Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki
目次
初音ミクと出会う前/後の“歌”
初音ミクを機に言語表現を取り戻した
ー他のインタビューでささくれさんは高校時代に合唱部にいらっしゃったと知りました。
sasakure.UK そうですね。大会も行ったりするような合唱部に入っていました。
ー自らが歌うという経験を経て、ささくれさん自身歌うことについては?
sasakure.UK 元々、好きでした。僕トップ・テナーで一番高いパートにいたんで、たまに声死にそうになるんですけど(笑)。でも、歌っていいなと思ったのは、言葉の解像度が高くなることです。言葉に対する理解が深くなるっていうか。
ー先ほど話していた“言葉への感情の乗せ方”も大事な歌の要素ですね。
sasakure.UK それも学びましたね。たとえば、空って1つの単語でも、「そら」、「ソラ」、「Sky」って書くのとでまた違う。僕自身が合唱で作品と向き合うことで、“この人はどういう思いで、この空を作ったのか?”みたいなことを考えられるようになりました。すごく厳しい先生だったからよく細かな注意をされて(笑)。<ピストルをぶっ放す>という歌詞があるとき、「これじゃ水鉄砲だよ」みたいなことを言われたり。
ー表現力に関する指導みたいなところが勉強になった?
sasakure.UK 僕は元々理系だったんで、合唱で文章とか、ストーリーとか、言葉と初めてきちんと向かい合いましたね。
ーでも、ある意味1度、ささくれさんはサウンド・クリエイターを目指すときに、歌の言葉を捨てた表現でやっていこうとするわけじゃないですか。それを初音ミクによって、ちょっと取り戻した部分も?
sasakure.UK そこまで、あんまり考えてなかったんですけど、取り戻したってことかもしれないですね(笑)。
合唱曲はそれだけじゃなく、現在までの作曲のリファレンスにもなっていると思います。例えば三善晃さんの作った、男声合唱とピアノ(四手)のための「遊星ひとつ」って曲集の中に「バトンタッチのうた」があって、これがすごく好きでした。変拍子で、ラップっぽいんですよね。
ー三善晃さんは、特に合唱をやる人たちにはよく知られている大御所の作曲家ですね。
sasakure.UK 三善晃さんの曲に、高校のころに出会えてよかったなって思います。「バトンタッチのうた」は、急に半拍で入る部分があったり、変拍子なんですよね。これを覚えさせられて、“プログレッシブ、面白いな”みたいになりました。
それがあって“こういう曲を作りたいし、書きたいな”っていうことをずっと思ってたんです。途中からピアノが入っていって、この曲段々ポップになっていくんです。そして一番聴かせたいサビのようなところでは、4拍子になる。バトンを渡そうとする競争者が“バトンを渡すやつが、そもそもいないのか?”って迷い、そこから悟り、サビで解決するみたいな。そういう展開をする曲でとても良いんです。
ー現代音楽の合唱曲でよく見られる表現として、解決するタイミングまで複雑なメロディやリズムでまるで暗闇みたいなところを走らせるみたいな部分ありますよね。やっと主題が出てくるときは突然穏やかっていう。
sasakure.UK そうなんですよ! 穏やかなところまで不協和音で鳴ってたのが、急にメジャーになって解決するみたいな。で、大団円になって終わる。
ーちゃんと主題に戻る安心感はクラシックだけでなくポップスならではですよね。
sasakure.UK ですね。こういうのを聴いて“合唱いいな”って、合唱沼にハマり(笑)。三善晃さん、木下牧子さんとかの合唱曲や、こういう変拍子の曲で、音楽的な知識を深めていきました。
ー合唱曲で作曲と作詞を学んで、それらを初音ミクを使用した楽曲作りに生かしてきたわけですよね。
sasakure.UK そうですね。“初音ミクで曲を、歌詞を書くぞ”ってなったときに、自分が歌っていたときのことを思い出して。
僕はボーカロイド、初音ミクに出会うまで、自分が歌詞を書けるなんて思ってなかったんです。本格的に書くようになったのは、ミクちゃんを手に入れてからです。
初音ミクの誕生は新しいものが生まれる転換期だった
ー初音ミクのコンセプトは、“未来からやってくる初めての音”ですけど、そういったキャラクターのコンセプトがインスピレーションに?
