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取材・文:鹿野水月(plug+編集部)

カフカ『断食芸人』×ウミ乃 イラスト/乙女の本棚シリーズ

 文学の名作を色彩豊かなイラストとともに楽しめる=乙女の本棚シリーズ第48弾として、ウミ乃『断食芸人』が発売された。

 今回は本書のイラストを手掛けたウミ乃にメール・インタビューを敢行。本書を手に取った方にも、手に取る前の方にも、ぜひとも楽しんでほしい。

■ウミ乃 プロフィール
イラストレーター。にじさんじなどのVTuber関連のイラスト制作を多く手がけている。作品が掲載された書籍に『美男子イラストレーターズファイル』などがある。
X:https://x.com/uminonew

イラストレーターウミ乃 インタビュー

ー『断食芸人』は今回初めて読みましたか? 他のフランツ・カフカ(以下、カフカ)作品など含めお気に入りなどがあった場合、ウミ乃さんが感じるその魅力について教えてください。

 カフカ『断食芸人』は、今回のお話をきっかけに初めて拝読しました。お恥ずかしながらすべての作品を網羅しているわけではなく、有名な一作である『変身』も今回改めて拝読しました。共通して、カフカ独特の世界観と、孤独を感じる読後感が魅力だと感じました。

ー『断食芸人』を読んでみてどのような感想を抱きましたか?

 言葉を選ばずに言うと、本当に頑固で偏屈な人物が主人公だと思いました。あくまで個人の感想ですが主人公の断食芸人は、作中通して内面や信念、執着に芯があり、他人によってそれが変わることはありません。変わっていくのは周囲であり、環境であり、時代です。主人公に想いを馳せることは多々あれど、良い意味で感情移入しづらく、その面でも徹底して“鑑賞対象”であった印象を受けます。

ー『断食芸人』の挿絵を手掛けるに辺り、積極的にインプットしたり、調べて学んだりしたことなどはありましたか?

 物語を読んだ後、まずカフカの生涯を追いました。加えて、カフカの生きた時代の通貨や時代背景を調べました。時代が大きく変われば一般的とされる倫理観も変わるため、そこがずれないように調べましたが……あまり反映できているかは分かりません。また登場する小物や人物描写も、フィクションを大いに取り込んでいます。あくまで物語を読むのは現代の人々であるため、分かりやすいように、また小説が主役でありつつも画集として見栄えのするように心掛けています。

ー好きなイラストレーターや画家などが居らっしゃったら、その方のお名前と、ウミ乃さんが魅力的だと感じる理由を教えてください。

 イラストレーターも画家も好きな方がとても多く、名前を挙げるとすごい数になってしまいます。直近だと、伊藤若冲の作品集をよく見ています。それから浮世絵が好きで、特に有名どころで言えば喜多川歌麿の美人画や、歌川広重の作品が好きです。総合して考えると、繊細な筆遣いが好きなのかもしれないと思います。

ーキャラクター・デザインの際に、どのような要点に注意を払いながら考案していきましたか?

◼︎断食芸人(冒頭)
 とにかく主人公しか顔を描かないと決めておりましたので、作中通して描写される主人公そのものの外見に変化を持たせたいと思いました。冒頭は、黒髪短髪の青年です。あまり特徴を持たせず、衣類もシンプルです。

◼︎断食芸人(後半)
 一方後半は、白の長髪という形で大きく変化します。時の流れを“髪の長さ”、“色の変化”で表現しています。衣類についても後半になるにつれて刺繍やリボンなどの装飾を増やしています。実際には、やつれ、襤褸(ぼろ)を着ているはずの『断食芸人』をあえて逆の方向性で描くことで違和感を持たせるようにしています。また、身体から木や花を生やすことで、自然に還っていく=死に近づいているイメージとしましたが、あまり全てを解説しすぎるのも恥ずかしいでしょうか……。とにかく変化を持たせること、“小説としても画集としても楽しめる”ことに注力し、ページをめくる皆さまの目を楽しませることができるように気を付けました。

ー作中には見張り役、興業主、観客、サーカス団の人々などさまざまなキャラクターが登場していますが、顔までしっかりと描かれているキャラクターが断食芸人のみである理由は?

 断食芸人の最期までを書いた本作において、断食芸人が鑑賞対象であることを強く意識しました。そのため、鑑賞対象でないもの=さまざまなキャラクターの顔は描写したくないなと思いました。

ー断食芸人は基本的に監禁されていて、檻の中に居ます。しかし、ウミ乃さんはそんな断食芸人の周囲にどうしてバラの花々や、豪華絢爛なインテリアなどを多数描いているのですか?

 今回描かせていただいたイラストたちは、心理をあらわした描写と、現実の描写を混ぜて画面を構成していることが多くあります。例えば冒頭の時計は、断食期間を強く意識する主人公の心理を表した描写です。花々については、上記と重複しますが“身体から木や花を生やすことで自然に還っていく=死に近付いているイメージ”を意識しました。フィクション、幻覚としての花です。基本檻の中にいる断食芸人ですが、何十日も断食をしている人間の視界は正常でしょうか。私は、幻覚でも見るんじゃないだろうかと思います。

ー時折、断食芸人に絡みついて描かれている赤いリボンは何の象徴ですか?

 時代は変わりゆくのに抜け出せない、自分に絡みついて離れないもの=断食芸そのものの象徴として描いています。本人からは素晴らしいものに見えているのだと思いますので、綺麗で美しいリボンで表しています。

ー現在読者の方々の手に『断食芸人』が渡っていますが、どのようなところを楽しんでもらえたら嬉しいですか?

 拙い部分も多々ございますが、一生懸命考え、楽しく制作した一冊です。また翻訳文がとても素晴らしく、小説のみの側面でご覧いただいても、勿論お楽しみいただけます。イラストと併せて、楽しい読書体験の一つにしていただければ大変嬉しく思います。

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