Interview:鹿野水月(plug+)
ヤマハVOCALOIDが発売されて20周年を迎えた2024年。ボカロ・カルチャーはどのように変化して、彼らの仕事道具=VOCALOIDソフトはどのように進化してきたのか。今をときめくボカロPたちに話を聞いていく。
ボーカロイド20周年記念サイト:https://www.vocaloid.com/anniversary/
目次
原口沙輔 インタビュー/ボーカロイド20周年記念
原口沙輔 プロフィール&コメント
【Profile】トラック・メイカー/音楽プロデューサー/作編曲家。以前はSASUKE名義で活動。『ボカコレ2024冬』では、楽曲「イガク」がランキング一位を獲得。
ありがとう。今みたいなシーンが育つとは誰も想像できていなかったであろうVOCALOIDの誕生という最初に対して、文化ができてからもアップデートし続けてくれるボカロたちにお礼をしたいです。これからも進化し続けてほしいと思います。
DTMとインターネットをたしなむ、原口沙輔5歳
ー原口沙輔さんは2003年生まれとのことでVOCALOIDと年齢がほぼ一緒ですよね。2008年5歳のころからDTMをなさっていたようですが、幼少時代にボカロ曲は耳に入ってきましたか?
原口沙輔 5歳の時点でパソコンをいじって、インターネットをたしなんではいたので、おそらくボーカロイドの声だったら耳に入ってきていたと思います。印象深い曲はいくつかありますが、見つけて嬉しかった曲は、kzさんの「ファインダー」をimoutoidさんがリミックスしたものでした。そのアレンジは原曲より音を少なめにして、初音ミクの声を目立たせる形になっていた印象です。
ー最初にボーカロイドの声を聴いたときは、どのように感じましたか?
原口沙輔 5歳の僕は、ずっと初音ミクを人だと思って聴いていましたね。機械の声だと思っていなくて、Perfumeみたいなクラブ・ミュージックのケロケロボーカルになじみがあったので、めちゃくちゃにANTARES Auto-Tuneがかかっているのかなって思っていたと思います。
ーテレビで流れているポップス音楽やクラブ・ミュージックと、ネット上にあったボカロ曲はジャンルが異なるものだったと思いますが、幼少時代の沙輔さんはどのように受け取っていたか覚えていますか?
原口沙輔 プロの作曲家の方と趣味でネット上に音楽をアップしている方々の区別は付いていなかったと思いますね。どっちも“すごいなぁ”という感じ。当時の知能だと、自分も曲を作ってネット上にアップできるなんて思ってもいなかったので。
ー前に『ボカロZINE』でインタビューした際に、子供のころに親御さんへ“初音ミクを買って”と言えなくて、ネット上にある初音ミクのオーディオ・ファイルをダウンロードして切り張りして遊んでいたとお話しいただきましたよね。
原口沙輔 それは2016年、中学一年生のころですね。LANDR × Sleepfreaks REMIXコンテストの課題曲のボカロ・パートのオーディオ・ファイルをダウンロードできたので、それを使用して遊んだのが、DTMでのボカロとの初めての接点になりました。
原口沙輔が刺激を受けたボカロ曲=lumo「逃避ケア」
ー中学時代までに出会ったボカロ曲の中で刺激を受けたものは?
原口沙輔 lumoさんの「【初音ミク】逃避ケア」は印象に残っています。曲の始まりから音がブツブツ切れていて、聴きながら“PCが壊れたんじゃないか”って本当に焦るんですよ。元々サンプラーを使ったカットアップの音を好んで聴いていたのですが、この曲はそれをやり過ぎているんですよね(笑)。カットアップしていないところがないくらいなので、こういうのを好きな人をずっと満たしてくれる感じです。
ーボーカロイドの使い方が面白いと思うボカロPの方も居ますか?
原口沙輔 ボカロPごとに調声は違いますけど、きくおさんの作る初音ミクの声もすごいです。調声自体はささやくような息混じりの優しい感じなんですけど、メロディの取り方(ピッチ)が揺れているので不安定な感じがする。とにかく、個性なんですよね。しかも本人はあくまで、“可愛く歌わせたい”って一心で作っているのも何だか良いです。
ーきくおさんの初音ミクはちょっと苦しそうなときがありますよね。
原口沙輔 そうなんですよね。でもそれは調声が原因というより、シンプルにメロディが高かったり、ダブステップとかホラー映画の劇版のようなオケなど、一見歌を乗せるには大変そうな曲で初音ミクを歌わせるからかなと思います。
ー沙輔さんは2018年中学三年生でメジャー・デビューなさって、これまでの多種類の音楽を聴いてきた経験を生かし音楽を作っているなと思います。以前、“やり残したことをやろう”という気持ちでボカロP活動を開始したと仰っていましたね。なぜボカロだったのか、改めて教えてください。
原口沙輔 ずっと頭の中にあって、やりたいことの中でも特に大きかったのがボカロ曲の制作だったんです。だからこそ、独立して今までやってきたことと違うことをやるとなったとき、アルバムとともにボカロ曲の制作がすごく自然な形で出てきました。
原口沙輔 初投稿「人マニア」
ー原口沙輔さんの初投稿は「人マニア」で、以前その制作期間は三日だったと仰っていました。活動開始まで、ボカロ曲を作るための技術的な部分はどのように深めていたのですか?
