Text:Mizuki Sikano
和楽器を用いて美しくセンチメンタルな曲を作るボカロP=羽生まゐご。デジタル感の強いボカロを中央に据えながらも、ゆるやかなテンポと浮遊感で聴く者を穏やかな気持ちにさせる妙が持ち味だ。そんな彼も愛用してきたv flowerが、エディター・ソフトのCevio AIで操作可能なバージョンCi flowerとして新たに発売されることになった。ダウンロード版は3月10日、パッケージ版は3月31日にリリース。明日2月25日12時から予約販売がスタートする。
この企画は、羽生まゐごがv flowerとともに行ってきた過去の制作について尋ねる前編と、羽生の最新曲「我愛メイデン」で新発売のCi flowerを使ってみた感想をインタビューする後編で構成。羽生まゐごの制作を共に振り返るとともに、ぜひCi flowerの真価も一緒にチェックしてみてほしい。
目次
Ci flower(Cevio AI)レビュー
Cevio AIの主なパラメーター
Ci flowerを触ってみた感想
―前編のインタビューの通り、羽生さんにはv flowerとのキャリアがあると思います。その上で、今回Ci flowerが出ると聞いた際は、率直にどう思いましたか?
羽生 いやぁ、テンション上がりましたね。このインタビューのために一足先に使わせていただいたのですが、使って比較していても面白いなと思いました。
―AI技術を搭載するCevio AIへflowerが仲間入りするということで、エディター・ソフトが変わり何か声質の印象に変化はありましたか?
羽生 聴いてみた印象では、アタック成分を聴くとめちゃくちゃv flowerと通じているんですよね。リリースの部分、伸びた声が艶っぽくて色気があると思うんです。僕の中でv flowerって男でも女でもないと思っているんですが、Ci flowerには少し女性的な声の成分を感じます。
―エディター・ソフトは以前YAMAHA VOCALOID Editor for Cubaseを使われていたと思いますが、Cevio AIに移り、実際に制作する際の操作が変わっていかがですか?
羽生 この右側に付いている“声質”パラメーターは、VOCALOID Editor for Cubaseで言う“GEN”に近い操作感だと思いました。下げたら中学生ぐらい幼くなる、上げたらオペラ歌手ぐらい大人っぽくなる、身体の大きさが変わって聴こえるイメージです。
―身体の大きさがイメージできるって面白いですね。
羽生 オペラ歌手というか、お腹から声を出すような歌い方にさせたいときはパラメーターを上にすると良いんでしょうね。つまり、パラメーターを下にすればするほど口先で歌った感じの声になります。
―パラメーター操作によって人間のボディ的な変化が見えると。
羽生 あとルーム感も変わります。上に行くと広い空間に声が響くようなイメージになるので、リバーブが深くて壮大なサウンドのオケと相性が良いと思うんですね。一方で、下に行くと声が近くなる印象なので、ルームっぽい音楽に合うんじゃないかなと思います。
―羽生さんはv flowerの真顔なところが好きだと言っていましたが、表情とかもパラメーターで変わるのでしょうか?
羽生 パラメーターを上げると少しずつ中低域の音が足されていくような変化があるので、口角が下がる感じはしますね。
―羽生さんはCi flowerをどのような設定で使いましたか?
羽生 僕は今回声質のパラメーターを0.66ぐらいに設定して使用しました。今「我愛メイデン」という曲を作っていて、浮かんできたイメージに従った結果の値ですね。
Ci flowerを最新曲「我愛メイデン」のコーラスで使用
―「我愛メイデン」はどのようなことを考えて制作した楽曲でしょうか?
羽生 恋する女の子が主人公の歌で、雰囲気的に春っぽいイメージで作っていたので、春も間近な2月14日バレンタイン・デーに合わせて公開することにしました。サウンド的にはAメロやBメロでは弦楽器を使いサビの後半や間奏で二胡が入ってくるんですけど、この音が主役になっています。
―この前奏の弦楽器は何ですか?
羽生 前奏のメイン・リフはEASTWEST QL Silk内にある中国琵琶の音なのですが、これが面白い楽器なんですよね。チープというか細くて、だから抜けは良くて、日本で言うと三味線とか琵琶の音に近いですね。
―この主役の楽器を二胡にした理由は?
