Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki
目次
sasakure.UKが考えるボカロPとボーカロイドの関係
僕が手に取った初音ミクは皆にとってイヴのようなものなんじゃないか
『初音ミク「マジカルミライ」』は、初音ミクたちバーチャル・シンガーの3DCGライブと、創作の楽しさを体感できる企画展を併催したイベント。
2022年には『初音ミク「マジカルミライ」10th Anniversary』でイベント10周年を迎え、そのテーマ・ソングをsasakure.UKが担当し「フューチャー・イヴ」という楽曲が作られた。
ー『初音ミク「マジカルミライ」10th Anniversary』のテーマ・ソングとして「フューチャー・イヴ」を手掛けられてますね。他のインタビューで“アダムの肋骨から生まれたイヴと同じように、人間から生み出されたボーカロイド” のイメージを語られていました。アダムとイヴは、神話の中で人類発展の祖じゃないですか。一方で、ボカロPとボーカロイドは、どんな関係で、どんなものを築いていくものだと感じられていますか?
sasakure.UK 何を築いていくのか……答えに悩みますが、やっぱり”作品なんだろうな”っていうのはかなり思いますね。自分の作品をどんどん広げていきたいですし、ボーカロイドの作品がどんどん増えてほしいなと思います。
“僕が手に取った初音ミクは、皆にとってのイヴのようなものでもあるんじゃないかな”みたいな。というか、皆にとってそうであってほしいと、僕が思っているんだと思います。
僕は初音ミクと“一体化した”
ーつまりボカロPとボーカロイドが目指すものは、作品数が増えて、ボカロ・シーンが発展していく……それを楽しむカルチャーの人口が広がりを見せることであり、そのためにボカロPとボーカロイドの関係性が色々なところで生まれて、作品が次々生み出され、それらが影響し合う未来にささくれさんは期待している?
sasakure.UK まさにその通りですね。初音ミクが与えてくれるのは、やはり自由だと思います。僕らの好きに考えていいわけです。アイドルとして推しても、シンセサイザーとして扱ってもいい。
ーささくれさんにとっては何なんでしょうか?
sasakure.UK う〜ん……ミクのことはすごい考え過ぎて、考え過ぎて、ちょっとよく分かんないことになってる感じがしますね(笑)。
多分、自分と“一体化”してるんだと思うんです。近くにいて、遠くにいて、触れられない存在って、もう自分じゃん!みたいな感覚。
ー一体化ってことは、ささくれさんと初音ミクとの間の境界線が、限りなく薄くなっているってことですよね。それはもう、相当、境地ですね(笑)。
sasakure.UK 僕と初音ミクは、音楽に対する意思で一体化してるんです(笑)。この思いをもうすべて表現したのが、「フューチャー・イヴ」です。
だから、初音ミクは自分の身体って言っても過言ではないです。この曲を作ったことで、色んなことを考えまくって、ちょっとおかしくなってると思います(笑)。
ー初音ミクも幾つかバージョンがあるじゃないですか。
sasakure.UK 初代のソフトウェア『VOCALOID2 初音ミク』と追加音源の『MIKU APPEND』、『初音ミク V3』、『初音ミク V4X』、『初音ミク NT』を今でも使い分けています。例えば「フューチャー・イヴ」では初代を軸に、過去の曲の要素に合わせて使うミクを選んでいます。もちろん単純に音の響きで選ぶこともあります。
あと最近はバンドのボーカルのmamiさんに歌ってもらったデータをボーカロイド風に調整して、初音ミクの調声のリファレンスにすることもあります。
ーそれは聴きやすさを目指して?
sasakure.UK 聴き取りやすさも目指していますし、子音の良い響かせ方を研究したいんですよね。でも曲とかシーンによって、子音を潰したいときもあったりします。プロセッシングもいろいろ試していきたいです。
未来もミクも自分の完全な理想にはならない
ー『初音ミク「マジカルミライ」』を通して10年の変化を教えていただきましたが、今から10年でもさまざまな変化がありそうですね。
sasakure.UK “100年後、200年後も残っていったらいいな”っていう思いがずっとありますね。初音ミクが生まれたソフトとして出た当初は、こんなに広がりがあるとは思ってなかったんですよ。だから当初僕が作った曲は、等身大の初音ミクの設定に合わせた曲で。
ーどちらかというと、部屋っぽいですよね。
sasakure.UK その通りなんですよ。だから、<おねがい ゆめ みさせてクダサイ ちいさな ちいさな ゆめを>って歌詞。あの「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」も部屋の中で完結する。今や初音ミクは広がり過ぎて、宇宙を見てるみたいな感覚になってますけど。
ーミクイベントの与えた影響もあるかもしれないですね。大勢の群衆の前にミクが立つっていう文化が浸透し、ボカロPがミクとともにそれを体験して、曲のスケールも広がった。
sasakure.UK それもあるかもしれないですね。
ー次は宇宙……(笑)。
sasakure.UK 宇宙、行きたい(笑)。
ーささくれさんの描くボカロ・シーンの未来は、ミクと……。
sasakure.UK 宇宙に行くしかないですね。でもそのころは、ミクはもっと遠くにいそうな気がする。だから、「フューチャー・イヴ」の最後で……あの宇宙飛行士は”僕ら”なんですよ。宇宙飛行士がミクと会って、ミクはちょっと触れたと思ったら、すぐいなくなっちゃうみたいな……僕は死ぬ間際の夢を見てるんだ、みたいな感じの未来になるんだろうな。
ーもうプロットまでできちゃってるんですね。
sasakure.UK そういう感じの曲ですよねっていう(笑)。今年の7月に
『未来イヴ』っていうアルバムを出したんですけど、これは10年前に出したアルバム『トンデモ未来空奏図』と繋がりがあります。
やっぱり10年経つと、世の中は少し表情を変えるというか。振る舞いも、トレンドも、音も、服装も、社会も、考え方も、テクノロジーも変わる。変わったときに、“やっぱりあのとき思っていた未来とは違うんだよな”みたいなことを考えながら作ってて。“今後また10年経ったときに、この思いはまた大きく変わってくるんじゃないかな”って。
ーだから「面白い」とも「苦しい」とも言える話ですね。
sasakure.UK 10年経って思ってた未来と違っても、その違う未来を、ミクちゃんを含めてどう受け取るかですよね。ミクの佇まいもまたちょっと変わると思うんですね。自分の、“こうなって欲しい”未来とは、またちょっと違うかもしれない。未来もミクも、自分の完全な理想にはならない。
ーミクと一体化することもあるし、完全な理想にはならないと考えることもあると。これは完全に苦悩ですね……。
sasakure.UK それもちゃんと受け入れるし、それでも全然いいんですよ。でも、受け入れる片隅で、自分はこういうミクがいいなというのをずっと表現していけたらいいかなって思います。
ー初音ミクは皆にとってのイヴ的な存在だからですね。
sasakure.UK そうですね。皆にも、そうあってほしいし。自分も変わらずに曲を書き続けていきます。だから“その音を受け取ってほしい”し、“大切にしてもらえたら嬉しい”です。
「初音ミク Happy 16th Birthday –Dear Creators-」とは
「初音ミク Happy 16th Birthday –Dear Creators-」は、2007年8月31日に設定年齢16歳の歌声合成ソフトウェアとして誕生した『初音ミク』が、発売されてから16年を経たことを記念に始動したプロジェクト。
作品を創り/楽しみ/愛してくれるすべてのクリエイターと一緒に、創作文化の未来を育んでいけるような企画を実施するという。
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