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企画/編集:Mizuki Sikano

作曲家のケンカイヨシが、ネットカルチャーのシーンで活躍するボカロPなど作曲家の楽曲分析をして、さらに「合ってますか?」と本人に答え合わせをする新連載『この楽曲分析、合ってますか?』。

 

初回は、「人マニア」のヒットで注目を集める原口沙輔が登場。前編のおまけとして歌詞についても少しお話しいただきました!

原口沙輔が解説する「人マニア」の歌詞

原口沙輔×ケンカイヨシ 対談インタビュー

ー前編では、2000年代ハウスや音MADからの影響を語っていただきました。ちょっとケンカイさんの原稿からは脱線しますが、歌詞についても少しお話ししてみましょうか。

ケンカイヨシ(以下、ケンカイ) 『この楽曲分析、合ってますか?』はサウンドの分析企画だから原稿では触れなかったけど、「人マニア」が一番すごいのは歌詞だなって思ったのよ。

原口沙輔(以下、沙輔) 皆さんそれぞれに解釈をしてほしいから内容の説明については絶対言わないんですけど、どういう考えで書いたかっていうのはお話ししようかなって思います。

さっき“今のリスナーの方々が歌詞じゃなくてリズムや音を聴く”って話をしたじゃないですか。だから聴いてなくても入ってくる歌詞にしたいっていうことは意識してました。だから、無理やり聴こえる歌詞を選んでいました。

ケンカイ それ、詳しく聞きたいな。

沙輔 やっぱり、いくら歌詞を聴いてないって言っても、たとえば当時流行ってるボカロとか、ヒット・チャートでもいいんですけど、肝心なサビ前のキメのところとか、サビの一発目の1文とかってみんな歌えるじゃないですか。

Official髭男dismの曲だったら、人によっては“グッバイ フンフンフフーン”ってなっちゃうじゃないですか。その“グッバイ”の部分だけで作るみたいなことをしてるんですよ。

ーそういうワードチョイスをしながら、歌詞を通して曲に意味を持たせている?

沙輔 もちろん、先にどういうものを伝えるのかは決めていて、そこに言葉を当てはめていきました。なので、意味はあります。

「人マニア」の曲自体は3日で作ったんですけど、それまでに、歌詞の研究をしていたんですよ。ずっと自分の書く歌詞が気に食わなくて。仕事もありがたいことに立て続けにあったので、その中でいろいろ試しながら。そこでちょっと掴んできたっていうのはあります。なので、実際に両立するのはめちゃくちゃ難しいです。

2023年に冷笑する姿勢の歌詞が新鮮

ーケンカイさんはどうして「人マニア」の一番すごいところが歌詞だと感じたのですか?

ケンカイ 俺は沙輔がアーティストとしてはわりと早咲きで順風満帆には行っているけれど、私生活も知っているから真面目に生きてきているのも知っていて。背負うものがあるから、最初に聴いたときに“捨てるものがないから適当にやれる若者に対する嫉妬心” みたいなのを感じたのね。

急にくら寿司で鼻にマヨネーズとか突っ込めちゃうようなやつに対する、“ホント、バカだな。こいつ○んだ方がいいのにな”っていう気持ちと、そこにある沙輔が生きれなかった道に対する憎悪を感じたのよ(笑)。

沙輔 なるほど。ちなみに他でよく「AIが書いた?」という質問をされることがあるんです。でも、僕はAIだったらここまで言葉が強く出てこないんじゃないかって思っています。

ー過激な感情を述べているようにも感じられるし、一歩引いているようにも見える絶妙な温度感ですよね。

ケンカイ Adoさんの「うっせぇわ」みたいに大人にはっきり言えたらいいけど、それもはばかられる風潮の2023年に、沙輔の冷笑が新鮮だった。

沙輔 「うっせぇわ」は下の世代から上の世代への不満だと思うんですけど、僕の場合は「人マニア」で聴く人全員にケンカを売っているところがある。リスナーである若い世代の方にも意見しているから、“そういう攻撃性は、ちゃんと受け取ってくれたのかな”とは思っています。

ー言葉で語り尽くさないからミステリアスにはなってしまうけれど、確かに沙輔さんのシニカルな視点があることは分かりますよね。

ケンカイ アーティストも素直にあれこれ言えない時代だと、こういう支離滅裂な言葉のつなぎが戦略的な手段になってるんですよね。実際そこは、“沙輔の持ってるスタンスみたいなのと、世の中のスタンスが普通にリンクしたんだな”と思って俺は見てる。

「人マニア」で人間性を一番出せた

ーあと「人マニア」は、これまでのsasukeさんの楽曲のイメージと全く異なる表現ですよね。

ケンカイ 今まで、猫かぶってたのかなって思ったよね。作り上げてスッキリしたんだろうなっていうのはすげえ伝わってきたよ。

沙輔 “人間性が一番出たな”とは思ってます。自分は満足したから、これが別にそんなに聴かれなくてもいいと思えた。やっぱり本人の意思で書いているかどうかって、リスナーは野生の勘で分かっちゃうんですよね。人間が考えた文脈でちゃんと何かメッセージがあっても、作者の気持ちが入っていないものは魅力的じゃなく聴こえるようになっている。

ケンカイ sasuke時代の音楽よりも、トラックと歌詞がなじんでると思う。沙輔の頭の中にあるJ-POPを解体したいって願望も実を結んでいるし、5年間ずっとこれがしたかったんだなって伝わってきた。俺の性格の中には沙輔のシニカルさが一切ないから、本当に嫉妬したよ(笑)。俺なら「うっせぇ!」って言っちゃう。

沙輔 「うっせぇわ」が書けるタイプだ(笑)。ケンカイさん版の「うっせぇわ」聴きたいな。

ー全然関係ないですけど、沙輔さんは、パンケーキのバターをめちゃくちゃ丁寧に伸ばしますね。※都内某所の喫茶店で取材中、沙輔さんはパンケーキを食べていました

ケンカイ 分かる(笑)。そうね……「人マニア」はバターを丁寧に溶かす人の名曲だと思うよ。

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