Interview:鹿野水月 Text:濱田侑佳
目次
初めてのMV制作は獅子志司「絶え間なく藍色/初音ミク」
ーボカロ曲のMVとして初めて手掛けた作品は?
しまぐち ニケ 獅子志司さんの「絶え間なく藍色/初音ミク」です。自分が投稿していたイラストと、ネットに載せていた卒業制作のアニメを獅子志司さんが併せて見てくれていたようで。「絶え間なく藍色/初音ミク」が、獅子志司さん名義としても初の作品だったので、2人とも最初の一歩になりました。
ーしまぐちさんはボカロ曲をよく聴いていたのですか?
しまぐち ニケ 獅子志司さんとご一緒したときにボカロ曲に出会って、そこから聴くようになりました。当時、あまりボカロ曲を知らなかったんですけど、この世界にもいろいろなジャンルがあって、こんなにも楽曲があるんだなと。そこで、いよわさんの楽曲に出会いました。メジャー・アーティストではやらないような自由な感じの楽曲が大好きで、擬態するメタのオリジナル作品『ギタメタの心霊ドッ企リ大作戦!』内の楽曲「ふぇのめのん」でご一緒することができました。
『擬態するメタ』誕生のきっかけ
ーしまぐちさんが組んでいる映像制作ユニット『擬態するメタ』メンバーである、映像作家のBiviさんとの出会いは?
しまぐち ニケ 個人で活動していくうちに、アニメ以外の実写も使った、今までにない少数精鋭のアニメ・チームを作りたくて、誰かいないかなって探していたんです。丁度そのころいただいていた依頼に、やりたいと思っていた作風にぴったりの映像が流れてきて! その作者がBiviさんだったんです。当時Biviさんも自分のTwitter(現X)をフォローしてくれていたようで、お互いに認識し合っていたみたいです。
ーBiviさんと初めて制作した作品は?
しまぐち ニケ GALDE’rLaさんの「傷と蜜」という作品です。個人で2年間活動した後にBiviさんと組んだ感じですね。今ほぼ活動3年目になりますが、目まぐるしく時間が過ぎて、あっという間でした。
ボカロPとのコミュニケーション方法
ーしまぐちさんはボカロPの方と制作のとき、どのようなコミュニケーションを取っていますか?
しまぐち ニケ 制作する曲の説明を聞くこともあるんですが、詳細に合わせるのも違うかなと思い、あまり細かくは聞かないようにしています。TOOBOEさんは毎回信頼してくださって、ほぼお任せしてくださいます。「錠剤」では、1回Biviさんとアイディアを揉んで、TOOBOEさんにプレゼンして、という感じで進めていました。「錠剤」では、Biviさんとほんとにお互いにイメージが合致して作ることができたシーンがあって、そこから逆算して全体のストーリーを作っていきました。
―イメージが合致したシーンというのは?
しまぐち ニケ 1サビのシーンですね。あの絵が、歌詞とかも考えた上で曲を聴いたときに、思い浮かべるシーンとしてピッタリだなって。大人の方たちから「さすがに問題あるんじゃない?」と言われたのですが、TOOBOEさんは「面白い」と、すぐOKしてくださいました。実際に、公開当初は年齢制限が付いてしまったんですけど(笑)。
過激なものを作っていると言われがちですが、このMVは、背景を一番こだわって制作しました。
ー「錠剤」の背景のこだわりについて教えてください。
しまぐち ニケ 自分は、香港にある九龍城(クーロン城)が大好きで。狭い空間に違法建築の建物が立ち並び、そういった荒れたところで育っていく文化に、本を買って勉強したりするぐらい興味があるんです。「錠剤」では、そんな人の欲望とか業とかが、舞台に反映されるように作りました。
ーしまぐちさんのお気に入りのシーンは?
