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取材・文:濱田侑佳(plug+編集部)

Neru「脱法ロック」、「SNOBBISM」など、ボカロ曲のMVを数多く手掛けている、りゅうせー。今回はりゅうせーに、イラストレーター/映像作家になった経緯、ボカロ曲MVの制作工程、音楽家に思っていることなどをインタビュー。

 

そして、今回りゅうせーが「音楽家」をテーマに書き下ろしたオリジナル・イラストのTシャツ/ロンT「Tone up Tee」の発売も決定! イラストに込められた思いを読んで、みんなで着よう。

 

Tシャツ販売サイト:https://t-od.jp/products/ryuuseee-ts-001

ロンT販売サイト:https://t-od.jp/products/ryuuseee-lt-001

 

イラストレーター:りゅうせー インタビュー

■りゅうせー
【Profile】NeruなどのボカロPや声優のMVを手掛けるイラストレーター/映像作家。デフォルメ・イラストから頭身イラストまで臨機応変に描き、映像では音ハメを駆使したリリック・ビデオや、ストーリー仕立てのイラストMVを制作している。

X(Twitter):https://x.com/ryuuseee
Pixiv:https://www.pixiv.net/users/270369
ニコニコ動画:goo.gl/csN2aV
YouTube:http://goo.gl/L3BgaR

批判されてもネットへ作品を投稿し続けた

ーりゅうせーさんは、幼少期から絵を描くことが好きでしたか?

りゅうせー そうですね。保育園のお絵描きの時間に描いた絵を、先生やお母さんに褒めてもらえたので、少し大きくなるまで“自分は絵が上手いのだ”と思いながら育ちました。

ーどのような絵を描いて褒められたのですか?

りゅうせー 一番最初に描いて褒められたのは、黒いモジャモジャに丸い目があるみたいな……宮崎駿さんのアニメーション映画に出てくる、まっくろくろすけみたいなものだったかな。“こんな絵を描く子はいないですよ、お母さん!”というふうに先生に褒めてもらって、お母さんも喜んでくれて、“自分はほかの人とちょっと違うんじゃないか”と思っていました。

ーほかに、どういった絵を描いていましたか?

りゅうせー 僕は当時、毎週レンタル・ビデオ屋さんに行って棚の端からすべてを借りるくらいドラえもんが大好きでした。ドラえもんの絵の上にトレーシング・ペーパーを載せて、上から線をなぞって模写することにハマっていましたね。のび太くんには目もくれず(笑)。

ー丸みを帯びたフォルムの、かわいらしいキャラクターが好きだったのですか?

りゅうせー そうですね。今のゲームやアニメの主人公って、大体人型じゃないですか。でも僕の幼少期には、身体のパーツなどがデフォルメされたタッチのキャラクターが主人公の作品が多く、かわいらしさに魅せられて、オタ活をしていました。

ーその後はどのような絵を好きになりましたか?

りゅうせー 中高生のころには、『家庭教師ヒットマンREBORN!』作者の天野明先生や、『封神演義』作者の藤崎竜先生、『デュラララ!!』のイラストレーターであるヤスダスズヒト先生などのリアルなタッチの絵にも魅力を感じるようになりました。繊細な線で描かれた絵が奇麗で、一目で“この人の絵だ”と分かるような個性があるところに心引かれていましたね。

ー二次創作をしていたこともありますか?

りゅうせー そうですね。好きな漫画のキャラクターを描いて、mixiへ投稿したりしていました。そこでできた絵描きの先輩や学校の同級生に絵を褒めそやされて、“我、絵描きの覇者なり”と思うくらいには、自信がありました。ただ段々とコミュニティが開かれてきて、pixivなどへ絵を載せ始めると、途端に自分は何者でもないことが分かってしまって。コメントで散々叩かれたし、自分より遥かに出来の良いイラストを見て食らってしまい、中高生のころには部活動の片手間で描く感じになりました。ただ、絵を描いてネットへ投稿するのは止めなかったです。やっぱり絵を描くことが好きだったし、批判してきた人を見返したかったので。

ボカロPじん、ラムネ(村人P)らとのシェア・ハウス開始直後に初仕事を獲得

ーその後、どのような進路を?

