取材・文:鹿野水月(plug+編集部)
中島敦『文字禍』×しきみイラスト/乙女の本棚シリーズ
文学の名作を色彩豊かなイラストとともに楽しめる=乙女の本棚シリーズ第42弾として、中島敦『文字禍』が発売された。
本書のオリエンタルな世界観をイラストとともに体感できる一冊になっている。今回は本書のイラストを手がけたしきみにメール・インタビューを敢行。本書を手に取った方にも、手に取る前の方にも、是非とも楽しんでほしい。
■しきみ プロフィール
イラストレーター。東京都在住。『刀剣乱舞』など、有名オンライン・ゲームのキャラクター・デザインのほか、多くの書籍の装画やファッション・ブランドとのコラボレーションを手掛けている。著書に『恋愛論』、『夜叉ヶ池』、『悪魔』、『詩集『青猫』より』、『魔術師』、『桜の森の満開の下』、『夢十夜』、『押絵と旅する男』、『猫町』、『夜話 Forgotten Fables』、『獏の国』がある。
X:https://x.com/keeggy
イラストレーターしきみ インタビュー
ー『文字禍』は今回初めて読みましたか?
初めて読みました。中島敦作品はそれまで『山月記』しか読んだことがなかったのですが、ストーリーや台詞のインパクトの強さからずっと記憶に残っていました。どちらも少し寓話的な要素があって不思議なお話ですよね。
ー『文字禍』を読んでみてどのような感想を抱きましたか?
良い意味で、とても変なお話だなと思いました。古代アッシリアというなじみのない舞台なこともあって、あまり現実味はないのですが、感覚的なところでは共感できる部分もあり、不思議なバランスがとても魅力的です。
ー『文字禍』の挿絵を手掛けるに辺り、積極的にインプットしたり、調べて学んだりしたことなどはありましたか?
古代アッシリアについて全く知識がなかったので、当時の歴史や衣食住、神話について調べました。見知らぬ文化ばかりで調べていて楽しかったです。
ー“文字の精霊”という中島敦が用いたモチーフに対して、しきみさんはどのように理解し、解釈を進めていきましたか?
書物にのめり込むことで現実を見なくなったり心身に影響が出ることを、“文字の精霊の作用である”としている物語なのだろうと思います。現代人に置き換えるならば、もしかしたらインターネットの精霊ということになるのかもしれません。
ー古代アッシリアを舞台にした作品であるからか、登場人物の衣装のオリエンタルなムードが魅力的だと思います。人物の衣装を考える際に、参考にした作品などがあれば教えてください。
登場人物の衣装の構造などは『世界服飾史のすべてがわかる本』を参考にさせていただきました。あらゆる時代の服飾のポイントが分かりやすくまとめてあるので、とても便利で助かっています。
ー文字の精霊、老博士、その他精霊たちのキャラクター・デザインの際に、どのような要点に注意を払いながら考案していきましたか?
■文字の精霊
白髪は、文字を書く紙のイメージです。当然、古代アッシリアに現代のような紙はなく、文字を書くのも石板だったのですが、文字の精霊という霊的な存在なら時代を超越したイメージを盛り込んでもいいのかなと思いそうしています。肌に文字をイメージした紋様がランダムに浮かんでいるデザインは、石板に刻まれる文字のイメージです。女性の姿にしたのは、本文中の「仔を産んで殖える」という描写からの印象です。
■ナブ・アヘ・エリバ老博士
精霊に翻弄され悲惨な結末を迎える老博士です。あまりシリアスになり過ぎるのも『文字禍』の印象と合わないなと思ったので、あえてサンタクロースのようなコミカルなデザインにしています。
■リリツ
いかにも女悪魔らしい露出の多めなデザインにしています。サソリの尾があるという説もあるため取り入れました。
■疫病をふり撒くナムタル
後述のエレシュキガルの部下であるため、彼女と同じ紋様の衣装を着せています。
■誘拐者ラバス
子供を誘拐する魔女なので、悪霊であることがわかりやすいよう上記のリリツ、ナムタルと合わせて紫~黒系統の色で着色しています。
■死神エレシュキガル
紫~黒系統の色で着色しているのは上記の悪霊たちと同じなのですが、冥界の女神なので髪型や衣装を豪華にしています。
■明智の神ナブウ
文字の精霊が仕えている知恵と書物の神様なので、文字の精霊と似た髪色、似た衣装でデザインしました。
ー人間である老博士と精霊たちの表情の違いから、それぞれ二つの並行する異世界が共存する古代アッシリアの雰囲気が伝わってきます。キャラクターのムードで異なる二つの世界を描き分けるためにどのような注意を払いましたか?
描き分けられていたらいいなと思っていたので、そう言っていただけて嬉しいです。人間世界を生きる人間たちは感情豊かに、精霊たちは人知を超えた存在として得体の知れない表情にしています。文字の精霊は挿絵の初登場時は無表情で、しばらくは薄笑いを浮かべているのですが、最後にまた無表情に戻ります。
ー現在読者の方々の手に『文字禍』が渡っていますが、どのようなところを楽しんでもらえたら嬉しいですか?
「暗い所で本を読みすぎると目が悪くなるよ」と私も子供時代によく言われたものです。時代や国が違っても、人間に起きる問題や悩みなんて変わらないのかもしれません。オリエンタルな色使いや衣装、異国の神様たちの姿と一緒に、この不思議な物語の行く末を楽しんでいただけたら嬉しいです。
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