しまぐち ニケ 背景とか、物語のあるシーンとしてこだわったのは、1:43〜のゴミ捨て場のシーンと、1:46〜の回想シーンです。実はあそこは同じ場所で、ゴミ捨て場の昔の姿なんです。ここには昔、人がいて、ご飯屋さんもあったけど、時が経って荒れた場所になってしまった。数秒ですけど、時間の流れや主人公のことをいかにこの尺で見せるか、そういったことを考えるのが好きです。この映写機のような演出とか、気に入っています。
ーそういった舞台設定をしてから作品を作ることが多い?
しまぐち ニケ 最近はこういうアイディアでやりたいな、こういうカメラ・ワークでやりたいな、から始まることが多いです。ただ、アイディアと舞台設定は同時にしています。
ー制作の担当はどうやって振り分けているのですか?
しまぐち ニケ それぞれの得意なシーンを担当するという感じで、最初に絵コンテを描いてから割り振りを決めています。「錠剤」はボンタ(巡宙艦ボンタ)さんとタッグを組んで制作していたのですが、このCGのシーンはBiviさんが得意だろうなとか、花屋さんで花を選んでるシーンとかはボンタさんが裏設定を付けてくれるだろうな、とか。
ー制作のツールは何を使っていますか?
しまぐち ニケ イラストはCELSYS Clip Studio Paintで描いています。編集はBiviさんにお任せしているので、ADOBE After Effectsで編集かな? 基本イラストは僕とボンタさんの担当でしたが、拷問するお肉のシーンとかは、コラージュでBiviさんが作っていたりします。
しまぐち ニケオリジナルTシャツ「LABEL」
ー今回「音楽家」をテーマにイラストを描き下ろしていただきましたが、ここに込められた音楽家へのイメージとは?
しまぐち ニケ 音楽家は、同じクリエイティブに携わる人間として、自分たちより“レッテルを貼られやすい職業”なのかなと思い、そういった大変さに着目して制作しました。
基本的には、自分の世間に伝えたい思いを表現できる主体的な部分とか、世間からのレスポンスが大きいところなどは、うらやましいなと思っているんです。でもそこに比例して、大変さも大きいんだろうなって。自分はあくまで“楽曲の”MVを作っているので、そこで自分の思いを表現することとは、違うのかなと思います。
ー「同じ時を生きている、宿泊すべき奇跡」や「その時代が求めた天才」の文言が重ねられている意図は?
しまぐち ニケ その音楽家さんに対するレッテルがどんどん貼られていく、時系列順の構成になっています。ネットでは良いレッテル、悪いレッテルが顕著に目に現れるから、生き残るのにすごく苦労をする。その分濃い時間を生きていることにもなるとも思っています。
ー『擬態するメタ』で作っている映像は、誰かのサポートとして制作するより、主体的に何か発信して行きたいという思いからはじまったものなのですか?
しまぐち ニケ そうですね。前述したように、結成当時は“vs世間で戦いたい”とオリジナルを制作していた時期でした。直接、人に作品を届けたかった。でも今は一旦いただいたお仕事に専念しています。お仕事でお題をいただきながら制作するというのが、充分に楽しくて。いずれオリジナルを作るにしても、今は体を大きくしていきたいです。
ーしまぐちさんが求める“良いMV”ってどんなもの?
しまぐち ニケ “ふと見たくなる映像”ですかね。観たあとに「何かあの映像あったな」と思い出したり、脳内再生して深みのでる映像だったり。曲だけで聴くよりMV付きで観たくなるもの、というか。
ー何回も聴きたくなるというより、何回も観たくなるMVを目指している?
しまぐち ニケ そうですね。それは自分たちがやりたいことであったりするし、再生回数とか数字の部分でも、作品に貢献できていることは幸せなことだなって。
ーそういったMVのコツは何ですか?
しまぐち ニケ ホスピタリティかなと。いかに見てる人のために、何かを残せるかみたいなものの多さな気がしてます。自分のやりたいことだけを詰め込んでしまうと、「ここで退屈しないかな」みたいな、観ている人への想像ができなくなってしまうと思うんです。もちろんそういった表現分野があるのも良いことなんですけど、あくまで自分は、“観ている人に何を残せるか”をよく考えています。
しまぐち ニケ「LABEL」販売情報
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