取材・文:濱田侑佳(plug+編集部)
香椎モイミやKanariaなどのボカロPや歌い手のMVイラストを手掛けている白咲まぐる。今回は白咲まぐるに、イラストレーターになった経緯、ボカロ曲MVの制作工程、ボカロPに思っていることなどをインタビュー。
そして、今回白咲まぐるが「音楽家」をテーマに書き下ろしたオリジナル・イラストのTシャツ/ロンT「calmato」の発売も決定! イラストに込められた思いを読んで、みんなで着よう!
Tシャツ販売サイト:https://t-od.jp/products/calmato-ts-001
ロンT販売サイト:https://t-od.jp/products/calmato-lt-001
目次
イラストレーター:白咲まぐる インタビュー
■白咲まぐる
【Profile】香椎モイミやKanariaといったボカロPや歌い手などのMV/CDジャケットを手掛けるイラストレーター。繊細なタッチと独自の色使いを持ち味に物語性のある作品を制作している。
X(Twitter):https://x.com/maguru_white
『僕は友達が少ない』の表紙イラストに衝撃を受けた
ー白咲さんは、小さいころから絵を描くことが好きでしたか?
白咲まぐる 保育園に通っていたころからずっと好きです。休み時間に絵を描いて周りから“上手だね”と褒めてもらえることが多く、そう言ってもらえるのがうれしくて、今でも続けているのかもしれません。
ーどのような絵を描いていたのですか?
白咲まぐる 兎や猫などの動物をモチーフにしたゆるキャラを描いていました。デフォルメされたかわいらしいキャラクターが好きだったんですよね。
ーその後は?
白咲まぐる 中学生のころには、人物を描くようになりました。当時読んでいた平坂読さんのライト・ノベル『僕は友達が少ない』の表紙に描かれているキャラクターのかわいさに衝撃を受けて、“私もこういう絵を描けるようになりたい”と、練習し始めたことを覚えています。それから高校生まで、ライト・ノベルの表紙でよく見るような、キラキラとした印象のキャラクター・イラストを描き続けていました。今のテイストと、全然違いますよね。大学入学するまでは、世に出ているアニメや漫画のキャラクターを自分の絵柄で描くという、いわゆる二次創作ばかりをしていましたね。
ー好きだったイラストレーターはいますか?
白咲まぐる 秋赤音さんです。人を描き始めた中学生のころから作品を観て参考にしていて、今でも大きな影響を受けています。
ー学校で絵の勉強をしましたか?
白咲まぐる 学生時代に美術部や画塾に通って絵を学んだ経験がなくて、完全に独学なんです。学校に居る間は授業中にノートの端に落書きするくらいで、家に帰ってから絵を描く生活をしていました。
ー美術系の部活に入らなかった理由はありますか?
白咲まぐる 中学も高校も、吹奏楽部に入ったんです。絵は自分でも時間を作って描けるけど、吹奏楽は学校でしかできない活動だなと思って、そうしました。中学、高校とパーカッションを頑張っていましたね。
ー大学ではどのような勉強をしていましたか?
白咲まぐる 京都の芸術大学に進学して、文芸表現学科というところで文章の勉強をしていました。小説を読んで文章の意味やニュアンスを自分なりに解釈して、学科の人たちと“こういうことが言いたいんじゃないか”という話し合いをし、文章や言葉への理解を深めていく学科です。大学で絵を専攻することも考えましたが、入った先で自分より上手い人がたくさん居たら、やっぱり凹むじゃないですか。それが嫌だったし、小さいころから本を読むのが好きだったことと、文章の勉強だったら就職にもつながりやすいかなと思って、選びました。
ー小説を書いたりもしましたか?
白咲まぐる そうですね。自分で小説を書いて、その表紙イラストもオリジナルで描いていました。ゼミの教授にお勧めされて小説のコンクールに応募したりもしましたけど、何かの賞に引っ掛かったりはしなくて。大学生のころには絵の仕事をもらっていたので、正直そっちの方の調子が良くて、周りから“なんで絵の学科に居ないんだ”って言われたりもしていました(笑)。
ボカロPのKanariaからオファーを受けた経緯
ー大学生時代には、どのようなイラストの依頼を受けていたのですか?
白咲まぐる 今も受けている依頼のような、歌い手やボカロPがリリースする楽曲にイラストを付けるというものです。
ー絵の仕事を受けるようになった経緯は?
白咲まぐる 元々自分の絵をTwitter(現:X)に載せていたんです。それを観た歌い手さんが歌ってみた動画のMVイラスト制作の依頼をしてくださり、それが最初のイラストレーターとしての仕事になりました。高校生のころから、友人やネットで知り合った人のSNSのアイコンを描くということはしていましたけど、お金をもらってイラストを描く経験はこれが初めてでしたね。そういった作品を観てボカロPのKanariaが声を掛けてくださり、制作したのが「百鬼祭」のMVイラストです。そこからどんどんMVイラストの依頼が増えていって、今につながっています。絵を描くことは“一人で自由に楽しめれば良いかな”くらいの気持ちで始めたことだったので、今でもこうしてお仕事でイラストを描いていることに、びっくりしているんです。
ー元々歌い手やボカロPのMVイラストを描きたいと思っていたのですか?
