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文:鹿野水月、濱田侑佳(plug+編集部)

2024年8月26日(月)にZepp Shinjukuで、“ボカロックを存分に楽しめるイベント”として開催された『VOCALOCK MANIA ver.3 TOKYO』。この記事ではその一夜の様子を、動画と写真付きでレポートしていく。

『VOCALOCK MANIA ver.3 TOKYO』ライブ・レポート

 ボカロックマニアのDJ STAGEのトップ・バッターは、picco。階段を降りてフロアに到着すると、廊下まで人があふれるほどの盛況ぶりだった。

picco

 最初からpicco自身も観客も、音楽に合わせてノリノリな様子。「Tokyo Future Girl」や「ときめきジェットコースター」といった彼女の代表曲を始めとして、ESHIKARA「妄想アスパルテーム」やNextLight & picco「タイニーキャット」などのコラボ楽曲などを流し、低音の効いたサウンドにかわいらしい歌詞が乗せられた、格好良さと可憐さの両方を併せ持つ楽曲が数多く選出されていた。

 途中、昨年2023年にリリースされた「ばたんきゅ!」の歌唱のためにステージに突然SEEが登場。リアル・タイムでオート・チューンを掛けた歌声を披露し、思いがけないコラボ・パフォーマンスに観客からはうれしい悲鳴が聞こえた。

 piccoは最後に「Melty Magic」を流し、同楽曲の歌詞<誰よりずっと愛してる>の部分ではマイクを持って被せるように歌うパフォーマンスを披露。

 ドロップやサビなどでは終始手を上げたり、時には音楽に合わせて身振り手振りを交えたりして、観客と一緒に音楽を楽しんでいた。

和田たけあき

 LIVE STAGEのトップ・バッターは和田たけあきだ。SEとともに、和田たけあき(vo)、白川詢(gt)、Yopi(gt)、大谷明久(ba)、金川卓矢(ds)の5名がステージへ登場し、最初の楽曲として「ビースト・ダンス」の演奏が始まる。

 観客のテンションも少しずつ上がっていき、ステージ上の大きなLEDスクリーンに2曲目の「てらてら」のMV映像が流れると、観客は歓声をあげた。3曲目の「キライ・キライ・ジガヒダイ!」サビでは、皆でジャンプをして盛り上がるほど、ロック・キッズたちのボルテージが急激に上がっていく。

 4曲目「パリラ」からミラーボールが回り始めると、会場はダンス・ホールのムードを帯びていき、「うらめしヤッホー」では和田が艶かしいメロディを歌い上げた。

 バラード調の「よるがくればまた」をしっとりと歌うと、テンションの高い「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」を演奏し、この心地良い緩急で観客の心を掴んでから、最後の曲「ブレス・ユア・ブレス」では、初音ミクとのデュエットで会場の熱気を一つにまとめあげた。

 どの曲でも歌と同じくらい引きのあるギター・フレーズを生み出し、ボカロックの礎を築いてきた和田たけあきのソング・ライティングを存分に感じられるステージだった。

gaburyu

 開始前のステージの周りにはもうすでに観客がスタンバイしており、gaburyuはその観客たちとラフなコミュニケーションを取った後、即興のDJスクラッチを披露。そのまま「Sugar Beach」が流れてきて、彼のステージが始まった。

 “お前らまだいけんのか”という掛け声とともに、メイドサントウィッチの「ウォーターマーク」が流れる。<ウォーターマーク>の部分ではgaburyu自身もマイクを持って歌い、観客もそれにつられて声を出し、会場の一体感が増す。

 DJミキサーのエフェクトなどを効果的に駆使するなどのDJプレイには、彼のテリトリーに気が付いたら引き込まれてしまうような引力を感じた。

水野あつ

 ピアノのSEが流れ始めると、青い照明に照らされたステージに水野あつ(vo、p)、Fushi(gt)、へくぼき(ba)、すずめ(gt)、じゅむ(ds)の4名が登場。観客もペンライトを青い光に灯して、彼らを迎え入れた。

