Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki
初音ミクが2007年に発売されてから16年が経った。現在までボカロシーンはさまざまな波を受けながら発展してきたわけだが、先頭の一人として、その荒波の中、自分を貫きながら漕ぎ続けているボカロPがsasakure.UKではないかと思う。
今回はそんなsasakure.UKの視点で、初音ミクを振り返っていく。最初のテーマは、初音ミクと出会う前/後の“歌”。
目次
初音ミクと出会う前/後の“作曲”
ゲームのサウンド・クリエイターに憧れていた
―この記事では「初音ミクと歌」をテーマに話を聞いていきます! その前にまずは、初音ミクと出会う前のsasakure.UK(以下、ささくれ)さんのことを教えていただきたいです。
sasakure.UK よろしくお願いします! まず僕が音楽を始めたきっかけの話になるんですけど、僕は音楽ゲームが昔から好きで、最初は“自分で遊べる曲を作りたい”と思ったところから作曲を始めて、インディーズの音楽ゲームをプレイしていました。
それを経て、将来はゲーム・ミュージック・クリエイターになりたかったんで、ゲームのBGMを作ったり、打ち込みでインストを作ってたんですよ。
ーその当時はどのような機材を使用していたのですか?
sasakure.UK 当時はパソコンを使うのが苦手だったんで、お小遣いを貯めて買ったYAMAHA QY100(編註:2000年発売のポータブルシーケンサー)で曲作りしてました。マイク入力もあって、オケと合わせて出力もできました。でも、そこから紆余曲折あって、パソコンで作曲をするようになるんです。
ーパソコンを克服したんですね(笑)。
sasakure.UK 何とか(笑)。やっぱり、QY100でできることの限界があって。本当に将来はサウンド・クリエイターになりたかったから、ピコピコした音だけじゃなくオーケストラ音源とかもうちょっと生の音を使ったりして表現の可能性を追求したかったんです。
ー当時ってソフトシンセはあったのですか?
sasakure.UK いや、ソフトシンセが出る前の時代ですよ。YAMAHA Motifとかハードシンセと、それらをMIDIで動かしていた時代ですね。だから機材がどんどん置かれていくみたいな状態で、部屋が狭くなって(笑)。
ー当時ささくれさんはどういったハード・シンセを持っていましたか?
sasakure.UK YAMAHAのシンセがすごく多かったです。Motif ESとか。僕は音源モジュールでROLAND SC-8850とか、YAMAHA QYシリーズはQY700とかも買っていました。
僕はピアノとか楽器が弾けないので、基本打ち込みのMIDI信号を通すことで音を鳴らすラックのタイプを選ぶことが多かったです。
初音ミクで”ヒトではない”ボーカルに魅せられた
ーでは、ささくれさんが初音ミクと出会った経緯は?
sasakure.UK 初音ミクを知ったのは、当時からネット上に楽曲を発表していたOSTER projectさんがきっかけです。歌モノを作る前からずっと聴かせていただいていて、ファンだったんです。そのOSTERさんが歌モノの曲を出し始めたので聴いてみたら、それが「恋するVOC@LOID」という曲だったんです。
“可愛い声だな”と思ってたら、ボーカルクレジットに“初音ミク”って書いてあって、それが出会いですね。“初音ミクでこうやって歌モノを歌わせることができるんだ”って知って、自分も始めてみました。
ー当時のささくれさんは既にMIDI打ち込みできたので、初音ミクに手を出してスムーズに制作を開始できた?
sasakure.UK それはあるでしょうね。当時は打ち込みに長けた人が初音ミクを買って使いこなしていた印象です。
2007年に発売された初音ミクは『VOCALOID2 初音ミク』。現在ではパッケージに組み込まれている6種類の声質は『初音ミク・アペンド(MIKU APPEND)』という拡張ライブラリーにより使用可能だった。Windowsのみで動作。
ーささくれさんはゲームの1要素としての音楽を作っていたと思うので、初音ミクを使った楽曲はそれまでやってきた表現的欲求とは180度違うものじゃないですか。初音ミクと出会って、自分の表現について何を考えましたか?
