文:小向佑季
待望の『初音ミク V6』がついに発売! これを祝し、開発プロデューサー・佐々木渉と、彼が対話を熱望した人気調声師・びびによる対談が実現した。ボーカロイドの歴史をお互いの視点から振り返りつつ、V6に至るまでの進化と未来の展望について熱く語り合う、“ボカロファン必見”のスペシャルな対談をお届けしよう。
目次
『初音ミク V6』開発者・佐々木渉 × 調声師・びび特別対談
■佐々木渉 プロフィール
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、音声チームマネージャー。『初音ミク』/歌声合成関連プロジェクト・チーフプロデューサー。1979年、札幌市生まれ。2005年、クリプトン・フューチャー・メディアに入社し、07年、歌声合成ソフトウェア『初音ミク』の企画・開発を担当し大ヒット。その後、同社の歌声合成関連製品や企画のプロデュース・ディレクションを手掛ける。他、新たな音楽テクノロジーを研究するOngaACCELプロジェクトへの参加や、Aphex TwinやArca、Squarepusherなど電子音楽のライナーノーツを手掛ける。
■びび プロフィール
歌声音声合成ソフトのエディット(調声)を専門とするクリエイター。2012年より活動を開始し、じん、*Luna、まらしぃなど、数多くのボカロPが制作する楽曲のボーカルエディットを担当。また、スマートフォン向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』では、ゲーム内に実装されたバーチャル・シンガー歌唱楽曲の調声も幾つか手掛けている。
“これって人間じゃないんだ!”と、すごく衝撃を受けた
佐々木 びびさんが『初音ミク』という存在を認識されたのはいつ頃で、どのようなきっかけだったのでしょうか。
びび 私は元々“サブカルチャー”と言われていた漫画やアニメに興味があったのですが、そのつながりで友人が「今こういうのが流行っているんだよ!」と紹介してくれたのが『初音ミク』でした。そのとき初めて聴いたのは「みくみくにしてあげる♪」です。“これって人間じゃないんだ!”と、すごく衝撃を受けたのを覚えています。それからボーカロイドの曲をいろいろと聴くようになり、歌い手の方や、曲をもとにイラストや動画を作って楽しんでいる方を見るようになって、ボカロを中心とした文化にすごく引きつけられました。
佐々木 ニコニコ動画から始まった文化であることはもちろん、当時は背景に2ちゃんねるなどのネット文化がありましたよね。「ネットでこういう面白いものが出てきたんだ!わーい!」みたいな、祝祭感のようなものを覚えています。喜びの象徴として、ネギ振ったりして。びびさんもそこを通られたのですね。
びび そうですね。それまで、私にとってネットは単に消費するものだったんですが、元々イラストを描いていたということもあって“自分も何か作ってみたい!”という気持ちが刺激されました。
佐々木 みなさんが初音ミクを求めて聴いてくださるような状況でしたよね。その後“メルトショック”があり、『鏡音リン・レン』でファミリー感が出たり、『巡音ルカ』が英語も歌えたり、『メグッポイド』が少しライバルみたいだったり、そうそう『がくっぽいど』も衝撃でした……あの頃は、皆がキャラクターをどう料理するか、何が起こるかわからないドキドキ感がありました。『メグッポイド』が出てきたときは、初音ミクとは全然違う歌声の魅力があって驚きましたね。びびさんが好きなバーチャルシンガーやクリエイターは誰ですか?
びび 一番の推しは鏡音レンです(笑)。それもあって、Gigaさんが大好きですね。あとは、ボーカロイドらしい歌わせ方の先駆者と言えるcosMo@暴走Pさん。初めて「初音ミクの消失」を聴いたときの衝撃はすごかったです。あんな曲、それまで聴いたことがなかったので、ボーカロイドの可能性をすごく感じました。今でも大好きです。
佐々木 そうなんですね。やっぱり尖っていたインパクトって忘れられないですよねぇ。
“キャラクターが輝く瞬間を見たい”という思いで調声している
佐々木 びびさんが手掛けた歌声を聴いていると、狙いがはっきりしていて分かりやすく、歌や音楽の表現に造詣が深い方が調声をされているのかなという印象を受けます。先ほど“歌い手”の話も少し出ましたが、どのような流れで、“調声の専門家”になられたのでしょうか?