sasakure.UK ボーカロイド・キャラクターのビジュアルとかもあると思いますね。サウンドについては、感情を入れるも入れないも作り手次第というか。初音ミク自体はフラットだからこそ、皆がいろんなジャンルの曲を歌わせて。かなり攻撃的な曲もあれば、他人を優しく包み込む歌もある。
ーささくれさんは、優しい曲とともにシリアスな曲も作りますよね。
sasakure.UK 時に風刺的というか、訴えかけるような曲を作ったりもします。
―ボーカロイドで表現できるものを追求して確立された世界観が、世の中で話題になっていくと、“人間が歌い始める”って現象も起こるわけじゃないですか。作者として、どんな気持ちに?
sasakure.UK 最初は、すごい新鮮だったんですよね。嬉しかったです。僕の曲を大切にしてくれてると嬉しくて、僕も楽しく観させてもらっています。
自分の曲をほかの人が演奏したり、アレンジしたり、リミックス、そして歌う。あとリハモナイズとか、台詞を入れる方まで、幅広い表現がありますよね。
ー印象的だった歌ってみたはありましたか?
sasakure.UK 「ぼくらの16bit戦争」をカバーしてくれた人が台詞を入れてくれたんです。それが世界観にすごいマッチしてて“こういう表現もあるのか!”と思った記憶があります。
ーささくれさんは楽曲をリリースすると、オフボーカル音源などを配布しているじゃないですか。それは二次創作がOKだからだと思うのですが、ボカロシーンはそういった二次創作に対するオープンなマインドのおかげで発展してきた部分も大きいですよね。
sasakure.UK そうですね。皆がどんどん新しい解釈を入れてくれるっていうのは面白いですしね。曲の別の角度から、その曲をまた感じさせてくれる要素があるのが良いなと思っています。だから、僕は二次創作についてはすごく歓迎です。
ニコニコ動画(以下、ニコニコ)は、カバーに対して明るいじゃないですか。全然踊ってもいいし、歌ってもいいしみたいな。
あと以前「ニジイロ*アドベンチュア」が出たときに、はやぶさって衛星の要素を取り入れた「ハヤブサ*アドベンチュア」という二次創作があったんです。僕はそれではやぶさの存在を知ったんですけど、遠くに行って、本当の新しいことを知って帰ってくるみたいな話が、ちょうど衛生のはやぶさの背景(遠くの星に行って、惑星に行って、その土を持って帰ってくる)とすごいマッチしてて。“こういう解釈もあるんだな”って、1人で感動してました(笑)。
ーそういう二次創作の可能性を広げてくれる存在がボカロでもある?
sasakure.UK やっぱり、ボーカロイドがフラットなものだから……皆アレンジしやすいんでしょうね。感情を入れてもいいし、ボーカロイドのように歌ってもいいし。
ー本来は音楽家が“音楽的に人間的じゃないものに挑戦できる”=初音ミクなどボカロを使った音楽のアプローチだったのに、ボカロによる歌唱に人間が挑戦する=歌ってみたっていうアプローチが流行して、ボカロシーンが発展していったのは面白いですよね。
sasakure.UK 面白いですね。自分が作った世界に解釈が加わって創作物ができることは、単純に“面白いな”と思っています。初音ミクが誕生したことも、ボカロ曲特有の世界が作られていったことも、歌ってみたなどの二次創作が出てきたことも、“新しいものが生まれる転換期だったんじゃないかな”って、振り返ると思えますね。
「初音ミク Happy 16th Birthday –Dear Creators-」とは
「初音ミク Happy 16th Birthday –Dear Creators-」は、2007年8月31日に設定年齢16歳の歌声合成ソフトウェアとして誕生した『初音ミク』が、発売されてから16年を経たことを記念に始動したプロジェクト。
作品を創り/楽しみ/愛してくれるすべてのクリエイターと一緒に、創作文化の未来を育んでいけるような企画を実施するという。
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