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Text:Mizuki Sikano Photo:ニコニコ生放送 配信アーカイブのスクリーンショット

幕張メッセで4月29日(土)、30日(日)に開催された『ニコニコ超会議2023』。同イベント内に用意されたボカロ曲オンリーの音楽ステージ=『超ボカニコ2023 Supported by 東武トップツアーズ』では、ボカロPによって構成された22組がDJ /バンドでのライブを披露した。

 

今回は1日目の出演者である、ボカロP=Pegにステージの感想から、普段の制作、ボカロP復帰前後の心境変化についてまで話を聞いた。

ボカロPのPegインタビュー in ニコニコ超会議2023

DJをして初めてBPMを意識した

―Pegさんは今年の1月8日に千葉発のボカロ系イベント=ボカチバこと『Vocation Chiba Vol.77』に出演して初めてDJをされたということで。まだ始めたばかりなのですよね?

Peg 始めたばかりですね。一応。

―情熱的で楽しそうなDJをされていましたね!

Peg やはり元々は聴き手として“音楽好き”なので、自分が作る曲以外をかけるのは楽しいです。あとは今回の準備中に新鮮に感じることがありました。それがDJプレイのためのソフトウェアで、流したい音源を読み込ませると自動分析でキーやテンポ(BPM)が表示されることです。普段から音楽を聴けばキーは把握できますが、テンポについてはあまり気にしたことがなかったんです。

―DJをしたことで初めてテンポ(BPM)を意識するようになったのですね。

Peg “こういうジャンルやムードの曲はこのくらいのBPMが多いんや”とかが分かるようになりました。あとはDJをする上で“これくらいのテンポと特定のキーの曲があるとすごく助かる”ということとか。

それで今度は“この曲につなげられるようにそれくらいのテンポで曲作りしてみよう”みたいなアイディアにもなったんです。DJが曲作りのモチベーションになりました。

―普段、Pegさんはかなり緩やかなテンポの曲を作られることが多いイメージです。

Peg そうなんですけど、それもそんなにテンポについてこだわって考えていなかったんです。今回みたいに“自分の曲をDJでかける”というように、リアルな現場で観客の皆さんに届ける機会が無かったので。

―今回のDJプレイだと、過激なリバーブが独創的でした。

Peg 今回のセットリストは自分でリミックスしたものと原曲をいろいろと混ぜていて、リミックスではダブがやりたかったんでリバーブを深めにしています。でも正直に言うと、本番でDJプレイをしながら“あれ?これ、やけにリバーブ深くないか?”ってなって(笑)。だからもしかしたら、僕が変なところを触っちゃっただけかもしれないです。

―ターンテーブルかDJミキサーのエフェクトのリバーブがずっとオンのままだったのですかね? でも斬新な世界観の作り込み方として受け入れられていた印象です。コメントでも皆さんが“リバーブすごい深い!”みたいな(笑)。

Peg 怪我の功名じゃないですけど、偶然ですね(笑)。1月にボカチバで自分がDJした際には”本当にただ自分の好きな曲をかけながら自分の曲も混ぜる”だけだったんです。今日のボカニコやボカチバもそうですが“知っている曲と知らない曲とで、盛り上がりの差が激しい”ですよね。だから、ボカロ系のDJは基本的にはあまりリミックスしない文化なんだと思うんですよ。“変なアレンジが加わっているのは嫌だよね”っていう(笑)。

―確かに、有名曲のイントロがかかった瞬間は異常なほど盛り上がりますよね。

Peg でも3月に渋谷でやっていたボカクラに遊びに行ったら、そこが普通のクラブって感じで、DJの皆さんリミックスしまくってて。ずっとフューチャーベースばかりやっている方が居たり、ドラムンベースだけ流している方が居たり。そこでDJの世界観の作り方を学んだことで、自分もリミックスをしてみようと思いました。

―それがまたダブミックスだったのはどうしてですか?

Peg 単純に好きだからです(笑)。確かに今まで作ってないですけど。

―Pegさんには、R&Bっぽいシンセやエレクトロニックな音色、あとはロックのイメージもあります。

Peg あとは僕ギターを弾くので、自分のトレードマークは“アコギ”なのかなと思っています。

ボカロP Pegの作曲方法

―普段はアコギで歌いながら作曲を始めることが多いんですか?

Peg 僕はたまたまバンドでギター/ボーカルをやっていたところからボカロPになったので、本当に初期はアコギの弾き語りで作り、そこにアレンジの肉付けをしていました。でもなぜか、アコギを買ってから最近にかけてはあまりやらなくなりました(笑)。

―せっかくアコギを購入したのに、どうして使わなくなったのですか?

