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Interview:鹿野水月(plug+)

YAMAHA VOCALOIDが発売されて20周年を迎えた2024年。ボカロ・カルチャーはどのように変化して、彼らの仕事道具=VOCALOIDソフトはどのように進化してきたのか。今をときめくボカロPたちに話を聞いていく。

 

ボーカロイド20周年記念サイト:https://www.vocaloid.com/anniversary/

cosMo@暴走P インタビュー/ボーカロイド20周年記念

cosMo@暴走P プロフィール&コメント

【Profile】ゲーム音楽、キャラクター・ソング、VOCALOIDなどの音楽を制作する作曲家/サウンド・クリエイター。代表作は「初音ミクの消失」、「星ノ少女ト幻奏楽土」、「For UltraPlayers」。

 20周年のうちの17年っていう、ボカロとは非常に長い付き合いになってます。このVOCALOIDが作ってくれた創作の土壌っていうのは非常に素晴らしいものなので、もう20周年とは言わず、30年、40年と、この創作の良い環境が続いてくれればなと。それで、VOCALOIDっていうツールも、引き続きシーンに貢献してくれたらうれしいなと思います。

cosMo@暴走P初投稿「電脳スキル」×初音ミク V3

ーcosMo@暴走Pさんの初投稿は、2007年初音ミクが発売された約一カ月後の「電脳スキル」ですよね。その前からDTMをなさっていましたか?

cosMo@暴走P そうですね。初音ミクを購入する前からインストを作ってたので、1年未満ではありますがDTMをしていました。音楽を始めたときは、自分はそんなに歌も上手くないし、ボーカリストとのツテもなかったのでインストを作っていたような感じです。

ー初音ミクを購入する前後で、DTMへのモチベーションは変化しましたか?

cosMo@暴走P 歌モノを作れるというので、DTMへのモチベーションが一気に変わりましたね。完全にもう歌モノを作ろうの空気になったので、こんなにちゃんと歌になってくれるソフトが出たということに感動していました。

ー初音ミクとVOCALOID2を買ったきっかけは?

cosMo@暴走P 大学の先輩がニコニコ動画をよく観てる人で、“cosMo君、音楽作るんだったら、今、初音ミクっていうのがあるらしいんだけど……”みたいなのを言ってくれて、“そんなのがあるんですね”って言って調べたのを覚えています。そうしたら既にインストとかを作っていたので知っていたOSTER projectさんの「恋スルVOC@LOID」を聴いて“すごい!”ってなったのを覚えています。

ー初めて初音ミクに触った印象は?

cosMo@暴走P とにかく、楽しかったですよ。パッと思いついたメロディをすぐに打ち込んで、歌にできるなんて便利ですよね。ちょっとピッチが追い付かないとか初期らしい特有の問題はありました。でもVOCALOID1時代よりかはマシだったのではないでしょうか。最初なので僕の技術もないので、初投稿の「電脳スキル」とかのミクさんはすごい音痴なんですけど、僕の技術も向上して、段々歌が上手くなっていったって感じでしたね。

ーcosMo@暴走Pさんは投稿し始めてすぐ聴かれる機会が多かったのでは?

cosMo@暴走P そうですね、二作目の「初音ミクの暴走」が自分のP名にもなってるような代表曲なので、投稿して一カ月もしないうちに自分の代表曲ができたのはありがたいことでした。インストを作ってるときとは比べものにならないほど、手応えがあったと覚えています。

ー17年間、音楽スタイルに一貫性がありますよね。

cosMo@暴走P 好きだからでしょうね。そう言っていただくことが多いなとも思います。僕、もともと音楽ゲームをやっていて、ゲーム用に作られたアップ・テンポであったり、音数の密度の高い曲がすごい好きでそれしか作りたくないくらいの気持ちで曲作りしていますね。

ー学生時代はどういう音楽を好んで聴いていましたか?

cosMo@暴走P 中学生、高校生のころは、音楽ゲームのサウンド・トラックのCDを買ってよく聴いていました。特に『GuitarFreaks & DrumMania』っていうギターを演奏したり、ドラムを叩いたりできる音楽ゲームがゲームセンターに置いてあったんです。そのサントラを全シリーズ集めていました。

ーマニアですね。cosMo@暴走Pさんのハードロックなアレンジが好きだったのですが、それは『GuitarFreaks & DrumMania』で培ったもの?

cosMo@暴走P そうですね。僕はGuitarFreaksはできるけど、ギターは弾けないっていう……ドラムのフィル・パターンとか、打ち込み方もDrumManiaから学びました(笑)。

