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ゼロから学ぶ

Text:Mizuki Sikano Stage Photo:超パーティー2022運営

10月16日(日)の超パーティー2022に出演した、歌い手の+α/あるふぁきゅん。彼女は2013年からニコニコ動画やYouTubeで歌ってみた動画を投稿し、圧倒的な表現力と歌唱力、また“音楽オタク的好き”を感じさせる選曲で、リスナーから人気と共感を集めるネット発の歌姫だ。そんな彼女に、超パーティーの常連としての心境、選曲理由、普段の音楽の楽しみ方や、自らの歌唱表現に起きた変化などを話してもらった。

+α/あるふぁきゅん。インタビュー@超パーティー2022

クラス・メートと超パーティーへお参りに来ているような感じ

―+α/あるふぁきゅん。さんはこれまでに超パーティーには何度も出演なさっていますが、今年はどういった心持ちでパフォーマンスしましたか?

+α/あるふぁきゅん。 良くも悪くもですが緊張しいなので毎回新人みたいな気分ではあって、“初めまして”みたいな感覚も持って臨んでいます。それは個人的には良いことだと思っているんです。あとワンマン・ライブだと15〜20曲ぐらい歌うので、1、2曲で全力を出し切ってしまう歌い方はしないですが、超パーティーでは披露する曲数が少ないので全力を出し切るんですよ。そういったこともあって、ちょっと新人に戻った感覚になれるイベントかなと思っています。

ー初出演がメジャー・デビューと同じ年の2014年ですね。なので超パーティーは、ご自身の活動と一緒にある年間行事の一つなのかな?と。

+α/あるふぁきゅん。 年末に行くお参りのような感覚ですね。たとえ出演しても、していなくても、もはや無かったら変に思うくらいの存在です。普段あまり人に会ったりしない性格なので、超パーティーみたいなものがないと“久しぶり〜”のような感じで皆と会える機会もないですから。集まれるのがうれしいですね。

ー同窓会のような?

+α/あるふぁきゅん。 集まると学校のような感じになるので、クラス・メートと超パーティーへお参りに来ているような気分(笑)。

頑張ってレベル・アップしようと気合を入れた

ーその神聖なお参りのための2曲「-ERROR」と「虎視眈々」の選曲理由を教えていただけますか?

+α/あるふぁきゅん。 包み隠さず申し上げると、最初に“候補曲を3つ送ってください”と言われたんです。それで第3候補に「-ERROR」を入れていた。でも“本当にキーが高くて辛過ぎて歌えないので、なるべく避けてほしい”という文言を添えていたんです。なのに、まさかその第3候補が選ばれるとは……夢にも思いませんでした(笑)。

ーでも、候補には入れていたのですね。

+α/あるふぁきゅん。 一応……入れましたね。歌えないことはないけれど、あまり上手には歌唱できないだろうなと。選ばれてしまったときは、一瞬ですけど“絶対に歌えないだろうな”ってメンタルに来てたんですよ。でも今年は超パーティーがミュージック超会議2022という一連のイベントの一つに進化していたりするじゃないですか。私も超パーティーみたいに頑張って進化しなければ、レベル・アップしなければと気合を入れたんです。自己評価だと完ぺきではないのですが、人様に聴かせられるぐらいには持っていけたと思います。

ーそこまで努力したいと思える曲とイベントだったということですよね。

+α/あるふぁきゅん。 「-ERROR」を第3候補にまでして入れた理由は、本当だったら一番歌いたかったからなんですよね。つまり普通なら第1候補なのに、私のレベルが追いつかないから第3候補だった。だから、一番伝えたかった曲ではあったんです。

ー心の第1候補が見透かされて選ばれた感じですかね。

+α/あるふぁきゅん。 運営さんたち、怖いなと思います。即決だったそうですよ。

ーライブで演奏するに当たってキーを下げるなどの調整をしたのですか?

+α/あるふぁきゅん。 キーは2つ下げました。ライブとレコーディングって全然違うので、この曲に限らずライブ用に声が出しやすい範囲のキー・チェンジはするんです。レコーディングって休憩しながらできるので、自分が出せる以上のキーが出てしまったりするから。ライブのためにキー・チェンジをしたコーラスも録り直して準備をして、それで練習を重ねていくんです。何とか皆さんに聴いていただけるところまでは仕上がったので、良かったんじゃないかなと思っています。この1発ではなく、これから先ワンマン・ライブのような場所でも歌えるように、努力していきたいです。

超パーティーでしょっちゅう聴く楽曲が適している

ーもう一つ、いかさんと歌った「虎視眈々」も、その3つの候補の中に入っていたのですか?

