文:Mizuki Sikano
楽器超絶上手バンドと名高いNothing’s Carved In Stoneが、2022年4月20日にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で行った“Bring the Future”東京公演のライブ・レポをお届けする。実はライブ終盤で村松拓(vo、g)の口からライブ活動の一時休止が発表されるシーンもあったが、ここでは主に“ナッシングスの演奏力がハンパなかった”という事実を、ついつい使用機材などの研究に脱線したりしつつ綴っていきたい。
目次
ライブ・レポート
深淵なアンビエント的SEでライブがスタート!
シンセ・パッド(編注:オノマトペで言うならば“ふぁ〜〜〜”と広がるような癒しのシンセ)が会場を包む中、Nothing’s Carved In Stone(略称:ナッシングス)のメンバー4人は順番にステージに登場した。会場はLINE CUBE SHIBUYA。クラシックの公演も想定された音楽ホールであることもあり、音がまろやかというか、自然で優しい感じがする。
ストイックでテクニックを魅せるライブ・パフォーマンスとアグレッシブなロック・サウンドを、こういった繊細な音楽ホールで聴けることにワクワクした。
1曲目は「Mythology」で、初っ端から激しめな歪みサウンドが会場に鳴り響いた。
開演前からステージに複数のアンプ・キャビネットが積まれていたこともあり、これから繰り広げられる音のニュアンスについては少しくらいは察しはついていたものの、実際に聴いてみるとエレキギターとエレキベースの重厚なサウンドは予想以上。大喜多崇規(ds)のドラムにあるパワー感も相まって、トータルで威勢の良い音の波が客席にどんどん流れ込んでくる。圧倒的な演奏力で会場の温度を盛り上げたりコントロールできるのは、熟練度の高さが魅力のナッシングスだからこその妙だ。
どの楽曲においてもエレキギターとエレキベースは、アンプからの直の音を聴いているようなアタックのスピード感で、クリーン系は“キリッ”と、歪み系は“ザクザク”した、どちらも非常にソリッドな音質。どうすればこのような大胆かつ繊細な音を作れるのだろう、取材してみたい。
ちなみに、わたしが見ていた位置がステージ下手(編注:客席から見て左側)で、日向秀和(b、愛称:ひなっち)の持ち場と近いことも関係があったのか、全体のバランスは低域三昧!で、みぞおちにドスドス来る。音は、なめらかなうねりのあるベース・ラインを過激な歪みの膜が包み込んでいるような印象で、挑戦的な感じが格好良い。あのORANGEベース・アンプが肝なのだろうか?
日向秀和の使用機材、ORANGEアンプってナンダロウ?
やや突然だが、ひなっちのベース・アンプが気になる。わたし以外にもライブを見ていて“あのオレンジ色の四角いアンプかわいいなぁ”と思った方は少なくないだろう。
ORANGEはイギリス・ロンドンで設立されたアンプ・メーカー。わたしはこの人目を引くオレンジのかわいいデザインと、ノエル・ギャラガー(編注:オアシスのギタリスト)が使っていたことに釣られてこのORANGEのギター・アンプを使用したことがあるが、見た目よりは派手過ぎないけれど明るめで元気なサウンドが印象的だった。
ひなっちが使っていたのは、ORANGE 4 Stroke 500 LTD HINATCH“極”。当日のベースはもちろんコンパクト・エフェクターによる加工の影響もあるだろうが、低域成分の密度が非常に高く、歪み成分のまろやかさが心地良いと感じた。
アコースティック・セットのナッシングス
7曲目「きらめきの花」までのバンド・セットから一変、8曲目の「Isolation」からアコースティック・セットに変わると、ホールの鳴り(編注:会場の壁などに適度に反響することで生じる良い感じの音。材質により音の特徴やあり方が変化する)との相性がぐんと上がる感覚があった。MCによれば、ナッシングスが本格的なアコースティック編成のライブを行い始めたのが、2021年11月15日にビルボード東京公演『Special Acoustic Live “Live on November 15th 2021”』とのこと。普段の音とのギャップに新鮮さが感じられる上に、村松拓(vo、g)の倍音豊かな歌声も、メンバーのテクニックの高さも、より際立っている。
