Text:Mizuki Sikano
アメリカンロックから多大な影響を受け、パンチのあるブルージーなロックギターを持ち味にした音楽を作るシンガーソングライター/マルチクリエイター=音羽-otoha-。本格的にソロ活動をスタートした2022年の夏の終わりから、彼女が紡いだ6曲を収録する1stミニアルバム『Unlockable』が発売された。
今回はTVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」提供曲「フラッシュバッカー」のセルフカバーなども収録するアルバムの制作についての話から、音羽の音楽遍歴などについても深く掘り下げて聞いていく。
目次
音羽1stミニアルバム『Unlockable』インタビュー
―ソロアーティストとして本格的な音楽活動をスタートするにあたり、ご自身の中で音楽の存在意義が、何か新しいものになるという実感や感覚はありましたか?
音羽 良い意味で何も変わっていないですね。もちろん環境の変化などはありましたけど、音楽のあり方が昔からずっと変わらないままなのは幸せなことなんだろうなと思っています。音楽がないと生きていけないです。
―音羽さんにとってはギターが音楽そのものだったりしますか?
音羽 どうなんですかね……。中学生のころはボーカリストとバンドを組んで、自分はギタリストになるんだ!と夢見てました(笑)。でも結局良い方が見つからず自分で歌うスタイルになってから、ずっとフロントマンなんですよね。いつの間にか作曲までするようになって、音楽という言葉をより幅広い意味で捉えられるようになったなと思います。
―それは、長く音楽を続けて出来ることを増やせたからこその感覚ですよね。
音羽 そうですね。音楽に限らず、自分の表現方法はどんどん増えてきているなという感覚はあります。
―そういった実感を持ち始めたのはいつからですか?
音羽 ソロ活動を始めてから、いろいろなことに興味を持つようになりました。バンド活動をしていたときは、ライブで再現できるギタープレイにこだわって、考えが凝り固まってしまっていたんです。今はライブでギターを持っていなくて良い瞬間もあるし、ピアノの弾き語りもできるようになったし、ダンスも踊れるようになった。これからはライブでMIDIパッドの操作もできるようになりたいと考えています。
―自分と向き合いながら音楽での表現手段を広げていく時期なんでしょうね。「拝啓生きたがりの僕へ」は俯瞰的な目線ではありますが、他の曲よりもずっとご自身と深く向き合って作られた曲ですよね?
音羽 曲によってどんな自分と向き合うかは違いますが、「拝啓生きたがりの僕へ」は自分の心の奥底に眠る、もう一人の自分に語りかけている曲なので、他の曲よりテーマがものすごく重かったです(笑)。曲を作るときに、例えば「ダンスホール」では先に“ロックを作りたい”とか、曲のアレンジが先行で始まったのですが、「拝啓生きたがりの僕へ」は作詞が優先でした。ちなみに、詞とメロディはいつも同時に降りてきます。
ギターソロはアレンジの中で一番こだわる部分
―口ずさむところから曲作りが始まる?
音羽 そうですね。自分の場合は、お風呂に入るとアイディアが浮かぶんですよ。スマホを持って入りますけど、基本的には本当に真っ白な空間だから何にも邪魔されることがなくて、声も良い感じにエコーがかかりますし、集中できる空間だと思います。
―そうして作詞とメロディメイクをした後は、どのように曲作りを進めていくのでしょうか?
音羽 Wiz_niccが編曲家として参加していて、一緒にデモを制作してくれています。そこで自分のアイディアを口頭もしくは、ギターフレーズをデータで送る形で伝えて、反映してもらいながら曲にしていくんです。自分のギターパートや、大事なギターソロの部分は、一番こだわりたい部分になっています。そうしてできたデモ音源を、サポートメンバーの皆さんに聴いていただき、レコーディング作業に移行していきます。
―ではWiz_niccさんとはかなり協力して作っているのですね。
音羽 今までは人に任せるのが苦手だったんですが、Wiz_niccはやりたいことを汲み取って、予想以上のものを出してくれるんです。とても安心できる方で、本当に助かっています。
―Wiz_niccさんにはギターのバッキングトラックと、ボーカルトラックの2つを送るのですか?
