Text:Kentaro Shinozaki
幕張メッセで4月29日(土)30日(日)で開催された『ニコニコ超会議2023』。同イベント内に用意されたボカロ曲オンリーの音楽ステージ=『超ボカニコ2023 Supported by 東武トップツアーズ』では、ボカロPによって構成された22組がDJ /バンドでのライブを披露した。
1日目のトリを飾ったのはボカロ初期から活動している重鎮、八王子P。ステージを終えたばかりの彼に、音楽制作の近況などざっくばらんに尋ねてみた。インタビュー最後にある当日のセットリストも必見。
目次
八王子Pインタビュー in ニコニコ超会議2023
『プロセカ』や『#コンパス』をやっている人がニヤっとする選曲に
ー出演、お疲れさまでした。今回はお客さんが“マスク着用で声出しOK”というルール緩和がありましたが、DJブースから見ても久しぶりの光景だったのではないでしょうか?
八王子P お客さんが気兼ねなく感情表現できるのは、こちらとしてもテンションが上がりますよね。声出しNGのときはこちらもフロアを煽るときに意識して、パフォーマンスで“盛り上げ過ぎない”ように気を付けていた部分もあったんです。やっと今回、マスク着用とはいえお客さんも声を出して楽しんでいただけたかなと思います。
ー初日のトリとしてオーディエンスの盛り上がりも最高潮でしたね。ダンス・ミュージック畑出身である八王子Pさんだけに圧巻のフロア・コントロールでした。
八王子P 今日出演していたほかのボカロPさんたちは、バンドからDJまでさまざまな音楽性の方々でしたよね。それこそ僕の出番の前のきくおさんはご自身の世界観を表現されるすごい方でしたが、僕のステージに切り替わったらお客さんも僕のサウンドに集中してくれるような流れになって、非常にやりやすい雰囲気だなと感じました。
最初の1曲目をかける前に軽くMCもやりましたけど、そのときの反応で“今日のお客さんは大丈夫だな”と。楽しかったです。
ー30分というのは普段のDJプレイからは短めな時間かもしれませんが、その中でも流れを作っていましたね。今回のためにセットリストはどのように組み立てましたか?
八王子P 初期のころの僕の曲は130BPM前後が多くて、そのテンポ帯でDJをやることが多かったのですが、今は作風の幅が広がって、自分の曲でも100~200BPMまであるんですよね。その中でお客さんとしても聴きたい曲があると思うので、こういう舞台ではDJというよりも自分のライブ・セットを中心にして、僕の好きな曲を合間に差し込むという流れを作っていきました。特に今回は最初から上げていくのではなく、少し抑えめのテンションから始めていこうと。おのずとBPMも低めのところから徐々に上げていきました。
ー最初はGigaさん関連の2曲で始まり、途中でぬゆりさんの曲も入ったり、終盤はkzさん関連の曲が続きました。どんなコンセプトがあったのですか?
八王子P 『プロジェクトセカイ』や『#コンパス』といったゲームが好きなので、その辺りをプレイしている人が少しニヤっとするような選曲になっています。最後にkzさんとの合作2曲をつないで終わったのは、明日のkzさんにバトンを渡したいという思いを込めています。
自分はkzさんの曲を聴いてボカロを作りたいと思うようになったので、こういう大きなステージだからこそ、kzさんとの合作で終わりたい気持ちがありました。
ー最後の曲「Glimmer feat. 初音ミク」は、昨年リリースされた八王子Pさんのアルバム『HIDEOUT』に収録されていましたね。あのアルバムはアッパーな曲はもちろん、落ち着いたビートの曲まで音楽性の幅を感じさせる作品でした。
八王子P 振り返ってみると、本当にいろんな曲を作るようになったなと自分でも思います。キャリアの最初のころは意識して130BPM前後の4つ打ちのダンス・ミュージックを“八王子Pのサウンド”として覚えてもらおうと思って、そういう曲を多く作っていたんですけど、最近は良い意味でジャンルを意識しないように制作できるようになったかなと思います。
ーその中でも、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』用に書き下ろした楽曲をセルフ・ボカロ・カバーした「RAD DOGS feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン」はMVの話題も大きかったですよね。サウンド自体もジャンル分け不能で新鮮でした。
八王子P もともと先方のオーダーありきの曲だったんですけど、逆にそういうアイディアが自分に無いものだったりして、あの曲では“クラシカルな要素”というリクエストをいただいたんですね。最初は“そういう曲は作ったことないからどうしよう……”と困っていたんですが、結果的に良いバランスにまとめることができたのかなと。ある種、引き出しは多少増えたかと思います。
作っていて手間がかかるからこそ、“ボカロだな”と思えて楽しい
ー八王子Pさんが使うボカロはやはり初音ミクが中心になってくるのでしょうか?
八王子P やっぱり僕は初音ミク、それから鏡音リン・レンが多いですね。作っていて楽しいです。最近は、打ち込んだだけでとてもリアルな歌唱になるAI系歌声合成ソフトも出ていて、そういったものも素晴らしいと思います。ただ、自分は手間がかかっても“そこがボカロだな”というか、手が掛かる感じが良い意味で好きなので、初音ミク、鏡音リン・レンを多用しているんです。
ー八王子Pさんの現在のDAWは? 以前はCAKEWALK Sonarを使っていましたよね。それこそ国内屈指のSonar使いとして有名でした。
八王子P 今はSTEINBERG Cubaseになりました。
ーSonarは数年前に販売元が変わって、少し落ち着かない時期がありましたからね。
八王子P Cubaseじゃなきゃいけない決定的な理由はなかったのですが、すんなりSonarから移行できました。僕はゆよゆっぺ君と一緒に作業することが多かったりするんですが、彼がCubase使いなんですよ。ゆっぺ君がCubaseで作業しているのを後ろから見ていて、“あ、Cubaseってこういうこともできるんだな”と思ったのも導入のきっかけだったかもしれません。
ー曲作りのときは、最初にボカロを決めてから作るのですか? それともトラックが完成してからボカロを選ぶ?