りゅうせー 僕は就職率が良いからという理由で、高専(以下、高等専門学校)に入ったんです。ただ通っているうちに“やっぱり絵を仕事にしたい”と思い直し、ちょうど当時通っていた高専の姉妹校の大学にメディア・デザイン学科ができるということで、そちらに編入することに決めました。イラストのほかに映像の勉強もしたいと思っていたので、渡りに船でした。

ー映像に興味を持ったきっかけは?

りゅうせー 高校生のころ、フジファブリックを好きな友人にスミス氏が監督した『FAB CLIPS』というMV集を見せてもらったんです。その格好良さに衝撃を受けて、映像に興味を持ちました。その後ニコニコ動画で、二次創作的にボカロ曲のPVやMVを作る“PVつけてみた”という文化に出会ったんです。

 当時、イラストレーターのたまさんが二次創作で40mPさんの曲「トリノコシティ」のPVを作り、それをきっかけに、次作のMVをたまさんが担当するという出来事がありました。“こんな夢みたいなことがあるんだ”とびっくりしたし、“絵描きも映像を作れるんだ”という新たな発見になって。“PVつけてみた”という文化に出会うまでPVやMVはカメラで撮影するものだと思っていた僕は、“映像編集を学んでアニメーションを作れるようになりたい”と思ったんです。

ー大学ではどのような勉強をしましたか?

りゅうせー ゼミの先生が当時では珍しい、VJとしてクラブなどで活動していた方だったんです。その先生に自分の好きなMVを例にして各シーンの作り方を質問し、一つ一つ分解して、映像制作のいろはを教えてもらいました。大学の据え置きのパソコンにADOBE After Effectsが入っていたのでそれを使いながら、“動画を作るためにはこういう絵が必要だ”と分かったら自分で描いてスキャナに取り込んで……と制作していましたね。肝心の絵の勉強は、ほとんど独学でしたけど(笑)。

ー卒業制作ではどういったものを作りましたか?

りゅうせー  クラシック音楽を使ったアニメーションを制作しました。ここで初めて、長編のオリジナル動画を作りましたね。僕は就活をしないと決めていて、すべての時間を卒業制作に注ぎ込んだんです。その結果、各学科から優秀作品が選ばれて展示される選抜展というものにも出させてもらえたりもして。

  当時僕の大学では卒業制作発表会を全国へ配信していて、それをネットで交流のあった方やちょこちょこ付いていた僕のファンの方などが観てくれました。MVのような動画編集ができる人がほとんど居ない中で個人制作アニメーションを出したので、“珍しい映像を作れる人が居る”と目立ったみたいです。

ーネットで知り合ったご友人がたくさん居たのですか?

りゅうせー そうですね。その一人が、ボカロPのラムネ(村人P)くんです。僕は昔から彼の曲が好きで、よくメッセージのやり取りをしていました。クリエイター同士としても仲良くなっていった流れで、同じ北海道出身ということで彼とシェア・ハウスをしていたボカロPのじんくんとも仲良くなりました。卒業制作を終えたころに二人と電話で“卒業制作を頑張っていたら仕事ないわ”みたいな会話をしていたら、“クリエイターになるんだったら東京に来た方が良いよ、うちに部屋あるよ”と言ってくれて、二つ返事で一緒に住むことにもなって。

ーとても楽しそうなシェア・ハウスをされていたのですね。上京して実際に来た依頼には、どういったものがありましたか?

りゅうせー なんと、上京したタイミングで僕の卒業制作を見てくれたボカロPのNeruくんが“MVを作ってくれませんか?”と声を掛けてくれたんです。そうして初めてお金をもらって映像制作をしたのが、「少年少女カメレオンシンプトム」です。それからありがたいことに各方面からお仕事のお話しをいただけるようになって、活動12年を迎えました。

ボカロP Neruと「脱法ロック」制作で話し合ったこと

ーNeruさんと一緒に制作した楽曲で、特に思い入れのあるものは?

