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Text:Shinjo Matsushita

ネオソウル派生アーティスト15選

 近年、ジャズやフュージョンといった音楽シーンでは“ネオ”的な感覚——既存ジャンルを横断しながら、新しい美意識や質感を更新していく潮流が広がっていると感じる。具体的には、ジャズやR&B、ヒップホップなどといったジャンルを基盤に置きつつも、現代の音楽制作ツールやサウンドデザインの進歩を取り込み、コード感・ビート感・テクスチャを自在に再構築していく動きだ。

 この“ネオ”的な姿勢は、その言葉を冠したネオソウルとも確かに接点があるはずだ。ネオソウル自体が、既存の文脈を更新していく気質を持ったジャンルだからだ。そこで少し飛躍があるかもしれないが、このネオ的なアティチュードを持つアーティストを「ネオソウル派生系」という呼び名を用いることにしたい。

 本稿では、そうした「ネオソウル派生系」を体現するアーティスト/レーベルを15組ピックアップする。狭義のネオソウルとは異なるかもしれないが、広い文脈として楽しんでもらえるとうれしい。

Shinjo Matsushita
大のサンレコ愛読者。ネオソウル、コンテンポラリー・ジャズ、フュージョン、エレクトロニカに傾倒しつつ、趣味でパソコンを使った打ち込み音楽の制作に日々励んでいる。

Moonchild 〜新世代ネオソウルの先駆者

 アメリカ南カリフォルニア大学の学生だったアンバー・ナヴラン、マックス・ブリック、アンドリス・マットソンによって結成されたトリオ、ムーンチャイルド。今や「新世代のネオソウルといえば、このバンド」とまで言われるほどその地位を昇華させ、スティービー・ワンダーをはじめとするレジェンドにも絶賛されるユニットだ。メンバーは皆マルチインストゥルメンタリストで、木管/金管楽器を器用に操りながら、浮遊感のあるコード進行を織り成す。それをアンバーのメロウなボーカルが全体を包み込むサウンドがとても心地良い。
 最新アルバムの『Starfruit』は、彼らのスタイルを決定付けた集大成アルバムとなっている。

Catpack 〜ネコっぽいシンセサウンドが特徴のユニット

 Moonchildのボーカリスト=アンバーにジェイコブ・マン(k)、フィル・ボドロー(prod/vo)が加わり結成されたユニットがキャットパック。バンド名の由来は、ジェイコブが愛用するアナログ・シンセ、Roland JUNO-106の音色が猫の鳴き声に聞こえたからだそう。
 デビュー・アルバムの『Catpack』は、Moonchildにあったメロウなサウンドをアンバーが引き継ぎながらも、フィルのセクシーな男性ボーカルや、ジェイコブの可愛らしいシンセが交わる、Moonchildにあったネオソウルの音をアップデートした1枚だ。

Anomalie 〜エレクトロニック・ジャズの職人

 カナダ・モントリオールを拠点に活動する次世代キーボーディスト/トラックメイカー、アノマリー。シンセを巧みに操りキレのあるサウンドを生み出す一方で、複雑なコード・チェンジや変拍子のビート・メイキングを得意とする、そんなジャズ・センスが光る職人肌のアーティストだ。
 1stアルバム『Metropole 1 + 2』では、エレクトロニック・ジャズの新たな形を提示してみせた。そして得意なインストの面を残しつつ、歌も盛り込んで進化を遂げたのが最新作の『Glarie』。多数のボーカリストをフィーチャーしており、ボーカル楽曲で見える彼のネオソウルの一面を見せた1枚に仕上がっている。

J3PO 〜アナログ・シンセを巧みに操るキーボーディスト

  SF映画のロボットを連想させるようなアーティスト名で活動するジュリアン・ウォーターフォール・ポラック(J3PO)は、アメリカ・カリフォルニア州出身のキーボーディスト/コンポーザーだ。J3POというアーティスト名は、以前トリオを組んでいたメンバーが、彼の名前の頭文字を取って命名したという。
 最新アルバム『Sweet Treats』は、浮遊感のあるコード進行にタイトなビートが組み合わさった短いトラックの作品集。ジャズやヒップホップ、ネオソウルを目指すトラックメイカーにとって、制作のインスピレーションになる1枚となるだろう。
 また彼は、ソフト音源メーカーのSPECTRASONICSともコラボレーションをしていて、同社のOmnisphere用に彼が制作したプリセットも公開されている。興味がある方はぜひチェックしてみてほしい。

Lucy Rose 〜UKインディーズ・シーンの新星シンガー・ソングライター

 ルーシー・ローズは、インディーシーンに新しい風を吹き込むイギリス出身の気鋭のシンガー・ソングライターだ。2014年にTVアニメ『蟲師 続章』の主題歌に彼女の楽曲「SHIVER」が起用されたことで、日本でも彼女を知る人は多い。
 最新アルバムの『This Ain’t The Way You Go Out』では、使用される楽器やエフェクトでネオソウルのアコースティックな雰囲気を押し出しながらも、彼女のロックなピアノプレイや軽やかながらも力強いボーカルパフォーマンスが光る1枚となっている。