ーツーバスの踏み方などもDrumManiaで?

cosMo@暴走P  DrumManiaで得た体感で打ち込んでますね。実際にドラムを叩いたことはないです。一応、ピアノは弾いていたので、本物の楽器を触った経験はあるんですけど。

ーゲーム音楽の音楽家に憧れていて、音楽活動を始めたのですね。

cosMo@暴走P そうなんですが、ただ、別にプロになろうとかは全然思ってなかったです。音ゲーを出自とする音楽家って珍しいと思って、音楽的にも音ゲーっぽさと初音ミクが合体したら、すごいものが生まれるんじゃないか?って考えたんです。ただ、実際蓋開けてみたら結構居ましたよね。

ーボカロPだとsasakure.UKさんとかですよね。

cosMo@暴走P そうなんですよ。ただ当時は知らずに活動していました。音楽ゲームって難易度が上がると音が超人的な感じになるんですけど、その難易度が上がる感じをボーカル・パートで、ボーカロイドを使って表現してみたかったんですよね。人間のボーカリストだと叶わない高密度な歌メロはそういった経緯で作っていました。ただ、実際に作り始めて、歌詞の量が通常の3倍っていうとんでもないことに。

ー幾ら超人的とは言え、歌モノですから歌詞は重要な要素ですもんね。

cosMo@暴走P そう、だから初期はすごい困って。作詞の作法も分からないから、初音ミクのバックボーンを勝手に考えて歌詞にしていました。

cosMo@暴走Pが刺激を受けたボカロP=ryo

ーcosMo@暴走PさんがボカロPとして活動し始めたときに刺激を受けたボカロPの方はいらっしゃいますか?

cosMo@暴走P supercellのryoさんですね。歌を聴くと“ミクさんがここにいるんだ”って実在性みたいなのが感じられます。可愛い女の子をちゃんと解像度高く描いてらっしゃるので、本当にこういう16歳のアイドルがいてもおかしくないなと思えるんです。あとはハチさんのこともとても好きです。

ー初音ミクというキャラクターの魅力を歌詞で引き出すのが上手なボカロPに心引かれていた?

cosMo@暴走P 何を聴いても、すげえ良い!ってなるタイプではあるのですが、僕は音ゲーのインストばっかり聴いてきたので、ポップスっていうのをよく分かってなかったんです。ハチさんとryoさんの音楽を聴いて、“これがたくさんの人の心を動かす曲か!”って気付きがあって、そこから自分もそういう曲を作ってみたいなとも思うようになりました。

ーそういった気付きを経て、ボーカロイドを使う際に気を付けるようになったことはありますか?

cosMo@暴走P とにかく速いっていう自分のスタイルは生かしつつ、ボカロを立てるみたいな作風にはシフトしましたね。

ー曲ごとに暴走度合いが違うと思いますが、これはどういう気分の違いですか?

cosMo@暴走P やっぱりこの速い作風ってカロリーが高いんです。常に自分との格闘で、もう一人の自分が、“お前は何で速い曲を作るんだ?この内容で速くする意味あるか?普通のテンポで良くないか?”って問いかけてくる……(笑)。その“何で速い曲を作るの?”っていう要請に答えられない場合は作れなかったり、テンポが落ちてしまうんです。

ーつまり、速ければ速いほどcosMo@暴走Pさんの調子が良いってことですか。

cosMo@暴走P ぶっ飛んだ世界観の歌詞が書けている感じですね。速さを求めてしまうのは、自分のテンションがすごい上がるからです。

cosMo@暴走Pに聞くボーカロイドの調声

ーcosMo@暴走Pさんがお持ちのボイス・バンクについて教えてください。

cosMo@暴走P 初音ミク V4Xと、鏡音リン・レンV4Xと、巡音ルカV4Xと、Megpoid V4、音街ウナV4、結月ゆかり 純、IAですね。最近は音街ウナの頻度が高まっているなと思います。

ー音街ウナがお気に入りの理由は?

cosMo@暴走P パンチが効いているからですね。自分のめちゃくちゃ速い曲に合ってて、速く歌わせても聴き取りやすいんです。充実したセリフのWAVファイル集も便利だなと思います。

ーそれで言うと、初音ミクでアタック出すのって難しくないですか?

cosMo@暴走P 本当に難しいですよね。ボーカルをデカめにして、EQで邪魔な低音を削り、コンプレッサーとかのアタックを鋭くするエフェクトをガンガン盛り、ディストーションで若干歪ませた後に、もう一回歪ませて、コンプでアタックを立てて、EQで耳障りな高音とかもちょっとカットするという工程です。