音羽 例えば“こういうドラムじゃないと嫌”みたいなのがあったら、ドラム打ち込みもしますね。初期の曲ではベースラインも考えていました。でもライブで弾くことを考慮しないで無理なフレーズを作ると後に響くんですよね。「リインカーネーション」のギターソロは、ライブのことを全く想定しないで作っていたので、めちゃくちゃなんです。
だから、最近は自分以外のパートまで無理に作らないですし、自分の弾く内容についても気を付けるようになりました。今後もリードギターを弾きながら歌っていきたいので、ライブの再現性を考えて妥協できないというところで、良いバランスの演奏を探すのに苦労しています。
明るくも太くも鳴らせるSTタイプはギタボで便利
―ご自宅でギターをどのように録音していますか?
音羽 家の周りが静かでお爺さんや赤ちゃんも居るから、大きい音は出せないんです。なのでエレキギターをオーディオインターフェースにつなぎ、アンプシミュレーターを介してDAWソフトに録音しています。
―『Unlockable』のレコーディングでは、どのようなギターを使用したのですか?
音羽 高校一年生のころから愛用しているSUHRのSTタイプのギターです。
―高一からSUHRは渋いですね(笑)。
音羽 近所にSUHRコレクターの方が居たんですよ。“半額以下で譲ってあげるから、この中から好きなの選びな!”って言ってくれて。タッチがとても素直に出て、ピンときたSTタイプを選びました。ダメなところを誤魔化せないぐらい、ディテールを再現してくれます。
―どうしてSTタイプのギターをずっと愛用しているのですか?
音羽 最初に買ったのが、島村楽器オリジナルのSTタイプのギターだったんです。価格は、9,800円でした。水色の見た目に惚れて選んだだけでしたけど、その後も弾きやすくてSTタイプをずっと愛用しているんです。
―ほかにもギターをお持ちですか?
音羽 もう少しチャキチャキした音が欲しいなと思った時期に、MOMOSE CUSTOM CRAFT GUITARSのJMタイプのギターを購入しました。でも、ギターソロを弾くときにはやっぱりもっと太い音が個人的には欲しくなって、結局STタイプに戻っちゃいましたね。
―もっと重めのギターサウンドが欲しくなったりはしなかったのですか?
音羽 確かに基本は明るい音なんですけど、ピックアップの切り替えでも音がガラッと変わったり、非常に幅広い音が出ます。曲中でバッキングからリードまでギター1本で表現しないといけないときに、持ち替えとかしていられないじゃないですか。ジャキジャキにも、程よく太くも鳴らせるSTタイプが、ギターボーカルとしては便利なんですよね。
―重めに鳴らしたいときに肝になるエフェクトは?
音羽 最近使い始めたオクターバーは、低域を補強するのにかなり役立っているなと思います。あとオクターブの話だと、「ダンスホール」では後からDAW上でオクターブ上の音を重ねていて。コンパクトエフェクトでは得られない効果を、DAW上で加えていくのも良いなと思っています。
―普段アンプは何を使っていますか?
音羽 一番好きで、よく選ぶのはMARSHALLですね。でも曲によって欲しい音は違くて、今回のレコーディングではFRIEDMANとBOGNER Ecstasyを使いました。自宅が東京と離れているので、スタジオの外で後から追加したフレーズなどはリアンプしてもらっています。
―東京でレコーディングをした後に、後からどうしても足したいアレンジ要素が出てくることもあるのですね。
音羽 ギター以外でもありましたね。例えば、「六秒間」ではレコーディングが終わりアレンジも決まったタイミングで、“待ってください”と言って、“これは目を閉じている六秒間の感情の変動を表した曲なので、秒針の音を曲のどこかで入れたいです”みたいな感じで。急に飛び道具的なアイディアが出てくることもありました。
―ギタリストには、奈良悠樹さん、YONEさん、三井律郎さんが参加されていますね。皆さんとご一緒することになった理由は?
