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Interview:鹿野水月(plug+)

ヤマハVOCALOIDが発売されて20周年を迎えた2024年。ボカロ・カルチャーはどのように変化して、彼らの仕事道具=VOCALOIDソフトはどのように進化してきたのか。今をときめくボカロPたちに話を聞いていく。

 

ボーカロイド20周年記念サイト:https://www.vocaloid.com/anniversary/

サツキ インタビュー/ボーカロイド20周年記念

サツキ プロフィール&コメント

【Profile】2019年5月に「ニルヴァーナ」を投稿し、ボカロPデビュー。今年YouTubeで再生数1億回突破し、話題を集めている。

 本当に僕はVOCALOIDにいろんなものを与えてもらっています。コンテンツの移り変わりの激しい現代で、まだまだ勢いを保ったまま20周年という長い節目を迎えられたということはすごいことだなと思うし、一時の流行りから文化になった証拠なのかなと思います。この先も、30年、40年、ずっとVOCALOIDがさらに隆盛してくれることを祈りながら、僕も内側から支えていきたいです。

サツキ 初投稿「ニルヴァーナ」×v_flower

ー初投稿が5年前ですよね。

サツキ 2019年の5月24日とかだった気がします。初めて作った曲を、そのままポンって出したって感じですね。DTM歴とVOCALOID歴が同じで、これまでバンドとかも何もやってなくて、リコーダーとか、鍵盤ハーモニカくらいしか弾けない状態でのスタートでした。

ー初投稿曲へのリスナーの反応は、どのような感じでしたか?

サツキ 当たり前ですけど、全然再生されなくて。でも、初投稿からめっちゃクオリティ高くて人気になることを目指さずに、コツコツやってこうと思ってました。すぐに人気になりたくて始めたわけじゃないしなと思って。

ーなぜv_flowerを購入しましたか?

サツキ flowerと一緒に初音ミク V4Xも買ってたんですけど、使い分け方が分からず、flowerがパワフルな声なのでサビのインパクトとか、力強さみたいなのをライブラリーの歌声そのものに手助けしてもらおうかっていう感じで選んでいた感じですね。

ーいつ購入なさったんですか?

サツキ 2019年が大学1年生のとき、バイトを始めてお金を工面できるようになったんで、4月からもうずっとバイトしながら、オケの方だけ打ち込んでおいて、初めての給料が振り込まれたってなって、すぐVOCALOID5を買いましたね。5月の中旬くらいかな?

ーサツキさんはどういった経緯で、ボカロPデビューしようと思いましたか?

サツキ 2010年、10歳のときとかから僕はボカロ曲をずっと聴いていて、ボカロ以外ほとんど聴いてないくらいの状況で。聴いていくうちに、“自分もやってみたい”って欲求がどんどん高まっていきました。

サツキが刺激を受けたボカロ曲トーマ「バビロン」

ーボカロ曲を聴き始めたきっかけは何でしたか?

サツキ 『うごくメモ帳』っていうニンテンドーDSのソフトでひなた春花さんの「ナゾカケ」、「ナゾトキ」を聴いて、“歌ってるの人間じゃないよな” って思いながら調べていくと、VOCALOIDっていうのがあって、それがニコニコ動画っていうところで主に聴けるっていうことが分かりました。その当時だと、やっぱりトーマさんとか、悪ノPさんの七つの大罪シリーズとかも、小説を買うくらいずっと追ってたりしてっていう感じですね。kemuさんとか、じんさんにも憧れがありました。でもその2013~2014年くらいに今名前を挙げた方々の活動がそれぞれの理由でちょっとストップしたりして、一気にごそっと聴けなくなって。

ー自分の好きだったものを自分で取り戻すみたいなモチベーションでボカロPに?

サツキ そうかもしれないですね。それこそ、2014~2016年とか、ボカロ・シーンの曲の傾向とかも変わってきてたんで、自分の好きな曲は自分で作らなきゃみたいなのになっていったのだと思います。

ートーマさんをリスペクトなさっているのですね。

サツキ 僕が一番好きなボカロPです。当時、自分の聴く音楽といえば親が車で流していたり、テレビから聴こえるJ-POPぐらいなものだったので、トーマさんの独特のセンスから出る言葉、1文章とかが、それらとは違うように聴こえてすごい魅力だなと思いました。「バビロン」のようにポップスの型にはまらない展開というか、拍子も変わるし、速度とかも変化していくのが面白かった。自分の中で、音楽の定義みたいなのが広がった気がしました。

楽器初心者のサツキがすぐボカロックを作れた理由

ー楽器を弾けないとは思えないようなギター・アレンジで初投稿しているが、どのようにしてあのクオリティに持っていったのですか?

サツキ 曲を聴いてる中で、普通にジャカジャカ鳴らすギター、当時は名前を知らなかったミュートのズンズンって鳴るギター、チャカチャカしたカッティングなど、耳で聴いた情報を具体的にどういう奏法であるのか調べて見よう見まねでプラグインで鳴らしてみようという感じでしたね。

ー初投稿から楽曲制作をしていって、手応えを感じていったのはいつでしたか?