Peg 単純に、DTMに慣れたからです。とにかくビート、ベースを作ってコードを乗せて作曲していく……それこそR&Bやヒップホップなどビートメイカーの方々と同じようなアプローチですよね。

―ご自身の音楽のサウンドと雰囲気に何かコンセプトを持っていますか?

Peg 一応、オーガニックと呼ばれるような有機的なサウンドは意識しています。あとは怪談などから香ってくるような幽玄な雰囲気を出したいと思っているんです。特に最近は、とても意識しています。

―そこに魅せられたきっかけはあったりしますか?

Peg ただ活動していくうちにリスナーの方々にそういうとらえられ方をしていることを把握したんです。

―リスナーがしている自分の曲の解釈をご自身で意識してみたということ?

Peg “おそらくリスナーさんもきっと求めているんだろうな”っていうところに、最近気付いたんですよね。活動しながら、今ようやく答えがまとまりそうかなと思っています。

食わず嫌いを無くそうと太宰治を読む

―歌詞について、曲の主人公の“何かから抜け出したい、救われたい”という感情がどの曲でも強いイメージがあります。そこと幽玄なサウンドを交差させてどういったものを表現したいと考えていましたか?

Peg これも活動していくうちに“おそらく自分の歌詞がそうとらえられている”と気付いた感じでした。でも去年は、自分の中で“食わず嫌いをなくそう”って年だったんです。それは、今まで食わず嫌いしていたものにも、見つけ次第全部触れていこうみたいな。その一環で秋に太宰治(以下、太宰)を読む機会がありました。

―太宰が嫌いだったんですか?

Peg 高校生のころに『パンドラの匣』を読んで、“これが好き”っていう人間になりたくないって思ったんです。その直後に三島由紀夫に出会って、三島由紀夫が太宰をボロクソに言っていたので、“太宰嫌いって感覚はいいんだ”って思い、それ以来食わず嫌いでした。

―何を読んだのですか?

Peg 僕が今年に入って読んだのは、『女生徒』です。あとは『畜犬談』とか『走れメロス』はすごく好きだなと思いました。読んでみて思ったのは、主人公はハッピーを求めながらも許せない何かを抱えているんですよね。それで、そういう“許せない何かや苦しみを抱えながら社会とどうやって折り合いをつけていきゃいいんだろう”ってことがテーマなんだなと理解しました。暗かったり絶望感を抱えて生きてもいいけど、それに囚われると社会からはじかれてしまう。やっぱり社会で生きていくには、どうにかして姿勢を正さなきゃいけないよなと。

あと、僕の高校時代の国語の先生がすごく捻くれてる人だったんですけど、“普通が一番やで”って言ってきたことがあったんです。朝礼で哲学的な話を放り込んで出ていくようなすごく変な人だったんで、きっと先生自身も普通になりたいと思っていたんでしょうね。

―太宰と高校の先生の言葉に、音楽の作り手として共感できる部分があったということですね。

Peg 僕も自分はやっぱり変な人間だってある程度は理解しているので、そういう人間の心理みたいなものが、きっと歌詞にも反映されているんじゃないかなと思います。実は、最近まで自分の書く歌詞に自信が持てなかったんです。でも、太宰が書くような賛否両論のある文学だって、世間できちんと評価されて、許されているのだから、自分も大丈夫かなと前向きに考えることができました。

ボカロPと自分が歌うことの振り分けができた

―苦手なものに積極的に触れていこうと思えたのは、ボカロPとしての活動を止めてヤマモトガクとして活動を始めたことがきっかけだったりしますか?

Peg それは、特に関係なかったです。単純に年齢がそこそこいってしまい、もう20歳のころみたいな感じで周囲にウワーッといけなくなってきたので、“自分側の世界を広げていかなきゃ”って思ったのがきっかけです。

ある意味、苦手なものに飛び込んでいくじゃないですけど……2月に『プロジェクトセカイ』(以下、プロセカ)に「ひつじがいっぴき」を提供したんです。そのとき思ったのが、“断った仕事は世間に言えない”ということ。“僕、『プロセカ』の提供を断ったんですよ”なんて世間に気軽には言えないじゃないですか。でもこの仕事は“僕の何らかの意思表示をする良い機会になるはずだ”ということは直感的に思えたので引き受けました。

―その“意思表示”というのは、ボカロPとして、シンガーソングライターとして、全部含めて“ご自身の音楽として色んなものをやっていく”っていうような、活動方針に関するメッセージですか?

Peg 最初はそのつもりでした。ボカロPから離れるという最初の決断をした理由が、ボカロの界隈というネットを中心にした音楽シーンで、チャンネル登録者数やフォロワー数、コメントでしかファンを推し量ることができないという状況の中、自分自身を大事にできなかったんです。100の気持ちを持ってくれているファン、10の気持ちを持っているファンも、1は1だから。ボカロの界隈というものは、やっぱりインターネットでやってるもんですから、作り手の方で見かけ上の数字を見るだけではいろいろと実感が湧かないことがあるんです。

―自分の心が数字についていかない感覚?