音羽 奈良さんは「リインカーネーション」にご参加いただいたので、またお願いしました。飽きさせないアレンジを生み出して楽曲をどんどんブラッシュアップをしてくれる、本当にすごい方です。
YONEは仲が良くて何でも言えるし、彼のギターはどこか冷たくてロジカルなんですよ。なので自分の“ロック、ブルース、ジミヘン大好き!”みたいな玄人っぽくて熱苦しいギターとは正反対というか(笑)。特に「拝啓生きたがりの僕へ」のアコギフレーズのように、知的でクールなフレーズを出してきてくれます。
―三井律郎さんは『ぼっち・ざ・ろっく!』に提供した楽曲「青春コンプレックス」や「フラッシュバッカー」の編曲を担当されていて、作品中のバンド=結束バンドのアレンジの大半を作られている方ですね。三井さんのギターは、音羽さんのプレイの熱量と通じる部分があるなと勝手に思うのですが、いかがですか?
音羽 三井さんは、自分にとっては憧れです(笑)。
アンディ・ティモンズに出会い自分のギタースタイルを確立
―音羽さんのギターで格好良いと感じるうちの一つが、バッキングとアーミングによる音程変化のあるリフをアグレッシブなサウンドで届けるようなプレイです。
音羽 ありがとうございます。確かに、よくやりますね。派手な感じになるので(笑)。やっぱりそこはギタリストになりたかったときの土台があって、オリアンティからルーツを辿って、スティーヴ・ヴァイだったりジミ・ヘンドリックスなどを知るうちに、アンディ・ティモンズに出会ったんです。そうして自分の中でギターフレージングの基準が定まっていったことで、今のスタイルができたような気がします。
―スティーヴ・ヴァイのカバーなどもしたり?
音羽 しましたね。今思えば指はボロボロになって痛覚を忘れるくらいギターを弾いていました。だって、アンディ・ティモンズもスティーヴ・ヴァイも、指ボロボロで指紋なくなっていますから。
―ギターを持ち始めてからYouTubeなどを見て練習を?
音羽 そうですね。中学一年から確か島村楽器オリジナル9,800円のSTタイプのギターを持ち始めて、さまざまな弾いてみた動画なども見て練習をしました。その後、中学二年生からは、自分で弾いてみた動画をアップしています。
―早いですね! 音羽さんが最初に弾いてみた動画を投稿した理由は?
音羽 当時は奈良が拠点で、バンドメンバーが居なかったからですね。友達も少ないし、学校に軽音部はないし、誰かに話しかける勇気もないから一人で弾いていました。
―それは、リアル『ぼっち・ざ・ろっく!』ですね(笑)。練習にはのめり込めそうですけど。
音羽 剣道部に所属していましたが、終わって家に帰った後と、朝6時に起きて学校に行くまでの時間にギターを弾いていました。家にMTRと電子ドラムがあったので曲を作ってみたり、弾いてみたの音源もMTRで録音していました。録音ボタンを押すとカウントが入らずに録音スタートしてしまうので、仕方なく足でボタンを押していました(笑)。
―MTRだと部分的な修正が難しいので、ギターが上達しそうですね。
音羽 今思うとその不便さがギター上達のためには、よかったのかもしれないですね。細かな録り直しができないので、ノーミスで演奏を完了しないといけなくて、何度も弾いていました。
音羽の学生時代からの楽器遍歴
―音羽さんはどのような楽器遍歴を辿ってきましたか?
音羽 まず4歳のときにピアノを始めて、親戚のおじさんに教えてもらっていました。ジブリの曲やポップスを弾いていたので、クラシックはあまり弾いてませんが、ブルグミュラー「タランテラ」を弾いた覚えがあります。その後フルートを吹いて、次にドラムをやってたんですよ。
―どうしてドラムをやりたいと思ったんですか?
