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企画/編集:Mizuki Sikano

作曲家のケンカイヨシが、ネットカルチャーのシーンで活躍するボカロPなど作曲家の楽曲分析をして、さらに「合ってますか?」と本人に答え合わせをする新連載『この楽曲分析、合ってますか?』。

 

初回は、「人マニア」のヒットで注目を集める原口沙輔が登場。

原口沙輔が解説する「人マニア」

原口沙輔×ケンカイヨシ 対談インタビュー

ー新しく始まる連載「この楽曲分析、合ってますか?」ですが、これは作曲家のケンカイヨシさんの楽曲分析をご本人に渡して答え合わせする企画で。原口沙輔さんにはその初回に登場していただきます。

原口沙輔(以下、沙輔) 面白いですよね。通常レビューって一方的にされるものなはずなのに、この企画には確認のターンがある(笑)。

ーもし沙輔さんから見て気になるところがあれば、反論できるようになっています(笑)。

ケンカイヨシ(以下、ケンカイ) 僕はちょっとドキドキしちゃうよね(笑)。沙輔とは5年くらい友達の仲だから音楽的なルーツも知ってるけれど、それでも「人マニア」は“何じゃこりゃ”って“ヤベえな”って思う作品だったので、僕から見えたこの創作の景色をなるべく先入観なく言葉にしてみたんだけど。

◀︎【まずはこの記事をチェック】ケンカイヨシによる「人マニア」楽曲分析

「人マニア」に流れる2000年代ハウスの要素

ー沙輔さんは事前にお送りしたケンカイさんの原稿を読んでみていかがでしたか?

沙輔 解釈が面白いなと思って。

ケンカイ まず一つ目にグリッチハウスを思い浮かべたんですよね。アクフェンがやっているみたいな、ラジオから切り抜いてきた音声とギターコードが代わる代わる入ってくる感じの表現が「人マニア」にもあると思う。特にアクフェンっぽいのは、あらゆるサンプルが同時に鳴らないこと。チャンネル変えたみたいな感じになるのは、グリッチハウスらしさだなって。

沙輔 なるほどね。

ケンカイ あとはイントロとサビの部分で、ベースメント・ジャックスみたいな、2000年代のハウスの感覚が流れていると思いました。

ーその2000年代のハウスの感覚というのは、具体的に言うとどのような?

ケンカイ 一言で言うと、1990年代より情報量が多いんです。そして、音数もさることながら使う音がすごい変になった。

ちなみに1980年代の音楽は“音楽知識ないけど勢いで作りました”的な下品さがあったのが、ベースメント・ジャックスも、アクフェンも、ダフト・パンクとかもそうですが、1990年代のハウスは1980年代のものと比べて上品になった。マスターズ・アット・ワークが出てからは生楽器とかも使うようになって、ミニマリスト的な音の使い方が増えたんですよ。

ーハウスがヨーロッパに広がっていった影響や、機材の変化などもいろいろとあるかもしれないですね。

ケンカイ そうですね。ハウス・ミュージックっていうもの自体が1990年代以降世界中に定着して、ポップ・ミュージックでも当たり前に使われる形式になっていったじゃないですか。ポップスでハウスが定着すると“ハウスでどれだけ遊べるのか”っていう人も増える。全然関係ないジャンルが突然流れ込んできたり、ルール無用で自由な雰囲気になるんですよ。

ダフト・パンクは『ディスカバリー』でフランスの1970年代とかからあるようなディスコ・サウンドを再解釈したりしますけど、2000年前後のハウスではいろんなジャンルをごた混ぜにする上モノのカオスを、下から4つ打ちのリズムで固定してるみたいな感じがありました。

ーその要素が「人マニア」にも流れている?

ケンカイ やっぱり音的に進化してるからより贅肉が削ぎ落とされている感じもしますし、プラグインの進化によってミックスでもっと上手くまとまっている印象も受けますけど、やっぱりそういう感じはします。さて、沙輔さん、そこら辺の影響とかは?

沙輔 的を射ているところもあったりしましたよ。僕が、それこそやっぱり“ゴチャッとしたものと、めちゃくちゃシンプルなものとが流行として繰り返されてる”と思っていて。だからもうそろそろ“ゴチャッとしたいんじゃないかな?”って思ったんです。

僕がそれで「人マニア」を作る前に、リスナーがいかにしてポップって認識してるのかを考えていた時期に、それこそベースメント・ジャックスを聴いたんですよ。

ケンカイ 聴いてた!

