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Interview:濱田侑佳 Photo:plug+編集部、©ニコニコ超会議2024

幕張メッセにて2024年4月27日(土)、28日(日)で開催された『ニコニコ超会議2024』。ボカロPのDJパフォーマンスが楽しめるステージ=『超ボカニコ』の2日目に出演したhigmaにインタビュー。

 

人の悲しみや苦しみに寄り添い、弱った心を癒してくれるポップスの作り方と、最新アルバム『Bouquet』に込められた思いについて聞いていく。

higmaインタビュー in ニコニコ超会議2024

楽曲に込められた感情を大切にしたい

インタビュー中のhigma

ーX上のファンからhigmaさんの選曲に対して“俺のために流してる?”というコメントがたくさん見受けられました。

higma 本当ですか(笑)。たしかにあまり『超ボカニコ』では流れないような曲が多いので、刺さる人にはめちゃくちゃ刺さるセット・リストかなと思います。みんなの知っている曲を流した方が盛り上がることは多いのですが、あまりこういう場で流れないような曲の方が僕自身好きでよく聴いているので、あえてセット・リストに入れたりしています。僕は悲しみや苦しみが現れていたり、叙情的な表現のある曲がすごく好きなんです。キャッチーさを重視した選曲をすると、盛り上がることに集中してしまって込められた感情があまり伝わらないことがあるような気がしていて。だからもうちょっと曲を楽しんでほしいというか、曲に込められた感情まで深く聴いてほしいという思いがあって、“これを流したら驚くだろうな”ということも考えながら選曲しています。『超ボカニコ』には3年連続出演しているんですが、ずっと僕の好きな、叙情的な曲をメインに流し続けていますね。

ー昨年のステージと変えたことはありますか?

higma 今回は初めて事前にDJミックスを用意するのではなく、リアル・タイムで曲を選んで流すスタイルを採りました。エディットされ尽くしたセットを現場で聴くのも大好きですが、ようやく最近自分が思うようにリアル・タイムで曲間を繋ぐことができるようになってきたので、挑戦してみました。最近“あらかじめDJミックスを作るのはDJじゃない”という意見を耳にしたりもしますが、僕はどちらにもプレイヤーの個性が現れると思うので、各々が好きな方、得意な方を選択すれば良いと思っています。今回はたまたま友達とDJの練習をしていたのでリアル・タイムで曲間を繋いでみましたが、まだまだ面白いパフォーマンスができる余地があるなと感じています。

何も出来なくなったときに、音楽への情熱を思い出した

ーhigmaさんはボカロPになる前に何をしていましたか?

higma 詳しくは言えないんですが、少し前までデザインの勉強をしていました。結構本気で勉強していて、毎日ろくに寝ることもできないくらいハードな日々を送っていました。その流れで海外に留学していた時期があったんですが、今度は急激にやることが無くなり暇を持て余すようになったんです。そこで、海外に行くまでの勉強に対する意欲と現地でのやることの無さとに大きなズレを感じてしまい、燃え尽き症候群のようになってしまいました。ご飯もろくに食べられず、寝ているだけのような日々を送る中で、デザインの勉強をし続けることが本当に正しいのか分からなくなりました。

―そこからどういった経緯でボカロPになったのですか?

higma “このままじゃダメだ”といろいろ試行錯誤している中で、自分はずっと音楽が大好きだったことを思い出したんです。僕はかつてバンドをやっていたし、音楽はずっと聴き続けていました。身近にボカロPとして活躍している友人が居たこともあって、パソコン一つで始められるならと思いボカロPになりました。

ー高校時代はどんな音楽を聴いていたんですか?

higma ロック・バンドを主に聴いていました。邦楽だと、例えばBUMP OF CHICKENやハヌマーン、サカナクション、くるりなどですかね。自分のバンドではギター・ボーカルだったこともあってギターを弾くことが好きなので、Red Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)のギタリスト、ジョン・フルシアンテのコピーをしたりもしていました。

ーその後はどんな音楽を聴くようになったのですか?

higma 徐々に打ち込み系の音楽に興味を持ちはじめました。ダフト・パンクやQrion(クリョーン)さんなどのダンス・ミュージックであったり、PARKGOLFや中田ヤスタカのようなエレクトロ・ポップであったり、それまで聴いてこなかった音楽を一気に吸収していきました。海外に行ってからはSoundCloudに上がっているようなコアな曲も聴くようになって、tofubeatsさんやin the blue shirtさんがリリースしているMaltine Recordsにハマっていましたね。音楽制作を始めた当時、in the blue shirtさんが主催する『Potluck Lab.』というYouTubeライブをよく見ていました。参加している人みんなで作った音源を試聴し合ったり、解説し合ったりするDTMのワーク・ショップのようなコンテンツだったんですけど、あこがれのトラック・メイカーがそういった配信をやってくれていたことがうれし過ぎて海外から参加していましたね。そこで関西のトラック・メイカーと知り合ったりして、帰国したときには関西でライブをしたりしていました。あの時期に、自分の作りたいサウンドの方向性が定まってきていたのだと思います。

in the blue shirt主催の『Potluck Lab.』

すべての曲のテーマは“別れ”

