plug+ by Rittor Music

自分らしく音楽を始める。

スタイル検索

ゼロから学ぶ

文:鹿野水月(plug+編集部)

ずっと真夜中でいいのに。やぬゆりなどのアーティスト/ボカロPのMVイラストを手掛けるアニメーション作家の、Waboku。今回は、イラストレーターになった経緯、ぬゆり「クレイ」MVの制作工程、音楽家に思っていることなどをインタビュー。

 

そして、今回Wabokuが「音楽家」をテーマに書き下ろしたオリジナル・イラストのTシャツ/ロンT「MUSICSLAVE」の発売も決定! イラストに込められた思いと一緒に、みんなで着よう!

 

Tシャツ販売サイト:https://t-od.jp/products/waboku-ts-001

ロンT販売サイト:https://t-od.jp/products/waboku-lt-001

アニメ作家:Waboku インタビュー

■Waboku
【Profile】アニメーション作家。Eve『お気に召すまま』、『トーキョーゲットー』、ずっと真夜中でいいのに。『秒針を噛む』などを手掛け、『ハゼ馳せる果てるまで』では第24回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門ソーシャルインパクト賞受賞。

X(Twitter):https://x.com/waboku2015

Wabokuがイラストを描くようになったきっかけ

ーWabokuさんが絵を描くようになったころのことを覚えていますか?

Waboku 保育園のころで、仲が良かった友達が絵を描いていたんです。“面白そうじゃん”みたいなことで一緒に絵を描き始めたのが4歳でした。

ーその後も絵を描き続けていくのですよね。

Waboku 描いてはいましたが、小学校の上級生から中学生くらいになってくると周りを見て“自分より上手い奴がいるのにやってもしょうがないよな”みたいなことを思い始めて。それから、全く描かなくなってしまったんですよね。

ー中学生になって、少し自信を失ってしまったのですか?

Waboku そうですね。小学校のときはまだ井の中の蛙で、“自分が一番上手いかも”くらいの感覚だったんです。そこからそうじゃないと分かってしまったので、絵画教室、部活、予備校といった絵に関する習い事には一切通わずにここまで来ました。

ー中学生になってからは、絵の代わりにどのような趣味を持ちましたか?

Waboku ゲームです。僕らの世代は、NINTENDO64からSONY PlayStation(以下、プレステ)を通って、NINTENDO GAMECUBEが人気だった時期を学生として過ごしていて。高校に入るころは、プレステ3とか、プレステ4とかがありましたね。中学生後半から高校時代になると、RPGや『モンスターハンター(以下、モンハン)』にハマりました。

ーRPGやモンハンを好きだった理由は何ですか?

Waboku それこそ、王道の『FINAL FANTASY(以下、FF)』とかだと、ナンバリングごとにシナリオが違うのが魅力です。

 『モンハン』に感じた魅力は、武器。例えばほかのゲームだと、キャラクターが重い武器を軽々しく扱うことが多かったのですが、『モンハン』はしっかり重そうで、敵にもダメージを与えている感じがする。そこにカタルシスを感じました。あとは、モンスターの素材を使うことで元のモンスターっぽい武器に仕上がるんですけど、“こんな面白い形にしちゃうの?”みたいな、元のモンスターが遺憾に思うくらい変な武器があったり(笑)。そういうひねりが好きでした。

ー現在さまざまなMVを手掛けていらっしゃいますが、学生時代から音楽への造詣も深かったですか?

Waboku 家族が全員、趣味で音楽を習っていましたけど、別に僕自身“音楽をやろう”と思ったことはありませんでしたね。中学時代はボカロ曲を聴いて、高校時代はヘヴィ・メタルが好んでいて、よく聖飢魔IIにハマっていました。

ーさまざまな選択肢がある中で、聖飢魔IIにピンポイントでハマった理由は?