ーエンハンサーも使ってないですか?

cosMo@暴走P エンハンサーは昔ちょっと使ってましたけど、今はそんなに使ってないですね。エンハンサーは高音が強調されすぎて、耳が痛いなって思うときがあったので。高音がキツいと、聴いてて不快になるんですよ。

「ヤミナベ!!!!」〜さまざまなタイプの初音ミクをミックス

ー「ヤミナベ!!!!」はさまざまな速さで、さまざまな初音ミクを堪能できる楽曲ですよね。これはどういったことから考えて制作しましたか?

cosMo@暴走P ガチガチに音ゲーっぽい曲に仕上げようっていうコンセプトで生まれた曲ですね。ヤミナベっていうテーマなのでさまざまな声があった方がいいだろうということで、激しいところは重め、可愛い曲調のところは本当に可愛い、それらを料理のようにバランスを見ながらミックスして作りました。あの時点で、既にいろんなタイプのミクさんの声を作ってきたので、それを思い出しながら適宜調整しています。

ー太い感じのオペラっぽいニュアンスとかも入っていましたよね。

cosMo@暴走P オペラみたいな声もあれば、ヘリウムを吸ったみたいな声もあればっていう、そういう緩急を付けていますね。最初に登場する初音ミクが、僕が普段からデフォルトで使ってる声質で、ジェンダー・ファクター-10くらいなんですよ。低めにして使うとパキッとして、ハキハキ歌ってくれるんです。オペラ・パートはがっつりジェンダー・ファクターを上げています。

「ヤミナベ!!!!」14秒までの初音ミクは、LEVEL:☆☆☆★★、TYPE:Yaminabe、VOCAL:Medium。調声は、clearness:0(デフォルト)、bright:64(デフォルト)、gender:48にセッティング。

Clearnessはデフォルトの0
Brightはデフォルトの64
Gender Factorは48

「ヤミナベ!!!!」35秒付近の初音ミクは、LEVEL:☆☆★★★、TYPE:Myth、VOCAL:Heavy。調声は、clearness:0(デフォルト)、bright:64(デフォルト)、gender:116にセッティング。

Clearnessはデフォルトの0
Brightはデフォルトの64
Gender Factorは116

「ヤミナベ!!!!」40秒付近の初音ミクは、LEVEL:☆☆☆★★、TYPE:Gothie、VOCAL:Very Light。調声は、clearness:0(デフォルト)、bright:64(デフォルト)、gender:20にセッティング。

Clearnessはデフォルトの0
Brightはデフォルトの64
Gender Factorは20

※cosMo@暴走Pさんはエディター下部の数値(0~127)で調整

ー音数の多い中で埋もれない声にするために、アタック感はどのように調整していますか?

cosMo@暴走P  DAW上でプラグイン・エフェクトを使ってますね。マルチバンド・コンプレッサーとかで上げています。

ーオクターブやダブルを重ねると、存在感は上がっても少し発音自体はぼやけてしまうこともあると思うんですが、そういったときはどのようにしていますか?

cosMo@暴走P そういうときはメインのボーカルの歌詞を変更して、発音自体を根本的に変えてしまうことも多いですね。歌詞上の“バビブベボ”にインパクトが足りないなってなったら、“パピプペポ”とかに変えたりとかしますね。

ーオペラのように歌うところと、ヘヴィな早口のところでの響きにかなり違いがあると思います。エフェクトの使い分けは?

cosMo@暴走P 声質を作ること自体はジェンダー・ファクターをメインに、ベロシティとピッチベンドを操作します。もうちょっとハスキーな声を作りたいときとかではブレスを使っていますね。ヘヴィなところはがっつりギター用の歪みエフェクトを入れて、オペラのところにはXFER RECORDS OTTを挿しておけば何とかなると思ってましたね。

言葉の端切れをよくする▶︎ベロシティ操作

ーベロシティはどのように使っていますか?

cosMo@暴走P ボカロ・エディターの性質上、間隔をちょっと空けただけだと、絶妙に休符にならなくて、勝手につながっちゃうときとかがあるので、そういったことを防ぐために使います。早口の歌を作る人には必須というか。

 あとは小さい“っ”を挟みたいときとかに使いますね。“行った”っていう歌詞を打ち込みたいときに、まず、“いた”って、ベタで全部つなげて打った後、その“た”の方のベロシティを調整することによってちょっと小さい“っ”が挟まる効果があるんです。スタッカート気味に歌ってほしいときとか、前の発声した音とつなげずに、歯切れ良く離したいときにも下げています。

