Interview:鹿野水月(plug+)
ヤマハVOCALOIDが発売されて20周年を迎えた2024年。ボカロ・カルチャーはどのように変化して、彼らの仕事道具=VOCALOIDソフトはどのように進化してきたのか。今をときめくボカロPたちに話を聞いていく。
ボーカロイド20周年記念サイト:https://www.vocaloid.com/anniversary/
目次
みきとP インタビュー/ボーカロイド20周年記念
みきとP プロフィール&コメント
【Profile】2010年3月よりネットのミュージック・シーンにて活動を開始。「ロキ」や「少女レイ」などのボカロ曲を生み出し、アニメの主題歌やミュージカル、アーティストへの楽曲提供も数多く手掛ける。
ボーカロイド20周年ということでおめでとうございます! 自分はちょうど2025年でボカロ歴15周年ということで、長い間お世話になっています。これからも新しい表現、音楽を一緒に作って行けたらなと思っています。よろしくお願いします。
みきとP 初投稿「こくはく」×SF-A2 開発コード miki
ー2024年でボーカロイドが20周年だったのですが、みきとPさんはこの20年間をどう振り返りますか?
みきとP この20年でまずクリエイターさんたちの様が変わりましたよね。昔はもっとオタクっぽくて年齢層もやや高めでしたが、今やヤングなオシャレボーイズたちがこぞってボカロをやっているような気がします。
ー同感です。現在ボカロPの人口が多いのは、投稿祭の参加者数とかからもとても感じますよね。
みきとP やっぱり、ボカロ界隈って参入のハードルが激低なんで。だって、ボカロを使えばボカロPですからね(笑)。今はそれなりにハードルも高くなったかもしれませんが、やはり野良でも、起爆のタイミングがあったりするのはこのシーンの魅力だとは思います。映像のクオリティとかに関しても、アイディア次第ではチープなものでも爆発したりする。難しいは難しいけど、やり方はいっぱいあるなと思いますね。
ーみきとPさんがボカロP活動を開始したころ、みきとPさんへ周囲の反応はいかがでしたか?
みきとP 僕は元々やっていたバンドを解散してから何か新しいことを始めたくてボカロを使い始めたんですけど、当時バンド時代の友達から“最近、何してんの?”みたいなのを聞かれて、“VOCALOIDの曲作ってネットに投稿してる”って言ったら“ちょっと停滞してるんじゃない?”って言われたのをとても覚えているんですよ。僕にとって新鮮なことが、彼らにとってはよく分からないものだったわけですよね。それが今はボカロに興味を持つ人たちが増えて、むしろ“ちょっと教えてよ”みたいに言われることも増えてきました。
ーここ近年は、流行と再評価のムードを感じますよね。ところで、みきとPさんが初めてVOCALOIDを触ったときのことは覚えていますか?
みきとP もちろんです。2008年に初めて触ったボカロは、SF-A2 開発コード mikiというSUPERCARのフルカワミキさんの声が元のデータ・ベースでした。SUPERCAR好きだったので、僕の中で参入しやすかったんです。ただ、最初は訳が分からなくて“何じゃこりゃ?”って感じでしたね。なので一旦距離を置いてから、また頑張って仕上げて形にして、腕試しで投稿していくようになりました。初投稿は「こくはく」です。
その後、自分の曲の再生回数が伸びないしどうしようかなと思って、これは大スターを使おうという決断に至って、新しく初音ミクを迎え入れました。
ーそして、初音ミクを使ってみていかがでしたか?
みきとP 初音ミク・アペンドを追加したときにDarkっていう追加音声ライブラリーと出会って、とても気に入ったんですよね。物哀しい声で、透き通った、ちょっと湿った声なんです。デフォルトの初音ミクはハイキーの方が相性良いですが、Darkだと下の方の音も良い感じに歌ってくれて。僕はボカロを使うけれど人間が歌ってもおかしくないくらいの歌を作るのが好きなので、Darkならば行けるなと思ったのはすごい覚えてます。それで「SECRET DVD」っていう曲を投稿しました。
ー当初はフルカワミキさんきっかけにボカロP活動を始めたみきとPさん、その後どうしてここまで活動を継続できたと思いますか?