 1曲目から新曲「リフレイン」を披露し、水野の演奏するキーボードNORD Nord Stage 4の音色がピアノからオルガンに変わると、小気味良いギターのカッティングが鳴り響く2曲目「たいたいな」へと続いていく。水野あつ自身が“フォー!”と声を上げるなどしてオーディエンスを鼓舞していき、3曲目「最愛」では心に染みるような優しい声色でラブソングを歌い、間奏ではFushiによるギターが鳴く、全体を通してエモーショナルな演奏が繰り広げられた。

 水野は「ボカロ関連のイベントに出るのは初」であること、「夏だ、ボカロだ、ボカロックだ」ということで盛り上がれる曲を中心に用意したことを饒舌に説明した後、ピアノのグリッサンドから「生きる」をアカペラで歌う。歌に込められている命や愛へと向き合う感情が、ダイレクトに伝わってくるような演奏で観客の心を強く打った。

 その後のMCでは、メンバー同士の絆の強さが垣間見え、ギター・サポートとして入っていたボカロPのFushiが水野よりも先に全力で「Zepp〜!」と叫び出したり、水野が観客へ喋っている背後でメンバーらが「どれだけ水を飲み干したか」の報告をし合うなど、自由で愛らしい会話が飛び交うのが面白かった。

 6曲目の新曲「ワルツ」では、ピアノの7thコードとローファイなギターの温かなムードによりジャジーな心地良い雰囲気を生み出す。どの曲においても、水野は自身のピアノの演奏力を生かして、バリエーション豊かなバンド・アレンジを用意していたのが印象的だった。

higma

 ピーナッツくん「Birthday Party (feat. 月ノ美兎)」やMAISONdes「ポップコーン!! feat. ハローキティ, なるみや, 原口沙輔」といった、現代のネット・シーンを湧かせる楽曲から始まったhigmaのDJ。tofubeats「 I CAN FEEL IT (Single Mix) 」やMura Masa「Drugs with Daniela Lalita」、Tomggg「いちごミルク」などといった選曲から、彼が影響を受けているボカロ以外のジャンルの音楽を伺うことができた。

 higmaは途中で何度か歌う姿を見せてくれ、観客も、本人と一緒に歌唱するというテンションの高い空間。

 最後には、先日発表された最新曲「echo」が流され、これもhigma自身が歌唱。同楽曲がhigma自身のDJで流されることは初であり、セルフ・カバーも発表されていないので、ここだけでしか聴けないアレンジに観客が湧いた。

かいりきベア

 美しいギターの旋律が響くSEとともに、かいりきベア(gt)、rafma(gt)、後(ba)、まつり(ds)、rig(mani)が登場すると、「バグ」の演奏が始まる。ボーカロイドの歌唱を前面にフィーチャーしながら、バンド・メンバーがそれに合わせ演奏を重ねる硬派な演奏スタイルだ。初手から「バグ」が選曲されたことで、観客は熱狂的に叫びながら踊った。

 みぞおちを突くような力強いベースの重低音と、鋭いギター・サウンドが生きたバンドの生演奏に、クリアなボーカロイドの歌唱が良い具合に配合され、独自性のある刺激と高揚感を演出。

 MCで「マニアックな曲をやります」と観客を騙して「ダーリンダンス」を演奏し始めると、観客も手元のペンライトをピンク色にして踊った。

 ヘビー・メタル調の高音ギターやシンセ・エフェクターなどを介したギター・フレーズが高らかに鳴り響く5曲目「アイ情劣等生」は、テンポ・ダウンも相まってロックの重厚感を強調させたアレンジになっており、元曲からの変化が顕著で面白い。

 6曲目「アンヘル」では美しく燃える炎のようなハード・ロック的ギター・リフを届け、観客もそれに応えるように手を伸ばした。かいりきベアが「ここに居るのはボカロックのマニアということでよろしいですか?」と叫ぶと、会場の人たちは喜んで絶叫する。

