Text:Mizuki Sikano
幕張メッセで4月29日(土)30日(日)で開催された『ニコニコ超会議2023』。同イベント内に用意されたボカロ曲オンリーの音楽ステージ=『超ボカニコ2023 Supported by 東武トップツアーズ』では、ボカロPによって構成された22組がDJ /バンドでのライブを披露した。
今回は1日目の出演者である、ボカロPかいりきベアに、出演後の感想から、ライブで使用したギター/機材、普段の楽曲制作手順について話を聞く!
目次
かいりきベア インタビュー in ニコニコ超会議2023
コロナ禍でたくさん聴いていただいたことを実感
ー熱量あふれるステージでしたね!
かいりきベア もうめちゃくちゃ盛り上がっていただいて……大変恐縮です。やっぱりこういうステージ自体がコロナ明けで久々だったというか、今日までの期間に音楽ストリーミングやYouTubeで僕の曲をたくさん聴いていただいたんだなって思いました。
それで多くの人が知ってくださって、今日がこんなに盛り上がってくれたのかなって思うととても嬉しくて……もはや驚きです。
ー観客の皆さんの反応がコロナ前と違いましたか?
かいりきベア 歌詞を知ってくれている感じは、以前に無かったことですよね。“次の曲はこれをやりますよ”とか言っても、別に反応がなかったというか(笑)。まだ知らない人が多いと感じていました。
でも、今日は皆さんが一緒に歌ってくれたりして、僕のことを知っていただいたんだなって実感が持てたことがすごく嬉しかったです。
ー皆さん一緒に歌ってましたもんね。今回のライブはベアさんがギターで、rafma(gt)さん、 後(b)さん、Dr.YAMATO(宇宙戦隊NOIZ)(ds)さんの4人編成でパフォーマンスしていましたね。シンセなどは同期で流していたと思いますが、メンバー皆で一緒に作ったのですか?
かいりきベア ライブ用の同期トラックについては、全部自分で作っています。楽曲のプロジェクトで、当日に生演奏するギター、ベース、ドラムパートは鳴らさずに、それ以外のパートのみを鳴らす形で同期を作りました。
ーギターパートについては原曲をできる限り再現する方法を考えるのですか?
かいりきベア 僕の曲ではギターのオーディオを切り刻んだようなフレーズを連続させているので、そこを生演奏で再現するっていうのがほぼ出来ない。なのでバンドで弾けるアレンジに変更しています。
ーベアさんの曲のギターはリリースカットによるノリの良さが持ち味ですもんね。ライブアレンジではどのように表現するか考えるのが難しそうですね。
かいりきベア そうですね。リリースカットにより出しているキレの良さについても、ライブではどうしても出せないので、あくまで生演奏のギターを楽しんでもらえる方法を考えるという感じです。
かいりきベアの使用ギター(DANELECTROのSTタイプ)
ーたくさんギターをお持ちだと思いますが、今日の使用ギターは何ですか?
かいりきベア これはDANELECTROというメーカーのSTタイプです。リップスティック・ピックアップのSTタイプが珍しいので買ったのと、かいりきベアって白熊イメージなので、この白さがいいなと思いました(笑)。ライブでもう4年くらい使ってますね。
今回ライブで演奏した「ダーリンダンス」が可愛くなりたい女の子の歌でもあるので、ギターにリップが搭載されているのは面白いかなと。
ー楽曲制作でも使っていますか?
かいりきベア ほとんど使ってないです。制作では大体、スタンダードですけどFENDER Telecasterや、最近だとセミアコのGIBSON ES-335などを使っています。
ーかいりきベアさんのノリの良いボカロ曲に、セミアコを使ってみようと思った理由は?
かいりきベア ボカロシーンで、Telecasterによるチャカチャカした音のギターブームがあったと思うんですよ。
それに僕は乗り過ぎないようにしたいなというか……“違う風を吹かせたいな”と思ったんです。「ダーリンダンス feat.初音ミク」は、すべてES-335ですね。
ー「ダーリンダンス feat.初音ミク」のギターの音色は明るめでしたよね?
