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ゼロから学ぶ

Text:Mizuki Sikano

幕張メッセで4月29日(土)30日(日)で開催された『ニコニコ超会議2023』。同イベント内に用意されたボカロ曲オンリーの音楽ステージ=『超ボカニコ2023 Supported by 東武トップツアーズ』では、ボカロPによって構成された22組がDJ /バンドでのライブを披露した。

 

 

1日目の出演者であるボカロPのr-906は、リミックスからダブルドロップなど丁寧な準備を感じさせるDJパフォーマンスを披露。今回はDJパフォーマンスともつながる制作の背景やr-906がドラムンベースを好む理由を軸に話を聞いていく。

ボカロPのr-906インタビュー in ニコニコ超会議2023

DJミックスを想定した音楽制作を構想

ーお疲れさまです! DJパフォーマンスを終えてみていかがですか?

r-906 いやぁ……体感としては“ちょっと微妙だったんじゃないか”と思っていて。今回は人生で3回目のDJだったんですけど、やっぱり新曲を流すと皆ノリ方が分からなくて戸惑うっていうのは、今日初めてやって感じました。勉強になります。

ー一番盛り上がっていたのは「まにまに/初音ミク」でしたね。

r-906 そうですよね。そうだろうな!とも思ってました。でも最後にしっとりとした感じで、意外性を見せようかなと思って。

ー意外性って話だと、リミックスだけでなくダブルドロップもされてましたよね? とても丁寧に練られたステージで驚かされました。

r-906 気付いていただけました?(笑)。よかったです。もうかれこれ2年近くなりますが、曲を作る段階からダブルドロップを想定して作ることを決めていたんです。DJミックスでつないで、新しい曲にするって構想を持っていたので。

でもこれには長期的な計画とともに制作を進めていかないといけないんですよ。さまざまな曲を合わせて1曲になるように、数曲をプロデュースしていくってあらためて難しいことなんだよなと、思いますね。

r-906好みの音楽はUKドラムンベース

ー音についても終始r-906さんらしいというか、海外のクラブの音をほうふつさせる、低域量とバキッとしたリズムパートが印象的でした。

r-906 音ですか? それはうれしいですね。

ーよくクラブに行っていたりするのですか?

r-906 いや、一度も行ったことないんです。でも、YouTubeでよくDJプレイの動画を観ています。自分がよく観るDJは、イギリスのCulture Shockとか、DIMENSIONなどです。ジャンルで言ったら、UKドラムンベースですかね。あれがやりたくて、今曲を作っているところなんです。

ーダブルドロップやリミックスのニュアンスも、すべて動画を見て勉強したのでしょうか?

r-906 分析が得意なので、それこそCulture Shockとか、DIMENSIONのDJプレイを観て、“この曲とこの曲を、こう合わせるのか”みたいに勉強して、“自分の曲ならどうできるか?”というアプローチを考える感じですね。

得られた知識を生かして作った曲が、「Hello World! feat. 狐子」と、「プシ feat.初音ミク」です。「Hello World! feat. 狐子」がドラムンベースで低域から支えるような音作りをしてるのに対して、「プシ feat.初音ミク」は上モノであるシンセサイザーのリフレインをガンガン聴かせる構成をしています。「プシ feat.初音ミク」のシンセサイザーの強い高音部分と、「Hello World! feat. 狐子」のしっかり支える低音の部分っていうのが組み合わさると、新しい1曲になる、という感じです。

ーハイカットした「Hello World! feat. 狐子」とローカットした「プシ feat.初音ミク」を組み合わせるDJプレイですね。

r-906 そうですね。でもそのためには、低音やシンセサイザーのフレーズだけを切り取っても、しっかりその曲って主張できるような曲を作る必要があるんだっていうのを分析していて気付いたんです。

ーそのEQ的な観点と、あとはキーやテンポとかですよね。

r-906 キーは、意識的にそろえてます。ドラムンベースのダブルドロップを作ろうとして最初に作ったのが「アイソトープ / 可不」で。そこから、「まにまに/初音ミク」、「Hello World! feat. 狐子」、「プシ feat.初音ミク」、今日やった新曲も全部キーを意図的にそろえています。ダブルドロップするしないに関わらず、曲としてつなげると、すごく自然につなげられるんですよ。