サツキ 「偶像じゃない」っていう曲で、一度何かを掴んだ感覚はありました。次は去年くらいに「後遺症、備忘録、時限爆弾。」という曲を出したんですけど、そこでまた自分のやりたいことみたいなのを見つけた気がしてっていう感じでした。

ーどういった発見があったのでしょうか?

サツキ 流行りの曲とはちょっと違うような曲調をやってみようっていうことで好き勝手書いた曲が「後遺症、備忘録、時限爆弾。」で、もともとEP収録限定の曲だったんですけど、運良く絵師さんが見つかって投稿することにしたら、一部のリスナーの方から評判が良くて。こんなに好き勝手にやって受け入れられるなら“もっとこうすれば伸びる”とか、“どういうことをしたら再生される”とかを気にせずにやってもいい段階に来てはいるのかな?って吹っ切れたんですよ。その後、去年は社会人になったのにモチベが高くて、13~14曲とか投稿していました。

ー「メズマライザー」は、空前絶後のヒットでしたよね。

サツキ そうでしたね。去年に、「CIRCUS PANIC!!!」っていう曲がプロジェクトセカイの楽曲公募で採用してもらったり、無色透名祭Ⅱで比較的二曲とも伸びていて、その後開催された1枚絵動画投稿祭でも入賞したりと聴かれるようになってきたんですよね。でも同じ時期くらいから段々周りの友人が自分よりも伸び始めてて、焦りもありました。そんな焦りがあるのならば、先述の「後遺症、備忘録、時限爆弾。」で掴んだ吹っ切れはあえて一旦落ち着かせるべきなのかなと思って、試しに自分なりに大衆にカチッとハマらせるようなポップスを作ってみようと思ったんです。

 誰にMVを依頼しようかなってなったときに、偶然、Twitterの相互フォローだったchannelさんにお声がけしたら、その後にchannelさんが出した「ラビットホール」の二次創作がバズって。もともとすごいフォロワーがいたんですけど、その3~4倍くらいに増えちゃって。下手なもん作れないぞと思いながらデモを作ったのを覚えています。

ーchannelさんのことも意識して曲作りを?

サツキ 展開が意味分からないグチャグチャしたダークな曲って、まずchannelさんの作風に合わないと思ったので、その真逆で、できるだけシンプルで明るい曲になるように気を付けました。

ー「メズマライザー」はあらゆるボカロ曲のセオリーを詰め込んだアレンジですよね。

サツキ そうだと思います。10年前とかのボカロ曲で自分が、こういうの良いなって思ったものを詰め込んで突き進んだ楽曲でした。自分が良いものを作りたいと思った結果、自分のしたいことを仕舞うことになり、代わりに僕の憧れの人たちの部分が出てきた感じだと思います。

ートーマさんとkemuさん?

サツキ 「メズマライザー」みたいな曲を作るときは、トーマさんとkemuさんが出てきているかもしれないですね。キャッチーなメロディや良い意味でのやかましさのあるアレンジをやっていこうっていう意識があったと思います。パッと思いついたときに口ずさめるメロディって、やっぱり強いのかなっていう。あとはミックスの工夫ですね。オケ作りでは高音域の方で鳴ってるけれどボーカルに被らないような周波数の音色を使ったりとか、あとは普通にボーカルと周波数が被ってるところをイコライザーで削ったりとか。あと、センターにあまり音を置かないとか注意します。結局できているかと言われると……ですが(笑)

サツキに聞くボーカロイドの調声

「メズマライザー」×初音ミク V4X

ーサツキさんがお持ちのボイス・バンクとエディターについて教えてください。

サツキ 初音ミク V4X、鏡音リン・レン、v flower、心華、歌愛ユキ、ゲキヤクV、カゼヒキVです。エディターはVOCALOID5と6を所持しています。

ー「メズマライザー」の初音ミクの調声にコンセプトを持っていますか?

サツキ 自分が“可愛いな”と思う調声にする、ということです。ちょっと幼めで、明るい高めな声が好きだったのですが、自分ではあまり個性はないと思っていたんですよ。でも無色透名祭で、“この声、サツキのミクじゃん”って言われたときに、ちゃんと個性あるんだと思いました。

ー初音ミク V4Xを使うときは、お気に入りのセッティングをいくつかの曲で共通で使うことが多いということですか?

サツキ 同じ傾向があるかもしれないですね。「メズマライザー」のCharacterはちょっと高めの15で、Brightnessが75とかでちょっと幼い感じになっています。ベロシティは使わないですが、Portament timingを90にしていて、これは下げると次の音への移り変わりが前のめりになってくる。Portament timingを上げると次の音への移り変わりが遅れるんです。

「メズマライザー」のCharacterは15に設定し幼いニュアンスに
「メズマライザー」Portament timingを90に設定

ーそんなに遅らせてしまっていいのですか?

サツキ 人間って次の言葉に、すぐに切り替えられるわけじゃないじゃないですか。僕も音が遅れて入っていくんですよ。僕の歌を歌うときの歌い方に近いニュアンスにして、あんまりビタビタにグリッドに合わせてベタ打ち感が出てしまうのを回避しています。

ー「メズマライザー」のように音数の多いトラックの中で歌の存在感はどのように上げていますか?

