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Interview:Mizuki Sikano photo:plug+編集部、©ニコニコ超会議2024

幕張メッセで4月27日(土)28日(日)に開催された『ニコニコ超会議2024』。ボカロPのDJパフォーマンスが楽しめるステージ=『超ボカニコ』に出演したいよわにインタビュー。

 

 

『超ボカニコ』ステージの感想から、2023年に感じていたスランプ……新曲「クリエイトがある」の制作についてまで話を聞いた。

いよわ インタビュー@ニコニコ超会議2024

『超ボカニコ』ステージ中に投稿した新曲「クリエイトがある」

©ニコニコ超会議2024

ーファンの皆さん身動きが取れないほど会場に人が詰めかけて、本当に熱気がすごかったですよね。

いよわ 本当にすごくてですね。まず、壇上に上がったときの視界が、ほぼ全部人だったっていう。“人間がこんなに居るわけないだろ”みたいな気持ちになって、もう多過ぎて笑いました(笑)。“本当にありがたいな”と感じましたね。

ー去年よりも『超ボカニコ』のステージに集まる人多くないですか?

いよわ 確かに、さらに多かったような気がしますよね。ただ僕が出てきた時点で会場のボルテージが上がりに上がっていたというか。もう最高潮みたいなところから始められたと思います。特に、僕の前の原口沙輔さんのステージで、自分のステージにつなげる終わり方をしてくれたのが見事で。自分自身も気合い入って臨むことができました。

ー沙輔さんといよわさんは結構交流もあるんですよね?

いよわ あります。だから友達っていうのもあるけれど、お互いの作品にめちゃくちゃ注目し合っている関係性になっていると思います。“こいつは絶対何か仕掛けてくるぞ”って期待感みたいなのをお互いに持っている面白い関係性というか。

ー今年はDJパフォーマンス中に、新曲「クリエイトがある」が投稿されましたね。

いよわ 去年も同じことをやったから、今年やらなかったらガッカリされちゃうだろうなと思ってサラッと出すことにしました(笑)。去年は投稿ボタンをその場で押したんですけど、“今年もやってきたぞ!褒めろ!”みたいな気持ちでいっちゃうと面白さが陰るので。ステージに上がる前に予約投稿して“もう上がってるわ”っていう感じで、前よりも軽い気持ちでやりました。この新曲も“なんとか間に合ってよかったな”という気持ちです(笑)。

ーではこの出演に向けては、ある程度前から計画を練っていたということですよね。

いよわ 準備自体は長い時間をかけてやっていたんですけど、DJの準備自体は出発する日の朝まで作業してましたね。なので、本当にギリギリの戦いでした(笑)。

いよわが演奏していたNord Electro 6D。©ニコニコ超会議2024

新たにABLETON Liveを導入してGranulatorで音作り

ー今度発売する最新アルバム『映画、陽だまり、卒業式』の制作と並行して準備していたわけですよね。

いよわ 『映画、陽だまり、卒業式』は今も、現在進行形で制作しています。「クリエイトがある」は友人に誘われたコンピレーション・アルバム(以下、コンピ)のために書き下ろした曲で、その曲を気に入ったのでアルバムにも入れようってなって。なので、その2つの宣伝を兼ねている曲です。

 コンピ『全部俺 創刊号』は、絵と動画を全部自分でやっちゃうボカロPたちが集まって作ったコンピなんですけど。

ー「クリエイトがある」を聴いたとき、本当に振り切って新しい表現をしているなと。

いよわ 頭を空っぽにして作りたかったんですよね。たまたま最近は重めのテーマで作品を作ることが多くて。そんな中ではちょっと楽しげな曲がたまたま出来たので、“これで参加してもう意味分かんねえの作ろう”っていう。「クリエイトがある」は、すごい気軽に楽しく作り切った曲ではありますね。

ーこれまでのいよわさんのアレンジにあったのとは違うムードが流れているなと思います。

いよわ まず使うソフトとかをちょっと変えたんですよ。自分はずっとStudio OneっていうDAWを使っていたんですけど、ABLETON Liveを導入しました。一番直近の冬のThe VOCALOID Collection(以下、ボカコレ)でいろいろな作品を聴いていたときに、この世のものじゃないみたいな音が使われてる曲に出会うことが多くて。

ーそれってどんな音だったんですか?

いよわ ピュピュピュピューンって感じだったんですけど、“なんだ?このヤバい音は!”って。それで調べたら、グラニュラー・シンセによるものだと分かり。Liveにめっちゃ良いグラニュラーが入っているらしいみたいな情報に辿り着いたんです。あとは、DTM激ウマ人間たちが皆Liveを使ってるから、“ちょっと気になるぞ”と思ったのもあります。

ーGranulatorですね。最近Liveは12にアップデートもしましたね。

いよわ そうなんです。11を買っておけば無料でアップデート出来るタイミングだったので、11を購入して12にアップデートしました。Liveでドラムのリズム・パターンを作って書き出して、それをStudio Oneに持っていったんです。2つのソフトをまたいで作っているから“音色が普段と一味違うアクセントになっていたらいいな”と思います。

ーLiveの使い心地はどうですか?

いよわ 今はデカいおもちゃ箱の中に放り込まれたみたいな気分ですね。やれることが多いのは分かったけれど、大半がまだ自分のものじゃない感覚です。四角に音を入れていくのと(編註:セッション・ビュー)とStudio Oneの画面に近い方(編註:アレンジメント・ビュー)とかもよく分からないなと思いながら使っています。

ー今のところ感じるLiveの面白いところは?