みきとP ボカロ界隈にいると、どっちかっていうとオタクの方がカッコ良いじゃないですか。オタクじゃない自分にちょっと引け目を感じてるところを持ちながら過ごしてきた10年のような気がするんですよね。アニメの話とかついて行けなくて、外から来た人間みたいな感覚がずっとあった。でもやっと、同人界隈の空気も分かってきて2012年「いーあるふぁんくらぶ」とかを出したんですよね。それで、<だんだん君と同じ言葉が使えるね>みたいな歌詞が生まれて。一言で言えば、なじめたから続けられたんだと思います。
ーみきとPさんの音楽を支え続けているVOCALOIDの魅力はどんなところ?
みきとP 僕にとってVOCALOIDは、自分では面と向かって言えなかったことを代弁してくれる存在なんですよ。自分で言うには、恥ずかしくて言えないことの方が多いじゃないですか。
ーでは、なぜ、「ロキ」ではそんな代弁者であるボーカロイドと一緒に歌うことに決めたのですか?
みきとP もう「ロキ」を出す何年か前から、ボカロと一緒に歌いたかったんです。歌うこと自体は、自分の中でそんなに気持ちのいいことではないけれど、自分を楽器として考えたら、なかなか良い音が出るなとは思ったので、皆にも聴いてもらいたいなと。
ー純粋に声に自信があったからというのと、あとは代弁ではなく自分で言いたい気持ちもあったからではないですか?
みきとP そう言われてみると、「ロキ」のメッセージはちょっと自分の口で言ってみたかったのかもしれないですね。
ー「ロキ」と「いーあるふぁんくらぶ」の二曲、なぜヒットしたと思いますか?
みきとP その二曲はわりと楽しんで作れたんです。どれも何か仕掛けがあって、狙いを研ぎ澄ませて放った1曲ではないです。ただ、周りの評価とか自分の評価とか、いろんなもののタイミングが良かったっていうのは、特に「ロキ」とかで思いました。
ー「ロキ」のヒットのタイミングというのは?
みきとP ボカロがちょうど衰退って言われてた時期にみんな一瞬、路頭に迷ったっていうか。ボカロPがボカロ以外の活動をしたり、歌い手の方々もオリジナル曲を作るようになったり、皆が散らばったんですよ。その後に、ナユタン星人とか、n-bunaとかヒーローも出ては来るんですけど。そんな時期に<死ぬんじゃねえぞ お互いにな!>っていうのは、その界隈に向けて言ってるんですよ。頑張っていこうやみたいな感じで。
みきとPに聞くボーカロイドの調声
ーみきとPさんがお持ちのボイス・バンクとエディターについて教えてください。
みきとP VOCALOID 2から6まで、ボイス・バンクは、初音ミク V4X、鏡音リン・レン V4X、Megpoid V4、v4 flower、歌愛ユキV4、巡音ルカ、IA、Fukaseなどを持っています。
ー今回は「いーあるふぁんくらぶ」と「ロキ」の二曲の調声について教えていただきたいと思います! まずは「いーあるふぁんくらぶ」から。
みきとP 「いーあるふぁんくらぶ」はMegpoidと鏡音リンを使っています。基本的には元気な声に作っていて、例えば鏡音リンの声はPowerだったりします。キャッチーな声がするんですよ。見ていると今は音量のオートメーションをDAW上で書くことが多いのに、このときはダイナミックのパラメーターとかVOCALOID 4上でいじっていますね。
ーベロシティの値も設定されているようですね。
みきとP ここ5年くらいは、ベロシティをいじっていますね。上げると、最初に出てくる子音が遅くなるので、後ろの発音のタイミングを速めることでリズムが生まれるというか、発音をより人間っぽく自然に作れたりするという。
ーみきとPさんのボカロたちは、適度にエアリーな雰囲気があるのに滑舌良く歌詞が聴こえるような気がします。コツとかってありますか?
みきとP 調声せずにそのままだと、ピッチの変わり方が曖昧でふにゃふにゃしたボーカルになってしまうんですよね。どちらかというとカクカクとメロディが動いてほしいので、やっぱりメリハリのあるメロディにするとかそういったことがコツかもですね。あとは、“と”と“お”って、子音と母音を分けたり。“と”ってノートだけだと減衰してしまうので“お”で補ってるんですけど、やっぱり聴きながら一つ一つの音と向き合うっていう地味な作業を続けるのが大事です。
ー機械過ぎると違和感があるので、人間の歌に近付けるために自然な発音を探すのですね。では、「ロキ」の方に移っていきましょう!