羽生 奥行と厚みを出すためです。サビでもし“plucked”系の弦楽器(編註:撥弦楽器を指や道具ではじいたときのリリースが少ない音)を使うとなると、空間を埋めるためにボカロの歌メロを早口の激しい感じにしないと隙間が埋まらなかったり今回は穏やかなメロディで行くために、“plucked”系の弦楽器よりは太い音で鳴ってくれる二胡を選びました。
―メイン・ボーカルは初音ミクですね。
羽生 そうですね。Ci flower やv flowerとかも試したのですが、最終的にはメイン・ボーカルを初音ミクに歌唱させています。そんな中でCi flowerのお話をいただいていろいろと使う機会があったので、今回のサビのコーラスはすべてCi flowerにしました。
―メインが初音ミクだから、コーラスもミクにしようとは?
羽生 そう思って試しはしたんですけど、ミクをコーラスにするとチルなムードが高まってしまって、迫力とかもそんなに無いから、全体的に落ち着いちゃうんですよね。
Ci flowerとv flowerはアタック成分が似ている
―なぜCi flowerをコーラスに採用したのでしょうか?
羽生 v flower をメイン・ボーカルにして様子を見ていたときに、Ci flowerをコーラスへ使ったら、ピッタリハマったことがきっかけでした。v flowerと似ていて異なる要素を孕んだCi flowerならば、重ねたときにとても自然になるんですよ。この組み合わせは非常に使いやすいなと。ボーカルをダブらせたいときに、人間がボーカルならテイクごとの違いは絶対に生じるのでスムーズに重ねられるじゃないですか。でもボカロは基本的に同じ波形を出してくるので、コーラスのように多重違いを生ませるのにすごく苦労していたんです。
―確かに、なかなか同じデータに差を付けようと加工を施すのは、制作時では意外と時間を食ってしまう手間ですよね。
羽生 そうなんですよね。だから、メインとオクターブ下のメロディを同じボカロが歌唱することがあっても、コーラスには他のボカロを使わないと機能しないんです。それで異なるキャラクターのボカロ同士をなじませることは課題になるんですけど、v flowerとCi flowerを同時に鳴らすとすごく気持ち良いというのを知れたので、次からはこれを生かして曲作りをしてみたいと思いました。
―今回は初音ミクと組み合わせてCi flowerを使っていますが、v flowerと合わせて使うとまた違う気持ち良さがあるのですね。
羽生 結局のところCi flowerとv flowerは音の個性を表すアタック成分がほぼ同じなので、ただピッチを合わせて重ねただけでも自然に音圧感がアップしたり、かなり気持ち良い響きになるんです。
自動調整が新たなアイディアに
―エディター・ソフトのCevio AIを触るのは今回初めてだったと思いますが、何か触って気付いたおすすめのパラメーターなどはありますか?
羽生 一番は、“声質”メーターじゃないですかね。これは初めて触りましたけど、めちゃくちゃ便利です。動かすだけで簡単にキャラの方向性を決められるじゃないですか。僕は下げた方が抜けが良くなるので下げ目で使いましたけど、やっぱり変更したいと思ったときに細かいパラメーターに手を入れていく必要が無いのは素晴らしいと思います。
―メロディはDAW上で作ったものを流し込んで?
羽生 そうですね。MIDIファイルをタイム・ラインにドラッグ&ドロップして制作を始めたのですが、この時点でもう自動でいろいろと調整してくれているのはすごい。例えば、僕は細かい調声をする方ではないんですけど、ボリュームが自動で低いところから上がるようにパラメーターが書かれていたり、ベタ打ちするだけでどんどんニュアンスが加わっていくのは面白いですね。
―普段はやらない調声が自動で加わるので、自分の中からは出てこない新しい表現ができる?
羽生 そういうのもあるかもしれないですね。僕はあまりボカロの打ち込みテクニックを持っていないんですよ。どちらかと言うとDAW上のエフェクトで頑張るタイプだから、普段やらないアイディアが少し入ってくることは新鮮でした。
―羽生さんがv flowerの方でよくやる調声をCi flowerに施したりも?
羽生 ありましたね。毎回サビとかで、盛り上がる高い音を裏返す表現をよくするんですけど、これはflowerの美味しい部分が出せるお気に入りの表現なんです。Ci flowerでもピッチ調整でペンツールを使い、一回音を上に飛ばして戻す処理をして裏返してみたら、欲しい音が出てきてくれて良かったなと思いました。
―そこにビブラートとかも?
