歌い手活動16周年を迎えたGero、美しいハイトーン・ボイスと渾身のMCで大熱狂の夜／2024年東京公演 Zeppツアー『火花』ライブレポート

Gero Live Tour 2024『火花』ライブレポート（写真有り）

　会場の外は台風10号が接近する大雨だったが、Zepp Hanedaフロアはキャパシティを優に超えているのではないかと思うほどのGeroのファンで埋め尽くされており、開演前からとてつもない熱気が充満していた。

　そんな中、暗転したステージ中央に今回のツアー・タイトル“火花”の文字が浮かび上がると、Gero BANDのメンバーのパスタ（Key）、Hiroki169 ぺいちゅん（Ba）、SHiN（Dr）、海賊王（Gt）らが次々と登場。そして、Geroが登場すると“もう既に今日のクライマックスなのではないか？”と思うほどの大歓声が響き渡った。

　1曲目は、Geroがメジャー・デビュー第一発目のシングルとしてリリースした「BELOVED×SURUVIVAL」だ。ファンたちはペンライトをGeroのイメージ・カラーである緑に灯し、ステージのGeroに向かい腕を伸ばし声援を送る。

　パワフルなドラムがリードする形で緩まず加速し「アンチェインゲイザー」が始まると、ラウドなバンドの演奏に負けない骨太かつハイトーンのボーカルを披露。海賊王による艶かしいギター・ソロには、黄色い歓声も起こった。

　「叫べ！」というGeroのリクエストに応じて観客の声援も絶好調のまま「名古屋のデブ」を演奏。演奏する地域によって歌詞をアレンジしてくれるのだが「羽田のデブ」と連呼し、間奏では「Geroちゃんさぁ……」と蛇足のモノマネと思われる芸まで披露。さらに、そのモノマネを観客に真似するように促すと「フロアの一人残らずやらないと終わらないからね……」と脅迫。ドSなコール・アンド・レスポンスの時間はファンにとっては地獄のような天国で、攻撃の手を緩めないGeroに、皆腹を抱えて爆笑した。

　これが3曲目とはにわかに信じがたい充足感がフロアを包む中、歌ってみたタイムに突入。syudouの「爆笑」では、滑らかなベースラインのグルーヴの上で、細かなメロディをガナリや裏声を良いバランスで混ぜ込みながら確かな声量で歌い上げる。wotakuの「シャンティ」では、色気に満ちた囁き声でありながらも、しっかりとミッドの声の芯を響かせる太い声を披露。この歌い方実はとても難しいのではないかと思うが、どうして簡単にやってのけるのか不思議でならない。次のハチ「ドーナツホール」では、演奏の疾走感に合わせ、抜群のリズム感で爽やかに明るく歌い上げるなど、歌い手としての手腕が光っていた。

　各公演での日替わり曲としては「吾輩はオス猫である」をチョイス。猫手で両手を振り振りして愛嬌を振りまいた後、ビートのシーケンスが流れ出すとフロアのムードは落ち着いた都会的なムードに一変。「neon」を地声と裏声の間の滑らかな声で、時にビブラートも交えながら伸びやかに歌う。「Love-Letter」ではバラードとGeroならではのハイトーン・ボイスで、感傷と高揚感の両方を一気に味わうことができた。

　MCでは来年2025年2月26日に予定している日本武道館公演『さようなら、武道館』の応募数が「今日の段階で一万六千を超えました！」と報告。

　またMC中のアドリブで観客にやってほしい曲を募り、最前のお客さんの希望で、めいちゃん「小悪魔だってかまわない!」を可愛く歌い上げた。その後のMCでは、座っていた観客を心配しながらも「うんちしてる？」と聞いたり、男女三人で来た19歳の観客に「付き合ってる？」といじってみたりとやりたい放題し、メンバー総出でGeroにツッコミを入れるという一幕もあった。

　そんなMCから一変、「Unlocked」では爽やかなロック・サウンドに合わせ会場一体となって手を振る。ステージが暗転し、ギター・アンプから音が鳴ると、突き刺すような白い照明の光とともにパンチインで、wowaka「アンノウン・マザーグース」の歌が始まった。早口歌唱もさることながら、落ちサビでしっとり歌う表現が美的だ。

　「ヴィータ」では、Geroお得意のガナリや叫びなどハイテンションな歌唱を披露し、メタルのサウンド感がもたらす恍惚なムードも演出。「あぶらかだぶらぶらぶらぶサマー」を爽やかに歌い上げたかと思えば、「しゃよう」でまたも観客をハード・ロックの海に連れ戻す。セット・リストの凶暴性と超高音シャウトに翻弄されつつも、Geroの声帯に感心だ。

　リバーブのかかった大音量シャウトの余韻に浸っているうちに、最後の曲として「うどん」が始まると、＜どん、どん、うどん、うどん、うどん＞の歌詞に合わせてタオルを振り回しながら観客も復唱。キザな台詞で女性を冷めさせない男の所業のように、エロい面白い曲をワイルドにキメられるGeroは、粋な歌い手である。

　観客からのアンコールに応えて「懐かしい曲歌っちゃおうかな」と『SECOND』（2014年）収録の「金曜日のおはよう」を披露。爽やかに澄んだ声音で、青春真っ只中の可愛らしい心情を歌い上げた。前段でも披露した「小悪魔だってかまわない!」もおかわりして、フロアの皆で＜バッキューン！＞と大合唱。

　最後の最後は、初期の曲「The Bandits」を披露。疾走感あふれるロックの快感に、観客も最後の力を振り絞るように歓声を送る。最初から最後まで一貫した、重低音の波と伸びやかなハイトーン・ボイスの余韻を残し、『火花』は幕を閉じた。

　16年間の歌い手Geroをおさらいできるようなセット・リストは、非常にエモーショナルなパフォーマンスにつながっていたと思う。Geroはオリジナル曲が多彩である上に、自身の表現の引き出しも非常に多く、今回も言葉の一つ一つがこちらに一直線で刺さってくるパフォーマンスを見せてくれた。言葉の力を最大限に生かした歌唱には、ニコニコ動画から生まれ、歌ってみたが一つの音楽シーンになるために道を開拓し、16年に渡りその地面を耕してきた歌い手レジェンドとしての力強さが滲んでいた。大阪公演にも期待だ。

Gero Live Tour 2024「火花」Zepp Haneda（東京）セットリスト