みきとP 「ロキ」とかは「いーあるふぁんくらぶ」からの成長が見られる。もっと今に近いテクニックで作っていますね。「ロキ」でちょっと話題になったのががなりで、Growlっていうパラメーターを紹介したいです。これは、VOCALOID4から搭載されたパラメーターなんですよ。当時はこれを使ってGrowlパラメーターを思いっきり上げて“るるる”というノートを入れることで、巻き舌を表現するのに使っていました。
皆さんにも「ロキ」のがなりはすごいと言ってもらってましたが、Growlは本当にお気に入りのパラメーターで、自分でもやってて、“え!こんなのできるんだ!”って、新しい表現を見つけたなって思ったのをよく覚えています。
ーこちらもテンポの速いトラックと走らせるボカロとして、人間らしい発音にするために何か工夫をしていますか?
みきとP 人間の発音と口の形を想像するのがコツだと思うのですが、“なにぬねの”とか、“まみむめも”とかの前に“ん”を入れるとそれらしく聴こえるんですよね。
ー英語の歌詞などを打ち込むのも、日本語とはまた違った工夫が必要ですか?
みきとP 例えば、この“like this”っていうところの<す>に“_0”を入力することで無声音を入れてみると、良い感じの発音になります。これは小さい“っ”などを表現するときにも使ってます。英語の発音って日本語と違うので、ニュアンス作るのはいつも難しいと思いながら制作していますね。
ーそして最後に、ボーカル・ミックスのエフェクトなどをDAW上でかけると。
みきとP そうですね。例えば、WAVES VoiceCentricというエフェクトでトーンを整えて、ボーカル・ディエッサーのDeEsser、Doublerでダブリングさせるなどをしています。
みきとPによるVOCALOID 6レビュー
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ボーカロイドとは?ボカロ・カルチャー解説からVOCALOIDの使い方まで。講師:かごめP
ボカロPのかごめPに、ボーカロイドのカルチャーとVOCALOID 6の使い方について簡単に教えてもらおう!
ーVOCALOID 6はもうすでに使っていますか?
みきとP 最近パソコンを新しく買い替えてから使い始めています。いろいろと機能があるので、自分なりの個性的な表現を探してもいいかなと思いますね。ちょっと今後さらにやってみたくなりました。
ーVOCALOID 6の機能で具体的にはどのようなことが気になっていますか?
みきとP 僕は調声もずっとやってきていて、基本的にはすべて自分で作っちゃうタイプですが、ノートのアタック、リリースの波形をプリセットから選べるのは面白いと思いました。派手に音が変わるので慎重に選ぶのをおすすめしたいです。
ーVOCALO CHANGER機能も使ってみましたか?
みきとP VOCALOID 6内蔵のAIボイス・バンクNAOKIで試してみたんですが、このまま使えるというわけではないですけど、自分で打ち込んで調声する上での新しいTipsを発見したり、いろいろと勉強したりするのに使えそうだと思います。“確かに、こういうのやりたいときあるかも”って思いながら見ていると面白いです。
ーVOCALOID 6の機能たちについて、いかがでしたか? 内蔵ボイス・バンク以外にも対応する別売りのボイス・バンクもあり、初音ミクもいずれは発売される予定とのことです。
みきとP 素敵ですよね。VOCALO CHANGERについては、自分ならもう1つ何か表現ないかな?って思うときに模索するっていう方向で使うと思います。そのほかアタックのプリセットなどもお決まりの表現のやり方で時短になるものを見つけたら、それのお世話になるって感じですかね。これから発売される初音ミクも、いちいち打ち込まなくていいなんて良いですね。
ー楽しみですよね! 最後に、ボカロPを目指してる人へ、応援メッセージをいただけますか?
みきとP とにかく楽しいのが一番! 楽曲クオリティをあげたいなら、とにかくいっぱい作品を発表してください。どこかで誰かが見ています。
VOCALOID6 for Windows / macOS
■価格:27,500円(税込)
■同梱ボイスバンク:16ボイス(VOCALOID6用ボイス・バンク:AKITO、ALLEN、ASAHI、HARUKA、LUCAS、MICHELLE、SAKURA、SHION、ASAHI、TAKU、YUINA、NAOKI)(VOCALOID5用ボイス・バンク:Amy、Chris、 Kaori、Ken)
※VOCALOID3、VOCALOID4、VOCALOID5のボイス・バンク及び、作成したプロジェクト・ファイル(VSQX、VPR)も読み込み可能
■対応OS:Windows10、11 (64ビット版)、macOS 13(Ventura)、14(Sonoma)、15(Sequoia)
その他詳細は、https://www.vocaloid.com/vocaloid6/specs/。
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