『超ボカニコ』@ニコニコ超会議2024 higmaのステージ

ーhigmaさんは何のDAWを使っていますか?

higma ABLETON Liveです。普通のDAWだと何となく楽器を触っている内に良いフレーズが弾けたとしても、RECボタンを押して録音をスタートさせて、そこから改めて弾き直さなきゃいけないじゃないですか。でもLiveには、RECボタンを押していなくてもDAW上で弾いたもののすべてが記録されていて、“これだ”思うものが弾けたらCAPTUREというボタンを押すと、その部分を画面に呼び出すことができるんですよ。感覚的に音楽を作っている僕にとっては、本当に便利な機能です。さらにLiveには、ドラム・ラックという“神”のような機能があります。これを立ち上げると4×4マスのパッドの画面が現れて、スクロールするとほかにもたくさんのマスが出てきます。そのマスの一つひとつに、例えばキック、スネア、ハイハットなどを割り振ると、ドラム・パッドみたいに使えるようになるんですよ。ドラム・ラックはABLETON Pushとも同期することができるので、本当に使い勝手がめちゃくちゃ良いんです。僕はこれが使いたくてLiveを選んでいるようなものです。

ーhigmaさんは作曲をするときに、何から始めますか?

higma 僕は音色探しから始めることが多いです。とりあえずDAWを立ち上げていろいろなプラグインを試したりして“なんか気持ち良い”って感じる音を作るんです。僕はキーボードが弾けないので、パッドのABLETON Pushを使ってコードを組んだりしているんですけど、“こういう音の並びが良いな”とか“こんなアルペジオが良いな”っていうフレーズを考えます。良いフレーズを見つけたら今度はそれをループさせて、ベースを乗せてみて……のように組み立てていっていますね。

ー歌詞はどうやって考えていますか?

higma 作った音から感じたイメージを元にして書いています。僕の曲はテーマが“別れ”になっているものが多いんですけど、自分のパーソナルな部分も含めて、自然とそうなっているのかなとも思うんです。学生時代には椎名もたさん、ねこぼーろ(現:ササノマリイ)さん、ピノキオピーさんやsasakure.UKさんのボカロ曲をよく聴いていて、少しネガティブなことが書かれているけれど音は明るくて可愛らしくて、無理して笑っている感じ……泣き笑いしているような表現にとても救われてきました。昔からそういったものが好きだったからか、自分の作った音を聴いているときにも“悲しいな”とか“これは誰かと誰かがずっと一緒に居たいけれどいずれは離ればなれになってしまうような感じかな”みたいに、無意識にネガティブな想像をしてしまうんです。

ーそういった弱った心を表現している歌詞だからこそ、聴く人が“自分の曲だ”と感じる理由の一つなのではないかと思います。

higma 聴いてくれる人の日常に寄り添えるような曲を作りたいと思っているので、そう思っていただけたら一番うれしいです。

ABLETON Liveの良さは“感覚的に操作ができる”こと

『超ボカニコ』@ニコニコ超会議2024 higmaのステージ

ーhigmaさんの楽曲で特徴的なのが丸くて可愛らしいエレピ(=エレクトリック・ピアノ)だと感じていて、この音はどうやって作っているんですか?

higma エレピは音色選びが重要だと思っています。僕は今SPECTRASONICS Keyscapeというエレピやピアノの音がとても良いプラグインを愛用しています。新曲の「フォール」もそうだし、最近制作している曲のエレピは大体これを使っていますね。Keyscapeを使う前は、WAVES AUDIO Electric 88 Pianoという、3,000円くらいで購入したプラグインを使っていました。たしか「夜とステップ」ではこのエレピだったと思います。値段が信じられないくらい安いのに音が良くて、これも愛用していましたね。WAVES AUDIOはよくセールをしているので、音楽制作を始めたてのころにはありがたかったです。

ー日常生活で聞くような、時計の秒針の音やコップを叩く音が楽曲に溶け込んでいるなと思うのですが、それらはサンプリングをしているのですか?

higma すでにかなりの数のサンプルを持っていてそこから使うこともありますし、音のサンプルを数多くダウンロードすることができるSPLICE Splice Soundsというサブスクリプション・サービスからそういった音をピック・アップすることもあります。Splice Sounds内で“Foley(フォーリー)”と検索すると、コップを叩くカーンという音や、紙をクシャッとした音などが出てきます。