いよわ 使ったら面白そうな内部機能や内部音源がたくさんあることです。底が見えなくて怖いくらい(笑)。でも、“いっぱい使って、自分の音楽に取り入れられるやつを探していきたいな”っていう気持ちです。“自分も進化しないとヤバい”みたいな気持ちになったのがボカコレ2024冬だったので、普段は“カロリーが高いからやらなくていいや”ってなってることをやるのに十分な刺激をもらったなと思います。

2023年に感じたスランプを乗り越えて完成した「クリエイトがある」

ー新しいDAWを使うって結構面倒なことが多いと思うんです。新曲のためだと思いますが、どうしてそのようなカロリーの要するアクションができたと思う?

いよわ んー……、2023年の僕は全体的にスランプ気味だったんですよ。そのスランプから抜け出せなかった理由の一つに、あまりほかの人が作った作品を見られなかったからっていうのがあって。良い作品に出会うと自分の技量の足りなさに気付いて、自分の作ってるものに自信がなくなったりしちゃうから避けちゃっていたんです。

ーでも、どうしてボカコレ2024冬のタイミングでは聴けるように変化できたのですか?

いよわ 足りない部分を認識してめっちゃ苦しんだ後にやっと自分が成長できるっていうことを理解できたからですね。だから良いものを聴いて、笑顔でのたうち回った方が良いんだなって。友人と一緒に周回したり、環境に助けられて聴けたのもあると思います。

ーいよわさんは表現スタイルが確立していて自分の武器が何か分かっていると思うんです。その中でも、なお自分と向き合うことにしたのはどうしてでしたか?

いよわ 自分のスタイルがあることは大事だし、それがあると制作はしやすいけれど、飽きられたときに逃げ道がないんです。誰の作品か分かる個性はもちろん大切ですけど、それでずっと殴られ続けると皆慣れてしまうだろうなと。

 だから普段のスタイルも維持しつつ違うことをやっていって、それでも残る共通項みたいなのが本当の個性なのかなと。だから既存のスタイルに頼らずに挑戦的なこともやっていきたいんです。不変と変化のバランスを測り続けていきたいです。

ーいよわさんの楽曲には“いよわガール”というオリジナルのキャラクターが居ますが、今回の「クリエイトがある」は、キャラクターという概念で用いていないですよね。

いよわ 俺もお話の外側に居るというか、三人称視点なんですよね。この曲のコンセプト的にガッツリ影響を受けたのが、TRPG(テーブル・トーク・ロール・プレイング・ゲーム)。自分のキャラを作ってそれを使ってプレイできるのを、ちょっと前に初めて経験して。“これめちゃめちゃ楽しいやん”ってなって。だからやってる人なら、“これキャラ・クリエイトじゃね?”と分かる要素をチラホラ入れています。

ーTRPGにインスパイアされた曲だったのですね。

いよわ そうなんです。あと<クリエイト>っていう単語が曲名に入ってたら、全部俺のテーマも相まって、何か創作において大切なことをしゃべりそうじゃないですか。だから、“その逆をやろう”っていう。だから物語が全く存在しないような文字の羅列をしたり、細かい設定はあまり詰めていません。ただ時間にはしっかり追い詰められていたので、深夜のバカになった状態であえて作りました。

ー歌詞にはある程度のランダム性を感じますが、間奏部分で文字の羅列があるところ、<私だけの分身>という言葉が際立って脳に飛び込んできました。このワード・チョイスの理由は?

いよわ それはそのキャラを作ってる子のセリフです。TRPGのキャラクター・シートって自分の主観は入らないんですよ。キャラの背景を書く欄をイメージして作ったんですけど、最後にふと主人公の影がヌルッて出てきたら気持ち悪いかなと思って用意した言葉でした。この一言で視点を切り替わらせたいと思ってはいたけれど、正直、基本的には細かいことを考えて作っていないです。

ーキャラクターの主観で言葉を綴(つづ)っていないからこそ、伝達可能なメッセージがあるのだろうなという印象です。

いよわ “虚構の持つ救いの力”みたいなのがこの曲の主題にあるというか。“奇麗なものじゃなくて、もっと自分で作ったものに汚らしく執着するのも一種の愛の形じゃね?”みたいな部分を書いたような、書いてないような(笑)。

ー今までは物語を描くというファンタジーな表現だったと思いますが、現実を音楽で描写するような、ある種のリアリズムを感じさせる表現が面白かったと思います。

いよわ そういう側面はあるかもしれないですね。以前のように物語は作らずに、取り扱う主題が時間の経過とか、思い出とか、これからの話とか、そういう普通に現実にあるものを取り扱っている。そして俺が、特にそこに答えを提示せずに、物語を投げっ放しにもしているので。

ーもしかして、スランプの間に現代哲学とかに触れたのですか?

いよわ そうではないですけど、一人で居る時間に、考える必要のないことまでたくさん考えるようになっていたんだと思います。でも曲は、自分が直接感じたことだったり、逆に自分が感じたことの逆の思想を持っているキャラを作ることで発想してきたので、何か自分が得たものが作用したのだと思います。

ー新しいアルバムの収録曲も「クリエイトがある」のようなアプローチを採っていますか?

いよわ いろんなことを考える時期に作った曲たちだったから、時間の経過とか、今までの人生で選んだもの、選ばなかったものの話とか、人生に関わる話の曲が多いんじゃないかなと。

ー面白い表現で聴いていて新鮮な気持ちになったので、このいよわさんの新しいアプローチを、早く皆さんにも楽しんでもらいたいなと思います。

いよわ 僕自身“新しいことをやりたい”っていう気持ちがまず最初にあるので、それに伴って自分の作品が現在聴いてくださっている皆さまの好みから外れていくことって多分あると思うんです。ただ、外れ過ぎないように頑張るのが、結局俺の仕事なので。これからも最大限の努力を続けるので、よかったら聴いてください。

いよわ DJセットリスト@超ボカニコ2024

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