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Interview:鹿野水月(plug+)

ヤマハ VOCALOIDが発売されて20周年を迎えた2024年。ボカロ・カルチャーはどのように変化して、彼らの仕事道具=VOCALOIDソフトはどのように進化してきたのか。今をときめくボカロPたちに話を聞いていく。

 

ボーカロイド20周年記念サイト:https://www.vocaloid.com/anniversary/

カンザキイオリ インタビュー/ボーカロイド20周年記念

カンザキイオリ プロフィール&コメント

【Profile】2014年に黒柿名義でボカロPとしてデビューし、2015年にカンザキイオリに改名。ヒット曲は「命に嫌われている。」で、花譜ら神椿スタジオのVTuberの楽曲を手掛けるメイン・プロデューサーであったことでもよく知られている。2023年独立。

 20周年、本当におめでとうございます。VOCALOIDが無かったら、全然別の世界で生きてたと思います。今までの人生、本当に素晴らしいことの連続で、それはボカロが無かったら出会えなかったこと。だから、本当に僕の人生を動かしてくれたコンテンツだと思います。本当にありがとうございます。

カンザキイオリ初投稿は黒柿名義「one day」×初音ミク V3

黒柿「one day」

ーカンザキさんの初投稿は2014年なので、今年2024年はご自身の10周年と、VOCALOIDの20周年が重なっていますよね。

カンザキイオリ 僕がVOCALOIDを知ったのが2010年辺りで中学1年生くらいだったんですよ。だから2004年ってそんなに子供のときからずっとボーカロイドはあったというのが今さらながらに衝撃的ですね。

ーVOCALOIDと過ごした10年間については、どう振り返りますか?

カンザキイオリ ボカロ・カルチャーは何でも許されるみたいなところがあって、どんな曲や思想を出してもいいし、一種の盛り上げ文化みたいなところがある。ボカロPを始めた2014年くらいからどんどんボカロを通して友達が増えていったので感謝していますね。僕が高校生のときはVOCALOIDを好きでも周りにボカロPを目指している人はそんなに居なかったような気がします。

ーそもそもVOCALOIDとの出会いは?

カンザキイオリ 中学2年生になって不登校になったときにピアノで遊ぶようになって、漠然と音楽に関わる人になれたらいいなって思い始めたんですよ。最初はボカロ・シーンにある曲ってプロの音楽家の人たちが作っていると思っていたんです。でもアマチュアの人たちが作っていると分かって、手が出しやすそうと思ったのが憧れのきっかけでした。

ー当時どういったボカロPの曲を聴いていましたか?

カンザキイオリ ヒトリエのwowakaさんの「ローリンガール」や「ワールズエンド・ダンスホール」などでハマって、“人が歌わないんだ”っていう、今まで聴いていたポップスにはない曲のジャンルに衝撃を受けました。ほかにも、ハチさん、「メルト」のryoさんの音楽を聴いてすごいなと思っていました。

ー2014年に初投稿として黒柿名義での「one day」を発表していますね。最初に手にしたのは初音ミク V3?

カンザキイオリ 本当の最初はUTAUで、それを使ってから高校生のときにVOCALOIDにやっぱり憧れがあったので何とかお金を貯めて、初音ミク V3を購入しました。付属していたPRESONUS Studio Oneで動作させて、とりあえず何かしゃべらせようと思って友達の名前を喋らせて送りつけたら“迷惑メール”って言われたことを覚えてるんですよ。エディターは当時Piapro Studioだったんですけど、その後に使い方に困惑して、パラメーターをちょっといじったりはしたんですけど上手くいかないし、ジェンダー・ファクターだけをいじってそのほかはベタ打ちで初投稿を作っていたと思います。

ー元々ピアノを弾いていたとのことですが、DTMをしてVOCALOIDを使い始めてから音楽的なアプローチの幅も広がった?

カンザキイオリ 軽音部に所属していたので、バンドでキーボードを弾いていたときは周りに意見を言うのが苦手で思うようにできなかったのですが、DTMとボカロでは自分の好きな楽器を自分の好きにできる。思う存分自分の世界に閉じこもることができるのが良かったですね。DTMやりたかったので、学校でもずっと早く家に帰りたかったのを覚えています。

ー初音ミク V3と曲作りをすることで将来は音楽家になりたいという展望も描くようになっていった?

