取材・文:鹿野水月(plug+編集部)
圧倒的で煌びやかなサウンドと洗練されたアレンジでネット界隈を沸かせ、Jポップの音楽シーンでメガヒットを放ち続けているGiga & TeddyLoid。ボカロP出身のGigaと音楽プロデューサー/DJのTeddyLoidそれぞれの強みを生かしたコライト楽曲で、AdoやReol、Daokoなどさまざまなアーティストのプロデュースを行っている。
今回はGiga & TeddyLoidのお二人に、『ニコニコ超会議2025』内『超ボカニコ2025』DJ出演の感想〜メガヒット曲を生み出し続ける秘訣まで話を聞いた。
目次
Giga & TeddyLoid インタビュー

超会議はネットで知り合った人同士がやっと会える場所(TeddyLoid)
ー『ニコニコ超会議(以下、超会議)』へのご出演は初めてでしたか?
TeddyLoid 昔galaxias!ってユニットを柴咲コウさんとデコ(DECO*27)さんとやっていたときに、『ニコニコ超パーティー』には出させていただきましたね。楽しかったです。これまでも超会議に遊びに来たりはしていましたよ!
Giga 自分は超会議……多分2回くらい来たことがあって、『THE VOC@LOiD 超 M@STER』の即売会に昔出たかなと思います。

ー超会議にはどのような印象を抱いていますか?
TeddyLoid ニコニコ動画を中心とした独自のネット上のコミュニティが確実に存在していると思っていて、そこの方々が一堂に集結するイベントが『ニコニコ超会議』だと思うんですね。そこで共通する好きなものを分かち合ったりとかできる、ネットで知り合った人たちがやっとリアルで話すことができる場所みたいなイメージがあります。重要なお祭りですよね。言うなれば、インターネット・フェスって印象でした。
Giga 自分はやっぱりボカロPとしてニコニコ動画で音楽活動を始めてきたので、超会議はネット上の友達と出会える文化祭のような場所かな。でも、自分コミュ障なんで……。
ーいやいや……でもネット上で平然と話せても、実際に会うと上手く行かないことありますよね。
Giga なんかそう、せっかく同じ空間に居てもあまり話せなくて。その場では二言くらい話したら会話を終わらせてしまって、結局家に帰ってからTwitterで話すみたいな感じ。
TeddyLoid あるよね(笑)。
ーお二方が二日目の大トリとしてご出演した今年の『ニコニコ超会議2025』内『超ボカニコ 2025』は、昨年よりも倍以上のオーディエンスが入る幕張メッセのイベントホールで開催されていたりと、ボカロシーンの拡張感を体現するステージになっていました。今日のステージはいかがでしたか?

TeddyLoid 自分はボカロPではないんですけど、周りにはGigaちゃんを始めデコ(DECO*27)さんとかスーパースターのボカロPたちがたくさんいた中で活動をしてきたので、これまでもニコニコ超会議などともたまに関わる機会があったなと思っています。Giga&TeddyLoidの曲もインターネット上を中心に楽しんでもらっているところはあるので、ボカロシーンとの親和性が高い音楽をやってきたのだろうと思っているんです。
ーまさにお二人が楽曲を手掛けているAdoさんはニコニコ界隈のスターでもありますね。
TeddyLoid 僕らはAdoちゃんを始め、さまざまなアーティストに提供曲を書いているんですが、今日はDaokoちゃんとの新曲「アクト feat. Daoko」を流しました。「自分たちの曲をネット上だけじゃなくてステージで流して、お客さんたちと現場でコミュニケーションを取りたい」という気持ちはずっとあるので、それを今日実現できたのが良かったなと思います。
ー今日のステージでは、DJプレイをTeddyLoidさんが担当して、お二人の手掛けた曲やGigaさんの曲を流していらっしゃいましたね。
TeddyLoid そうですね。僕がDJをして、ステージ上のスクリーンにGigaちゃんのキャラクターであるギガクマを映し出したりしました。Gigaちゃんは今日のステージのために、僕の代表曲「Fly Away」の鏡音リン・レン歌唱バージョンを作ってくれたりもして。僕は「踊」のリミックスを鏡音リン・レン歌唱バージョンにしたりして、スペシャルな仕掛けをさまざまに用意して届けられたなと思います。
ー昨今のボカロシーンでは以前にも増してクラブ映えする洗練されたアレンジが増えてきた中で、その時流を体現するTeddyLoidさんとGigaさんが大トリというのが素敵だなと思っていました。
Giga 自分の場合はDJをやらないし、まず人前が苦手なので、今日まで自分の曲を公の場所でかけられる機会があまり無いなと思ってきたんです。今回『超ボカニコ 2025』に出演することが決まって、その願いが何年かぶりに叶ったのは感慨深いことだなと思います。
最近のボカロ曲は強め、尺が短い(Giga)
ーGigaさんとTeddyLoidさんはゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』のために書き下ろした「ULTRA C」のように、オリジナルでボカロを使用した曲も作っていますよね。最近のボカロシーンに思うことは?