+α/あるふぁきゅん。 そっちは別で、打ち合わせでパッと言ったら通っちゃったんです。最後にいかさんと「虎視眈々」を歌ったのは4~5年前かな。覚えてないくらいです。

ーいかふぁきゅんですね。

+α/あるふぁきゅん。 そうですね。ほかにもいかさんと一緒に歌っていた有名な曲はたくさんありますし、どれも素晴らしい曲ばかりだと思うのですが、そのころによく一緒に歌っていたのが「虎視眈々」だったんですよね。超パーティーってネット発の懐かしいヒット曲が数多く演奏されるじゃないですか。ネットを主体とした音楽シーンを代表するイベントとして、私たち出演者も超パーティーに思い入れはありますが、私たちだけじゃなくてお客さんも“超パだから行こう”っていう人が多いと思うんです。だから、中にはもう今の曲を聴いていない方々も居るんじゃないかと。

ー超パーティーの選曲で、昔の思い出に浸れるみたいなところはありますよね。

+α/あるふぁきゅん。 そう、「虎視眈々」も超パーティーでしょっちゅう聴く楽曲だから、適しているんじゃないかと思ったんです。

ーこれまでもそういったことを主に意識して選曲してきましたか?

+α/あるふぁきゅん。 意識はしますよね。ほかの歌手の方々も悩まれる点だとは思うのですが、私の考えでは“最近この曲ばっかり歌っているな……よし!超パーティーでは変えよう!” って考えなくて良いと思うんですよ。超パーティーに来るお客さんって、私たちの普段のライブを観に来るお客さんとも少し角度が違うと思うから。

“歌いたい”と思うのは音楽を楽しんでいることの表れ

ー+α/あるふぁきゅん。さんも超パーティーのお客さんのようにネット発のクリエイターの楽曲を楽しもうという目線があって、その延長線上に“歌ってみる”という行為がありますか?

+α/あるふぁきゅん。 “歌いたい”と思うのは、音楽を楽しんでいることの表れなんじゃないかとは思いますね。音楽を聴くのはずっと大好きなことで、どこでもしょっちゅう聴いているし、自分が歌ってるところも毎回想像しちゃいますね。ハマると思った曲がネット発の音楽だったらカバーを検討したりとか。

ー日常的にイアフォンとかで音楽を聴く中で、カバーする曲を決めていっているのですね。

+α/あるふぁきゅん。 そうですね。ほとんど勘なんですけど自分のボーカルと合う/合わない楽曲というのは、聴いただけですぐ分かるんです。

ーキーとか楽曲のトーンとかで判断しているのでしょうか?

+α/あるふぁきゅん。 キーはあまり気にしないです。楽曲の雰囲気と自分の得意分野をどれくらい出せる曲なのかを、わりと瞬時に判断できるようになってきているんです。

ー+α/あるふぁきゅん。さんって驚くぐらいいろいろな声を出せるじゃないですか。なのでご自身で得意分野をどのようにとらえられているのかはすごく気になります。

+α/あるふぁきゅん。 もっと、もっと、も〜っと!キーを楽に設定できれば「-ERROR」のような曲調も得意だと思っています。あと、「-ERROR」はもっとゆっくりだったら、さらに得意と言えるかもしれません。「-ERROR」は十分バラードだと思うのですが、息継ぎをするタイミングが意外にも無いんですよ。

ー曲調で言うと、ロック、バラード、パーティー向けのダンス・ミュージック……本当にさまざまな楽曲を歌いこなしていて、それがきちんと+α/あるふぁきゅん。さんのアイデンティティとして確立されていますよね。

+α/あるふぁきゅん。 あらためて考えてみると、極論にはなりますが、好きになった曲は全部得意になれるのかもしれないですね。だって楽しいから。その得意の中で細分化されていて、その中で特に得意なものがバラードとパーティー系の曲なのかもしれません。

憑依だけでなく、自分の思いを乗せる方法を身に付けた

ー以前ほかのインタビューで“感情によって声とかが自然と変わるのと同じで、さまざまな歌に合わせて声が変わるんだ”といった趣旨のコメントされていたのが印象的でした。今もそうなのか、+α/あるふぁきゅん。さんの楽曲への憑依力がどのように生み出されるのかなと。