sasakure.UK やっぱりボーカロイドを使いたいと思った一番の理由は、“人間が歌ってないボーカルを歌わせることができる”っていうところなんです。それはすなわち“人間が主人公じゃない物語を創造できる”ということ。
「恋スルVOC@LOID」はボーカロイドが主人公だし、「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」もミクちゃんのキャラクター・ソングですよね。初音ミクは僕に、“僕が作る曲は僕が主人公じゃなくてもいい”って教えてくれたんです。
ーゲーム音楽を作るときに培ったことはボーカロイド音楽を作る上でどう役立ちましたか?
sasakure.UK 僕がインディーズの音楽ゲームに楽曲を書いていたときから、世界観を作るのが好きだったんです。今はCHUNITHMっていう音楽ゲームに入ってる「Pangaea」っていうインストの曲があるんですけど、それはパンゲアっていう僕の中の幻想の浮遊大陸をイメージしながら作った楽曲なんです。
そういう世界観を大切にした曲で人間が歌うと、人間の意思が入り過ぎちゃうんですよね。
ー元々は、ゲームの世界観に集中した音作りみたいなのが好きだった中で、ボーカロイドは違和感なく自分の音楽に取り入れやすかったみたいな感じですかね。
sasakure.UK そうですね。あと、初音ミクが出てきた時期にちょうど“SFの世界観が感じられる作品を出したい”と思っていたんです。初音ミクを見た瞬間に、“これならロボットが主人公の作品を作れる!”と思ったんですよね。
それで作ったのが、少し後になりますが「*ハロー、プラネット。」っていう楽曲でした。そういう曲の着想になったのが、初音ミク、人間が歌わない音楽、でしたね。
ーささくれさんが終末シリーズを生み出すことができた経緯ですね。あのシリーズ感は、最初にストーリーみたいなのを自分の中で構築して、連作的にやっていったんですか?
sasakure.UK そうですね。最初にプロットはもう全部できていて。“どういう風に後はアウトプットしようかな”っていう。あと“どういうシーンで、誰が歌うか?”みたいなのは考えていました。
ー現在の曲も含めてささくれさんの曲は、恐らくささくれさんが心引かれるムードや、奇麗だと思う世界だと思うんですね。そこに人間や初音ミクを登場させることにどのような狙いがあるのでしょうか?
sasakure.UK 自分の曲で「レプリカ」っていう曲があるんですけど、ボーカロイドに歌わせた曲でもあるし、バンド・バージョンもあって。ボカロ・バージョンは全部打ち込みで作って、バンド・バージョンは全部生音で作ったんです。その中で<この声ですら“ニセモノ”だって言うんだろ?>っていう歌詞があるんですけど、これはボーカロイドに対しては事実なわけなんですよ。でも人間が歌うと、それは本物の声なんで揶揄になるんですよね。別にどっちも正しいんですけど、人間が歌うのとボカロが歌うのとで、解釈の仕方がちょっと変わってくるっていうか。
ー人間とボカロで言葉の響きや意味合いが変わるというのは、本当に面白いことですよね。
sasakure.UK それに、ボカロは人じゃないから、“1つ上の存在になるな”ってイメージがあって。人間の世界を俯瞰で見て歌って表現することができる印象です。もちろんそうじゃない曲も歌わせられるし、感情を込めないからフラットな状態で歌を聴かせられることができる。
ーささくれさんの描く世界の状況説明をさせやすいのですね。
sasakure.UK させやすいですね。人間でもボーカロイドでも感情が乗るのは、僕は全然いいと思うんですけど、歌う人に合わせた背景を僕が作っていけばいいだけだから。どちらもいいですね。
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