羽生 一緒に入れましたね。でも僕は普段から、GENとBRIとピッチとビブラートの値くらいしか変更しないです。よくやるのはボカロに落差が激しいビブラートを加えると、泣いているみたいになるんですよ。そういうビブラートで感情表現をさせるのが好きです。
―ボカロPの方とお話しすると“ミクに歌を上手く歌わせたい”といった趣旨で調声を頑張る方も多いけれど、羽生さんの調整に対するモチベーションはそこじゃないんですね。
羽生 僕はボカロに歌を上手く歌わせようとは全く思っていないですね。曲の一部として歌が上手くなくても良い響きになっていると良いなと考えている感じです。例えば「我愛メイデン」では、後半で“痛いな痛いな悪い子になってほしいな”と“私はなんか暗いな”という歌詞が出てくるんですけど、そこでBRIを思いっきり下げたりすると悲しい感情を表現できたりしますね。暗いの“ら”で一瞬ビブラートを入れて泣いているようにさせたり。
―曲のメッセージを盛り上げるために“感情の調声”が必要なんですね。
羽生 僕は打ち込みとかが苦手なのでその分その言葉で聴き手に何が伝わるのかは追求したいと思っています。
Ci flowerが作風にもたらす変化
―前編のインタビューではv flowerの攻略に手間取ったとお話しされていましたが、Ci flowerはもう攻略できましたか?
羽生 いや、“本当に使いこなせた”まで言えるようになるにはこれからって感じですね。v flowerを最初に手にしたときも大変でしたし。Ci flowerについては操作面がシンプルになっているんですけど、やっぱりflowerだから声質にはしっかり癖があるんですよね(笑)。でも僕はそこがflowerの魅力だと思っているから、これからちゃんと向き合ってみたいと思います。
―羽生さん自身は、今後Ci flowerを用いたボカロ曲制作に対して、どのようなビジョンを抱いていますか?
羽生 これすごい重要な視点ですよね。まず僕にとってv flowerは、男の子が主人公の曲を作っていくきっかけになった存在なんですよ。それまでは女の子の曲ばかりを作っていたから。それでちょうど最近、女の子目線の曲を書きたい気持ちに戻ってきていたんです。そこでCi flowerと出会うことができたので、これから向き合っていけば何か作風で変化があるんじゃないかと思っています。
―どんな方にCi flowerをおすすめしたいですか?
羽生 やっぱりv flowerを使ってきた方々にとっては、Ci flowerが新しい表現が広がるきっかけになることは間違いないと思うんですよ。僕自身もその一人だと思うし、実際にv flowerを初めて手にしたときのような新鮮な気持ちを今味わえています。可能性を模索できるのが、とても楽しみです。
―Ci flowerが羽生さんの表現にどういった変化をもたらすか楽しみです!
羽生 そうですね。ボカロPは皆それぞれ個性を出して生きていかないといけない中で、調声も皆と一緒だとダメだなと思うんです。僕もこれからCi flowerを使う上で、自分なりの世界を見つけようかなと思います。だから、もしこういうインタビューとかをいろいろ読んで表現に悩んでいるボカロPたちがいるなら、僕の意見も取り入れつつ、他の人のDTMテクニックとかも盗みつつ、最終的な目的として“どうしたら自分のやりたいことと上手く融合できるか?”というところに注力して、自分だけの世界を作っていってほしいです。
Ci flower情報
■公式HP:https://ci-flower.jp
■問合せ:株式会社インクストゥエンター
■Ci flower Twitter:https://twitter.com/Ci_flower_
■イラストレーター:おぐち
■ラインナップ:
・Ci flower限定グッズ付スターターパッケージ(ソング・エディタ+ソング・ボイス)
Amazon
・Ci flowerソングスターターパッケージ(ソング・エディタ+ソング・ボイス)
・Ci flowerソングスターターパック DL版(ソング・エディタ+ソング・ボイス)
Amazon、DMM.COM、DLSite (JP版)、DLSite (US版)
・Ci flowerソングボイス DL版(ソング・ボイスのみ)
Amazon、DMM.COM、DLSite (JP版)、DLSite (US版)
■価格(全てオープン・プライス):21,780円前後(Ci flower限定グッズ付スターター・パッケージ)、21,780円前後(Ci flowerソングスターターパッケージ)、20,900円前後(Ci flowerソングスターターパック DL版)、10,780円前後(Ci flowerソングボイス DL版)
【SPECIFICATIONS】
■対応言語:日本語(英語歌詞対応)
【REQUIREMENTS】
■Windows:10以降(64ビット対応)
■CPU:Intel/AMDデュアル・コア・プロセッサー以上(クアッド・コア以上を推奨)
■メモリ:4GB以上のRAM(8GB以上推奨)
(C)2023 Ci flower
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