できるんです。the telephonesに導入したら誠治くんに操作してもらおうかなと思ってます。
―メーカーさんに持ち込みに行くとして、想定販売金額はどれくらいになりそうですか?
石毛 12万円+税ですね。安いけど頑張って欲しいっす(笑)。
『Come on!!!』詳細
『Come on!!!』
the telephones
(UK Project)
M:石毛 輝(vo、g、syn)、岡本 伸明(syn、Cowbell、Shriek)、長島 涼平(b、cho)、松本 誠治(ds、rap)
P:the telephones
E:クレジット無し
S:クレジット無し
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