びび もともと音楽も歌うことも好きでしたが、何よりキャラクターが大好きなんです。ボーカロイドで楽曲をカバーするという表現手法を知ってからは、“この子たちで大好きな曲を表現したい!”という思いがより一層強くなりました。今では人間の歌を聴いて“VOCALOID Editorで表現するならどうすればいいか”と考えてしまう毎日です。神無月Pさんが公開されているプロジェクトファイルは、それこそ穴が空くほど見て勉強させていただきましたね。
佐々木 なるほど。びびさんのキャラクター愛というかキャラクターに躍動してもらいたいという想いが、歌の表現の魅力に繋がっているのですね。好きな表現を実現するための執念さえ感じます。
びび “そのキャラクターが輝く瞬間を見たい”という思いが、結果的に自分が調声に特化することに繋がったのだと思っています。音楽が好きだったら作曲などほかの道もありますが、私は声が好きで、その子がどうすれば一番輝けるのかを追求したいんです。言葉にするなら“推し活”ですよね。推し活として調声をやっているので、この先一人になったとしてもずっと続けているんじゃないかなと思います(笑)。
佐々木 びびさんのそういうところが、リスナーのシンパシーを呼ぶのかもしれませんね。びびさんが好きなキャラクターって、みんなが好きなキャラクターでもあるじゃないですか。みんなが好きで聴きたいニュアンスが、びびさんの想いと共鳴して憑依している感じもするんですよ。例えば、まらしぃさんの「むげんのチケット」で、“ここでKAITOの目が「ガッ」って開いたな”と感じる瞬間があって。まらしぃさんの曲がすばらしいのはもちろんですが、声でキャラクターのエネルギーが躍動するダイナミズムを感じます。
びび ありがとうございます。でも自分の活動スタイルは、何から何まで他人のものをお借りしているという大前提があります。だからこそ、曲やキャラクターを大切にしたいと思っているんです。それが結果的に、みんなが求めているものに繋がっていくのかもしれません。
佐々木 びびさんの調声は、ボカロではあるけれど生々しい感じもします。ご自身が歌うことで調声のイメージを膨らませることはありますか?
びび 歌うといっても趣味程度ですが、始めた当初は歌いながら調声していましたね。自分が歌ってみて、どうすれば再現できるかを考えながら、一緒に歌っているような感覚でやっていました。
佐々木 「一緒に歌っている」という感覚は初めて聴いたかも。キャラクターと一緒に歌うか……いいですね。びびさんは、本当にキャラクターが好きなんですね。
びび はい、それだけでここまで来ました(笑)。
佐々木 逆に“ボーカロイドらしさ”を出すために、調声でこだわるポイントはありますか?
びび ダイナミクスを大胆にいじらないことですかね。人間だと声量の強弱が結構あると思うんですが、人間じゃないからこそその差があまりないというか。それがボーカロイドらしさになっているんだと思います。
佐々木 びびさん、ボカロらしい“声の飽和感”というか、繋ぎ目の音量差でボカロの声が大きくなってしまう“オーバーロード感”みたいなものもお好きそうですよね。
びび 大好きですね。だから、基本アタックはいつも高めに設定しています。それこそ私『鏡音リン・レン』のact1(最初に発売されたバージョンの通称)が一番好きなんですよ。私にとってのボーカロイドってあのイメージなんです。
佐々木 『鏡音リン・レン』act1のときは、『初音ミク』との差別化もあって、声をダイナミックに録ったんですよ。下田麻美さんにもギリギリまで声を出し切ってもらっていて、その結果がオーバーロード感に繋がっているんです。コントロールしやすい形ではありませんでしたが、確かにボーカロイドらしいダイナミックさはありましたね。
V6はV2で感じた“ミクちゃん”から進化したという印象
佐々木 びびさんには、V2時代の『初音ミク』をはっきりと認識されている上で、今回のV6を試していただきました。V2からV6までの各バージョンごとの違いは感じていますか?
びび 結構明確に違うなと感じています。V2は“ミクちゃん”という感じでしたが、V4Xで“ミクさん”になって、どんどんお姉さん化しているという印象でした。でも、“初音ミク”はいつでも“初音ミク”でいてくれるという安心感はずっとあります。合成音声がどんどん進化して人間に近づいていく中で、元々の声を大事にしていらっしゃるんだなというのはすごく感じています。
佐々木 今回のV6も、“ミクさん”の延長線上にいる感じでしたか?
びび V6やNTの声色は、どちらかというとV2の“ミクちゃん”からの進化という印象があります。声を人間に寄せていったというより、初音ミクの元の声質を大事にして進化させたんだろうなと。これまで調声した曲をあらためてV6でやってみたらどうなるのか、検証してみたいですね。どんな違いが出るのかで、自分の表現の方向性も確立されていくのかなというのは感じています。
佐々木 『初音ミク V6』は、みなさんが思い描くバーチャルシンガーとしての『初音ミク』をイメージして開発したんですよ。ボイスバンクとして“オリジナル”と“ソフト”を用意していますが、オリジナルには、V2の拡張ボイスライブラリー・パック『初音ミク・アペンド』の“LIGHT”を成分分解してほんの少し混ぜたり、ソフトには“Sweet”の成分を少し入れたりすることで、VOCALOID6の癖と声の明るさや落ち着きとのバランスを取って『初音ミク』を目指しました。LIGHTは開発当時、V2のオリジナルと差別化しきれなかった少し難しい存在でもあったのですが。
びび 私は『初音ミク・アペンド』の“LIGHT”と“VIVID”が好きでした。すごくうれしいです!