白咲まぐる 絵のお仕事の依頼なら基本的に何でも喜んでお受けしていました。ただ元々ボカロ曲が好きだったので、今でもそういった界隈からご依頼をいただいていてありがたいなと思っています。
ーどのようなボカロPの楽曲を聴いていましたか?
白咲まぐる もう活動を辞めてしまった方なのですが、トーマさんという方が大好きでした。私は楽曲でも本でも、ストレートな表現があまり好きではなくて。トーマさんの楽曲は内容に含みがあるというか、解釈の余地が残されている感じがして、込められた意味について自分でぐるぐると考えられるところがすごく好きなんです。
ー大学での勉強がイラスト制作につながった部分はありますか?
白咲まぐる 小説やその表紙イラストを自分で制作して0から一つの作品を生み出したという経験は、“オリジナルでイラストを描けるかもしれない”と思えたきっかけにもなりました。実際にお仕事ももらえるようになって、うれしかったです。
ーお仕事として絵を描くとなると、プライベートで楽しむときとは違って、絵に対する向き合い方や感じる面白さが違ってくると思います。初めてイラスト制作の仕事を受けたときにそういったギャップは感じなかったですか?
白咲まぐる 強く感じましたね。自分以外の人が考えたことを形にするのって、自分勝手な解釈でしてはいけないことじゃないですか。一人で楽しんで描く絵とは違うので、自分勝手に描いたイラストにならないようにその人の意図を汲もうと一生懸命考え込んでしまって、苦しかったです。それでも、細かい縛りがある中で絵を描く楽しさを感じている自分が居たのが、すごく新鮮でした。
ボカロPとMVを作るときのコミュニケーション方法
ーボカロ曲のMVを手掛けた中でも、特に印象に残っているものはありますか?
白咲まぐる 香椎モイミさんの「偏食」です。Twitterなどに載せていた作品を観てくださっていたみたいで、2019年にご依頼いただきました。
ー最初に「偏食」を聴いたときに、どのような印象を受けましたか?
白咲まぐる 重たく、ドロっとしたようなイメージですかね……。香椎モイミさんはピアノにすごくこだわりがあるということもうかがっていたので、その美しさも感じました。楽曲を聴かせていただいた後には、テーマの解説もしていただいて。
ーどういった解説を受けたのですか?
白咲まぐる 主に、曲中に描かれる女性の心情についてです。でもそこまで事細かに教えていただいたわけではなく“この女性はこういった強い気持ちを持っているんですけど、イラストは白咲さんのイメージで進めてください”と仰っていただきました。
ー解説を受けた後、香椎モイミさんとどのようにMVを作り上げていきましたか?
白咲まぐる 私は基本的に、イラストの説明をあまりしないんです。依頼主から求められることも少なくて、依頼を受けて、ラフを提出して本番の絵を描いて、あまり修正もなくそのままOKをもらうという流れが多くて、香椎モイミさんともそういった形でした。
このMVは絵の色が反転したり文字が動いたりするのですが、それは香椎モイミさんご自身が手掛けてくださいました。
ーどういった意図でこのイラストを制作しましたか?
白咲まぐる タイトルの「偏食」と<ねえもう、いっそ。私を食べて?>という歌詞から連想して、食事を絡めた絵にしました。見た目の整った奇麗目の人が少し汚い動作をしているような構図にもしたくなり、女性がお皿を舐めている姿を描いたんです。あとは、メイン・キャラクターの女性に抱いたイメージ・カラーが青だったので、その色で周りを汚しています。
ーなぜ青だったのでしょうか?
白咲まぐる 例えば炎って、赤より青の温度の方が高いですよね。青い炎には何となく静かな印象を受けるけど、実は温度が高い。主人公の女性が密かに秘めている強い気持ちを表現するのにぴったりだと思い、青を選びました。暖色系より寒色系の色の方が合うと思ったのも、理由の一つです。
ー差し色に黄色が使われている理由は?
白咲まぐる 曲中に描かれる、相手の男性のイメージ・カラーです。女性と対になる存在、隣り合わない関係性を示したくて、カラー・サークルで青と向かい合う黄色にしました。
ー白咲さんの楽曲から汲み取ったイメージが随所に反映されているのですね。この作品を制作したことで感じた、特別な達成感はありましたか?
白咲まぐる この作品では私がずっとやりたかった、含みがあって、解釈の余地があるような表現ができたんです。だからこの作品は、私の根幹であり、出発点のようなものになったと思っています。この作品がきっかけでいろいろな人に知ってもらえるようになったということもあり、特に思い入れが強いですね。
ー“人に知ってもらえた”と実感したエピソードはありますか?
白咲まぐる 例えば「偏食」の歌ってみたをする人は、私のイラストを元にMVを作っていたりするんですよ。“自分が生み出した作品を誰かが使ってくれることなんてあるんだ”と、かなり衝撃を受けたことを覚えています。
ー学生時代に白咲さんご自身が二次創作をしていたからこそ、自分の作品が誰かの二次創作の対象になったことが新鮮だったということもありますか?