原口沙輔 「人マニア」を作ってみるまで、機械音声と自分の音楽表現がマッチするのか分からないまま制作を始めたのですが、結果的にピッタリと合ってくれたなと思います。ただ、中学生のころから一応自分なりにボカロにハマりそうなオケを考えて作曲していました。あとはボカロの音を入れるだけという状態までの曲であれば、ボカロを手に入れる前から作っていたので、脳内でシミュレーションはしていたってことかなと。
ー沙輔さんが思う“ボカロっぽい曲”ってどんなニュアンスですか?
原口沙輔 オケはボカロPごとに多種多様だと思いますが、歌メロに何か共通性があるような気がします。一般的なポップスの歌メロとは異なる、メロディの動きに癖がある感じです。
原口沙輔に聞くボーカロイドの調声
原口沙輔「アコトバ 」×初音ミク V4X
ー原口沙輔さんがお持ちのボイス・バンクとエディターについて教えてください。
原口沙輔 エディターは、VOCALOID6 Editor。ボイス・バンクは初音ミク V4Xと、VOCALOID5のもの、VOCALOID6のAIボイス・バンクを使える状態にしてあります。
ー初音ミクとVOCALOID 6を購入したのはいつでしたか?
原口沙輔 去年『一枚絵投稿祭』に参加しようと決めて、投稿日の2日前を制作日に決めていたんですよ。だから「アコトバ – 初音ミク」のミクの声は購入して、初めて触って作った声です。
ーどのような手順でボーカロイドの音声を作りましたか?
原口沙輔 最初にDAW上でシンセ・メロを作って、そのMIDIデータをVOCALOID 6の方に読み込ませてミクに歌ってもらっています。シンセの打ち込みの段階でノートをかなり短くして作る癖があって、だからVOCALOID 6上に持ってきたときに “ちょっと短過ぎたかな伸ばそう”と思うことが多いです。歌として物足りなくならないように調整します。
ーポツポツと喋るように歌わせますよね。先ほどカットアップの話をなさっていましたが、ボーカルも切らないと気が済まない感じなのかな?と思いながら聴いていました。
原口沙輔 それはあるかもしれないですね。ボカロもですが、自分が歌うときに結構切るんですよ。僕の基準が変だというのを前提として、気持ち的には自分が歌っていて気持ちが良い曲を作ろうと考えていました。
ー多くの人にとって、歌というものは伸びやかで気持ち良いものということを前提として、沙輔さんは止めずにはいられないということでしょうか。
原口沙輔 そうですね。ただ僕ダンスをやっていた時代にファンクを聴いてきたので、そのボーカルのニュアンスが歌メロ作りにも反映されるのかもしれないです。止める気持ち良さに取り憑かれているんでしょうね。
ー沙輔さんは初音ミクに限らずですが、全体的に幼めの声にチューニングしている印象です。
原口沙輔 そうですね。感情が入り過ぎないように気を付けていて、ここぞというときにしゃくったり、揺らしたりするくらい。あとは音節同士がつながらないように、ノートを長くしない、離すようにしています。
ーボーカロイド・エディター内のパラメーターはどういったものを使っていますか?
原口沙輔 実は使っていないんです。なので、デフォルトの値ということになりますね。もちろん、DAW上でボーカル・ミックスのためのエフェクトをかけたりはしています。基本的には素朴な感じにしたかったのと、初音ミクらしさを強調したくて。よくボカロ曲を聴いていると“これ誰の声だろう?”って思うことがあるじゃないですか。パラメーターをいじり過ぎた結果、初音ミクらしさが失われるといったことが起こらないようにしたいと考えていました。
ー「アコトバ – 初音ミク」は歌詞に無垢さを感じますし、比較的優しい雰囲気で歌っていると感じます。調声の意図は?
原口沙輔 オケ作りでは嫌な静けさのようなものを作るようにしました。歌詞では少し強いことを言っているので、優しい穏やかな調声の方が不穏な雰囲気になるかなって思ったんです。だから最初は優しく歌ってほしくてVOICEでSOFTを選んでいましたが、なんか違うなと思ってOriginalに変更しました。
原口沙輔によるVOCALOID 6レビュー
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ー最初にVOCALOID 6のエディターを触ったときの感想は覚えていますか?
原口沙輔 視覚的に音を理解しやすいっていうのが、最初の感想です。ノートを伸ばしたり縮めたりすると、きちんとエディター上の波形に反映される。Dynamicsなどをいじったり、ピッチ・ベンドなどを細かく書くと、如実に波形に出てくれるのは気持ちが良いです。もちろん、パラメーターの効きも良くて、聴感上でもちゃんとかけた分だけ声質が微細に変化してくれるのは助かるなって思います。
ー沙輔さん普段はあまりパラメーターをいじらないスタイルとのことでしたが、せっかくなので少しだけ一緒にエフェクトたちを触れられたらと思います!