カンザキイオリ 購入当時は思いましたよね。ただ、20歳くらいのときに家を飛び出したときはもう音楽よりもただ生きなきゃみたいなことを考えていたなと思います。ボカロPの活動は休日の趣味になっていました。

ーカンザキさんはボカロPとして10年間活動する中で、ボカロ・シーンはどう変化してきたように思いますか?

カンザキイオリ 僕の記憶が正しければ、一度ボカロがあんまり聴かれなくなった時期がありましたね。まさに僕が東京に来てから、「命に嫌われている」を投稿するちょっと前辺りで、2015~2016年とか。でも「命に嫌われている」を出した後からハチさんとwowakaさんが久しぶりに曲を出したりもして、だんだん盛り上がっていったので本当にありがとうございますという感じです。

ー現在のボカロ・シーンについてはどう思う?

カンザキイオリ 今は黄金期ですよね。VOCALOID以外にもさまざまな歌声合成ソフトが出てきていますけど、でもその起源って、全部ボカロなんですよね。そうやってソフトもキャラクターも増えて、スマホでDTMもできるようになったのもあって、若者がボカロPとして活動を始めやすくなっていますよね。だから、今のボカロ・シーンにはハッピーが詰まっているなと思います。

カンザキイオリに聞くボーカロイドの調声

ボカロは視聴者の思考を決め付けない表現ができる

ーカンザキさんがお持ちのボイス・バンクについて教えてください。

カンザキイオリ 初音ミク V3、初音ミク NT、初音ミク V4Xと鏡音リン・レン V4X、KAITO V3、MEIKO V3、巡音ルカV4Xを持っていて、あとはSynthesizer Vの重音テト、Megpoidを持っています。エディターはPiapro Studioと新しく手に入れたばかりのVOCALOID 6、あとSynthesizer Vを使い分けています。

ー最近ご自身のセルフカバーなどもされていますが、人の声とボカロを表現手段としてどのように使い分けていますか?

カンザキイオリ ボカロを使うと、それぞれが歌詞を想像できる歌に仕上げられて良いなと思います。ボカロの感情を出すか出さないかは、操作するボカロPの力量に測られているのでナチュラルにもできれば、機械的にもできますよね。普通に自分で歌うときに、自分の感情に飲まれ過ぎると変なニュアンスが出ちゃうことがあるんです。変なニュアンスが入ると、視聴者の思考を決め付けてしまうことがあるので、それを防ぐのにボカロは一役買っています。自分が歌うときは、自分の表現欲を満たせるのが良いです。マイク一つで音が変わるのも楽しいから。

ー調声って本当に力量を求められますよね。

カンザキイオリ でも、調声って、ある程度聴ける状態に調整するくらいがベストだと思うんです。今ってもうベタ打ちでも聴ける状態ですから、そういった意味ではだいぶ敷居が低くて、力量も求められなくなっている気がします。

ーただ、やはり曲の雰囲気に合わせた調声というのも大事なのではないですか?

カンザキイオリ でも僕はベタ打ち寄りだったと思いますね。YouTubeの動画などを観ながら勉強はしていたものの苦手だったので、ソフト上でパラメーターをほとんど動かさないんですよ。MIDIノートを動かしてやるタイプです。

ーMIDIノートを動かしてやるタイプとは?

カンザキイオリ 例えば、4分音符のメロディにすごい短いMIDIノートを置くと、すごい小さい音量のスタッカートになったりするんです。それを「命に嫌われている」とかでよく使ったりしていました。あとは、オクターブ上と下の音を重ねて揺らしたり、言葉の始まりとかでめっちゃ低い音と高い音に1個ずつMIDIノートを配置してあげると、普通の声が、しゃくりをしてくれます。この音はロックと相性良くてお気に入りです。

「文化になっていく」でも用いたしゃくり上げのTips。なああいの発音で音程差を付けて三つのノートを配置している

ービブラートとかはどうしていますか?

カンザキイオリ パラメーターを使わずにノート入力で作っていますよ。例えば「文化になっていく」の<誰よりも才能あるって3人くらいのファンが言ってたんだ>って歌詞の才能の発音のところ、ビブラートのためにいくつかノートを入れています。自分が加えた編集が目で見てすぐ分かる方が僕にとっては良いんです。

「文化になっていく」のビブラートとして打ち込まれた三つのノート

ー「文化になっていく」はラップの部分もありますよね。

カンザキイオリ ラップの部分は特に時間がかかったんですよね。理由は、ピッチを上げて落とすことによる独特の発音にハマってしまって、めちゃくちゃ遊んだ覚えがありますね。自然な変化を求めるときはパラメーターをいじるのも良いんですけど、もっと過激に変化させたいと思ったら、MIDIノートの配置で響きを工夫する方が速いんですよね。

「文化になっていく」のラップ・パートの全体図
「文化になっていく」のラップ・パート。ピッチ上下により独特の発音を生み出している

ーそういったTipsはどのようにして勉強しましたか?

