Text/Interview:Mizuki Sikano
音楽家としても活動する漫画家、寺田燿児による第2作目の漫画として2022年7月にリリースされた『TORA TORA TORA TORA』。8月には中目黒のギャラリーみどり荘で原画の展示をしていたが、10月8日(土)から大阪で、10月22日(土)から石垣島でも展覧会を開催するという。今回は寺田燿児に本作の制作と展覧会に関してメール・インタビューを行った。ここで作品の世界を覗き見て、ぜひ会場での展示を楽しんでほしい。
音楽家が描く漫画と展覧会『TORA TORA TORA TORA』について
寺田燿児プロフィール
広島県生まれのシンガー・ソングライター、漫画家。yoji&his ghost bandの名でCD『My Labyrinth』(2014)、『ANGRY KID 2116』(2016) を発表。角銅真実のサポート、折坂悠太(合奏)メンバーとしてFUJIROCK FES’18などにも出演。街の中華を巡る中華満腹見聞録、オンラインストア空論雑貨店を運営。2019年漫画『DARK CONTINENT/暗黒大陸』、2022年2作目漫画『TORA TORA TORA TORA』を東南西北kikenよりリリース。鼻のほくろがかわいい愛猫・朔太郎と古いビル暮らし。趣味は街の中華屋巡り、人間観察。特技は餅つき。
漫画『TORA TORA TORA TORA』
<詳細>
著者:寺田燿児
価格:2,000円(税別)
発売元:東南西北kiken
<あらすじ>少子化と自然資源調達難により、長期的な戦争が起こっている近未来のとある国が舞台になっている。そこには人工知能を動物に移植できる化学技術が存在し、そしてそれにより誕生した生物=BEASTANTが戦地に赴く世界。
主人公のヤンは国防総省で兵器デザインの仕事に就きながらも、幼少時代に動物徴兵で取り上げられたペットのTORAという猫を探している。技術者としての軍事へ加担することに対する葛藤を抱きながらも、より良い未来への希望を持ち続けているヤンはTORAと再開することができるのか。また、化学技術により生み出されたBEASTANTの未来はどうなるのか?(全146P)
寺田燿児ミニ・インタビュー
ー“人工知能を動物に移植できる化学技術で誕生した生物=BEASTANT”というのが存在する時代を背景に、より良い生き方を模索するキャラクターたち同士の愛が描かれていると思いました。こういった愛を描こうと思った動機は何でしたか?
寺田 愛を描こうと思った理由の一つは、私が歳を取って交遊の機会も減ってくる中で、友だちの重大さに気付き始めたことです。例えば、ロブ・ライナー監督のアメリカ映画『スタンド・バイ・ミー』に出てくる少年たちのように、小さな世界で生きていたころはいつだって会いたいもの同士がすぐに集まることができた。でも大人になった今は、物理的な距離ができるのはもちろん、それぞれが築いた生活と営みとその場所での新たなコミュニティを作っていることもあって、互いに忖度し、次第に疎遠になっていってしまったりもすると思うんです。“残り少ない人生であの人ともう一度会ってみよう”とか、“誰と余生を過ごすのか?”などを考えるようになった中で、この『TORA TORA TORA TORA』のストーリーが出来上がっていきました。動物に関しては“何故人はペットと暮らすのか”というのを、最近家で飼っている猫を見ながらよく考えていて、“この猫が死んだらどれくらい落ち込むんだろう?”と想像すると胸がきゅーっとなります。そういった瞬間に、私は動物へ捧げる愛情によって“他者への愛情を確認しているのかもな”とか思ったりします。
ー制作はいつから始めて、まずは何から制作に着手していきましたか?
寺田 2020年4月ごろから動き始めて、2年後の2022年4月ごろに完成しました。最初は“台湾を舞台にした物語を描きたい”という想いがあって、それと同時に漠然とテーマも考えていたら、そのうちヤン青年のキャラクター・デザインが浮かびました。それからストーリーの起承転結や人間関係などの構図を文字で書いていく、プロット作りをしていったんです。これにとても難航しました。これまでの私はプロットが曖昧な状態でも描き始める癖があって、それをやめたかったのでグッと抑えたり……結局抑えられなくて見切り発車してしまい全削除してみたり……そんなことを経て、制作していきました。辛抱できないんですよね。
ーキャラクターとストーリーはどのタイミングで考えるのでしょうか?
寺田 主人公のヤン青年以外は、作品のコンセプトが決まった後に考えました。ストーリーを構築していく中でキャラクターも随時生まれていったんです。ちなみに当初、ヤン青年の見た目はピアスと髭をしていたのですがちょっとチャラいなと思い直して、両方を削除した上で一人称を“ぼく”に変えました。ヤンと懇意の関係にあるHOLY貫地椰子ですが、名前からご察しの通り俳優の貫地谷しほりさんをモデルにしています。
ー動物が人間のペットであるストーリーはよく目にするものの、ここまで人間と対等なコミュニケーションを取っている姿を見たのは珍しい体験でした。
寺田 例えば、映画『ブレードランナー』では人造人間“レプリカント”に芽生える人権意識というものが描かれています。『TORA TORA TORA TORA』でも、BEASTANTに“人と社会生活を共に送る生物としての権利意識の萌芽”を抱かせることで、彼らの感情の複雑な部分も描きたいと思いました。『TORA TORA TORA TORA』ではBEASTANTがレストランで人間から差別を受けるシーンを描いています。作品の世界できっとBEASTANTが誕生して間もないころは、きっと排外主義や迫害に遭うだろうと思ったんです。このシーンは1960年代の黒人差別からのインスパイアを受けたのと、アーティストのGACKTがフランスのレストランで受けた差別に関する記事を見て閃きました。
ー現在あらゆる国の方がそれぞれの視点で戦争に対する危機感を抱いていると思いますが、寺田さんが近未来と戦争をテーマに漫画を描き、日本人に発信しようと思ったのはどうしてでしょうか?
