plug+ by Rittor Music

自分らしく音楽を始める。

スタイル検索

上達のヒント

撮影・文:plug+編集部

音楽とファッション 6つの現代的視点』(リットーミュージック)刊行記念として、著者の青野賢一さん(写真左)と、装丁のコラージュを手掛けたクリエイター M!DOR!さんによるトーク・セッションが開催された。

会場は、キュレーションされた書籍が所狭しと並ぶ東京・下北沢のブックストアB&B。当日、会場では、お互いのルーツや興味、交友話から話題が始まり、書籍で採り上げられたキーワードに関する、青野さんの視点、それに対する M!DOR!さんの感じたことが、フリースタイルで交わされた。

ここで当日の様子を一部であるがレポートしていこう。なお、本イベントは、会場観覧とオンライン視聴による2つのスタイルで参加できるものであった。

《イベントページ》

音楽、映画、文学、美術に触れていろいろな角度から捉えることができる一冊

書籍『音楽とファッション 6つの現代的視点』は、「音楽」と「ファッション」というキーワードを掲げながらも、文化・政治などの背景を総合的に考察した一冊。特徴は、各章立てに、テーマを読み解くキーワードが設定されていること。はじめに紹介すると、以下の通りである。

●第一章 音楽表現とファッション性におけるジェンダー強調、転倒からパーソナルな領域へ
●第二章 “反”と音楽とファッション反戦/反体制/反大人
●第三章 芸術表現における異文化との交流変わりゆくボーダーライン
●第四章 差別との戦いレイシズムに反発するアート・センス
●第五章 美術とスポーツとテクノロジー拡張されていくアート・センス
●第六章 音楽、ファッションと”悪” 不良性と逸脱の魅力

イベント冒頭、青野さんから、「本書のスタンスは、まさにポップ・カルチャー・・・音楽、映画、文学、美術に触れていろいろな角度から捉えることができる一冊を目指した」とあった。イベントでは終始、穏やかなトーンで話す青野さんであるが、静かに熱い想いを感じる一言だ。

執筆するきっかけについては「今の時代に気にするべきトピックがあり、それをファッションと音楽に結びつけたい」と考えたという。「収録したテキストの半分強は過去の原稿としてすでにあったものだが、書籍を作るに当たり、ほぼ書き直した。古いものは10年前にもなっているから、今の視点が足りない。当然入っているべきトピックを付け加える必要があると感じたのだ」とのこと。

そのため、「2022年07月公開された映画『リコリス・ピザ』も入れた。自分がパンフレットの原稿を書いている関係で早いタイミングで試写できた運もあり、本書の執筆に間に合うので入れた」というほど、現在の感覚を大事にしており、青野さんの姿勢が反映されている。

青野さん曰く、「音楽とファッションと謳っているが、よく読むとそれぞれを深く掘っているわけでない。一方で、映画だけで1つの話にまとめているものもあることから、ポピュラー・カルチャー全般を採り上げています。読み手も、音楽だから、ファッションだから、と思わず、少しでも興味ある切り口からというように、読み方がいろいろあるんじゃないでしょうか」と書籍との付き合い方を提案していた。

加えて、「読んだ人が、紹介された音楽を聞いてみる、YouTubeでPVを探して見てみる、映画を観てみるなど、のワン・アクション》があればいいなと思っています」とのこと。「章立てにしているトピックに関心を持てるきっかけであって、世の中にそんな視点があることを持つことがアクションだと考えている」と言う。

この辺りは、1980-1990年代のいわゆる自己表現として「ファッションや音楽との付き合い」を経て、今の時代に立ち止まって持ちたい視点であり、本書を通じてそれらを知ることができそうだ。