かいりきベア ES-335はハムバッキングが2個並んでいるので、STEINBERG Cubase上のEQ(編註:特定の周波数帯域を増やしたり減らしたりするエフェクト)でハムバッキング特有のモコモコした音を削り、高域を上げたりして……だから正直Telecasterにちょっと似てますが、優しいポコポコ感(笑)。ストロークしたときにも、高音が痛過ぎないというのが良かったです。
あと「ダーリンダンス feat.初音ミク」は女の子の曲なのでちょっと可愛らしいイメージにしたくて。ジャキっとしちゃうと格好良くなり過ぎちゃうから、セミアコを加工した曇り過ぎない音がちょうど良いなと思いました。
ーギターのサウンド作りはCubase内でやられることが多そうですね。
かいりきベア そうですね。ミックスはCubaseの付属EQやFABFILTER Pro-Q3を使ったりします。その前段階では、ほとんどをアンプ・シミュレーターでやっちゃいます。一時期はKEMPER Profiling Amplifier Rackを使っていましたが、今は2012年くらいから使っている古いNATIVE INSTRUMENTS Guitar Rig 4 Proを買い替えずに使っていますね(笑)。
かいりきベアの使用機材(エフェクター)
ー今日は会場のMARSHALLアンプを使っていましたよね。
かいりきベア そうですね。あとは自分で持ってきたオーバードライブやノイズ・サプレッサーなどのコンパクト・エフェクターたちをどの曲でも一定の設定で変えずに使って、マルチエフェクターのFRACTAL AUDIO SYSTEMS FM3で曲ごとの音色を切り替えていくような形で使っています。
ー曲ごとにギターが違う音へと変化していくのが楽しいライブだったなと思っていて、例えば「爆砕プリン」はかなり太い音ですが、そこから「アンヘル」になったときに、歪みは残しつつミッドをちょっとプリッてさせた音になる。ああいう歪みと抜け感のバランスが良い音にするコツは?
かいりきベア それ、僕が聞きたいぐらいですね(笑)。今日はちゃんと抜けていたかが、よく分からなかったんですよ。「爆砕プリン」は普通にFM3のアンプ・モデリングの歪みを使っています。基本的にはどの曲でも、FM3のプリセットを調整して使う感じです。
ーでは、過激方向にしていくためのエフェクトだとどうでしょう?
かいりきベア 今日やった「バグ feat.初音ミク」のギターなどでは、ビットクラッシャー(編註:音の解像度ビット数を落とすエフェクト)が役に立ちます。ちょっとファミコンっぽい音になるんです。でもこれもまだ研究中で、果たして良い音を出していると言えるのかは分からないんですけど(笑)。
ーギターサウンドについて、ご自身では課題を感じているのですね。
かいりきベア まだ“気持ちよくなってないな”って思っちゃってまして……宅録で自分の曲を録音するときは最高の音を自分の中で組み上げていると思っていますが、ライブで爆音にすると全然違うじゃないですか。急に高域が痛く感じたり、意外と低音がズンって来てないなみたいに思うことがある。
例えば今日なら、何か奇麗に抜けていない気がした曲があったんです。バンド・メンバーのギタリストrafmaさんの方が音が良いなって(笑)。
ー抜け具合を改善したいのですね。ベアさんは初期の曲からハネ感があるビートや、アタックがしっかり前に出るようなギター、子音の発音をしっかり鳴らすボカロを好まれてますよね。
かいりきベア 確かに、そうですね。
ー楽曲で生み出したアタックの意志をライブで再現することが、ベアさんのやりたいことなのかな?と思いました。
かいりきベア 今言われてみて、そうだったのかもしれないと思いました。確かにアタックが他の方よりも強いのかも(笑)。
ーそれが聴いている人達も気持ちいいんだと思うんですよね。あとはメロディの話に変わりますが、どの曲でも“歌っているようなギター”だなと。「ベノム」とか聴いていて、打ち込みをして作ったメロディをギターでなぞってアレンジ考えているんじゃないかなと思いましたが、実際はどうですか?
かいりきベア 僕の曲で鳴っているギターの音は、全部ギターで考えているフレーズですね。理由としては、シンセでフレーズを考えちゃうと、“これ、シンセで鳴らせばいいや”って思っちゃうんですよ、僕は(笑)。
ーそうなのですね! ミックスまで考慮されて作られているようなアレンジ構成だと感じるのは、ビートを入れて、ベースを決めて、シンセをちょっと鳴らしてからギターを考えているから?
かいりきベア そんな感じですね。1曲だけでもこだわってる曲だと、ギターを弾いて録音してからオーディオを刻んでいくのに本当に丸一日かかるんですよ。1,000~2,000テイク録っているので。
ーその数は、時間的にもパソコンのCPU的にもヤバそうですね。
かいりきベア ギター録音と編集は、ちょっと腰が重い作業なんですよね(笑)。朝から“さあ、録るぞ”って始めて、夕方に終わるような感じ。ドラムとベースが終わってからギターを録るときもあれば、シンセを打ってから少しギターを弾くときもあります。最近はそんなにギターを入れたりもしてない。
ー確かに提供曲で「スターリースタートfeat. 初音ミク」を聴いた際に、打ち込みシンセの割合が多いなと感じました。
かいりきベア 最近の新しいボカロ曲もそこそこ調べて聴く中で、“生楽器で演奏する人が減ってきたんじゃないかな?”って思ったんです。楽器練習をして作曲に向かう工程よりも、とりあえず打ち込みから始めるP(プロデューサー)が若い世代に増えている。そういう方々の曲を聴いて、自分はこれだけギターをやってきたけれど、あえて“ギターを入れない曲も考えてみようかな”って思うようになった。考え方の変化ですね。
ー確かに、最近はギターを弾けるにも関わらず、ギターのソフト音源で作っちゃうような方々も居ますよね。
かいりきベア 昔は生で演奏することが曲のクオリティを上げるよねという印象があったんですけど、最近は逆に打ち込みや、チープなものを入れていくアレンジがもう認められ始めていると思うんですよ。もう打ち込みでもいいし、生でもいいしという風潮で……可能性が広がったっていうか。
ー最近その点で“良いな”と思った曲はありますか?