TeddyLoid Gigaちゃんとも話したりしますけど、僕が個人的に思っているのは、以前にも増してボカロシーンがメインストリームの音楽になったなということです。米津玄師さんやYOASOBIのAyaseさんなど、ボカロP出身のアーティストがJポップのチャートの上位に居たり、僕らもAdoちゃんの楽曲プロデュースをさせてもらってチャート一位を取ることができた。インターネット上で活動してきたアーティストが評価される時代になってきたなと思います。
ーGigaさんは最近ボカロ曲を聴いてどのような印象を抱きましたか?
Giga 強めの曲が多いのと、多くの曲の尺が短いですよね。バズ狙い……おそらく作っている側で、意識的にそうしている部分があるのではないかと思います。
TeddyLoid 僕たちKanariaくんとかと一緒に食事することもあって、僕自身は彼から影響を受けたりもしているんです。今まで日本になかったものを作って皆に受け入れられている印象があって、とても面白いなと思います。
ーGigaさんとTeddyLoidさんの音楽はネット上でのバズりを牽引する存在だと思いますし、実際に“強め”や“短い”といった要素も兼ね備えた音楽を作ってらっしゃると思う。お二人にとって、リスナーの心を掴む音楽的表現とはどういったものだと思いますか?
TeddyLoid 強烈なワードと畳み掛けるようなメロディって、多くの音楽ファンにとって刺激的なものだと思うんですよね。それを多くの人が求めていて、そういった表現が実際に受け入れられているんだなと思っているんです。僕自身もすごいな、格好良いなと思う曲がたくさんある。
Giga 以前はR&BやEDMのジャンルであったり、もっとテンポがゆっくりで穏やかな作風でもヒットしている曲がたくさんあったと思います。最近のボカロシーンの音楽は、それらとは真反対で、歌詞が強めで、同じ言葉が繰り返されるような曲が増えたような気がしています。
ーいつからかそういった作風の音楽が増えてきましたよね。
TeddyLoid 自分的にはsyudouくんが作ったAdoちゃんの「うっせぇわ」以降なんじゃないかと思います。
Giga なんか……怒ってる。
TeddyLoid そうなんだよね(笑)。
ー怒りの感情を落とし込んだ歌詞は、ティーンの心理に共鳴するとともに、SNS動画のモチーフとしても歓迎されている印象です。お二人が作るときにもそういった流行は意識しますか?
TeddyLoid 僕らは基本的には音のことしか考えていないんですよね。だから、今最も新しくて良いアレンジや音のことなら追いかけています。だから僕らがリリックについて意見を言うことは全くと言っていいほど無いんですよ。例えば僕らの仲間のDECO*27さんとかにお願いしたり、曲を作るごとに「どの人が良いかな?」という相談をして任せることが多いです。
Giga 音楽を聴いていても耳に音しか入ってこないというくらい、だからボカロ曲を書いていた時から、歌詞はq*Leftにお願いしてる。
TeddyLoid 僕はたまに自分でリリックを書くことはありますけど、気持ち的にはサウンド重視なんですよね。僕らは二人とも歌詞については担当外というか。そういった意味でも、GigaちゃんはボカロP出身で、僕はダンス・ミュージックのプロデューサーで、そういった組み合わせが日本には居ないので面白いんじゃないかなと。
ーでも、楽曲をアーティストから依頼される際に、あらかじめコンセプトなどを明確に決められていたりしないのですか?
TeddyLoid 半分くらいは「自由にお願いします」といった依頼が多いよね? 歌手のアーティスト像を考えてどういう曲が合うかを考慮するのはもちろんしているんですけど。
Giga そうだね。
Ado「唱」のサビはインド映画のダンス・シーンみたいにしたかった(TeddyLoid)
ーではお二人が提供曲を作り始める際の出発点は?
TeddyLoid やっぱり、BPMやジャンル感になってきますよね。Ado「唱」のときはGigaちゃんとも結構どういう曲にしようかと話していて、当時インド映画が流行していて「これ良いじゃん」となって。
ーボリウッド映画ですか?
Giga S・S・ラージャマウリ監督の『RRR アールアールアール』とかね。
TeddyLoid そうそう。インド映画って、何百人も出てきて一斉に音楽に合わせて踊り出すようなシーンがあるじゃないですか。Gigaちゃんと「インド映画のダンス・シーンみたいなサビにしたいね」って話して、そこからインスピレーションを受けて、制作スタートしたんですよね。エスニックな音階のギターを入れてみたりとか。
Giga 最初にふわっと作ったリファレンスにエスニック要素を追加していったんですよね。二人でやりとりしながら作っていったエスニック要素を自分の方で組み合わせてみたり、それでデータのやり取りしながら曲として構築していきました。
ー基本的にはデータのやり取りなんですね。
TeddyLoid 僕らは作業のために会って一緒に制作することはほとんどないですね。どちらもABLETON Liveを使っているので、プロジェクト・データのやり取りができるから、キャッチボールしてアレンジを作っています。
Giga 最近の作り方だと8小節くらいのトラックを幾つか作ってもらって、こっちでいろいろと組み立てたりしています。自分は元々IMAGE-LINE FL Studioを使っていたんですけど、データを揃えるためにAdoさんの「踊」から自分のDAWをLiveに。
ー結構、最近ですね。使い心地は?