+α/あるふぁきゅん。 昔は好きな曲があったら、その曲の主人公になり切って歌うということを意識的にしてきたんです。なぜそのやり方をしていたかというと、まずは本家へのリスペクト。私は歌い手というだけじゃなくボカロPのファンでもあるから、そういうファン精神を表現していました。「-ERROR」は2018年に投稿した曲で、その辺りから選曲に変化が出始めて、カンザキイオリさんの「死ぬとき死ねばいい」って曲をカバーしたり。そして今年は自分で作詞もするようになりました。“分かる”と思う曲を歌いたいと思うように変化していきました。

ー共感できることが表現の上で重要だってことに気付いた、ということですね。

+α/あるふぁきゅん。 そうすれば本家リスペクトもできるし、歌を自分の表現でパフォーマンスすることもできる。何かに憑依されているような表現も素敵で、観ていて心揺さぶられますが、自分の思いを乗せるというのも至極重要なことだと感じています。そういう中で、憑依だけでなく、自分の思いを乗せる方法を身に付けたんです。

ー好きな音楽は成長とともに定まると思うのですが、+α/あるふぁきゅん。さんにとっては、好きな音楽性よりも好きなメッセージ性のところが強く定まっていっている感じはしますか?

+α/あるふぁきゅん。 どちらも大事な要素だと思っているんですけど、私は6:4で好きなメッセージ性の方が強く定まってきていると思いますね。どんなにサウンドが魅力的でも、その楽曲が持つメッセージ性と自分とのズレに気付いたまま歌っているのは良くないんじゃないかなと思って。きっと聴く側もそんな歌唱ではスムーズに共感できないんじゃないかと思うようになったんです。

ーそう気付いたきっかけは?

+α/あるふぁきゅん。 私より歌が上手い人も、可愛い人も、頭が良い人も、美しい人も、面白い人も、この世の中いっぱい居るんですよ。この世は、自分よりも優れている人であふれ返っています。でも、“私はこれだけは負けない!”と思うのがあって。それは、人が“心痛い”って思う感情です。心の痛みは本当によく分かるんです。そう思うようになったのが数年前で、そのとき自分の身にさまざまな悪いことが降りかかって。それまで感じてきた心の痛みは、せいせいみぞおちを殴られる程度だったとしたら、そのときは砂利の上に顔を擦り付けられて踏まれるような痛さで……私は“もう死なせて”って言ってるのに死なせてくれずまた刺される、みたいな。そういう経験の中で、他人の心の傷に気付くようになっていきました。

“表現しなきゃ!”という感情に振り回されなくなった

ーつまり、自分の心の痛みが他人の心の痛みを想像する材料として機能するようになった、という変化ですよね。それって音楽の聴き方や受け取り方へダイレクトに影響しますよね。本当に共感できるものを好んで聴いたり、カバーするようになってから、新しい発見はありましたか?

+α/あるふぁきゅん。 自然かつスムーズに表現できるようになりました。“表現しなきゃ!”とか、“頑張って歌詞がどういう意味なのかを考えなきゃ!”みたいな感情に振り回されないようになったんです。でもそうやって共感できる曲ばかりを選んでいくのは必ずしも良いことだけをもたらすわけではありません。そういう曲ばかりを選んでいたら私のアルバムからパーティー系やR&B系の曲調が減ってしまいますし“キラキラ”“明るい”などの感度も無くなってしまいます。つまり、偏っていくのは良くないこととも、とらえられるかもしれないですね。私は毎朝ブラック・コーヒーなんですけど、たまにはカフェラテを飲みます。たまに飲むと余計に美味しく感じるものですし、それと同じようにバランス良く歌っていきたいとは思っています。

ーお話を聴く限り、これまで+α/あるふぁきゅん。さんはきっとパーティー系とか懐かしいボカロ曲とかに共感していた時期もあったんじゃないかと思うんですよね。

+α/あるふぁきゅん。 そうですね。だから、変わらずカフェラテも飲もう(編註:パーティー系のダンス・ミュージックなども歌っていこう)と思うのは、音楽的にバランスを取ろうとしているというだけではなくて、当時のファン精神の名残りという解釈もできるかもしれない。私がカバーしている音楽は基本的にどの曲も“ファンです!”って、はっきり言えるものだけなんです。だから今後も、自分が通ってきたこのシーンの音楽の影響も感じながら、今自分が共感できる音楽を歌っていきます。

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