カンザキイオリ 今はある程度調声でやることが定まってきたのですが、高校生のときは、神無月Pさんの調声がとても好きで、出来ていなかったですが、あのころ作っていた曲は参考にしていたと思います。じんさんの「daze」をIAでカバーでした動画がめちゃくちゃ好きで、すごい尊敬してました。それでそこから試行錯誤するうちに、ロックに合う調声を見つけていきました。

「命に嫌われている」が調声のターニング・ポイントだった

ーカンザキさんの初音ミクは、声を太く響かせている印象が強いのですが、これはどういう意図でやっていますか?

カンザキイオリ 「命に嫌われている」がちょうど上京して初の楽曲だったんですけど、あの曲をきっかけにその声質にするようになったんです。当時6畳の部屋に二段ベッドに四人で住んでたんですけど、そのベッドでずっとDTMをしていて、少し捻くれたことというか、“何かしてやりたい”って漠然と思ったんです。それで、初音ミクを低めの声にして、MIDIノートを短くして子音を立たせてみたら、“独特で面白い”って言われたのが嬉しかったです。

ーその後のボーカル処理は?

カンザキイオリ 基本的なことしかしないですね。コンプとEQでミックスして、よくダブリングはします。FABFILTERのPro-Q 3と、Pro-C2っていうコンプと、Pro-R 2っていうリバーブ、IZOTOPEのVocal Doublerでダブリングさせます。ディエッサーで耳に痛い音をガッと削るとオケに埋もれちゃうので、ダブリングで存在感を出すようにしているんです。それにコーラスだとMS処理のソフトWAVES Centerを通して真ん中の音の方を完全に消して、サイドに思い切り振ったりしますね。

カンザキイオリによるVOCALOID 6レビュー

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プリセットを選ぶだけで声質を決められる▶︎STYLE PRESET

ー今回新たにVOCALOID 6を使ってみていかがですか?

カンザキイオリ すご過ぎて怖かったです……。動作が軽いですよね。Piapro Studioを使用していたときにはなかったSTYLEというところでさまざまな声質のプリセットから選ぶことができるというのが、初心者の方に親切だと思います。初音ミク V4Xで別のボイス・バンクのために作られた今ボカロP始める子は、最初に触るボーカロイドがVOCALOID 6ってうらやましいですよね。

VOICEでボイス・バンクのトーンを選んだ後に、STYLEで好みの声質を選ぶことができる

ーカンザキさんはエディター上でパラメーターを設定して声質を作るのが少し苦手だとおっしゃっていましたよね。

カンザキイオリ そうですね。だから、これまではブレスを打つときにBR1~5って、5種類くらいのブレスのノート入力をしていたんですけど、自動でブレスしてくれるようになっているのがすご過ぎました。もう打ち込まなくて良いんだって思って。「命に嫌われている」で試してみたら、短いブレスは自力で入れた方が効果が高いって分かって、でも普通の息継ぎは自動のブレスで良い感じになりました。これだけでも僕の作業はVOCALOID 6によってだいぶ楽になると思います。

VOCALOID 6はノート一つに対する細かな調整が可能

ー画面左の方に行くとピッチ、ビブラート、エクスプレッション、タイミングの操作ができるツールが用意されていますね。視覚的に調声を確認したいカンザキさんにはぴったりのツールかなと。

カンザキイオリ 全部波形に反映されますよね。私はピッチの調整のためにも結構細かくノートをいじったりしていたので、例えば少し人間らしい音にしたいと思ったらピッチの揺らぎを人為的に作ることで雰囲気が出るんです。さっきもお話ししたように僕は一つ一つ短かなノートを入力していたのですが、ピッチのツールで全体ドリフトというのを調整すると一部分だけ変化してくれる。これ、私が今までやったことが破壊される勢いで便利です! もうやらなくて良いんだって作業をたくさん発見できています。

ーピッチ以外のツールについてはいかがですか?