トークイベントの様子。たくさんの本をバックに、書籍を解説してくれるB&Bならではの雰囲気が心地よい

他の国、他者の固有の文化にどう付き合ってのか?を意識すること

イベントの中盤では、 M!DOR!さんの個人的な体験を共有した上で、話が展開した。

「音楽との付き合い方だと、中学生のときにラジオでミッシェルガン・エレファントに出会い、衝撃を受けたのが最初です。ラジオからの影響が大きくて、次にローリング・ストーンズにのめり込んでいきました。そこから、チバユウスケさんの紹介する、ガレージ・ロックやサイケ・ロックをさかのぼっていき、途中、父親にジャズを教えてもらったのが、私のリスナー遍歴なんです。

その流れからパンクにたどり着きました。セックス・ピストルズ、リチャード・ヘルなどを知りました。同時にファッションにも影響が出てきて、パンクのTシャツを古着屋で探して、革ジャン着てました。中でもパティ・スミスも好きで詩集発売のときはサイン会にも行った経験があるんです。あんなに強くなりたいと憧れの存在になっていましたね。この本にパティ・スミスが登場してつながりましたし、青野さんの視点にも共感しました」

その共感とは、「パティ・スミスは、いわゆる音がパンクだとは捉えていなくて、書籍で青野さんが書いているよう《詩はパンクだ》に共感したんです。詩で伝えようとしている、読んでいて、その視点にはっとしました。そして、より好きになりました」

青野さんは続けて、「確かに、音楽性ではセックス・ピストルズやクラッシュの流れと違うパンクをやっている。ニューヨークのアーティストは文学から影響を受けている。つまり、ポエトリー・リーディングやビートニクの流れですよね。書籍を執筆するに当たり、調べて分かったことがたくさんありました。一方、ロンドンのパンクは、セックス・ピストルズの生みの親であるマルコム・マクラーレンがニューヨーク・ドールズから影響受けて、《商品として出したもの》とも言えますよね。そのため、視覚的に訴えるものがあります。ここには、イギリスの階級社会と影響があるわけで、服装でアイデンティティが分かるところがある」と解説を加えた。

M!DOR!さんは、「書籍で採り上げているアーティストの項目を読むのに、そのアーティストの音楽をかけながら読んだ」そうで、「彼らの想いがより入ってきて、嬉しくなりました」とオススメの読み方を紹介してくれた。

また、レゲエのラスタ・カラーの意味を書籍を通じて初めて知ったことをきっかけに、ある視座を得たそうだ。「友人がスラングのTシャツを着て海外で絡まれた話を思い出しました。文化的な背景とファッションの関係に、無意識であることはどうなのだろうか?と」

その点について、青野さんの見解は、「文化の話は難しい。特にファッションは、模倣がしばし行われる性格のものだから、平気でコピーされることもある。また、着ている人が単に知らないことも多い」

続けて、「他の国、他者に固有の文化にどう付き合っていくのか?を意識することが始まりかなと考えています。知らずしらず、侵害してる、嫌な気持ちにさせている可能性もあるんですね」と。また、「例えば、日本の古着屋に行くと、ワークウェアを売っています。ブッチャー・ジャケットというフレンチメイドの肉屋のワークウェアを売っていたりする。日本は無邪気に着れる環境であるだけで、着ていくところによっては大きな意味を持ってしまうことがあります。音楽以上にファッションは見た目で影響があることも要因ですね。ただ、意識した上で、それを掻い潜って新しい表現をしていくことが、これからは重要だと思っている」と視座を提案していた。

職業上、クリエイティブに関わる身としての大事な視点だという意味で、M!DOR!さんも大いに共感していた。その一例として、青野さんは、本書でも唯一採り上げているデザイナー、ニコラス・デイリーの姿勢を紹介する。

「ニコラス・デイリーは、衣装に刺し子のデザインを活用するときに、日本の職人を起用して一緒に作成している。それくらい文化へのリスペクトを意識しているクリエイターです。また、彼のコレクションはミュージシャンと一緒にプレゼンというスタイルを用いることが多い。今回の秋・冬コレクションで、 Wu-Luというアーティストを起用していますが、それは彼にとってリアルな生活圏で起こっている話題を採り上げているだけのこと。彼のルーツが、ジャマイカとスコットランドでもあることから、文化への意識を常に持って服を作っていることが伺えますね」

青野さんは、本の執筆中にニコラス・デイリーについて、執筆したいとアイデアを出して急遽、起用された経緯があったことを、ひと昔前の感覚と違う、かっこいい服を作っている実践者として紹介した」と裏話を語ってくれた。

これを受けM!DOR! さんからは、普段コラージュを制作するに当たり「伝統のものを直接使わないように気をつかっている」ことも教えてくれた。

社会との接点を柔軟に見られると視点が見つかるのではないか?

