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Interview:鹿野水月(plug+)

ヤマハVOCALOIDが発売されて20周年を迎えた2024年。ボカロ・カルチャーはどのように発展して、彼らの仕事道具であるVOCALOIDソフトとはどのように操作するのか。読者の素朴な疑問を、かごめPが解決してくれました!

 

ボーカロイド20周年記念サイト:https://www.vocaloid.com/anniversary/

かごめPがボーカロイドについて徹底解説!

【Profile】2009年にボカロPとして活動を開始。音声合成ソフトのキャラクター・プロデュース集団「VOCALOMAKETS」所属。「結月ゆかり」「紲星あかり」の開発に参加した。

 どうも、かごめPと申します! 気が付いたらボカロPを始めて15年、光栄な機会をいただいたので、僕から見えているボカロの歴史やVOCALOIDの使い方などを解説させていただきます!

ボーカロイド/ボカロPの意味は?

 ここ数年、非常に知名度の上がってきた単語=ボカロP。テレビ、特にアニメを観ると、ボカロPが作曲した曲がオープニングやエンディング・テーマで高頻度で流れたりして、なんとなく“音楽を作る人”のことだと思っている人も多いのではないでしょうか。

 ボカロPとは、VOCALOID(ボーカロイド)を略して“ボカロ”と、Producerの頭文字を取って“P”を足した呼び名です。ボカロを使って、作曲のみならず、作詞/編曲を行い、中には自分で動画まで作り、動画投稿サイトに作品を発表……ボカロPとは、まさに文字通り“ボカロのプロデューサー”と言える人たちのことですね。

 そんなボカロP、元々はボカロすなわちヤマハ株式会社が開発したVOCALOID(ボーカロイド)と呼ばれる歌声合成ソフトを使用し、動画投稿サイトに作品を発表する人たちを呼ぶ言葉として生まれました。ボカロ(VOCALOID)はパソコンやスマホ・タブレットなどで起動する、音符を入力するとその通りに歌ってくれるソフトです。そんなボカロに、自身の作った楽曲を歌ってもらう人たちが、2007年に初音ミクが発売されると一気に増え、廃れることなく発展を続けて今に至ります。

 ちなみに余談ですが、“〇〇P”という呼び方自体は、実はボカロ発祥ではないと言われています。興味のある方は調べてみてはいかがでしょうか。

ボーカロイドが人気になった理由は?

 ボーカロイド(VOCALOID)の発展には、“インターネットの発展”と“パソコンで音楽を制作するコストが低くなった”ことが大きく関わっています。昔(と言っても20年くらい前まで)は音楽を作っても、学校の友達や会社の同僚など、周りで聴いてくれる人はごく少人数で限られていました。インターネット経由でもある程度は広められましたが、当時はまだまだ狭いコミュニティが中心。

 “多くの人に作品を聴いてほしい”と思っても、その希望を叶えるためのハードルがめちゃくちゃ高かったんです。それがインターネットの発達により、動画投稿サイトへ投稿すればすなわち、世界中の人が見てくれるようになりました。そんな状況の変化を知ったクリエイターたちが、自分の作品発表の場としてどんどん集まったんです。また、音楽を聴く人たちからしても、インターネットにあふれるボカロPの紡ぐ音楽たちは今まで聴いたことがないような音楽。ボカロが歌う多彩な楽曲が、世界中の人たちを魅了し、動画投稿サイトに集まってきたのでした。

 一方、“コンピューターで音楽を作る”というのも、かつては家庭用のパソコンでは不可能な、夢のような技術でした。コンピューターに歌ってもらうなどもう夢のまた夢。それが、コンピューターと音楽制作ソフトの進化により、“誰でもパソコン一台で歌まで入った音楽を完成させられる”ところまで来ました。上記二つの要素が、VOCALOIDの誕生、そしてボカロPと呼ばれる人たちが生まれることにつながりました。

 そして今では、あくまで楽器のようなポジションだったVOCALOIDが、AI技術を活用することで、より人間らしい歌声になってきました。ボカロを使用した音楽も、さらに新しい表現やスタイルを追い求め、進化しています。

ボカロ文化はどのような進化を遂げてきたのか

 ボカロ文化を眺めていて一番びっくりするのは、世代交代が非常に速いサイクルで起こること! 毎年多くの新しいボカロPが生まれ、年を追うごとにボカロ曲が多彩さを増していっています。僕がいわゆるボカロPとして活動を始めたのは2009年ですが、その当時にボカロ好きだった子供が成長して今、現役ボカロPになり「子供のころに聴いてました!」とよく言ってくれます。

 そうした新陳代謝や世代交代が活発なことが、ボカロを取り巻くカルチャーがずーーーーーっと発展を続けている秘訣だと思います。

 余談ですが、初音ミク発売当初ボカロPとして活動していた人は、僕より5~10歳くらい年上の、当時30代~40代(今は40代中盤~50代)の人が多かった印象です。一方の僕は、周りの年上の知り合いがみんな初音ミクを起点にボカロに夢中になっていくのを見て、内心驚いていました(やがて僕も、そういう人たちに影響されてボカロの道を踏み出すのですが)。

