ねこぜもん インタビュー。すりぃ「おべか」で挑戦した“ほのかに”不穏さ漂うアニメーション作りとは／ボカロPのMVイラストレーター連載『#音の絵師』

イラストレーター：ねこぜもん インタビュー

■ねこぜもん
【Profile】すりぃや缶缶、ルワン（遼遼）など、さまざまな音楽アーティストのMVを手掛けるイラストレーター／映像作家。“その作品でしかできない画を作る”をモットーに、物語性のある作品を制作している。

X（Twitter）：https://x.com/nekozemon
Instagram：https://www.instagram.com/nekozemon/

デジモン、ナルト、グラビティデイズに大きな影響を受けた

ーねこぜもんさんは幼少期から絵を描くことが好きでしたか？

ねこぜもん　そうですね。僕は小さいころから生き物が好きで、図鑑に載っているイラストをチラシの裏に真似して描いたり、動物を観察して見たものをその場で土に描いたりしていました。とにかくずっと、何かをスケッチしていましたね。

ー絵を描きたいと思った原体験は？

ねこぜもん　僕の両親は絵を描くことが好きで、特に母がよく、僕の好きな仮面ライダーを描いて見せてくれたんです。それがうれしかったし、絵を描いている姿が楽しそうで“僕もやりたい”と思いました。あと、僕は保育園のころから人見知りで目立つことが苦手だったのですが、描いた絵でチヤホヤされるのは好きだったんです。自分が描いたもので誰かが喜んでいるのがうれしくて、絵を描いては家族や友達に見せていましたね。

ー小さいころにハマっていた漫画やアニメはありますか？

ねこぜもん　小学生のころに、元々ゲームで後にアニメにもなった『デジタルモンスター』（以下、デジモン）にハマりました。友人にもらったデジモンのカードに描かれていたイラストがとても格好良くて。

ー格好良いと思った理由は？

ねこぜもん　筆跡が分かるようなガリガリと描かれた線や、黒でベタ塗りされた影など、アメコミチックな感じ。デジモンに出会うまで写実的な絵ばかり見ていた僕には、衝撃的だったんです。

ーその後はどのような作品を好きになりましたか？

ねこぜもん　小学校の高学年になってから、岸本斉史さん作の漫画『NARUTO -ナルト』（以下、ナルト）にハマりました。キャラクターの造形の美しさに心惹かれて、“生き物やモンスターだけじゃなくて、ナルトみたいな人物のイラストも描けるようになりたい“と練習するようになって。

ーキャラクターの造形のどういったところに惹かれたのですか？　

ねこぜもん　たくさんの線が書き込まれているのではなく、本当に必要最小限の線で形をとらえているところ。あとは影や細かい陰影を付けたり、トーンを貼ったりもしないけど、キャラクターの立体が分かるというところにも感動しました。デジモンもそうだけど、ナルトの絵は今でも僕の目標というか、理想とする描き方です。

ーこれまでねこぜもんさんが惹かれた線について多く教えていただきましたが、色彩についてはいかがですか？

ねこぜもん　色彩に関しては、高校生のころにハマったゲーム『GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において彼女の内宇宙に生じた摂動』（以下、グラビティデイズ）に大きく影響を受けています。さっきも言ったように当時僕は線に魅了されて、“線さえ格好良ければ色なんてなくても良い”くらいに思っていたんですよ。でもそれは、僕自身が色塗りが苦手で嫌いだったという理由もあって。でもグラビティデイズに出会って、自分の中で色彩感覚の革命が起きたんです。

　このゲームって空の色が黄緑や紫だったり、そのほかの部分も自分の常識の中にある色使いじゃなくて……。“色使いでこんなにも絵って良くなるんだ”と感激して、“色塗り上手くなりたい”って思ったんです。このゲームはバンド・デシネというフランス語圏漫画、取り分けメビウスという作家の作品からインスピレーションを受けていているそうで、積極的にそういった作品を鑑賞するようにもなりました。

ー絵を良くするためにインプットをしていたということは、将来画家になりたいと思っていたとか？

ねこぜもん　いや、あまり考えていなかったです。ただ、中学生になってハマったナルトのアニメがきっかけで絵を動かすことに興味を持ち、アニメーターになりたいとは思っていました。

ー絵の専門的な勉強をしていたことはありますか？

ねこぜもん　画塾などに通って学んだことはありません。ただ姉がデザインの専門学校に通っていたので、授業の内容を教えてもらったりはしていました。だから、独学ともまた違うのかもしれませんね。

ーお姉さんもイラスト関係のお仕事をしていたり？

ねこぜもん　実は、すりぃさんの「おべか」で色彩設計をやってもらったデザイナーのさちこというのが、僕の姉なんです。すりぃさんのグッズなども、一緒に手掛けさせていただいています。