かいりきベア あり過ぎますね(笑)。ボカロPの皆は本当に、一昔前に比べるとオケ作りのクオリティが高くて、隙が無いんですよ。以前は、自分ならもうちょっとこう音を入れた方が格好良くなるんじゃないか?みたいに感じたり……勝手に人の曲の添削をしていたような日もあったのですが、最近はもう文句ゼロです(笑)。
『ボカコレ』とかを見ていても、“こういうのが欲しい”って思ったフレーズがちゃんと入っているんです。本当に何もかも僕が負けてきてるっていう感じがしますね(笑)。
ーそんなことはないと思います(笑)。ベアさんの持ち味に、皆さん元気をもらってますから。
かいりきベア そうですか(笑)。テンション上げられてますかね。
売れなかった時代の心情を歌詞に反映
ーでも、歌詞はそんなに明るくないですよね。
かいりきベア 歌詞はそうですね(笑)。
ー独特の毒素みたいなものを感じます。
かいりきベア まぁ、現実世界が奇麗ごとではないので、人生楽しいことだけじゃなく、苦しいこと、楽しいこと、たくさんある。それが自分の感じてきた過去っていうか……。
今でこそたくさんの人に聴いてもらって幸せな気持ちをもらってるんですけども、昔はバンドで売れなかった時代もあって。なかなか上手くいかなかった時代に溜まったフラストレーションとか感じたことを歌詞に落とし込んでいるっていうのが理由かもしれないですね。
ーベアさんの人生観を反映しているのですね。でも、サウンドはポップに?
かいりきベア 確かに、「ダーリンダンス feat.初音ミク」みたいに、可愛らしいサウンドに仕上げてますけど、闇深い歌詞だったりするって感じですよね。
「ベノム」以降からポップになっているのかなと思っています。ポップの裏に隠されている闇みたいな。奇麗ごとだらけではないっていうことを表現する曲で、サウンドは暗過ぎない方がいいかなって思うんです。
ー今は制作の合間を縫って、ライブの機会を設けている感じだと思います。今日のようなバンドでの演奏活動について、今後の展望はありますか?
かいりきベア “また、いつか大きいライブをやりたいな”って思っています。今日ライブをしてみて、これだけ反応があったので、ワンマンにもチャレンジしたいなって思いました。
ー今後のベアさんのギターサウンド研究とライブアレンジに期待です。
かいりきベア それまでに頑張って、音も完ぺきにしておかないとっていう(笑)。ライブ本数が多いバンドマンとかだったら、毎回試行錯誤して目標の音に早くたどり着くのだと思うんです。でも僕は最近ライブ本数が少ないので、こう感じるのかなと思いました。スタジオで個人練習に入る時間も取りたいです。
ーライブのための準備って大変ですもんね。今後はライブを想定した曲作りも考えてみたり?
かいりきベア そう言われてみたら、作ってみたいですね。やっぱりライブで盛り上がる曲って、ヘッドフォンやイヤフォンで聴く曲とは少し違うと思うので。
ーちなみにベアさんが今抱えている楽曲制作数ってどれくらいなのですか?
かいりきベア 提供楽曲を含めると、常に10曲以上はあるかもしれないです。
ーそれってきっと、毎日パソコン前に居る状態ですよね。大変そうですが、新曲はとても楽しみです!
かいりきベア たくさん作らないとですね……。まぁ、でも毎日曲が降ってくるわけじゃないので、降らない日は家事とかもしていますよ(笑)。これからも楽曲リリースについては随時告知をしていますので、ぜひ僕のTwitterをフォローして、チェックしてくれたら嬉しいです!
かいりきベアの『ボカニコ2023』DJセットリスト
▲4/29 Voca Nico▼
— かいりきベア (@kairiki_bear) April 29, 2023
🍮TRACK LIST🍮
01.ダーリンダンス
02.アナタサマ
03.アイ情劣等生
04.爆砕プリン
05.アンヘル
06.ベノム
07.失敗作少女
08.VILLAIN -TYPE A-
09.バグ
ありがとうございましタタタタタタ😺 pic.twitter.com/fkJp21XCF3
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