 彼らは幼いころ、SF映画を見て“機械が歌を歌う”未来を夢に見ていた人たちで、彼らにとって初音ミクとは、まさに“子供のころに見た夢を具現化した存在”だったんです。そりゃあ、熱中しちゃいますよね! そんな、2007年に初音ミクに魅了された人たちの“熱”が、世代を超えて今につながっているんだと思っています。

かごめPがおすすめするボイス・バンク5選

結月ゆかり

 僕が関わっているキャラクター・プロデュース集団VOCALOMAKETSから生まれたキャラクターです。VOCALOMAKETSメンバーは僕を含め、全員ボカロP。“ボカロPが本当に使いたいボカロを作る”を合言葉に、膨大な議論を重ねて作ったボカロ。優しい歌声と吐息感が特徴で、特に語尾の息の“抜き方”は唯一無二の質感です。

紲星あかり

 同じくVOCALOMAKETSから生まれたキャラクター。こちらも議論を重ねて、時にはギスギスしたくらい、メンバーみんなのこだわりが詰まったキャラクターと歌声です。結月ゆかりとは対照的に、元気な歌声が、個人的に大好きです!

鏡音リン

 クリプトンから初音ミクの次に出たボカロで、この子も僕が大好きなボカロです。非常にパワーのある明るく幼い声が特徴で、オケに負けないヌケの良さから、歌わせることが非常に楽しいキャラクターですね!

galaco

 俳優、柴咲コウさんの声を元に作られたボイス・バンクです。最近VOCALOID6版が出ましたね! キラキラしたキャラクター・デザインが好きです! また、落ち着いた芯のある声も“魅力的だなあ”と思っています。

HARUKA

 VOCALOID6付属のボイスバンクの中で、一番好きな声がこの子です。癖がなくて使いやすい声をしていますね。

VOCALOID6がすごい理由

最新のAI合成音声を搭載

VOCALOID:AIのトラックで打ち込みした様子

 VOCALOID6から、最新のAI技術を利用した音声が使えるようになりました。人間の歌の“クセ”を学習することでよりいきいきと、生々しくなった歌声に加え、AIボイス・バンクは全てマルチリンガル対応! 歌の中で英語のフレーズを入れたくなったら、今までのようにボイス・バンクを切り替える必要なく、そのまま歌詞に英単語を入力すれば歌ってくれます。さらに、複数のボイス・バンクが最初から付属しているので、VOCALOID6を導入したその日から高度な歌声合成を楽しむことができます。

使用している音楽制作ソフト(DAW)からすんなり移行できる

 VOCALOID6は、現状リリースされている歌声合成ソフトの中で数少ない、ほかの音楽制作ソフト(DAW)と同じような操作で歌声を制作できるソフトです。STEINBERG CubaseやPRESONUS Studio One、ABLETON Liveなど……普段使っている音楽制作ソフトの延長線上の操作感です。音楽制作ソフト上でVST/AUプラグインとして立ち上げ、楽曲制作を止めずにシームレスに歌声を作ることもできます。

 特にAI合成の歌声合成ソフトは独自の操作系を採用していることが多く、最初は戸惑うことが多いのですが、VOCALOID6はすんなり入れるのがうれしいですね。

多数のエフェクト搭載で、ミックスに不慣れな人も安心!

VOCALOID6内に搭載されたエフェクト。Eボタンを押して呼び出せる

 高品質なエフェクトを内蔵し、ボーカルに関するミックス作業をVOCALOID6で完結できます。プリセットも多数入っていて、そのどれもがVOCALOIDのミックスに特化したプリセットなので、ミックスに不慣れな方も迷わず安心です。

VOCALOID6のパラメーターの解説

 VOCALOID6では、歌声合成のための様々な機能が搭載されています。今までのVOCALOIDのエディターと比べると見慣れない機能が多いですが、すぐに慣れることができるでしょう。

VOCALOID6基本操作

 VOCALOIDに歌わせるためには、まずマウスを鉛筆ツールに持ち替えて、ドラッグ&ドロップで音符を入力します。

エディター上部のタブで鉛筆をクリック
エディターのピアノ・ロール上をクリックすると打ち込める

 続いて音符をダブル・クリックすると、歌詞が入力できます。先頭のノートに「ぷらぐぷらすだよ」と入力すれば、後ろのノートに割り振ってくれるので、基本の操作はこれだけ! 簡単ですね!

「ぷらぐぷらすだよーーー」!

 ちなみに、歌詞は日本語のほか、英語、中国語が入力可能。VOCALOID6対応のAIボイス・バンクであれば、こんなふうに英語の混ざった歌をシームレスに作ることができます。

「plug plus×3 だよーーー」!