Waboku 魔界という徹底した世界観を守りながら作られた楽曲ですね。あと、ライブのパフォーマンスが素晴らしくて。実際の演奏中も舞台のセットが曲ごとに変わったりするんです。そういったデコレーションが凝っているのが格好良かったです。

ー聖飢魔IIにハマっていたころから、自分がアニメーション作家になる世界線は見えていましたか?

Waboku いや、こうして仕事にしてるとは思わなかったです。でもニコニコ動画(以下、ニコニコ)で“アニメーションを描いてみた”とかが起こり始めて、“個人でアニメーションを作れる時代なんだ。じゃあ、僕も趣味でいいからやってみたい”くらいのことは思い、実際にチャレンジもしました。上手くいかなかったですけど。

ーどういったものを作りましたか?

Waboku 当時のニコニコ動画では『さよなら絶望先生(以下、絶望先生)』のオープニング映像が人気だったのですが、そのキャラクターだけを違う何かに描き変えるアニメーションを作った記憶があります。

Wabokuがアニメーション制作に使用しているツール

ーでも、高校時代にも絵を描いていたのですね。

Waboku そうですね。絵は好きでしたけど、実際仕事として稼げる職業だとは思っていませんでした。うちは貧乏だったんで稼げる仕事に就かなきゃダメだと思ってもいたので。

 ただそのとき、悩んだ挙句に自分のことを知らない人のフラットな意見を求めてYahoo!知恵袋に相談したんですよ。“僕は今、絵を描いているんだけど、進学をどうしたらいいか迷ってる”って。そうしたら“君はとりあえず若いから今は好きで楽しい方を選んだらいいんじゃない?”って返事が来て。とりあえずイラストの方が楽しいから、4年制の美術系の学校に進学しました。

ー進学先ではどういった学びがありましたか?

Waboku 今の仕事道具であるADOBEの画像編集ソフトのPhotoshop、アニメーション・ソフトのAnimateやモーション・グラフィックスのAfter Effectsといったソフトの使い方を学ぶ良い機会になりました。あと今に至るMV制作工程も、卒業制作時に確定して、そこからずっと同じ流れです。

ー卒業後の進路はどういった決断をしましたか?

Waboku 3DCGの制作会社に所属した後“トップ・ダウンの会社で、残業して、作りたくないものを作って生きていくのは無理だな”と思い退職して、音楽の芸能事務所にMVクリエイターとして所属しました。自分である程度ディレクションができる仕事が良かったんです。

初めてのMV制作はルワン「ハイタ」

ーそこからアーティストのMVやライブにまつわる映像などを手掛け始めたと。

Waboku そうですね。あと当時、GIFアニメーションとかを趣味で作ってTwitterに上げていたんですが、それを見てくれたボカロPの遼遼(ハルカリョウ、元ルワン)が2017年の4月にリリースした「ハイタ」って曲のMVを作るようにオファーをくれて。それが僕の作家業の中でも大きな転換点になりました。

 それから依頼が来るようになって、1~2年くらい先までスケジュールが埋まるようになりましたね。その後、11月にはEveの「お気に召すまま」なども作っています。

ー遼遼(ハルカリョウ、元ルワン)「ハイタ」はコマ割りが多くてスピード感がありますよね。一方で、Eve「お気に召すまま」はトーンが落ち着いている印象です。

Waboku 「ハイタ」のときは、短いカットだと一コマ1/8秒くらい表示したらすぐ次に行くみたいなハイテンポでカットを刻んでいたんですが、ずっとこればっかりやるのも芸がないので“ちょっと変えていこう”と思った記憶があります。

 カラーについては、曲自体に“すごく爽やか”とか強い印象があれば、強めに青を打ってみたりするんですけど、そこまで主張を感じなければ、ちょっと落ち着いた色になる。「お気に召すまま」はそういうことだったのかなと思います。

ぬゆり「クレイ」MV制作の裏側

ー 2019年にはずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」のMVを作っていますね。この曲はぬゆりさん作曲です。

Waboku 今では友達なんですけど、当時はぬゆりさんのことを僕が一方的に知っている状態で、「秒針を噛む」のときはほぼ接点がなかったんです。その後、何回かお会いできて、その度にぬゆりさんの曲が大好きだったので“何かいつか一緒にやらせてくれ”ってお願いをしていました。そして、「クレイ」のMVの制作依頼をいただきました。

ー「クレイ」制作時にはどのようなコミュニケーションを?