音羽 母と行ったショッピングモールの広場みたいな場所で、吹奏楽部が演奏していて。まだあまりライブに行ったことがなかったので、初めて耳にした生ドラムの音が衝撃的だったんです。心臓に響く音の感覚を味わい、自分もやってみたいと思いました。
―そこからロックミュージックに興味を持ちましたか?
音羽 そうですね。flumpoolやORANGE RANGE、Aqua Timezなどのコピーをしていくうちに、ほかの楽器パートも出来るようになりたいと思ったんです。母が元々ガールズバンドでギターを弾いていたので、そこで母のギターを使い、母にギターを教えてもらっていました。
―家族でほっこりする楽器エピソードが多いですね(笑)。
音羽 料理するお母さんの近くで、ギターを弾いて、お母さんに“そこのビブラートは、もっとドアノブを回すみたいにやるんだよ”とか言われて“はい!”みたいな感じで(笑)。
―ここまでくると、なぜ剣道部に入っていたのか?が気になるのですが。
音羽 昔からかわいいものよりも、格好良いものに興味があったんですよね。自分が格好良いと興味を持ったものは、まず試してみていました。
―その好奇心は、アーティスト活動を始めた現在でも音楽で発揮されていると感じますか?
音羽 「リインカーネーション」を作ったときから、自分の長所を生かしながら今の市場にない音楽を生み出すということを意識していたと思います。やっぱり自分の長所は熱いギターなので、それを真逆の雰囲気を持つ打ち込みの音と掛け合わせたら面白いんじゃないかと思ったのが、現在の音楽スタイルにつながっているんです。
音羽が日常的に聴いているバンドと曲
―最近音羽さんが注目している音楽を教えていただきたいです!
音羽 自分は音楽をやっている人間にしては、音楽を聴かない方なんですよね。依存体質なので、今でも結構気に入った音楽を繰り返し聴き続けています。お気に入りのバンドのプレイリストを作っていて、部屋が散らかっていて掃除をしないといけないときとかにやる気を出すためよく聴いているんです。
―選曲がすごくバラバラで一言では言い表せませんが、やる気の方向性が独特の方に伸びそうな感じがします。
音羽 確かに、そこまでポジティブな曲たちではないですね(笑)。この中にもあるヒトリエにはどハマりして、狂ったように聴いていた時期がありました。自分はボカロの知識があまりなかったので、wowakaさんきっかけではなくヒトリエというバンドとして出会い、知っていき、その突き刺すようなサウンドと物哀しいボーカルが素敵だなと感じていました。ボーカルがシノダさんに変わってからも、大好きです。この前のライブも最高でした。
―ヒトリエのソリッドなサウンドは、音羽さんの楽曲の音にも通じる要素だと感じます。好きな曲だけを聴き続けたり、好きなギターを使い続けたり、好きなものを貫く強い力が音羽さんの音楽表現の強みになっている可能性はありますね。
音羽 それは嬉しいですし、そうだといいなと思います。自分は1点集中型の依存体質なんで、とにかく好きになると繰り返す(笑)。このプレイリストにあるアーティストの方々にやる気をいただくだけでなく、影響も受けている部分は少なからずあるだろうと思います。
―では最後に、音羽さんからこれからギターを始める読者の方へガッツのある一言をください!
音羽 シンプルに……痛覚を忘れろ!です。マメが潰れた後のかさぶたを、剥がせば剥がすほど指先が固くなっていきますよ。3カ月間毎日弾き続けてもまだ痛い人は痛いので、いつ痛くなくなるかを考えるよりも、長い目で見て練習を続けた方が良いでしょうね。
『Unlockable』参加ミュージシャン&録音スタジオ
参加ミュージシャン:音羽(vo、gt)、Wiz_nicc(prog、ba)、三井律郎(prog、gt)、奈良悠樹(gt、prog)、YONE(gt)、高間有一(ba)、吉田宇宙(Violin、Viola)、林田順平(cello)
プロデューサー:音羽、岡村弦
エンジニア:岡村弦
録音スタジオ:catapult、Victor
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