 最後の曲「ベノム」では盛り上がりのピークを迎え、かいりきベアとともに「めっ!」と指を×印にするコールアンド・レスポンスの時間を楽しんだ。

 ポップなボカロックの魅力に、彼らが奏でる深遠な美しいギター・ロックのサウンドが組み合わさることで、かいりきベアの楽曲の新たな扉が開いていくような演奏だった。

SEE

 開始直前に「かいりきベアさんを観に行ってる中、すごい選択をされた(僕を観に来た)皆さんありがとうございます」とコメントし、観客を笑わせてから始まったSEEのDJ。

 SEEによるおいしくるメロンパン「水葬」のリミックスに始まり、青栗鼠「アポカリプス・トーキョー」、Eve「トーキョーゲットー」、wowaka「ワールズエンド・ダンスホール」、ヨルシカ「準透明少年」など、幅広いアーティストの楽曲を流し、観客を多方面から刺激する。最後には、「ここに残った人たちのためにもう一曲流します」と「voyager」が流れた。

 SEEも度々マイクを持ち、身振り手振りを交えながら感情的に歌唱する場面があった。ステージ横からフロアの方へ出向き観客の近くで歌唱を披露する場面もあり、ファンからは喜びの声が上がっていた。

すりぃ

 この日の編成は、すりぃ(vo,gt)、安島龍人(gt)、malo(ba)、西村奈央(p)、西本タツヤ(dr)の5人編成で、一曲目から彼のヒット曲「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」でボカロ・ファンを沸かせると、「今から本物を見せる!」とMCを挟んで「テレキャスタービーボーイ」を披露。

 というのも、これより前に出演していたかいりきベアが、すりぃの話をしてから「テレキャスターってことは?」とまるで「テレキャスタービーボーイ」を演奏するかのような雰囲気を匂わせて、普通に自身の曲「ベノム」を演奏したくだりがあったためだ。

 その後は「カメレオン」、「フクロウさん」、「バニー」を演奏し、鍵盤の演奏や歪みギターのフレージングが鮮やかなアレンジを展開。

 最近のすりぃは夏フェス・シーズンだったということもあり、シンガー・ソングライターとしての活動の比重を高めていたようで、「ボカロをフィーチャーしたイベントのトリができて、俺にも帰る場所があったんだなと思う。ただいま!」とコメントした。

 「ギルティ」のギター・フレーズが流れると歓声が上がり、彼のハスキー・ボイスで高音ボイスからラップまで歌い上げる様は、表現力の高さを感じさせた。その後、ボカロック・マニアにとっては待望であったと思われる「エゴロック」から最後の曲として「ラヴィ」が演奏されると、すりぃやバンド・メンバーと観客が一体になって身体を揺らした。

 観客席からアンコールが沸き立ち、その声がどんどんと増幅していくとステージにメンバーが現れて、新曲「おべか」を披露。シンセ・ベースとエレキベースを使い分けた、ダンス・ミュージックとロックの両方の高揚感で、この『VOCALOCK MANIA ver.3 TOKYO』は幕を閉じた。

 現在のボカロ・シーンにはさまざまなバック・グラウンドを持つボカロPによって形成されているため、幅広い音楽性や個性的な表現、キャラクターなどを楽しめるのが魅力になっている。その中でもボカロ×ロック=“ボカロック”というのは、このボカロ・シーンの礎を築いてきたと言っていい音楽ジャンルだ。

 そんな“ボカロック”にフィーチャーし、生演奏の高揚感をとことん堪能できるイベントは、今のところ『VOCALOCK MANIA』以外に無い。

 ボカロックのファンたちのストレートな欲求を叶えてくれた『VOCALOCK MANIA ver.3 TOKYO』の一夜は、きっとファンの皆の心に深く刻まれたことだろう。

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