Peg 自分はただその辺で生きてる、フラフラしてるだけの兄ちゃんなんですよね。自分がボカロPとして、誰かから特別な目で見られているという意識も湧いてないんです。でもプロセカへの楽曲提供を決めて、制作して、発表するまでにもすごく長い時間があって、その間でもボカチバがあったり、さまざまな出会いもあって、自分と向き合って、今日に至る。

―今は1という数字にもさまざまな深度があると捉えて、Pegとしての自分とヤマモトガクとしての自分の両方を大事にする決意ができたようなフェーズに居ますか?

Peg もう自分の一部を切り捨てないって思えるようになって、ボカロPと自分が歌うことの振り分けができるようになったと思っています。Pegに人が集まって、今日のボカニコDJのようなお仕事もできて、Pegという存在で誰かと関わっていく決心も持てました。

―そこを突破した上で、今回のライブでボカロ・ファンの方を中心にしたオーディエンスはPegさんの目にどのように映りましたか?

Peg よく僕は“実在してたんだ”って言われがちではあるんです(笑)。でもそれはきっと、僕らからしてもそうなんですよね(笑)。ただ液晶に映っていただけの数字に実体がある!というのを確認できました。

―こういうリアルでの機会がないと見えないですもんね。今日は皆さんすごい盛り上がってました。

Peg そうなんですかね。そりゃ目の前で見れる分は“ノってくれてる”と分かるんですけど、どうしても自分の癖で他人と比べてしまうんですよ。“他の人はどう盛り上がったんだろう?”って。

―PegさんのDJの場合は、世界観に皆が引き込まれるようなノリ方だったんじゃないですかね?

Peg もともと“もっと来い!”みたいな客を煽るタイプでもないんです。元からそういうアーティストを嫌いではないけれど好きでもなくて。本当に自分が一番あこがれているアーティストはバンドのくるりだから。

―くるりは煽らないですよね。

Peg 絶対煽らないですよね。以前観に行ったライブなんて最初“ごめん、麦茶かと思ってウイスキー飲んでもうたわ。じゃあ、やりま~す”っていう感じで(笑)。

―Pegさんの「はすの花」はくるりの「ばらの花」からの影響?

Peg ひらがなにしているのはそれが理由です(笑)。あれは、高校生のころの僕が考えた“最強の音楽”を形にしてみたものという感じなんです。だから稚拙ではあると思いますが、好きなものは詰まっています。

―今日のDJのプレイは落ち着いた雰囲気のリミックスと、後半「あとのまつり/鏡音リン」辺りではマイクを持って情熱的に煽る姿も印象的でした。

Peg 煽っていたところもありましたね。でも基本的に僕の中で、自分のDJスタイルは“ダウナーなアッパー”だと思っています。多分自分に一番求められてるのはそれだから。感覚的に言うと、レディオヘッドとかがやっているノリを自分もしたいんですよ。表面的にはすごく静かなのに、ノレる感じ。

―というか、レディオヘッドは暗いですよね(笑)。

Peg そうですね(笑)。だからコアなクラブとかに行くときっとなじむだろうなと思っています。自分の内側に向かって、瞑想みたいな感じでノる空気感が好きなのかな。

去年、米津玄師さんのライブを観に行ったときに、米津さんが“ノリたいようにノッてくれればいい。別に聴きたい人は聴けばいいし、踊りたい人は踊ればいいし、別に好きにやればいいと思う”と、要約するとそういうMCをされていたんです。それが僕のスタンスとも近くて、今日は2~3曲目くらいに“自分が激しく動いているさまを見せよう”と意識しました。何かが取り憑いた人みたいな表現にシフトして、シャーマンみたいなイメージです(笑)。会場の皆にとって、僕がノリ方の例になればいいなと思ったから。

―とても格好よかったです。では最後に読者の皆さんへ伝えたいことはありますか?

Peg 新曲が出てますので、ぜひ聴いてください!

―今日も流してましたよね? 皆「色魔!」ってコメントで反応してましたよ。

Peg 皆、意外と見てるんや(笑)。このボカニコのセットリストの提出が、2月末だったんです。それで提出後にいろいろとDJのセットリストを組みながらリミックス作業などをしていたら、思いの外尺が短いことに気付いてしまって……急遽新曲の「色魔/琴葉茜」を追加することにしたんです。

―後半にかけての盛り上がりを作る上でキーになる楽曲だったと思います! Pegさんは今後もDJの予定がありますか?

Peg まだ詳細はお伝えできませんが、この夏にも何本かDJイベントをやる予定ですので、ご興味のある方は、ぜひチェックして遊びに来てください!

ボカロP Pegの『ボカニコ2023』DJセットリスト

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