白咲まぐる まさにその通りです。ファン・アートを描いてくださる方もいらっしゃって、私の作品を良いと思ってもらえたことに加え、絵を描くという労力を割いてくれたこと、その対象に私が選ばれたことが本当にうれしかったです。絵を自分一人で楽しんでいたところがあった私にとって、ほかの方と一緒に絵を楽しめるというのは、とてもありがたくてうれしい出来事だったんですよね。
MVを一枚の絵で表現する難しさ
ー白咲さんは、何の道具を使って絵を描いていますか?
白咲まぐる 中学校に入る前までは、紙とシャープペンシルを使っていました。中学入学後に出会った友人がペン・タブレットを持っていて、使い心地が良かったので真似して購入してから、デジタル・イラストを描き始めましたね。今はラフをアナログで描いて、スキャナーで読み込んだり写真を撮ったりしてCELSYS Clip Studio Paintというイラスト制作ソフトに入れてから、液晶タブレットでのデジタル制作に入ります。ずっと紙とシャープペンシルで絵を書いていた名残で、アナログで線画を描いてからデジタル・イラストにした方が、自分らしい絵になるんです。
ー白咲さんは楽曲のMVを一枚絵で描かれていると思うのですが、一枚だからこその難しさはどんなところにありますか?
白咲まぐる 自分が楽曲を聴いてイメージしたモチーフや色と、依頼主さんから指定が入ったものが違って“一枚絵の中でどうやって作者さんのイメージと自分の考えを織り交ぜていこうか”と考えるときに、難しさを感じます。
ーイメージが真逆だったことってありますか?
白咲まぐる 過去に一度だけあって、依頼主さんの要望を反映して“こういった感じになるのですが本当に大丈夫ですか?”というようなことを言ってしまったことがあります。基本的にはご指定いただいた通りに描くのですが、私に依頼してもらった以上、どこかに必ず私らしさを入れなければならない、そうでないと意味がないと思っているので、いただいた要望の意図を汲み取ろうとして聞きました。
白咲まぐる描き下ろしオリジナルイラストTシャツ「calmato」
ー今回「音楽家」をテーマに、イラスト描き下ろしていただきました。どんなイメージで制作をしましたか?
白咲まぐる 私は音楽家に、魔法使いのようなイメージを持っています。形のない思いや考えを、音を使って作品にする……“どういう感覚で制作しているのだろう”と不思議でならないんです。音符を指揮する人というイメージも付け加えたかったので、魔法使いに指揮棒を持たせています。
ー音楽を生み出すということは、白咲さんにとって魔法のように不思議なものなのですね。
白咲まぐる 絵も小説も手で触れるものだけど、音楽は触れないじゃないですか。その触れられないものを作れるというのが、とても不思議なんです。あと音楽には、拍子だったり、音符の組み合わせだったり、リズムの付け方だったりと、ある程度美しいとされている決まりがあるじゃないですか。そういった中で、音楽家の方たちは独自の表現をされている。しかも時の流れとともに進化して、聴き手に受け入れ続けられているというところを、本当に尊敬しています。
ー描き下ろしていただいたキャラクターの性別は男女どっちも取れるなと思うのですが、意図的に分かりづらくしていたりしますか?
白咲まぐる 観る側に解釈を任せたいという思いがあって、オリジナルで描くキャラクターはほとんどそうしています。性別が分かってしまうとそこにテーマが生まれてしまうので、それを防ぐために性別が分かるようにしないんです。
ー白咲さんのイラストはやはり、キャラクターの顔が魅力的ですよね。
白咲まぐる 私は、顔を描くことが一番好きなんです。最初に取り掛かって、納得が行くまで何度も修正して……良い顔が出来上がったらやっと周りの制作に移るので、そう思っていただけるんじゃないかと思います。
ーMVイラストが楽曲に対してできることってどんなことだと思いますか?
白咲まぐる 楽曲の魅力を可視化できるところだと思います。例えば海外の音楽が流れてきて“良い曲だな”と思っても、その言語が分からなかったら歌詞に込められた意味は聞き流されてしまいますよね。そういった、魅力であふれているのに聴き流されてしまうような部分をイラストとして可視化して、観てもらう。そして作品を受け取る人の解釈を少しでも助けるというか、広げることができたら良いなと思っています。
ー今後やってみたいことはありますか?
白咲まぐる 昔から、小説の表紙イラストを描くという夢があるんです。今は昔と比べて細かい装丁のお洒落な小説が増えているし、知っているイラストレーターさんがイラストを手掛けられていたりするので、私もその横に並べたら良いなと思っています。
白咲まぐる「calmato」販売情報
■白咲まぐる「calmato」Tシャツ販売サイト:https://t-od.jp/products/calmato-ts-001
■白咲まぐる「calmato」ロンT販売サイト:https://t-od.jp/products/calmato-lt-001
■『#音の絵師』オリジナルTシャツ販売サイト:https://t-od.jp/collections/otonoeshi
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