寺田 日本におけるアジア・太平洋戦争(日中戦争含む)を体験した生存者や証言者がだんだんと減っていく代わりに、ナショナリストや歴史修正主義者などが台頭してきました。このままだと、戦争で傷付いた人たちの歴史が無かったことにされてしまう可能性もあります。過去から学び反省するための手がかりが隠匿(いんとく)されてしまうと、また同じ過ちを繰り返してしまう危険性があると思うのです。戦争が始まったら私も皆も駆り出される側の人間ですから……特に若い人たちに現在の状況の危うさを伝えたいと思いました。
ー『TORA TORA TORA TORA』では、どことどこのどんな戦争なのか明確に描かない代わりにキャラクターそれぞれが持つ都合や信念で“戦争”を描こうとする試みが見えます。これにはどういった意図がありますか?
寺田 戦争というのは突然パッと始まるものではなくて、じわじわと生活に浸透してくる感じだと思うんですね。一部を除いては普通の市民生活を送っているけれど、平常時とはどこか異質なムードがあるイメージ。それで気付かないうちにあれよあれよと自分の身の回りにも近付いてきて影響を及ぼしてくるのではないかと。戦時下を過ごす市民がどんな風なのかを描きながら自分で想像したかったし、その想像したものを誰かに向けての喚起として発信したかったので、このような形になりました。
ー寺田さんは絵、映像、アニメーション、音楽とさまざまな表現手法をお持ちですね。音楽にできなくて漫画にできること、漫画にできなくて音楽にできること、加えて共通していること、などを制作しながら実感することがありますか?
寺田 ドローイングでは肉体の物理的な移動にとらわれることなく、訪れたい街の入ってみたい建築内部に入ることができると思うんです。幾らお金を積んでも到達できない場所は現実的にあるわけで。さらに漫画になると時間の流れまで表現することができる。例えそれが妄想世界であるとしても、自分の望むままに動けるのが魅力です。私にはそれが音楽ではできないことじゃないかと思いました。もちろん漫画を描いているとそういった魅力を感じると同時に、音楽でできるようなフィジカルな表現方法をうらやましく感じて、ジレンマを感じることもあります。そういった意味で漫画を描くというのは、地味な作業だと感じているんです。2年間も誰にも評価をされないまま、穴ぐらみたいなところで描き続けるわけですから。でも私は制作中に #漫画は我慢 というダジャレのようなハッシュタグを付けてその日描いたページをSNSに上げていました。描いたそばから公開してたら、我慢もくそもないですね(笑)。
ー作品を描き終えて展示会を開こうと思った理由は何でしたか?
寺田 “アルバムを出す→グッズを作ってツアーする”という、音楽活動では鉄板の様式に未練があったというか……憧憬(しょうけい)があって踏襲しているというのが一つと、漫画制作は何年間も穴ぐらにこもるような作業ですから、やっと完成したら人に会いたくて仕方ないんです。そのための場を設けたかったし、それがモチベーションで制作していたと言っても良いです。
ーみどり荘での展示を拝見しましたが、原画が飾られていたので、一つ一つの絵を鉛筆やペンで描いて印刷、冊子にしているのがうかがえました。ペン・タブレットを使わないのには理由がありますか?
寺田 アメリカでレコードの売上がCDの売上を超えたように、これからさらにアナログへの反動が来ると思っています。私はそう願います。ペン・タブレットは……あまりよく知らないんです。誰か教えてください!
ー大阪と石垣島での展示を控えていますが、簡単に展示の内容と在廊される日にちがあれば教えていただけますか?
寺田 大阪の展示は、前作からお世話になっている本屋FOLK old book store地下スペースの一隅で開催します。みどり荘で開催した東京展の縮小版になるとは思いますが、作中に出てくるキャラクターのブロンズ像を粘土で再現し制作したものも展示します。そのほか、大阪展から販売するグッズ類もあります。店主吉村さんとの座談会もやるかもしれません。石垣島での展示は、一平寿司という老舗寿司屋の息子さんが始めたバーの壁を使った展示です。10月24日のクロージング・パーティーには本州最南端のミニ・シアターを運営する竹内真弓さんとの座談会と松井文さん、浮さんがライブしてくれます。大阪展での在廊は10月8日(土)から10日(月)、14日(金)から16日(日)を予定しています。石垣展は全日です。ぜひお越しください。
展覧会開催概要
【大阪】
■開催日程:2022年10月8日(土)〜10月23日(日)
■開催時間:13:00〜19:00(最終入館18:00)
■会場:FOLK old book store
(大阪府大阪市中央区平野町1-2-1)
■寺田燿児 在廊日(予定)
10月8日(土)、9(日)、10日(月・祝)、14日(金)、15日(土)、16日(日)
◎オープニング・イベント
■開催日程:2022年10月7日(金)
■オープン時間:19:30
■音楽:寺田燿児、イフマサカ(福岡)
■食事:帆夏のChicken & Falafel over rice
■料金:¥1,000+1drink(30名限定)
■予約:お名前、人数、電話番号を記載の上 info@folkbooksstore.com まで連絡。
【石垣島】
■開催日程:2022年10月22日(土)〜10月24日(月)
■開催時間:13:00-20:00
■会場:Cafe&bar 山内ツル子
(沖縄県石垣市大川269-6)
◎クロージング・イベント
■開催日程:2022年10月24日(土)
■オープン時間:18:00
■座談会:寺田燿児、竹内真弓(ゆいシネマ)
■演奏:松井文、浮
■料金:投げ銭制
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