佐々木 当時は“もし別の『初音ミク』がいるとしたらどんなものだろう”と考えながら、『初音ミク・アペンド』の開発にチャレンジしたんです。“結局オリジナルがいいよね”という評判もありましたが、これが時を経てV6で生きているというのは、自分としても感慨深いですね。キャラクターとしてのミクの声のイメージ像って、無限に追い求められるものなのかもしれません。オリジナルとソフトの違いはいかがですか?
びび オリジナルは、快活な感じで表現を付けやすかったです。これまでのバージョンはベタ打ちの状態だとやや大人しい印象がありましたが、オリジナルには明るさがプラスされていて、すごく楽しく歌わせることができました。ソフトも曲になじみやすくて使いやすいです。息の成分が多い声ってノイズになりがちなのですが、そういったこともありませんでした。
佐々木 ボカロって特性上、声がこもったり弱くなってオケに埋もれてしまうことがあるじゃないですか。それがずっとクリエイターの方々に申し訳なくて、どうにかバランス良く聴き取りやすいようにしたいと思っているんです。ただその一方で、消え入りそうな声もボカロの魅力の一つだったという意見もあります。使いやすさとキャラクターの個性のバランスについては、どう思われますか?
びび 確かに、これまでのボーカロイドは不完全なところもありましたが、調声する側としては、それも全部個性だと思ってやっていました。不完全な点も、確実に魅力ではあったと思いますね。ボーカロイドに限らず、合成音声が進化するにつれ、不確定な要素が少なくなってきたなとは感じています。以前は「この発音記号をこう書いちゃうとこんな音が出るんだ」という予想外なことも起きたりして、ワクワク感がありました(笑)。でも進化したことでハードルは確実に下がっていますし、初めての人も触りやすくなっていると思います。ただその分発音記号で遊ぶ余白がなくなっていくのは少し寂しいですけど。
佐々木 なるほど。AIを活用して、あえて聞き取りやすさを保ったまま、母音や表現の外れ値を出していくようなギミックをいれられたらいいですよね。でたらめな発音記号から新しい発声を生成したり、子音や母音を無理矢理つなぎ合わせたりできたりしたら、面白いかもしれません。
びび そうですね。実は私『巡音ルカ V4X』が、すごく楽しいと思ってて。めちゃくちゃ声の種類が多くて、おもちゃ箱みたいですよね。
佐々木 あのときは、そういう思いでした。使いやすさを考えると少々やり過ぎだったことも思い出されます……(笑)。
びび なんとなく、そうなのかなっていうのはちょっと感じてはいたんですけど。でも使う身としては、“こんなに選択肢があったら、ずっと迷っちゃう!”ってわくわくしていました。
佐々木 今そんなふうに言っていただけるなんて、人生捨てたもんじゃないですね(笑)。なんか、ヘンテコなものも含めて、キャラクターが豊かに歌う世界観が広がっていけばいいなって、僕も思います。きっとびびさんも、いろいろな歌が聴きたいから調声をやっているというのもあるはずですし。
びび そうですね。いろいろな歌を聴きたいです。V6はすごく分かりやすく直感的に使えるようになったので、今後もAIなどを活用しながら、バリエーション豊かな表現ができるようになるとうれしいなと思いますね。
『初音ミク V6』製品概要
VOCALOID6対応のバーチャルシンガー・ソフトウェア。日本語だけでなく英語にも対応し、中国語についても2027年の無償アップデートでの対応を予定している。VOCALOID6 Editorを同梱したスターターパック(24,200円)と、VOCALOID6 Editorをすでに所持しているユーザー向けのボイスバンク(10,780円)の2形態を用意しており、両者ともにDAWソフトのCubase LEが同梱される。Mac/Windowsに対応し、AU/VST3フォーマットで動作する。
VOCALOID:AIを駆使し、歌声合成エンジンを最適化。歌詞とメロディーを入力するだけで、自然な息継ぎを自動で加えることができ、複数の言語を織り交ぜた流ちょうな表現も可能になった。また、機械学習により、ピッチ推移や音量推移、タイミングやアクセントなどを学んでいるため、人間の声に近い温かみや、自然な揺らぎを感じられるような歌声表現にも長けている。また、ひとつのフレーズからニュアンスの異なるボーカルを複数生成するTAKE機能が新たに搭載され、ハモリパートを手軽に制作できるようになった。
初期設定のままでも自然な歌唱を表現できるようになったが、従来通り細かくパラメーターを調節することも可能。“Expressionパラメーター”で声のハリの強弱を調整したり、しゃくりやビブラート、タメといった繊細な歌唱表現を、画面上のピッチ・音量カーブを見ながら直感的に編集したりすることもできる。
■初音ミクV6
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