ーUKのドラムンベースをどのようにディグるんですか?

r-906 ドラムンベースを頻繁に扱っているUKFとUKF On AirっていうYouTubeチャンネルが、定期的に新しいドラムンベースを投稿してくれるので、それをチェックしたりしてます。

UKFのYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@UKFDrumandBass

僕が好きなSub Focus、Culture Shock、DIMENSION、1991さんが、バック・トゥ・バックで1時間DJをやる動画がアップされていて、それがとても格好良かったですね。彼らは時々未公開の新曲も流すのですが、僕もそれを真似て今日新曲を流したんです。思った反応は得られなかったですが(笑)。

画像引用元:https://youtu.be/OZMWKqbcwzo

ボカロ界隈でドラムンベースを流行させる決意をする

ーそんなに悪い反応じゃなかったと思います(笑)。そもそもですが、r-906さんはなぜそこまでドラムンベースが好きなのですか?

r-906 2019年に初めて「パノプティコン / 初音ミク」でドラムンベースを作っているんですが、そのときの僕はドラムンベースってジャンルを知らなかったんです。本当に何も考えずに自分が気持ちいいと思って作ったビートを作っただけで。

それで完成したものを公開したら“ドラムンベース”ってタグが付けられているんですよ。ドラムンベースって何だろう?と思って調べたら、“これ自分が好きなやつだ!”って気付いたんです。

ー無意識の中にドラムンベースが隠れていた……。

r-906 そうなんですかね。しかもドラムンベースって大体174 BPMのテンポで制作されることが多いと思うんですけど、何も考えずに設定したのに「パノプティコン / 初音ミク」も174BPMだった(笑)。“これはもう運命かな”みたいな(笑)。愛されてる!と思いました。

ーすごい偶然ですね(笑)。

r-906 もう、それで2021年くらいから“ボーカロイド界隈でドラムンベースを流行させたい”って気持ちが出てきて。その延長線として「まにまに/初音ミク」でドラムンベースを取り入れようと思ったんです。けど、どう取り入れていくのかにはとても悩みましたね。

ードラムンベースの楽曲構成をそのまま踏襲しない理由は?

r-906 多分、ドラムンベースのドロップだと引きが弱くて、みんな聴いてくれないだろうなと思ったんです。r-906の曲で人気な曲調は、実はアップ・テンポで踊れる四つ打ちだから。四つ打ちのサビに向けた下ごしらえみたいな感じで、ドラムンベースのドロップを無理やり入れてみました。

ーr-906さんはそれまでの曲ではビートを最初に聴かせる印象が強かったのですが、「まにまに/初音ミク」は<きっとキミは狂ってんだ>って歌→超ロングなビートをストイックに聴かす構成ですよね。この一種のプレイが堪らなく格好良いポイントだと感じます。

r-906 いきなりドラムンベース・パートから始めると多分、皆が離れていっちゃうんじゃないかと思ったんです。“一気に掴もう”っていうことで、歌があるサビ始まりにしました。まとめると、グッと掴みのあるイントロ→じっくり聴かせるドラムンベース・パート→爆発するようなサビ、という構成ですね。

ーそれは『ボカコレ』のための対策でもあったりするのですか?

r-906 いや、音楽を作る段階では『ボカコレ』に勝ちに行くことは一切考えてなくて、単に自分がそうしたいから……確かに“聴いてもらいたい”という意味で似た考えではあるのですが、ちょっと違うんです。あくまで自分が気持ちいいと感じたやり方で曲を作る、っていう行動理念です。

ー「まにまに/初音ミク」はあの象徴的なサビから作ったんですか?

r-906 そうです。サビが2019年とかにできたものの、あまりに強力で手に負えないと思い、とりあえずボツにしてたんですよ。下手なイントロとかAメロをつけたらダサくなるだろうなと思って。でもその後ドラムンベースに出会って、こんだけ尖ったサウンドなら、あのときのサビを生かせるんじゃない?って、引っ張り出してきました。

r-906が初めて手にした楽器はFENDER PJベース

ー大事に取っておいたから、曲として消化できたのですね。ところで、ドラムンベースを知る前は何に興味がありましたか?