原口沙輔 分かりました〜、まずはCharacterのパラメーターをいじってみます。おぉ、ペン・ツールを使うとオートメーションを記入できると。試しに思いっ切り下げてみると……喉が思いっ切り開いたオペラみたいな感じになりますね。思いっ切り上げると……あんしんパパ「はじめてのチュウ」みたいな感じですね。
ーAuto-TuneのかかったニュアンスはROBOT VOICE機能でも作れそうですね。
原口沙輔 ROBOT VOICEをNormalのモードでオンにしてみると、しっかりAuto-Tuneのかかったニュアンスになりましたし、エディター上の波形も分かりやすくカクッと曲がりましたね。Auto-Tuneを過激に使った声はピッチの変化をなだらかなところから急激にするってことなんだって原理も理解できますね。このROBOT VOICEをオンにしたミクの声は今初めて聴きましたが、初期っぽい声がしてすごい良い。好きな感じです。このモード使っておけば良かったな……。
ーほかのパラメーターで気になるのは?
原口沙輔 僕は人間のボーカルの処理をDAW上でする方が慣れているので、ボカロの音量コントロールもDAW上でやってましたが、VOCALOID 6は動作が軽くて、効きを待ったりする時間も少ないので、Dynamicsでミュートの操作などを細かに設定したいといった際にも、非常に使いやすそうだなと。今日改めて、発見でした。
ー沙輔さんは取材冒頭でボカロらしさにビブラートをあげていましたね。VOCALOID AIのトラックならば、Pitch Bendで揺れ具合をノートの前方と後方に分けて設定できますね。
原口沙輔 揺れ具合であったり、揺れる開始位置が選べるのは、頭の中で声のイメージがしっかりと固まっているときであればあるほどありがたい機能ですね。
ーVOCALOID 6には、VOCALO CHANGER機能というオーディオのボーカル音源を、VOCALOID 6同梱のボイス・バンクをはじめとするAIボイス・バンクで歌わせることもできますよね。
原口沙輔 僕の声を読み込ませてみたら、癖が強かったり、発音が弱いところ以外は再現してくれました。女性のアーティストの方に楽曲提供をするときのデモを作る際に便利な機能だなと思います。
ー今回ボカロ・エディター内のパラメーターをさまざまに確認してみましたが、何か新しい調声のアイディアなどが出てきそうですか?
原口沙輔 曲や仕事のためとかではなく、もうちょっとVOCALOID 6という一つの楽器と向き合う時間を作ってみたいなと思いました。ずっとDTMをしていると、ほとんど触れたことのあるものに囲まれていってしまうので、新鮮な存在はとても大事です。
ー沙輔さんは昨年2023年からボカロP活動を開始したので、まだ新鮮な気持ちでボーカロイドとも触れ合えていると思いますが、ボカロ曲を作っていて今何が楽しいと感じていますか?
原口沙輔 何と答えたらいいだろう……でも、やっぱり仕事ってだけじゃなく、自分のために作れているなと思いますし、それと同時に自分だけが満足するものというより、ボーカロイドの文化の一部として表現しているんだという感覚にもなっています。一曲目の「人マニア」は自分一人で文化に飛び込んでいった感覚でしたが、今では作っているときから皆と話しながら作っているような感覚なんです。
ー一人で矢面に立つ音楽家ではなく、仲間を感じながら作曲できるのが楽しいということですね。
原口沙輔 そうですね。創作という行為が、こういったコミュニケーションを生んでくれている。そんなシーンってとてもありがたいと感じています。
ー最後に、ボカロPを目指してる人へ、応援メッセージをいただけますか?
原口沙輔 自分を妥協しなくて良いですからね。もし近くや近い年代に圧倒的実力差を感じる人間が居らしても、焦らずにじっと突き詰めてください。リスナーに擦り寄った音楽より、貴方が心から表現したい歌の方が、ミクさんをはじめ合成音声の皆様は喜んで歌ってくださります。僕を真似る必要もありませんよ。そのときは、僕がリスナーになる時ですから。
VOCALOID6 for Windows / macOS
■価格:27,500円(税込)
■同梱ボイスバンク:16ボイス(VOCALOID6用ボイス・バンク:AKITO、ALLEN、ASAHI、HARUKA、LUCAS、MICHELLE、SAKURA、SHION、ASAHI、TAKU、YUINA、NAOKI)(VOCALOID5用ボイス・バンク:Amy、Chris、 Kaori、Ken)
※VOCALOID3、VOCALOID4、VOCALOID5のボイス・バンク及び、作成したプロジェクト・ファイル(VSQX、VPR)も読み込み可能
■対応OS:Windows10、11 (64ビット版)、macOS 13(Ventura)、14(Sonoma)、15(Sequoia)
その他詳細は、https://www.vocaloid.com/vocaloid6/specs/。
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