 僕はそこでダウンロードしたサンプルをフォルダーに分けて管理していて、使いたい音のフォルダーを選択してABLETON Liveのドラム・ラックにドラッグ&ドロップするとその通りの音が入ってくれるんです。そのままABLETON Push にも音が入ってくれるから、Liveで作ったオケを聴きながら、Pushで好きに音を鳴らして曲を作っていますね。感覚的に操作できるので、初心者さんにもおすすめです。

最新アルバム『Bouquet』に込められた思い

higma最新アルバム
『Bouquet』

全16曲収録
価格:3,000円(税込)
オンライン購入:https://higmashop.booth.pm/items/5699541
クロス・フェード:https://www.youtube.com/watch?v=Ws4xZyrvowM

ー今回の『ニコニコ超会議2024』に合わせて最新アルバム『Bouquet(ブーケ)』がリリースされましたね。このタイトルには、どういった思いが込められているのですか?

higma Bouquetは花束という意味で、花束って人に渡すものじゃないですか。前作の『hue』を作ってから4年ぐらい経った今、当時よりも音楽制作の技術が上がって、いろんな方からお声掛けをいただくようになりました。自分のためだけに作っていた音楽を、誰かに聴いてもらいたくて作るとか、誰かのために制作するってことが増えてきたんですよね。 だから今回は、自分しか居なかった世界が広がって、自分だけのものではなくて聴いてくれる誰かのものになってほしいという意味で“Bouquet”と名付けました。

ージャケットのアート・ワークをご自身で描かれているようですが、MVなども含め、ビジュアルはどういった思いで制作していますか?

higma 『Bouquet』のジャケットに関しては、自分の中の“花束”を抽象化して、単なる色のまとまりとして表現しました。僕は、MVやジャケットなどのアート・ワークはあくまで曲の雰囲気や世界観を感じてもらうためにあると思っていて、そんなに注目してほしくないんです。 ボカロ曲のイラストって、キャラクターが前面に出ているようなインパクト重視なものも結構多くあるじゃないですか。それも良いと思うんですけど、僕の場合は“1歩引いて作品を観てほしい”という気持ちがあるんですよね。MVのキャラクターの表情を描くときも、“この曲は笑ってもいないし、泣いていたらわざとらしいな”って感じで、聴く人への世界観の押し付けにならないように考えています。だから今回のジャケットも、あまり印象の強いアート・ワークにせず、日常に溶け込むようなデザインにしました。

ーこのアルバムで特に思い入れのある楽曲はありますか?

higma 「バブル」ですね。この曲は元々『ボカデュオ』(歌い手×ボカロP×絵師×動画師×MIX師などでチームを組み、曲を完成させる企画)で歌い手のSou(そう)さんにお声掛けをいただいて、一緒に作ったものです。Souさんの声からイメージを膨らませて作曲しました。僕はそれまで、元々好きだったロックに、その後好きになったエレクトロの要素を取り入れた曲作りをしていたけれど、どこかぎこちない部分があって、“やりたいことを上手く表現できていないな”と悩んでいたんです。「バブル」を作るまでは明確に“ロックとエレクトロを混ぜよう”って思ったことはなかったんですけど、この曲ではそういった強い意思を持ってアレンジをしていきました。この「バブル」でやっと、自分の核となっている音楽性と、音楽制作で習得したスキルが合致したような実感を得ることができたんです。『Bouquet』にはyuigot(ユイゴ)さんにリミックスしてもらった「バブル」のリミックス・バージョンも収録されていて、友人でもあり尊敬する音楽家に僕の大切な曲をお願いすることができて本当にうれしく思っています。

―「バブル」で気に入っているポイントはありますか?

higma ラスサビ前のポエトリー・リーディングの部分です。それまでポエトリー・リーディングはやった事が無かったのですが、この曲では自然に“やろう”という気持ちになり思いっ切り言葉が連なる部分を作っています。そこの歌詞も気に入っているんです。歌詞も相まって、感情が爆発しているような曲ができたんじゃないかな。Biviさんと驟々みそばたさんに作っていただいたMVも本当に素敵なんですよ。

「バブル」Sou歌唱 Ver.
「バブル」初音ミク歌唱 Ver.

ー今回のアルバムはどんな方に届いてほしいですか?

higma 僕の音楽は、人々の日常に寄り添えるようなものでありたいと思っています。悲しみや辛さを抱えている人って、やっぱり自然と悲しい曲を聴きたくなると思うんです。そういう悩みがあったり辛いことがあったりしたときに、僕の曲を聴いて少しでも救いになってもらえたら、それ以上うれしいことはないです。

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