サツキ 僕の作るメロディって、Aメロ、Bメロからサビまでずっと高いメロディが続くので、高過ぎるだけだと声に厚みがないかなと思って、オクターブ下に声を重ねてます。コーラスも大体サビに入れることが多くて、広がりを持たせる目的では3度下と3度上にメロディを重ねることもあります。

ーその後DAW上でボーカロイドの魅力を最大限に引き出すためにはどのような操作をしていますか?

サツキ やっぱりボーカルの音に厚みを持たせるってことを意識して、エフェクトをかけたり、調声もしているなと思います。DAW側ではメイン・ボーカルにもWAVES Doublerをかけています。

ーWAVESのプラグインを使用することが多いですか?

サツキ 飛び道具的なプラグイン以外は、基本、WAVESでやってます。WAVESのプラグインとの互換性を考えて、最近DAWをABLETON Liveに変更したくらいですね。例えばこのLinear Phase EQをかけた後に、コンプレッサーのRenaissance Compressor、OTTをAmount40%と少し多めにかけて、声をはっきりとさせています。ここからは味付けで、WAVES Scheps 73やCLA Vocalsで倍音を足して、Vitaminっていうエキサイターで色を付けて、Vocal Riderでオートメーションを設定し、煌びやかな雰囲気を目指していくようなミックスです。

サツキがボーカロイドに使用しているWAVESプラグイン。Linear Phase EQ、コンプレッサーのRenaissance Compressorなど

サツキによるVOCALOID 6レビュー

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ーVOCALOID 6を使い始めているとのことですが、いかがですか?

サツキ パラメーターの設定をもっと追い込めるのが魅力ですね。ゲキヤクV/カゼヒキV スターターパックを購入して、VOCALOID 5から6に乗り換えました。僕が一番助かるって思ったのが、エディター上でピッチ・カーブを簡単に動かせるようになったことです。これまでだと ピッチ・ベンドのパラメーターの編集画面を呼び出してコントロールするといった操作でしたが、ピッチ・ツールを選択してノートの上にマウスを置けばすぐに操作できるというシンプルさが良いです。

VOCALOID 6はダイナミックなど各種パラメーターをノート内の前方と後方などに分けて細かく設定ができる

ーより直感的な操作ができるようになった感じでしょうか?

サツキ そうですね。ビブラートなんかは特に、開始位置というのを設定できるので、自分でかけたいビブラートとかをきっちり作れるのが楽しいですね。調声のしがいがありますし、これボイス・バンクが変わったら反応が変わるのかと思うとワクワクします。

VOCALOID 6でビブラート・ツールを選択。前方と後方を分けて設定したり、かかるタイミングを操作できる

ー先ほどボーカロイドのボーカル・ミックスでダブリングを肝とするTipsを紹介いただきましたが、VOCALOID 6のテイク機能を使うと簡単にダブルの音源を作れそうですよね。

サツキ そうですよね。単一な歌声になっちゃいがちだと思うAI系のボイスで、テイクの取捨選択を豊富に用意してもらえると安心感がありますね。テイク選択も、これからはボカロPの個性になるのかもですね。

ー初音ミク V6 AIは気になっている?

サツキ もちろんですよ! 早く聴いてみたいし、触ってみたい。

ー今後サツキさんはVOCALOID 6と一緒にどのようなことに挑戦したいですか?

サツキ 僕自身があんまり表に出るつもりはないので、VOCALOIDとか、合成音声の力を借りて、これからも音楽を作っていければなと思っているんですけど、より一層多くの人に聴いてもらえるように活動を続けていきたいです。これから迎えるであろう新しいボイス・バンクとも一緒に、自分の“好き”を追求したいと思います。

ー最後に、ボカロPを目指してる人へ、応援メッセージをいただけますか?

サツキ 自分みたいなズブの素人でも数年続けていればこんなことになっているので、とりあえずVOCALOIDが好きで曲を作ること自体が楽しい!と思えることが一番かなと思います。今でも、作曲もDTMも何も分かってないです! 結果を追い求めるのは全然後でいいのかもしれないです。まずは楽しむ気持ちを持って、ボカロPという活動そのものを謳歌していきましょう! 自分もまだまだ楽しんでいきます。

VOCALOID6 for Windows / macOS

■価格:27,500円(税込)
■同梱ボイスバンク:16ボイス(VOCALOID6用ボイス・バンク:AKITO、ALLEN、ASAHI、HARUKA、LUCAS、MICHELLE、SAKURA、SHION、ASAHI、TAKU、YUINA、NAOKI)(VOCALOID5用ボイス・バンク:Amy、Chris、 Kaori、Ken)
※VOCALOID3、VOCALOID4、VOCALOID5のボイス・バンク及び、作成したプロジェクト・ファイル(VSQX、VPR)も読み込み可能
■対応OS:Windows10、11 (64ビット版)、macOS 13(Ventura)、14(Sonoma)、15(Sequoia)
その他詳細は、https://www.vocaloid.com/vocaloid6/specs/

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