9曲目に披露された「Midnight Train」は、4ビートで、色気のある丸サ進行をウォーキング・ベースがリードして前へ進めていく楽曲。ちなみに、丸サ進行はグローヴァー・ワシントンJR.の「Just The Two of Us」をルーツとする椎名林檎の楽曲「丸の内サディスティック」から名付けられたコード進行のこと。「Midnight Train」の終盤ではひなっちがご丁寧にも「Just The Two of Us」のベース・ラインをなぞってくれていた。
生形真一(g)はエレキギターからアコギのGIBSON Hummingbird(読み:ギブソン ハミングバード)に持ち替えて、クリーン方向で繊細な指の動きを聴かせる演奏スタイルを強調させていた。一寸の狂いも許さず均等な音量でアルペジオを弾く様には、生形の硬派な部分が前面に出ていてうっとりである。
……それでは、聞いてください。
「生形さんの弾くハミングバードがめちゃくちゃ格好良い」
この日のアコギの演奏を聴いて“やっぱりハミングバードは良い音だなぁ”とあこがれる気持ちが爆発した人は絶対に何人か居たと思う。
ハミングバードと言えば、弾き語りではもちろん、ロック・バンドでも映えるアコギとしても名高い名器。その所以として、アタックが強くはっきりした音であることや、ストロークすると若干ジャキっとするなど、繊細さとワイルドさと両極の魅力を持ち合わせていることがよく語られる。ただ誰もがあんなに奇麗な音でハミングバードを弾けるはずがない。
生形の演奏するハミングバードは、ストロークがすっきりとしていて、アルペジオではもはやシルキーな艶感みたいなものが滲み出ていた。この一瞬一瞬に感動が宿っているような上品な音は、良い楽器を良い音職人が弾いているからこそ成せる技だろう。
ちなみに以前、音にこだわるメディア=サンレコの編集部員だったわたしは、生形さんへインタビューを行ったことがある。比較的最近のギターの音作りに対する考えなどをお話しいただいたので、ぜひチェックしてみてほしい。
ナッシングスが充電期間に突入
その後はまたバンド・セットに戻りピークを迎え、このまま終わると思ったライブ終盤、村松がMCで“ナッシングスが一時的に充電期間に入る”との報告をした。その前の大阪公演で既に発表されていたこともあり、SNSなどを通じて事前に知って会場に足を運んだ人も多く居たかもしれない。が、いざその場で村松の口からそのコメントを聞くと、衝撃的に響いてくるものがあった。
理由は、“ELLEGARDENのギタリストでもある生形が、同バンドのアルバムの制作に専念するため”とのこと。これについては、決してネガティブな意味合いではないことに安心した人も多いだろう。
また長期的ではなく“一時的な休憩”を想定しているような雰囲気がうかがえたのは、その報告に続いた生形のMCで、“すぐ戻ってくるので”といったコメントを残していたことだ。この期間を経て、来る2023年にはナッシングスが活動15周年を迎える。今後の動き方に期待したい。
当日のライブのセット・リスト
1Mythology
2In Future
3Deeper, Deeper
4Falling Pieces
5PUPA
6No Turning Back
7きらめきの花
8Isolation
9Midnight Train
10Shimmer Song
11Beautiful Life
12Fuel
13Mirror Ocean
14Milestone
15Spirit Inspiration
16Out of Control
17Scarred Soul
18Bloom in the Rain
19Impermanence
20Walk
21Sands of Time(アンコール)
22村雨の中で(アンコール)
Spotifyでプレイリストが公開されている。
Nothing’s Carved In Stone(読み:ナッシングス・カーヴド・イン・ストーン)
4人組ロック・バンド。2008年、生形真一(g)が所属するバンドELLEGARDENが2008年9月活動休止になったことをきっかけに活動開始。現ストレイテナーの日向秀和(b)に声をかけたのが結成のきっかけ。その後FULLARMORの大喜多崇規(ds)が加入。ボーカル不在のまま何度かのセッションを繰り返していたが、ABSTRACT MASHの村松拓(vo、g)のライブ・パフォーマンスに惚れ込み、本格的に交渉。村松も正式加入し、現メンバーになる。
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