りゅうせー 「脱法ロック」です。このMVでは、当時自分がやりたかった映像表現ができました。

ーやりたかった表現とは?

りゅうせー この楽曲の依頼を受ける前にNeruくんへ、映像制作チームのAC部さんが手掛けられた、group_inou「THERAPY」の映像表現がすごく良いという話をしていたんです。常識と倫理から斜め上の発想で不条理なことが起きるカオスなシーンが多く、癖の強いイラストだけど、微妙に歌詞との接点もあって……イラスト・アニメーションが生み出すシュールさみたいなものに、すごく面白味を感じました。そのことをNeruくんに話したところ、“「THERAPY」で良いと思った映像表現を、次に出そうと思っている「脱法ロック」でやってみたらどうか”と提案してもらったんです。

 楽曲イメージと合わなければもちろん別の方向で考えようと思っていたのですが、実際に聴いてみて、“憂いのようなブラックな感情を抱えつつも振り切ったテンション感のある歌詞や疾走感のある曲調に、僕のやりたい表現は合うな”と思ったので、挑戦しました。ただ、自分の好きなことをやるだけではカオスな映像が好きではない方に親しんでもらえないと思い、ボカロMVとしてキャッチーな要素も盛り込みました。

ーキャッチーな要素とは?

りゅうせー 二次創作のしやすいキャラクターを作ることです。このMVは、一目見れば「脱法ロック」を思い浮かべられる、赤いパーカーを着た主人公の脱くんが登場しています。ボカロ・シーンには、キャラクターを愛でる文化があるじゃないですか。例えば初音ミクであったり、何かのMVに登場するものであったり。僕はリスナーがMVを観る動機の一つに、“登場するキャラクターを好きになりたい”という欲求があると思っているんです。

 加えて僕は音楽を聴いたときに“ここから何か二次創作を作りたい”という気持ちが高じてクリエイターになっているので、「脱法ロック」のMVを観て何かを作りたくなった人が取り上げるもので迷わないように、ベンチ・マークになるキャラクターを作りました。“ボカロMVたるもの、かわいい子を1人置くべし”みたいな感じで(笑)。

ー二次創作でも楽曲が盛り上がってほしいという願いがあったのですか?

りゅうせー それもありますね。ただやっぱり、ほかの界隈の方が「脱法ロック」のMVを観たときに親しみを感じやすく、ファンになる要素を入れ込みたいという気持ちが一番強かったです。例えば「脱法ロック」のMVは、いろいろなジャンルのパロディが流れるテレビを、リスナーが主人公と一緒に覗き込むという構図になっているんです。カオスな世界にそのままポンっとリスナーを入れてしまうと困惑してしまうと思ったので、一歩引いて楽しめるような映像セクションにしています。そういったカオスな映像にキャッチーな要素を入れたところが、リファレンスにしていた作品と明確にアプローチを差別化したところです。

「脱法ロック」MV 未使用キャラクター

ーNeruさんとイメージの共有をしましたか?

りゅうせー ほとんどしていないですね。本腰を入れて制作する前にNeruくんに数コマを見せて“OK”と言われていたし、制作では絵コンテなどは描かずにその場で発想しながら進めていったので。MV制作は、ほとんどすべてをお任せいただくことが多いです。

ー最初に完成した映像を観たときの、Neruさんからのコメントは?

りゅうせー “イェーイ!最高!”と言っていただきました(笑)。

創作こそオタクに向いている

ーりゅうせーさんは、何の道具を使って制作をしていますか?

