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Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki

初音ミクが2007年に発売されてから16年が経った。現在までボカロシーンはさまざまな波を受けながら発展してきたわけだが、先頭の一人として、その荒波の中、自分を貫きながら漕ぎ続けているボカロPがsasakure.UKではないかと思う。

 

今回はそんなsasakure.UKの視点で、初音ミクを振り返っていく。テーマは、ゲーム愛と初音ミクを融合させた終末シリーズ/プロセカ。

ゲーム愛のルーツと初音ミクを融合させた終末シリーズ

ゲーム音楽でチップチューンに魅せられた

―この記事では「初音ミクとゲーム」をテーマに話を聞いていきます。まずはsasakure.UK(以下ささくれ)さんのアレンジには2つの軸があると思っていて、チップチューンサウンド、プログレ的な変拍子や不協和音。後者については合唱曲の影響であることを先のインタビューでお聞きしました。今度はチップチューンに魅せられたきっかけについてもお聞きできますか?

sasakure.UK チップチューンも僕らが初めて聴いたころは、新しいもので、ゲーム『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』のテーマとか、全然ラッパの音はしないんだけれども、“これはこれで格好良い”みたいな発見が、チップチューンに魅せられたきっかけでした。

僕はファミコンで『ファイナルファンタジー(以下、FF)』とか、『ロックマン』、『マリオブラザーズ』とかをプレイしていました。

ー今で言うとレトロなRPGゲームのテーマ曲は、クラシックをいかに少ない音でやるかって戦い方をしているように感じます。

sasakure.UK それ、分かります。あれチップチューンって同時再生可能な音が3つだけなんです。厳密には4つなんですけど。3つしか音を鳴らせない中で、どうやってコード感を出すかっていうと、もうアルペジオするしかないんですよね。

ーだからバロック音楽みたいなアルペジオが多発するっていう。

sasakure.UK あらためて分析するとそうなんですけど、当時の自分は全然それを知らなかったんで、“何でこういうゲーム・ミュージックみたいな音がポップスにないんだろう?”って思いながら、ずっと生活してて。“僕が聴きたいのは、このゲーム・ミュージックなのに”みたいな。だから、ゲーム・ミュージックを聴くためにずっとゲームをプレイしてましたね。

ーRPGゲームの音楽がお好き?

sasakure.UK 僕はスクウェア・エニックスのRPGは、ほぼ全部プレイしてるんじゃないのかな?『クロノ・トリガー』の光田康典(以下、光田)さんの「風の憧憬」と「時の回廊」って曲が推しです。僕と同じデジパフォ(MOTU Digital Performer)ユーザーなんです。

というか、当時の僕が尊敬するゲーム・ミュージック・クリエイターの方は、多分皆デジパフォユーザーじゃないかな。光田さんの曲だと、特に「時の回廊」は悲惨な出来事の後に、浮遊大陸で流れる幻想的な曲で、僕に“こういうシーンに合う曲を書きたい!”って思わせる曲なんです。今でも聴いたりします。

自分の夢が初音ミクと融合することで叶った

ーささくれさんは初投稿からチップチューンを用いて表現し、終末シリーズを生んで、そこから出てきたボカロ曲「*ハロー、プラネット。」とかがあって、PSP用ソフト『初音ミク -Project DIVA-』の追加楽曲集「ミクうた、おかわり」に収録される形でゲーム化もされるじゃないですか。あれは、言わば、自分の夢が1個叶う瞬間ですよね。自分の夢が、初音ミクと融合する瞬間はいかがでしたか?

sasakure.UK すごく嬉しかったです。それと同時に、初めてBGMを作って、“シーンに合う曲を作るっていうのは難しい”みたいなことを感じました。主張し過ぎてもいけないし、しなさ過ぎても頭に残らないから、“どのバランスで書くと一番エモーショナルに人に届けられるのかな?”っていうのを考えながら作った記憶があります。

(画像引用:https://miku.sega.jp/okawari/)

ーチップチューン でエモーショナルを表現するコツって、どういうところにあるんですか?

sasakure.UK あんまり意識したことないんですけど、矩形波の伸びてモジュレーションがかかった音って、僕をノスタルジーにさせます。『MOTHER』とかで散々泣かされているからそれのイメージがずっと残っていて、チップチューンのアルペジオは自分の中ですごく切なく、“ノスタルジックな音”なんですよ。

ゲーム『聖剣伝説』でテンションコードを学んだ

ーチップチューンサウンドでのメロディメイクで意識していることは?

sasakure.UK 僕はほぼマイナーコードで作りますね。自分の好みがかなり激しくて。

ーマイナーコードだけどチップチューンにすることで暗過ぎずポップに仕上げられるところもあります?

sasakure.UK それはめちゃくちゃありますね。音楽的な話をすると、3度の音を響かせないで、5度、7度、9度にすることによって、ちょっと浮遊感のある響きにする。

『SaGa』のBGMなどを手掛けている伊藤賢治(以下、伊藤)さんがゲーム『聖剣伝説』の音楽も手掛けているんですけど、ドミソで始まる音に、レから始まるメロディが入るんです。このレの音が、自分の中ではすごく格好良かった。“レから入るんだ!”みたいな。

ー6度とか9度とか奇麗ですし、チップチューンだと鳴っている時間も短いから違和感が少ないですよね。

sasakure.UK それが、“すごくいいな”っていう。だから、自分の曲も、あえてコード感を外したりすることはありますね。3度を鳴らさないとか、全然違うコードもトップとミドルの音が同じだからつなげて、思い切り鳴らしちゃうみたいなことをやってます。

終末シリーズは『MOON』の影響が強い

ー終末シリーズはゲームのように舞台背景やストーリー展開が含まれた楽曲たちだと思います。影響を受けたゲームとかはありますか?

sasakure.UK 『MOON』はキャラクターとストーリーで、確実に影響を受けてると思います。

この世界の勇者はモンスターを殺してっちゃうから、このゲームの主人公は、その殺して死んじゃったモンスターの魂をちゃんと捕まえて保護してあげるっていう。愛情を集めていくんですよ。当時のRPGを風刺したようなゲームなんですよね。

ー曲の世界のディテールを描く上で、影響を受けたのですね。

sasakure.UK 僕、作品を分析することが大好きなんですけど、やっぱり分析ってコツを掴まないと一辺倒になりがちというか。光の当て方によって、違う焦点が浮かび上がってきたりとかする。そういう見方をするための礎になったゲームでした。

ーささくれさんの曲がめちゃくちゃ分析される理由は、ささくれさん自体がゲームに対してものすごく分析的だからだったんですね。

sasakure.UK そうかもしれませんね。色々考えるの、好きなんですよ(笑)。

ーだから、ささくれさんは初音ミクと出会って、ボカロ曲の表現を得たことで、ゲームの音楽を作るサウンド・クリエイターじゃなくて、ゲームを作る人になったって感じですね。

sasakure.UK 確かに自分の作った世界観がゲームになったら~、ということを妄想しながら曲を作っていることもあります。現在は、ゲーム音楽のクリエイターみたいに“こういうシーンでこういう音を鳴らしたいな”みたいなことを考えながら音を入れられるようになりました。

続きは、次のページ

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