カンザキイオリ 特にビブラートとエクスプレッションがすごかったです。ノートにカーソルを当てると、黒丸ポッチが4個出てくるんですけど、そこでビブラートの深さとか、速度とかを分かりやすく書いてくれています。直感的にノリで操作できるのが楽しかったです。すぐにノートの背後の波形に反映されるのも分かりやすいですね。

ーSTYLEの右ではROBOT VOICEというところがあり、ケロケロボイスを簡単に作れるようになっていますね。

カンザキイオリ SOFTがお気に入りでした。ここでこんな簡単に設定できてしまうなんて便利過ぎますね。もう外部のプラグインを使わなくて良いというのは、ボカロPのニーズを満たしてくれてる。

ボイス・チェンジャー機能のビブラートの再現率が高い

ーご自身でカバーも作っているカンザキさんには、ボイス・チェンジャー機能も使って面白いことできそうですよね。

カンザキイオリ これもヤバかった。私、楽曲提供をよくするので自分の仮歌を女性のピッチにしなきゃいけないときにめちゃくちゃ役立つだろうなって。自分で歌った「自由に捕らわれる。」をHARUKAにしてみたら、ビブラートの再現率が高くて驚かされましたね。あとは人間特有のかすれた声みたいなのを再現してくれたんですよ。僕らは今まで自分の耳で人間味を追求していたけれど、VOCALOID 6を使って人間の歌を研究して、その中のどの要素をボカロに反映させるか検討する際にも便利なソフトなんだと思えました。

ーこれまで別のエディターで操作してきたことをVOCALOID 6でやってみると、また新しい調声のアイディアが生まれそうですね。

カンザキイオリ 「命に嫌われている」の元のボーカル音声は、初音ミク V3XをPiapro Studioで操作した音なんですよ。試しにこのMIDIノートとVOCALOID 6を使って、初音ミク V4XとVOCALOID6に同梱されれているAKITOという男性ボイスで鳴らしてみたものを用意しました。

「命に嫌われている」初音ミク V3X、Piapro Studio
「命に嫌われている」初音ミク V4X、VOCALOID 6
「命に嫌われている」AI AKITO、VOCALOID 6

ーカンザキさんはVOCALOID 6を使い始めたばかりだと思いますが、今後も使っていきたいですか?

カンザキイオリ 絶対に使いますね。もう持っているV4Xという前のバージョンのボイス・バンクたちも鳴らすことができるので、以前まで異なるエディターを使用していた方にとっても導入のハードルが低いなと思います。僕自身、VOCALOID 6へとすぐに移行することができました。大分、直感的に操作できるので、これまで以上に作業スピードを高められそうです。

ー今はV4Xですが、初音ミク V6 AIのリリースが予定されているんですよね。

カンザキイオリ なんと!買います。楽しみだな、早く聴いてみたいです。

ー10年間、VOCALOIDと共にすごしてきて、技術の変化についてどう感じていますか?

カンザキイオリ 時代が進むにつれて、めちゃくちゃ触りやすくなってるので、毎回ボカロを調声するときに楽しくて楽しくてしょうがない……子供心をくすぐられるような瞬間がずっとあります。10年前はソフトも高かったし、調声も難しかったので、VOCALOID 6のように初めて触ったとしても、ソフトがその人の技量の一定のクオリティを保証してくれるのはすごい。ボイス・チェンジャー機能のような、自分の声がボカロで鳴らせるようになると、創作の幅もさらに広げられると思うんですよ。これからの進化についてもとても楽しみに感じられました。

ー最後に、ボカロPを目指してる人へ、応援メッセージをいただけますか?

カンザキイオリ やりたいと思ったときを大事に、その瞬間にまずVOCALOID6をポチりましょう。やりたいと思ったら即やらないと、その熱量は消えていきますからね。

VOCALOID6 for Windows / macOS

■価格:27,500円(税込)
■同梱ボイスバンク:16ボイス(VOCALOID6用ボイス・バンク:AKITO、ALLEN、ASAHI、HARUKA、LUCAS、MICHELLE、SAKURA、SHION、ASAHI、TAKU、YUINA、NAOKI)(VOCALOID5用ボイス・バンク:Amy、Chris、 Kaori、Ken)
※VOCALOID3、VOCALOID4、VOCALOID5のボイス・バンク及び、作成したプロジェクト・ファイル(VSQX、VPR)も読み込み可能
■対応OS:Windows10、11 (64ビット版)、macOS 13(Ventura)、14(Sonoma)、15(Sequoia)
その他詳細は、https://www.vocaloid.com/vocaloid6/specs/

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