Giga Liveは前々から気になっていたDAWだったんです。実際に使ってみたら、さまざまな作業がやりやすくなった感覚があった。特に、オーディオ編集に向いているソフトなのだろうなと思いました。
Gigaちゃんのボーカル・エディットはボカロ調声を通過しないとできない技(TeddyLoid)
ーユニットで制作する中で、TeddyLoidさんがGigaさんに対してすごいと思うのはどのようなときですか?
TeddyLoid Gigaちゃんのボーカル・エディットがすごいんですよ。人間の声に対して、思い付かないアプローチで声を作っていく。僕はさまざまな音楽プロデューサーと一緒に曲を作ったことがあるんですけど、彼らの作る音とは全く違うんですよね。それはGigaちゃんにボカロPの経験があるからだと思っています。ボーカロイドの編集と人間のボーカルどちらのエディットもできる人はとても限られていて、その中でもGigaちゃんのクオリティは最高峰だと思う。
ーGigaさんの楽曲のボーカルはメロディ・センスにもサウンドのテクニカルな部分においても独自性を感じます。いつもボーカル処理の際に注意を払っていることはありますか?
Giga ナチュラルに聴こえるように、真っ直ぐしなやかにしたいとは思っています。あと手書きでピッチ編集なども細かく行うようにしています。隠し味程度にビブラートのニュアンスなども整えてみたりすることや、部分的に語尾などを少し上げてみたり。
ーしなやかさと煌びやかさが共存している気がします。ビブラートの編集はボカロ調声でもよく話されるテーマですよね。
TeddyLoid ボカロって元々は機械的なものだから、もちろんそのまま出す人も居ますけどより人間らしくするためにボカロPの方々は工夫をしてきたじゃないですか。Gigaちゃんのボーカル・エディットが僕から見るととても特殊な理由は、機械的と人間的のハイブリッドのようなボーカルを作っていると思うから。良いとこ取りをしているんです。
ーどのような部分が特殊だと感じていますか?
TeddyLoid 言葉の抑揚の作り方、つまりピッチ・ベンドのさせ方がとても繊細で工夫されているんです。そもそもボーカルの声の一音一音にこだわるということ自体、ボカロと長い時間向き合うボカロPを通過しないとできないエディットなんじゃないかなと思うんですよね。
TeddyLoidの8小節トラックがアレンジの展開の種(Giga)
ーGigaさんから見てTeddyLoidさんすごいと思うのはどのようなときでしょうか?
Giga 自分ってめっちゃ作業が遅くて、しかも結構似た感じのアレンジをよく作ってしまうと自分では思っているんですけど、この人(TeddyLoid)は月に10曲くらい作るのに全部クオリティが高いし、アレンジの幅がとても広いんですよ。制作のために送ってもらう8小節トラックとか聴いていても、自分では思い付かないようなアレンジのアイディアがいっぱい詰まっていて、それでいろいろな展開を作ることができる。展開がいろいろと変わるAdo「唱」のアレンジにもつながっているんじゃないかなと思っています。
TeddyLoid 励みになります(笑)。
ーTeddyLoidさんはアイディア・マンということですね。
Giga 本当に、そうですね。
TeddyLoid 先輩アーティストを除いて、自分の同世代ぐらいの国内アーティストの中ではGigaちゃんのことを僕は一番すごいと思っていて、すごく好きだったんです。だったら、絶対にライバルになる人だし、もう一緒にやりたいなって思ったんです。
ーGiga&TeddyLoidでの活動を開始した理由は、ライバルになるよりも仲間になってより良い音楽を作りたかったということなのですね。
TeddyLoid この人とだったら今まで自分一人で作っていた以上のものを作って、今まで日本で到達できなかったことを成し遂げられるんじゃないかなと思ったんですよね。自分の魅力も、もっと引き出してくれるんじゃないかって。

ーそういった意味では、Giga&TeddyLoidはAdo「唱」などで日本一をすでに達成したわけですよね。これからはどのようなことを成し遂げていきたいですか?
TeddyLoid 世界を目指して活動していきたいとは思っています。今日のようなライブでお客さんとコミュニケーションを取る機会も積極的に増やしていきたいです。なので、是非これからも僕らに注目してほしいと思いますね。
Giga ただただ楽しんでやりたいという気持ち。楽しむことが第一だなと思っています。
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