ー今では仕事もしている姉弟というのは、とても良い関係ですね。

ねこぜもん　そうですね。今でも制作に悩んだときは、姉に相談しています。

初のアニメーション作品は「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」

ーねこぜもんさんの初めてのMVイラストのお仕事は？

ねこぜもん　ボカロPのすりぃさんの「エゴロック」です。

ーどういった経緯で担当することになったのですか？

ねこぜもん　高校生のころにTwitter（現：X）を始めて、好きな作品のファン・アートやオリジナル・イラストを投稿したり、友人に頼まれてロゴ制作をしていました。そこへすりぃさんにお声掛けをいただいたんです。実は未だに何を見てご依頼くださったのかは知らないんですけど（笑）。当時はイラストレーターとして活動する気持ちも、自信もなかったんです。そこで学生時代にボカロをよく聴いていた姉に相談したところ、“引き受けた方が良いよ！”と後押しされて。自分もすりぃさんの曲を聴いて“すごく格好良いな”と思ったので、ご一緒することになりました。

ーお仕事としてMVイラストを描くにあたって、何か準備をしたことは？

ねこぜもん　僕は「エゴロック」の依頼を受ける前まで自分のパソコンを持っていなくて、ほとんど手描きとスマホで絵を描いていたんです。MV制作のお仕事をするということで、Windowsのパソコンと板タブレットを購入して、CELSYS Clip Studio Paintというイラスト制作ソフトを使い始めました。今は液晶タブレットを使用しています。

ー初めて担当したアニメーション作品は？

ねこぜもん　これもすりぃさんの作品で、「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」です。依頼を受ける前まで本格的なアニメーション制作をしたことがなかったので、一からのスタートでした。

ーということは、アニメーション用のソフトも一から勉強したり？

ねこぜもん　そうです。「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」はそれまで使用していたClip Studio Paint のほかに、新たにADOBE After Effectsも使って制作したんです。参考書を買い漁って、必死に操作を覚えて、必要な絵を描いて……という感じで、とにかく大変でした。

ー普段の制作より大分時間が掛かったと思うのですが、何ヶ月くらいで仕上げたのですか？

ねこぜもん　4ヶ月です。当時ほかの仕事もしていたので、日中働いて、帰宅してから寝るまでの時間で制作しました。“もうMVは作らない”って心に決めたくらい、本当に苦し過ぎました（笑）。でも「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」の制作後半には「ビーバー」のMV制作を依頼されて、引き受けていたりするんですけど。

ー苦しい中で、どうして頑張れたのですか？

ねこぜもん　物作りって良いアイディアが思いついたとき、本当にすごく楽しいんですよ。あの瞬間が堪らなくて頑張れました。あとは、昔からあこがれていたアニメーションの世界に飛び込めたことがうれしかったのも大きいですね。

ー「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」はYouTubeで2,200万回を突破するなど人気楽曲になっていますが、ねこぜもんさんにどのような変化が起きましたか？

ねこぜもん　今までにないくらい反応をいただいたり、僕の描いたジャケット・イラストがゲームに収録されたり……本当にうれしいことばかりが起きました。今でも「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」がきっかけでお仕事をいただくことが多いので、当時頑張ってくれた自分に感謝しています。

「おべか」で目指したかわいらしさと不穏さが共存する映像

ーすりぃさんの「おべか」のアニメーションも手掛けていますよね。

ねこぜもん　2024年の5月にすりぃさんにお声掛けいただいて、担当させていただくことになりました。

ー最初に「おべか」を聴いたときにどのような印象を受けましたか？

ねこぜもん　とてもキャッチーかつ、人々の悩みや社会的な問題へ向けたメッセージが込められているなと思いました。どの曲でも、僕はそういったすりぃさんが楽曲に込めた強い思いに、共感できる部分が多いんです。

 ーすりぃさんから楽曲の解説はありましたか？

ねこぜもん　すりぃさんは毎回、曲のテーマやどういった映像にしたいかというリクエストなどを資料にして送ってくださるんです。今回は、テーマが“童歌”だということや、タイトルの“おべか”は相手の機嫌を取るために媚びへつらうという意味の“おべっか”をもじったものであること、そうした理由など、いろいろ教えていただきました。

ーリクエストにはどのようなものが？

ねこぜもん　“5人の子どもが親役と子役に分かれて、歌詞に沿った遊びをしている様子を描いてほしい”という要望がありました。ただその流れやストーリーはお任せいただいたので、自分で背景設定を考えていきました。

―背景設定を考えるということは毎回しているのですか？

ねこぜもん　僕は楽曲のストーリーが頭の中で思い描けないと筆が進まないので、毎回自分で楽曲という脚本に則り、鳴っている音から映像を思い浮かべて、物語を考えています。ストーリーを考えるためにも作曲者さんにどのような思いで曲を作ったのかなどを、可能な限りヒアリングするようにしているんです。