Tom Misch 〜ネオソウルギターの源流を作ったアーティスト

 

 イギリス出身のシンガー・ソングライター、トム・ミッシュは、唯一無二のネオソウルギターで広く知られる存在だ。幼少期にギターやバイオリンなどを学び、マルチプレイヤーでありがならも、15歳からトラック・メイキングを初め、SoundCloudの投稿を通じて徐々に注目を集めた。
 代表作の『Geography』は、彼のネオソウルギターが堪能できる1枚に仕上がっている。またジャズドラマーのユセフ・デイズとタッグを組んだアルバム『What Kinda Music』は、彼のジャズ色を強く残し、ネオソウルやジャズを独自のギタースタイルで横断する一面を見せた1枚だ。

Rob Araujo 〜絶妙なスケールアウトのソロを特徴とするキーボーディスト

 LAベースで活動を広げるロブ・アラウホは、突如として現れたジャズ界の超新星的ピアニストだ。アノマリーとタッグを組んでいることはよく知られており、職人気質のアノマリーとは対照的に、彼はロマンチストで、情熱的な演奏とトラック・メイキングをみせる。
 トム・ミッシュの『South Of The River』のシンセソロとして参加した際や、彼の代表作『Loading…』で繰り広げられるスケールアウトも辞さないソロは、ジャズ界隈を驚かせたほど斬新だった。薬剤師になることを目指している傍ら、ジャズに目覚めたと語るロブだが、ネオソウル界隈からも注目されている今、今後のリリースが待ち遠しい。

Kaelin Ellis 〜ヒップホップ×ネオソウルサウンドの気鋭プロデューサー

 アメリカ・フロリダ州出身のビートメーカー/プロデューサー、ケーリン・エリスの音楽のスタイルは、ロブ・アラウホと共通点がありながらも、ヒップホップ色の強いサウンドで注目を集める存在だ。
最新アルバム『You Are Here, Start.』では、アノマリーなどのアーティストをフィーチャーし、アーティスト同士のつながりを感じさせる1枚となっている。また、日常的にトラック・メイキングの様子を配信しており、アットホームな制作スタイルを垣間見ることができるのも彼の魅力の一つだ。
 彼が使うDAWは、ABLETON Liveで、自身が制作したオリジナルのサンプル・パックやLive用のカスタムRackも販売している。彼が醸すサウンドを目指す人にとって、大いに参考になるだろう。

Michael Mayo 〜スキャットの歌い方が特徴的な次世代のジャズ・ボーカリスト

 マイケル・メイヨは、ロサンゼルス出身の気鋭のジャズ・ボーカリスト/コンポーザー。音楽一家に育ち、ハービー・ハンコックの直接指導を受けた経験を持つなど、確かな実力の持ち主だ。ボビー・マクファーリンから影響を受けた自由なスキャットや、多重録音によるハーモニーも彼の大きな特徴となっている。
 最新作『Fly』では、ジャズ・スタンダードを新しい視点でアレンジしつつ、ソウルやR&Bの要素も織り交ぜ、ジャンルの垣根を越えた音楽性が展開されている。柔らかなグルーヴや豊かなコード感には、ネオソウルのテイストも感じられ、聴くたびに新しい発見がある1枚だ。

DOMi & JD BECK 〜ネット時代に生まれた奇跡のZ世代ジャズ・デュオ

 DOMi & JD BECKは、Z世代を代表するジャズ・アーティストとして注目される、フランス出身のドミ・ルナ(k)と、アメリカ・テキサス出身のJD・ベック(ds)による2人組ユニットだ。ドミの解決しないコード進行、JD・ベックの超絶技巧なドラミングとの化学反応は、どれも今まで聴いたことも見たことのないものばかり。
 待望の1stアルバム『NOT TiGHT』では、タイトながらも絶妙に“溜め”の効いたJDのドラミングと、ドミによるウォームなシンセ・コードが絡み合い、独特な浮遊感やグルーヴを醸し出されている。その一方でプログレ由来の変拍子や複雑な展開も同時に重なり、ジャズ/R&B/ヒップホップ、そしてネオソウルの境界線を自在に行き来するような、ジャンルレスの音楽性が展開されている。アルバムには、ジルジャン(Zildjian)主催のライブで披露された楽曲『TWO SHRiMPS』のアルバムバージョンも収録されており、2人の実力の高さを堪能できる1枚となっている。 若さを武器に音楽シーンを刷新していく彼らの活躍に目が離せない。