Waboku ぬゆりさんって、基本的には相手の作るものを肯定する人なんですよ。なので、頻繁にコミュニケーションを取って意見を伺ったりはしませんでした。ただ、当然お互いが何年も活動してきて、別々の道であっても生き残ってきて信頼し合っている。だから、何も言わずに任せてくれるのかなと思います。

ー「クレイ」の制作工程は?

Waboku ADOBE Animateで絵コンテを描いて確認してもらって、制作に入って、その後進捗を定期的に報告するような感じでした。

ー絵コンテはどれくらいの量を書いていますか?

Waboku 年々増えているんですけど、今だったら200枚くらいですね。細かく描くほど、スタッフさんに自分の考えている意図が伝わりやすくなるので。動きが複雑なところをしっかりと伝えたいんです。ヘンテコな動きだと、1枚では伝えられないんですよね。やっぱり1カット当たり、7~8枚は必要かなと。簡素な絵なので負担ではないんですけど、枚数はちょっと必要になっちゃう。

MVアニメーション制作に必要な道具は?

ー現在アニメーション制作ではどのようなツールを使用していますか?

Waboku まず美術背景はノートに手描きで行っているんですけど、それ以外の作業は自分の部屋にあるパソコンで作業します。手描きで描いた線画をカメラで撮影して、それをデータとしてパソコンに読み込んで、Photoshopで色を付けるという。作画制作はAnimateでやっていて、そうしてできあがった素材をAfter Effectsでまとめて出力するといった流れでアニメーションを制作しています。

ーじゃあ、この線は鉛筆タッチの筆を使っているのではなくて?

Waboku ガチ鉛筆ですね(笑)。全部パソコンでできたら楽なので、何回か、“鉛筆っぽいことができないかな”と思って試したんですけど結局デジタルっぽくなってしまうので、今だに手描きで線を描いているんです。

アニメ作家として乗り越えたスランプ

ー「クレイ」のMVでは女の人が主人公で、子供が育っていく映像が組み合わさっているこのストーリーをどのように考えましたか?

Waboku 付き合いのある友達夫婦が、当時“子供ができた”みたいな話があって。そこで、子供が大きくなっていく成長の過程とかを鍵付きアカウントのSNSで見てて、“楽しいばかりじゃないこともあるよな”とか思って。奥さんの方はやっぱり多少不安定になるような時期もあるじゃないですか。漠然と「クレイ」の世界と相性が良いテーマだと思ったんですよね。

ー主人公の女の子の存在というのは、物語にどういった影響を与える存在として描きましたか?

Waboku 生まれていったり、消えていくものたちをただ見ている存在が欲しいと思って描きました。結局消えていくことを止めることはできないので、傍観する人間を描きたかったんです。

ー新たな命というテーマとともに、命が絶えるような表現っていうのも同時にされていますね。

Waboku どちらかというと、僕は生まれるモチーフよりも消える方を主に描いていた気がしますね。世の中はやっぱり消えていくものの方が多い。望まれずに消えていく人も居て、僕はその当時、自分がその消えていく側だという感覚があったんです。

ー生死について考えることが多かったのですか?

Waboku 作家としての死について考えることが多かったかもしれないですね。“作家として続けていけるの?どうなの?”みたいなことをよく考えていました。僕が「お気に召すまま」や「秒針を噛む」のMVを作った時期は、僕にとっても世の中的にもアニメーションのバブルだったんです。

 その後、アニメ制作に参入するクリエイターが増えたり、制作依頼の数自体も少なくなっていたりして、アニメーションの費用対効果が良いものじゃないってことも業界内で浸透したからだと思うんですよね。

ー仕事が減っていくのを味わっていたのですね?