終盤は現在における表現について「テクノロジーの話がしたい」と青野さんが話題を振る。

「コラージュを作る際に、はさみとのりを使う、アナログの作業でやっていると聞きました。それは、ADOBE Photoshopでやるより、最適だとたどり着いたから?」

M!DOR!さんはこう答える。「Photoshopは、表現を無限に拡張できる感覚があるんです。仕事では使用しますが、自身の作品では使わないことを選択しています。私の場合は、コラージュの元素材を重視している意識が強くて、コピーもしない、そのままの素材、そのままの大きさ、そのままの色を生かすようにしています。結果、紙の繊維の重なり、質感、手触りが感じられるんです。それが実物を使う醍醐味だと思いますし、だからこそコラージュという意識もあるんです」

それを受け、青野さんも「現代だとデジタル、アナログ、いろいろな選択肢がある中で、最新のものが良しとされる風潮もあります。一方、それに対して嫌悪感を持つ人もいたりする。ただ、この二元論をするのは不毛だと思っています。適材適所という考え方と、表現したいことへの最適解がある発想を持つことが重要なのではないかと。そこまで考えて、テクノロジーと付き合いたいんです。書籍でも、ビョークを紹介していますが、彼女はそこを意識しているアーティストですよね」と見解を示した。

M!DOR! さんも「(仕事をご一緒したことがある)Perfumeのデジタルの使い方はすごい。かっこいいですね」と、デジタル表現へのリスペクトを持った上で、自分のスタンスを確立しているようだ。

最後に青野さんから「テクノロジーは、アナログ、デジタルに関わらず、使い方、使う意味がないと、《表現にならない》と考えています。そこで、手法に頑なになってしまうと視野が狭くなる。社会との接点を柔軟に見られると視点が見つかるのではないか? それがこの本で伝えたかったことです。アナログ、デジタルをミックスをできるのが今の表現のメリット。それを意識することで、格好良いものができる時代だと感じています」とトーク・セッションをしめた。

§

書籍でコラボしたクリエイターお二人の想いはいかがだろう? それは、現在形としてのカルチャー論であり、作品としての書籍『音楽とファッション 6つの現代的視点』をぜひ、手にとって、新しい視座を得てみてほしい。

【出演者プロフィール】

青野賢一(あおの・けんいち)
1968年東京生まれ。株式会社ビームスにてPR、クリエイティブ・ディレクター、〈BEAMS RECORDS〉のディレクターなどを務め、2021年に退社、独立する。音楽、ファッション、映画、文学、美術といった文化芸術全般を活動のフィールドに文筆家/DJ/クリエイティブ・ディレクターとして活躍している。著書に『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS、2014年)がある。
https://twitter.com/kenichi_aono

M!DOR!(みどり)
1986年横浜生まれ。コラージュ・アーティスト/グラフィック・デザイナー/アート・ディレクター。1800~1950年代の雑誌や紙物の現物を素材に使用したハンド・コラージュを特徴とする。「VOGUE JAPAN」、「装苑」、「GINZA」、「ELLE」などの雑誌誌面、山内マリコ『かわいい結婚』(講談社、2015年)、H.P.ラヴクラフト『インスマスの影』(新潮文庫、2019年)など書籍装画のほか、アパレル・ブランドの広告や、Official髭男dism、Perfumeなどミュージシャンのアート・ワークも数多く手がけている。
https://www.dorimiii.com/

この記事をシェアする

  • LINE
  • twitter
  • facebook

関連書籍

注目記事

新着記事

注目記事