r-906 四つ打ちのダンス・ミュージックが好きで。それこそ、サカナクションを好んで聴いていたんです。彼らのベースの使い方や、音はかなり好みですね。単に低音で楽曲を支えているにとどまらず、弾き方によるグルーブの出し方や、体の動かし方がかなり好きです。

自分の音楽に対して一番好きな要素って、体が動くことなんで。聴いていて踊り出したくなるような楽曲に心が引かれます。

ーグルーブの気持ちよさに気付いたきっかけがサカナクション?

r-906 それは、大いにあると思います。サカナクションに出会う以前は、そこまで決まったアーティストを好んで聴いていた記憶が無い。

強いて言うなら、G-クレフとか、2CELLOSって2人でチェロを弾いている人たちのインスト音楽に引かれていた時期があります。

ー基本的に低域パートの音に引かれて音楽を聴いているのかもしれないですね。最初に弾いた楽器もベースでしたか?

r-906 そうですね。ベースから始めました。高校入る前にFENDER JAPANのPJベースを買って、現在も使っています。でも「スーパーノヴァ feat.音街ウナ」で弾いて以来になっていて、最近は頻繁に弾かなくなりました。

ー普段シンセベースには何のソフトシンセを使っていますか?

r-906 シンセベースを打ち込むときはXFER RECORDS Serumを使っています。MOOGシンセをモデリングしたXHUN AUDIO LittleOneを使うこともあります。

ーベースを弾こうと思ったのもサカナクションの影響?

r-906 そこは、コールドプレイのライブ映像だったんですよ。ライブ映像って低音がボンって出るじゃないですか。あれで“この弦を1本ずつ鳴らしてるよく分かんない人がライブ会場を支配してるんだ”と思って、ベースに興味を持ちました。

それまでギターしか知らなかったので、弦が4本しかないっていうのが、格好良いなって思ったり(笑)。ギターよりネックも長いから格好良いなみたいな。

ー今後も独自の視点でご自身が気持ち良いビートを追求することは一貫してやっていくのだと思いますが、最近は映画『SINGULA』の主題歌とか、楽曲提供でもファンを賑わせてましたよね。

r-906 最近、ありがたいことに色んな楽曲のご依頼をいただいてますね。基本的には“自由に、好きなようにやってください”っていうご依頼が多くてありがたいです。

『SINGULA』 の主題歌を依頼されたことは、自分でも驚きました(笑)。6月半ばくらいにお話をいただいて、急に言われたので“そっか……”って。

ー『ボカコレ』の直後ですね?

r-906 直後くらいですかね。映画の制作時期と『ボカコレ』の開催時期と、映画にドワンゴが提携していた、っていうすべての条件が合わさり、たまたま選ばれたのが僕だったんですよ。本当に時期と運が上手い具合に噛み合った(笑)。

ー映画の『SINGULA』 の主題歌についてはどのように取り組みましたか?

r-906 まず “面白いテーマだな”と思うご依頼だったんですよね。あとオーダーについてもかっちりと決まっていて、例えばテンポは120 BPM前後……だからその時点でドラムンベース制作は封印されてしまったわけですけど(笑)。

どうしようか悩んで、久しぶりにミニマルテクノっぽい……ダンスミュージックの引き出しを開いて作ってみました。曲自体は去年の7月くらいに完成しています。

ー今後はもしかしたら、170 BPMよりスローでキックを聴かすハウスっぽいものとかも作っていく可能性がある?

r-906 もちろん、興味はあります。“ドラムンベースが煮詰まってるな”と思ったら、そっちに味変じゃないですけど、気分転換することはあるかもしれないです。

ー他にも作ってみたい音楽はありますか?

r-906 あとは……ダブステップにはちょっと興味あるかもな。でも現時点ではドラムンベースの方に多くの魅力を感じているので、とりあえずはドラムンベースとダンスミュージックを極めていこうかなと思っています。

ーこれからもr-906さんの艶かしいベースサウンドで、ボカロ界隈でのドラムンベースの布教活動を盛り上げていってください!

r-906 そうですね、頑張ります。

ボカロPr-906の『ボカニコ2023』DJセットリスト

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