ー「おべか」にはどのような背景設定が？

ねこぜもん　この曲に登場する子どもたちは、世間に対して自分を偽って、媚びへつらっている状態なんです。このMVは、そんな子どもたちが童歌を通して本当の自分を取り戻していくようなストーリーになっていて。童歌って、先人たちが子どもに教訓を与えるために作っているものだったりするじゃないですか。すりぃさんから「おべか」のコンセプトは“令和の童歌”だということも聞いていたので、MVで今の時代に向けた教訓を残せるようにしたんです。自分に嘘をついて偽りの仮面を被り続けていると、いつしかそれが顔になってしまって、本来のあなたに戻れなくなるよっていう教訓。キャラクターたちが被っている被り物は、他人に見せている嘘の顔の比喩なんです。

ー自分を偽り他人に媚びへつらうというのは、子どもたちに何か暗い過去がありそうですね。

ねこぜもん　表には出せないくらい、辛い設定があります。“おべっか”という言葉の意味にきちんとフォーカスしないと「おべか」の映像にならないと思ったので、なぜ子どもたちがおべっかをしなければならないのか、どんな問題を抱えているのかというのを考えていきました。そういった問題を抱えているということが動きや所作などから滲むくらいで視聴者に伝われば良いなと思っていたのですが、コメント欄で設定を言い当てている方が居て、びっくりしましたね。

ー被り物でキャラクターの表情が見えない分、特にアニメーションにこだわったり？

ねこぜもん　本当にそうなんです。これまでアニメーションでキャラクターの個性を表現するということが技術不足や時間の制約でできていなかったので、今回は動きで魅せることをすごく意識して挑戦しました。

ー色使いからも少し不穏さが伝わってくる気がします。

ねこぜもん　そうなんです。さっきも言ったように、今回色彩設計をさちこに手伝ってもらって、感情が伝わる色にしてもらいました。テーマになっている童歌の“かわいらしいだけじゃなくて、よく聴くと歌詞がちょっと怖い”というのを映像でも表現したくて、“よく観ると影が見えてちょっと怖いアニメーション”というのを目指していたので、そこが伝わっているならとってもうれしいです！

ー先ほどアニメーションを作るときは楽しさと苦しさが入り混じるというお話がありましたが、今回もフル・アニメーションで制作した理由は？

ねこぜもん　最初はネット・ミームで見るような、簡単な動きの繰り返しで魅せるアニメーションにしようって話していたんです。ただその後すりぃさんが“やっぱり今流行っているものを取り入れるより、ねこぜもんさんがしたいことをして新しい流れができていく方がクリエイターとしてうれしいので、丸っとお任せしても良いですか”と言ってくださって。それがすごくうれしくて、今回も頑張りました。

ーすりぃさんはねこぜもんさんのファンで、信頼しているんですね。

ねこぜもん　やっぱりこうして長く仕事をご一緒できるのって、互いが互いの作品を好きだからなんじゃないかって思ってはいるので、そうだったらうれしいですね。

ねこぜもん描き下ろしTシャツ「TOGETHER」

ー今回「音楽家」をテーマにイラストを描き下ろしていただきました。このイラストにはどのような意味が込められていますか？

ねこぜもん　このキャラクターたちは、音楽隊なんです。音楽って聴いている人だけじゃなくて、その曲に振りを付けて踊る人だったり、僕みたいに映像を付ける人だったりが居て、どんどん広がっていきますよね。そうやって音楽でつながっていく人々を音楽隊として捉えて、グリム童話『ブレーメンの音楽隊』をモチーフにして描きました。

ー『ブレーメンの音楽隊』って、飼い主に捨てられてしまいそうになるロバが同じ境遇の動物の仲間を集めて、音楽隊になることを目指してブレーメンへ向かうお話しですよね。

ねこぜもん　そうです。僕はそのロバって、音楽隊を見てその演奏に魅了された思い出があるから行動を起こしたんじゃないかと思うんですよ。このイラストには女の子の呼び掛けで仲間が集まり、一緒に音楽を始めるというストーリーがあります。音楽にはそれだけ人を引き付ける力があるし、心の拠り所や居場所にもなると思っているので、そんな思いを込めてデザインさせていただきました。

ーねこぜもんさん自身も音楽に引き付けられている？

ねこぜもん　

そうですね。やっぱり音楽に創作意欲を湧かせてもらって絵を描いている身なので。あとは音楽をやっている人ってすごくキラキラしていて格好良いので、そういった姿に引き付けられている部分もあると思います。本当にあこがれているんです。

ー最後に！　今後やりたいことは？

ねこぜもん　本当に、ずっと何かを作り続けていたいなと思います。超個人的なことで言えば、キャラクターをフィギュア化したいですね。描いた絵が触れる立体になるというのは、魅力的なので、いつか挑戦したいです！

ねこぜもん「TOGETHER」販売情報

カラー・バリエーション：ホワイト、ブラック、ネイビー
サイズ：S、M、L、XL

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