沙輔 そうなんですよ。“これ、めちゃくちゃポップじゃない?”と思って。実際、その当時はヒット・チャートにも入りましたし、ヒット・チャート以上にクラブで聴かれていて、もしかしたら、そのときチャート1位だった人よりも、実際は多くの人数が聴いてたかもしれないくらいシェアされていたわけですよ。このときはそのゴチャッとした勢いもあるから、“もうちょっと整えてやりたいな”と思った。それで日本でそれをどう届けたらいいのか考えたときに、音MADが浮かんで。

音MADの表現をボカロ音楽に落とし込んだ

ー音MADは、ニコニコ動画(以下、ニコニコ)などで公開されていたオーディオや音楽コンテンツを切り張りして作られていた映像作品、二次創作の一種のことですね。

沙輔 音MADって日本の文化ですけど、海外のネット・ミームでリズム系のものがあったりするのでその文脈を汲もうとしています。でもそういうものを使おうとすると著作権的に本当にアウトだったりするから、“セーフな音MADを公式でリリースできたら面白いな”みたいな発想をしました。完全にカートゥーンって分かるようなサンプルとかは使わないようにしているのは、やっぱり日本でやる音楽だからということと、ボカロだからっていう理由です。

ケンカイ 音MADは俺が子供のときにちょうど流行り始めたんだよね。ネットのいろいろ訳分かんないものをめっちゃリズミカルにして、本当にリズムの快感だけが残るっていう。みんな一銭にもならないのに本当に原初的な創作意欲だけでやってたから、めっちゃ面白くてクリエイティブだった。

沙輔 実際、商業のめちゃくちゃ有名な映像作家さんとかが、別名でやってたりするんですよね。企画屋とかだったりする人たちによる、高クオリティの趣味みたいな。

ーここでお話しするまで、勝手にクリスチャン・マークレーやコーネリアスのライブパフォーマンスからの影響を受けているのかと想像していたので、実は音MADだったというエピソードがとても面白いです(笑)。

沙輔 ちなみに、もちろん好きです。

ケンカイ 渋谷系の人も、カット・アップでサンプリングするもんね。

沙輔 もう一つ影響をあげると、ジェーン・リムーバーという方がDLTZK名義でダリアコアっていうジャンル……本人が否定して今はハイパーフリップっていう呼ばれ方をしている音楽があって、いろいろな欧米のヒット曲を同時に流して曲を作る手法なんですけど、SoundCloud(以下、サンクラ)にアップされていたんです。ハイパーフリップのほかに、ジャージー・クラブとかも参考にしてます。そういうジャンル横断的なものに目覚めたきっかけはベースメント・ジャックスですね。

ケンカイ ベースメント・ジャックスはクラブ・ミュージックとしてちゃんと成り立ってるにもかかわらず呪縛から解放されていて、俺も衝撃を受けた。“こんなにポップでいいんだ”みたいにも思えたし。

沙輔 ポップだし、ロックな気がするんですよね。

ケンカイ ブラック・ミュージックの要素とかも入ってるけれど、根本的にはパンクだよね。

沙輔 パンクの乱暴さが若者に刺激になるわけじゃないですか。前に1回「これをやるべきだと思います」っていう話を電話でしたことがありますよね。

ケンカイ いや、ガストで話した気がする。

沙輔 若い子が聴いてるのって今はもう歌詞とかじゃなくて、リズムとか音なんですって。今まで音楽家は「みんな歌詞しか聴いてないから」が文句だったのに今、逆が起こっている。だから、全体の雰囲気で聴いてるリスナーにMADを届けてみようと。

誇張J-POPでポップスを愉悦性を突き詰めた

ーポピュラー音楽の持つ要素を分解し再構築するにあたり、ボカロとMAD的な表現で誇張していく感じ……?

沙輔 あ、そうですね。ポップスの誇張モノマネをやってるみたいな。誇張J-POP。

ケンカイ ハリウッドザコシショウだったのか……。

沙輔 元々の名義でJ-POPに寄り添おうとしてて、そのアプローチに限界を感じていたので、一旦諦めて“自分ができることで、どれだけJ-POPを誇張してやるか”みたいな方向に変えたんですよ。

ベースメント・ジャックスとかは、当時、クラブ・ミュージックとして認識されましたけど、そのときのポップスの誇張をしていたんじゃないかって僕は思ってて。全部サビかと思ったら、急に終わる直前くらいにBメロみたいなところが来るみたいな構成で。それが新しいジャンルになったみたいな。

ケンカイ “作る前に、頭の中で設計図を作ってないんだな”っていう感じがするよね。「Good Luck」なんてAPPLE Logicのメトロノームの音そのまま入れたりしているし、「Red Alert」とか明らかに声が割れ過ぎてるところとかあるけど、音楽の愉悦性が突き詰められていたらそれで良いって感じなんですよ。それは今の若いリスナーが求めていることとリンクしていて、間違いなくTikTok、YouTubeショートの影響だよね。

ー確かにTikTok、YouTubeショート動画の編集って、MADの気持ちいいとこだけ集める感覚とリンクしている気がしますね。

ケンカイ パンチラインが欲しいみたいなね。

沙輔 やっぱりMADの感覚ってTikTokとかにもあるんですよね。「人マニア」は著作権をクリアしてるから、合法のドラックみたいな感じがあると思います。音MADは下手したら、普通のポップスより魅力があるんじゃないかな?

ケンカイ この話を通して「人マニア」は、音MADのポップ化って言われるのは、すげえ納得いく。

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