ベロシティを調整することで、音節ごとの距離が操作されている

歌のグルーヴ感に作用する▶︎オープン

ーほかに早口の歌唱を歯切れ良く響かせるためのパラメーターはありますか?

cosMo@暴走P 口の開閉に関するオープンってパラメーターも使います。デフォルトでMAXになってて、下げるとちょっと口を閉じたようなモゴモゴしたニュアンスになるんですね。そうすると、発声も若干遅れたように聴こえる。この効果を生かして、単調だった16分の連打に早口のバラつきを作って、グルーヴ感みたいなものを生み出しています。これ、勝手に僕が思ってるだけなんで、オカルトになっちゃう可能性もあるんですけど(笑)。

オープンのパラメーター。“う”や“お”のような口をすぼめる音以外も下げられている

ーピッチ修正についてはどのようにしていますか?

cosMo@暴走P 早口の歌なので、もうがっつりとピッチを矯正して声質が変わっても問題ないのでピッチ・スナップ・モードを使っています。もう僕の曲くらいの速さになると、ケロってても(ケロケロボイス過ぎても)気にならないんですよね。

ピッチ・スナップ・モードをオン
ピッチ・スナップ・モードをオフ

cosMo@暴走PによるVOCALOID 6レビュー

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ボーカロイドとは?ボカロ・カルチャー解説からVOCALOIDの使い方まで。講師:かごめP

ボカロPのかごめPに、ボーカロイドのカルチャーVOCALOID 6の使い方について簡単に教えてもらおう!

BREATHはRarely、Sometimes、Oftenから選択可能

ーVOCALOID 6を使用してみて特に心打たれた機能は何ですか?

cosMo@暴走P ブレスを自動的に付加してくれるんですよね。これ、オン/オフできるのもとても便利。今までWAVを切り貼りして入れてたので、今度からは手間が省けますね。しかも、男性と女性のブレスも選べて、頻度がRarely、Sometimes、Oftenの三段階から選べるんですよ。非常に便利だなと思いました。

ーcosMo@暴走Pさんは楽曲でブレスをそこまで入れている印象は無かったのですが、いかがでしょうか?

cosMo@暴走P 僕は歌い出し以外、ノンブレス・スタイルなので(笑)、僕目線というよりは一般のボカロPにとってはありがたいだろうなって。個人的にすごい良いなと思ったのは、インスペクター>スタイル・プリセットで、リバーブだったり、ディストーションだったり、これまでDAW上でかけていたようなエフェクトをVOCALOID 6上で使える機能ですね。

 スタイル・プリセットの中は、TYPEとCOLORとSTYLE PRESETっていう三つの構造になっています。エフェクトをオフにしたいときは、スタイル・プリセットの中のスタイル・プリセットのNo Effectを適用します。

ーVOCALOID 6は、この中のみで調声を完結できそうなほど多機能なのが魅力ですよね。

cosMo@暴走P これから始める人、初心者の方は追加のエフェクトを購入せずとも調声できそうですよね。このほかにも、ノートを右クリックしたときに、インスペクターが出るので、ここでアタックとリリースのプリセットを選んでちょっと語尾を下げたりといった音を作ることができます。エンカっていうプリセット本当にそれっぽくなって面白かったです。

ーVOCALOID6でアップデートされた部分は、どのようにcosMo@暴走Pさんの楽曲とマッチすると思いますか?

cosMo@暴走P 調声しがいのあるポップスの歌に便利な機能がさまざまに用意されているので、早口の部分は早口でやったあと、ちゃんとサビとかは普通にリアルに歌ってくれるようなメリハリのある曲を作るときにすごく機能すると思います。手間も省けるので、今後も使っていきたいなと思ってます。

ー最後に、ボカロPを目指してる人へ、応援メッセージをいただけますか?

cosMo@暴走P 最高の音楽が作れるよう応援しています!

VOCALOID6 for Windows / macOS

■価格:27,500円(税込)
■同梱ボイスバンク:16ボイス(VOCALOID6用ボイス・バンク:AKITO、ALLEN、ASAHI、HARUKA、LUCAS、MICHELLE、SAKURA、SHION、ASAHI、TAKU、YUINA、NAOKI)(VOCALOID5用ボイス・バンク:Amy、Chris、 Kaori、Ken)
※VOCALOID3、VOCALOID4、VOCALOID5のボイス・バンク及び、作成したプロジェクト・ファイル(VSQX、VPR)も読み込み可能
■対応OS:Windows10、11 (64ビット版)、macOS 13(Ventura)、14(Sonoma)、15(Sequoia)
その他詳細は、https://www.vocaloid.com/vocaloid6/specs/

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