Waboku やっぱり生活的にも身体的にもキツかったですね。あと2021年ごろに制作していたMVで、自分の中で出したいものが出し切れなかった経験があったんです。自分以外の人たちをコントロールする能力の足りなさに、“アニメーション、上手くできなくなっちゃったな”みたいな感覚がその当時はありました。そのときの自分の感情が、 「クレイ」にはとても反映されていると思います。

ースランプなどを通して、自分の作家としての未来を考える機会が増えたこともある?

Waboku 自分とつながりを持ってる人と“仕事じゃないにしても関係を大事にしていきたい”っていうことを感じていたと思います。「クレイ」についても仕事とかじゃなく“良い機会だから友達として何か作りたいな”っていうのがまず前提にありました。劇中でエコーの写真とか出てくるのも友達夫婦から実際にいただいたものだったり、人とのつながりを大事にして作ったのが「クレイ」のMVでした。ぬゆりさんの曲を借りて、僕の私小説を書いているみたいな感じのものになっちゃった感覚が……(笑)。

ーMVは歌詞の内容を思わせるモチーフがたくさん出てくる形で構成されることが多いですが、WabokuさんのMVには独立した物語性を感じるので、「クレイ」の音楽の魅力を再解釈できる映像になっていると思います。

Waboku 振り返ってみたときに、“無理して楽曲に寄り添っていかない”というこのアプローチは正しかったと思いますね。ぬゆりさんの歌詞自体がかなり哲学的だと思うので、リスナーの皆さんがそれぞれ解釈を持っていると思うんです。 “僕の表現も独自の意味を持つものならばより面白いんじゃないか?”みたいな考えで制作していました。

ー「クレイ」を作り終わった後の心情はいかがでしたか?

Waboku 去年の後半から僕の中で色々回復し始めて今に至ってるんですけど、その起点が「クレイ」だったと思うんです。僕の制作に対する姿勢を上向きに直したきっかけになってくれたなと思います。

WabokuオリジナルTシャツ「MUSICSLAVE」

ー今回音楽家をテーマにイラストを描いていただきましたが、あのインスピレーションの元はあるんですか?

Waboku 音楽家の方は、すごく煮詰まったりして叫び出したいくらい上手くいかないときに“発狂してそうだな”という偏見に基づいて、ああいう髪の毛が爆発するみたいな人を描いた気がします。

ーその考えはどういったところから思いつきましたか?

Waboku ベートーヴェンのような激しさから思いついたかもしれません。音楽家は、煮詰まると大声を上げて近所を走り回っているような、そんなアクティブな印象が僕の中にはありました。

ー今後、音楽家と組んでやっていきたいことはありますか?

Waboku 音楽とアニメーションってMVに限らず、すごく相性が良いものだと思うんです。だからMVっていう枠にとらわれず、立体の作品、朗読劇とか、単純に尺が長い映像とかでも良いんですが、一つの作品を一緒に作りたいって気持ちはずっと持っています。

Waboku「MUSICSLAVE」販売情報

■『#音の絵師』オリジナルTシャツ販売サイト:https://t-od.jp/collections/otonoeshi

■Waboku Tシャツ販売サイト:https://t-od.jp/products/waboku-ts-001

■Waboku ロンT販売サイト:https://t-od.jp/products/waboku-lt-001

この記事をシェアする

  • LINE
  • twitter
  • facebook

2023年 ボカロ人気曲 24選!-今年聴かれたボカロ曲はなに?編-
2023年 ボカロ曲選 -現役ボカロP/歌い手/クリエイター21名が選ぶ“めっちゃ刺さったボカロ曲” 編-
ひさこフィーディー

注目記事

新着記事

注目記事