Kiefer 〜モダンジャズとビート・メイキングの両方に造詣が深いキーボーディスト

 キーファーは、アメリカ・LAを拠点に活動するジャズピアニスト/ビートメイカー。硬派なジャズやフュージョンをルーツに持ち、トリオでのライブパフォーマンスを魅せながらも、J・ディラに強く影響を受け、ネオソウルで見られる浮遊感のあるコード進行とヨレたビートを特徴とするトラックを世に送り出し続けている。また日本のソウルバンドWONKとのコラボレーションを果たしたシングル『Fleeting Fantasy feat. Kiefer』も記憶に新しい。
 最新アルバム『It’s Ok, B U』では、彼のピアノ・プレイとビート・メイキングがさらに深化しており、キーファーらしい温かみのあるサウンドが詰まった1枚となっている。

Robert Glasper 〜ジャズとヒップホップをつないだグラミー受賞アーティスト

 これまで紹介してきた多くのアーティストが、ロバート・グラスパーの音楽に影響を受けたと語る。アメリカ・テキサス州出身の彼は、ジャズピアニストでありプロデューサーでもあり、ヒップホップ、ジャズ、ネオソウルといったさまざまなシーンを牽引するアメリカ・ブラックミュージック界の大御所だ。
 代表作『BLACK RADIO』は、R&B部門でグラミー賞を獲得し、その後リリースされた『BLACK RADIO Ⅲ』ではベーシスト/ボーカリストのエスペランザ・スポルディングなどの大物ジャズミュージシャンを多数フィーチャーし、界隈のさらなる拡張を実現させた1枚だ。

Ben Nobuto 〜現代音楽と音ネタの組み合わせが面白いコンポーザー

 ベン・ノブトは、イギリス・ケント州をベースとするコンポーザーだ。硬派でミニマルな現代音楽を主軸におきつつも、曲中にサンプリングした声ネタやビデオゲームの効果音を混ぜたり、サンプルのカットアップを多用したユニークなサウンドを特徴とする。
 彼の友人と共に制作されたアルバム『Furikake』は、日本人なら見覚えのあるジャケットとタイトルとは裏腹に、Moonchildに近いメロウなネオソウル・サウンドが展開される楽曲たちが集った1枚。またインターネットを通じて、さまざまなプレイヤーを迎えてセッションが繰り広げられる小作品集のBentoBeats(https://bennobuto.com/bentobeats)は、短いトラックながらもあっと言わせるものばかりなので、ぜひチェックしてみてほしい。

Varra 〜フュージョン系のトラックに変なCGアニメ?チリのマルチクリエイター

 チリを拠点に活動し、楽曲からMVまでを自ら手掛けるDIYスタイルのマルチインストゥルメンタリストだ。彼のYouTubeチャンネには、さまざまなゲーム音楽のプログレッシブなアレンジなどが投稿されており、インターネット文化やゲーム音楽、そしてプログレやフュージョンといったジャンルに精通しているのがわかる。
 彼の代表作のひとつが2017年にリリースされたフルアルバム『Varra』。ネオソウルにあるような解決しないコード進行や現行ジャズの空気感を吸い込んだ、彼流のトラックが堪能できる。

Anatole Muster 〜サブカル×ジャズの新ジャンルを確立しようとする若手アコーディオンプレイヤー

 アナトール・マスターは、後述のRadio Juicyのリリースにも多数フィーチャリングされ、若さを武器に斬新なサウンドと演奏テクニックでジャズ・シーンを驚かせ続けるスイス出身のアコーディオン・プレイヤー。シグネイチャーでもあるアコーディオンが奏でる楽しくて可愛げなソロは、一聴するだけほっこりしてしまう。
 待望のデビュー・アルバム『Wonderful Now』は、ハイパーポップなど近年のエレクトロニックも取り入れつつ、ルイス・コールなどの大物アーティストをフィーチャーした意欲作だ。

Radio Juicy(レーベル)〜ローファイ、ネオソウルの宝庫的レーベル

 Radio Juicyは、ジャズに精通した気鋭の若手トラック・メイカーが集まるレーベルだ。リリースされる楽曲の数々は、豊かなテンションを含んだコード進行や、柔らかく包み込むようなエレピやシンセの音色が特徴的で、耳にとろけるような心地よさを持つものばかり。
 直近のリリースのエルモとニコ・ハリスによるアルバム『Liquid Fusion』では、美しい打ち込みのオーケストレーションのトラックから始まり、ソフト音源を駆使したトラック制作の可能性を示しながらも、彼らの豊かなジャズのボキャブラリーを前面に押し出した1枚だ。

おわりに

 いかがだっただろうか。今回取り上げた15組は、必ずしもネオソウルに収まる存在ではない。けれど、ジャズやフュージョン、R&B、ヒップホップといった複数の言語を横断しながらも、コード感・ビート感・質感を“更新”していく姿勢には、確かな共通項があると感じられたのではないだろうか。それが”ネオ”的アティチュードーージャンルではなく、音を新しく組み替えるための態度そのものだと思う。
 彼らはジャンルの線引きよりも、自分たちの美意識をアップデートし、その結果として新しいテクスチャやグルーヴを手に入れている。そうした小さな更新の積み重ねが、いまのシーンを静かに押し広げていると感じるのだ。
  ここまで読んでくださった皆さんの音楽体験が、少しでも豊かになるきっかけになれば幸いです。

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