編集機能

 AIボイス・バンクはそのままでも生き生きと歌ってくれますが、編集機能を利用してさらに自分好みの歌声にすることができます。

エディターの画面上部のタブでピッチを選択

 まずはピッチ編集。ノートを囲うように表示される●をドラッグ&ドロップして、歌い方のニュアンスの強さを調整できます。「しゃくり上げ」などのニュアンスは、ここで付けます。

ピッチはノート一つに対して編集できるパラメーターを6つ用意
エディターの画面上部のタブでエクスプレッションを選択

 続いて声の強弱(エクスプレッション)の編集。ノートの上に表示される●をドラッグ&ドロップして、発音の始まりや終わりの音量感を調整できます。「あー」を「あーーー!」にしたり、「ぁあー……」にしたりが簡単にできるんです。

エクスプレッションはノート一つに対して編集できるパラメーターを3つ用意

 声の発音タイミングを変えたいときはタイミング・ツール。VOCALOID6は音符(ノート)の位置を微調整することもできますが、ノートの位置はそのままで発音タイミングだけを変えることもできます。発音タイミングと聞くと“発音の頭”だけを調整するツールと思いがちですが、“発音の終わり”を変える機能の方が利用頻度は高いでしょう。例えば“きと”と打ち込んだ歌詞を「きっと」と歌わせたいときは、「き」の終わり方を短く調整することで、「きと」→「きっと」と歌ってくれるようになります。

「き」の終わりを短くして「きっと」と歌わせる
ビブラート・ツールは主に伸ばす音に使う

 最後にビブラート・ツール。主に伸ばす音に使うことで、発音の音程を揺らし、より人間らしい“上手い歌声”を実現できます。

TAKE機能

エディターの画面上部のタブでTakeを選択

 VOCALOID6では、同じボイス・バンクから「少し音程やタイミングが異なるボーカル」を生成するTake機能が追加されました。これは、プロの現場を知る人間からすると地味に熱い!機能です。ダブリング(同じボーカルを二回録音し、重ねることで歌の厚みを出すテクニック)の手法を、合成音声で実現できるのです。

 例えば全く同じハモりをTakeを変えて二つ作り、左右に振って重ねることで、「メイン・ボーカルは真ん中、ハモリはメイン・ボーカルを囲うように自然に左右に広げる」といったことが可能になるのです。こう聞くと試したくなりますよね?

ROBOT VOICE機能

エディターの画面上部のタブでROBOT VOICEを選択

 昨今の音楽ではよく耳にするケロケロボイス。これは、歌声のピッチ変化をあえて直線的にすることで生まれます。VOCALOID6のROBOT VOICE機能を使うことで、そんなケロケロボイスを再現可能。ケロケロの質感は三段階、Robotを適用してから改めてピッチ編集もできます。

BREATH機能

エディターの画面上部のタブでBREATHを選択

 VOCALOID6では、歌の中で入る「息継ぎ(ブレス)」を自動で入れられます。BREATH機能の頻度を切り替えることで、曲に合わせた息継ぎを入れることができます。

VOCALO CHANGER機能

VOCALOID 6上にオーディオ・トラックを作り、WAVファイルなどをドラッグ&ドロップ。画面下部のエディターでVOCALO CHANGERからボイスを選択で使用できる

 VOCALOID6の変わり種機能としては、歌声を読み込んでVOCALOID6のボイスバンクに真似をさせるVOCALO CHANGERというものもあります。VOCALOIDに読み込んだボーカルの音声ファイルを、好きなキャラに歌わせることできます。かなり精度が高く、面白い機能です。歌でなくても、例えばVOCALOIDでは少し難しい「語り」や「ラップ」などをVOCALO CHANGERで作ると面白いですね。

 ここまで読んでみて、どうでしょうか? 「ボカロを歌わせる」が思ったより「自分にもできそう!」感ありませんか? そう感じてくれた人は、是非ボカロPとしての活動を考えてみてはいかがでしょうか! これからもボカロPが増え、より多彩な音楽が生まれることを楽しみにしていますね!

VOCALOID6 for Windows / macOS

■価格:27,500円(税込)
■同梱ボイスバンク:16ボイス(VOCALOID6用ボイス・バンク:AKITO、ALLEN、ASAHI、HARUKA、LUCAS、MICHELLE、SAKURA、SHION、ASAHI、TAKU、YUINA、NAOKI)(VOCALOID5用ボイス・バンク:Amy、Chris、 Kaori、Ken)
※VOCALOID3、VOCALOID4、VOCALOID5のボイス・バンク及び、作成したプロジェクト・ファイル(VSQX、VPR)も読み込み可能
■対応OS:Windows10、11 (64ビット版)、macOS 13(Ventura)、14(Sonoma)、15(Sequoia)
その他詳細は、https://www.vocaloid.com/vocaloid6/specs/

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