りゅうせー イラスト制作では、WACOM Cintiqの液晶ペン・タブレットとCELSYS Clip Studio Paintというイラスト制作ソフトを、映像制作ではADOBE After Effectsを使っています。

ーりゅうせーさんはリアルなものからデフォルメされたものまで、幅広いタッチの絵を描いていますよね。

りゅうせー 僕は、描きたいものがいろいろとあるんです。昔からさまざまなジャンルのイラストに挑戦していて、表現の手札を増やしています。ときには友人やお仕事で出会った人に、今まで自分では気が付かなかった才能や制作の勘どころを教えていただいたりして。依頼をいただいた際には蓄積した知識を駆使して、“その界隈のファンが観ていて楽しいものは何だろう”ということを念頭に置きながら、最適な表現ができるようにしています。

ー常に観る人のことを考えて制作しているのですね。

りゅうせー 一人のオタクとして、自分が制作した作品を観て、うれしいかそうでないかを基準にクオリティの判断をしているのかもしれません(笑)。つくづく創作の仕事は、オタクに向いていると思っています。

りゅうせー描き下ろしTシャツ「Tone up Tee」

ー今回「音楽家」をテーマにイラストを描き下ろしていただきました。音楽家に対して、どのようなイメージを持っていますか?

りゅうせー 聴いている人の気分や、ムードを作ってくれる人だと思っています。例えば僕は、陽の光が心地良い日にaikoを聴くと、道を歩いているだけでも心が弾んで、その日一日が素敵なものになったりするんです。人の気分や態度を音一つで一変させることができるって、すごいことだと思います。

ーカセット・テープやDJが使うターン・テーブルといった音楽機材のモチーフのほかに、色の付いた筆が描かれていますね。これは?

りゅうせー メイク・ブラシです。人の気分を左右するという点で“音楽家とメイク・アップ・アーティストには似た要素があるな”と思い、融合させました。次にメイク自体について考えてみて、“顔を変えるということは、恐い狼が人当たりの良い羊の顔になれるようなことでもある”と考え、毒のあるテーマを入れた方が見た目的にも面白いかなと思い、モチーフに加えています。

ーイラスト・メイキング動画内では、ブレインストーミングから始めていますよね。

りゅうせー 今回は広く捉えられるテーマだったので、描くものを明確にしようと思いそうしました。僕は最近、あらためてイラスト制作に力を入れなければと思っていて。練度を上げるにはきちんとお題を噛み砕かなければと思い、ブレインストーミングから始めています。

ー何かそう思うようになったきっかけがあったのですか?

りゅうせー 映像作家って、MV投稿の最後のセクションを任され、期限を意識しつつ最高のクオリティを追い求めるので、本当にしんどいんですよ。でもやっぱりMVの視聴者って、曲を聴きに来ているわけじゃないですか。僕はイラストも描いているので“絵がかわいい”というコメントがあると救われた気持ちになりますが、特にボカロPや歌い手が褒められているのを見て、正直な話、映像作家ももっと褒められたいと思うんです。

 映像に掛けた労力と視聴者からの反応数のギャップで苦しみ、今後について考え込んだ時期がありました。そこで、“人に認められたいんだったら、見つかりやすい土俵に立たなければ”と思い、イラストレーターとしても注目してもらえるように、絵のクオリティを上げることに注力し始めました。

ー映像作家には、自分の作品の色を視聴者に伝えるために苦悩することがたくさんあるのですね。最後に、りゅうせーさんの今後やってみたいことを教えてください。

りゅうせー いろいろありますけど、僕が作ったキャラクターや世界観を題材にボカロPさんに楽曲を書き下ろしていただいて、コンピレーション・アルバムを作りたいです。僕発の制作プロジェクトみたいなものができたら、面白いなと思っています。

りゅうせーTone up Tee販売情報

■りゅうせー「Tone up Tee」Tシャツ販売サイトhttps://t-od.jp/products/ryuuseee-ts-001

■りゅうせー「Tone up Tee」ロンT販売サイト:https://t-od.jp/products/ryuuseee-lt-001

■『#音の絵師』オリジナルTシャツ販売サイト:https://t-od.jp/collections/otonoeshi

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