八王子P 最初にボカロを決めることが多いです。自分の中で何となくキャラクターがあって、例えば、先ほどの「Glimmer feat. 初音ミク」のようなキラキラしたエレクトロ・ポップは初音ミクですね。一方で、僕の曲で言うと「Sweet Devil feat. 初音ミク」や「気まぐれメルシィ feat. 初音ミク」など斜に構えた女の子の曲もミクなんです。
鏡音レンは男の子なので、そういう歌詞にしたいときはレン君ですね。鏡音リンは設定上、ミクよりも年齢が下なので、少し歌詞の内容がやんちゃというか、若そうな感じのときにリンちゃんに歌ってもらいます。なので、最初にどういう曲にするか、どんなサウンドにしたいかを考えて、その内容に対してボカロが決まっていきます。
ーそういえば先日、八王子Pさんのツイッターを拝見したら、“5分くらいの曲ができた”とつぶやいていましたよね。
八王子P 最近のトレンドって、本当に曲が短いじゃないですか。僕も意識をして、動画でアップする曲はあまり長くなり過ぎないようにしようと思っていて。時代の流れですよね。そんな中で、久しぶりに5分くらいの尺の曲を作ってみて新鮮な気持ちになったんですよ。リリースするかどうかはまだ全然分からないんですが。
初めて曲をアップするのは怖いかもしれないけど、ぜひ投稿してほしい
ー話は変わりますが、最近八王子Pさんから見て、気になるボカロPはいますか?
八王子P いやー、たくさんいてムズい質問ですね! Kanariaさん、いよわさん……その2人に限らずなんですけど、とりあえずたくさん再生されている曲はしっかり聴くようにしていて、自分の曲に反映するとかどうかは別として、勢いのある人気ボカロPの曲はチェックしています。
一方で、再生数が低くても埋もれている才能って絶対にいるじゃないですか。そういう人たちの曲を探すには、僕らもどこから聴けばいいのか迷うんですよ。そういう意味では『ボカコレ』(https://vocaloid-collection.jp/)を定期的にチェックしています。若手をフックアップするあの企画は本当に素晴らしいと思いますね。
ーまた、八王子Pさんが最近気になっている音楽手法や楽器などがあったら教えてもらえますか?
八王子P 自分は音楽経験がほとんど無いところから作曲を始めたんですよ。幼少期にピアノをやっていたとかバンドをやっていたとか、そういう経験が無い中で独学で打ち込みから入ったんです。なので、当たり前ですがしっかりと音楽を学んできた方、バンド経験のある方にはかなわない部分があるなと自覚をしていて。もちろん音楽教育を受けていないことが強みになる場面もあるとは思うんですが、今はほかのミュージシャンとの合作に興味があります。
一緒に作っていく中で、自分に無い部分を入れてもらえると新しい発見になる。メロディにしても、“自分だったらここは音程が上がっていくところを、この方は下がっていくんだ”という小さな違いを発見するのも面白いし、自分が絶対に使わないコード進行や楽器配置まですべてが新鮮。自分に無いものを吸収できるので今は合作が一番楽しいですね。これからも機会があればジャンル問わず積極的にやっていきたいと思います。
やっぱり曲作りにはインスピレーションが必要で、定期的にいろんな映画を見たり、いろんな音楽を聴いたりして、インプットしていかないと枯渇しちゃうんですよ。しかも僕らみたいに曲をたくさん作ってきた人って、“このフレーズ、別の曲でやってたかも?”みたいな瞬間がよくあるんです(笑)。聴き手は意外とあまり気にしていなくて、むしろそれが“八王子Pっぽさ”と捉えてくれたりもするんですが、クリエイターとしては少し複雑な心境で、同じことを繰り返すことに葛藤がある。そういう点でも、合作によって新しい表現ができるようになっていくのはすごく楽しいです。
ー八王子Pさん自身も知らない引き出しを、コラボ相手が開けてくれたりもするわけですよね。ボカロPの制作は孤独ですから、なおさらそういった刺激は必要なのでしょうね。
八王子P 僕も基本的に1人で作ることが多いので、慣れてはいるんですけど、それ以外の引き出しをもっと増やしたいというのが今の気持ちですね。合作までいかなくても、同じクリエイター同士で話ができるだけでうれしいですし、感謝しています。
ー最後に、これからボカロPを志すクリエイターに対して、大先輩としてアドバイスをいただけないでしょうか?
八王子P ちょっと精神論っぽくなってしまいますが、楽曲を完成させたらそこで満足せずに、ぜひ公開するところまで行ってほしいです。どこを目指したいかは人それぞれだと思いますが、ボカロPとして活動していくなら聴いてくれる人がいて初めて成立すると思うので。人に聴いてもらって、コメント欄から得ることも多いですよね。最初から人気ボカロPと同じように再生数が伸びることはあまり無いかもしれませんが、主観的に作っていた曲を他人に聴いてもらうことで、その反応を見て次のステップに進めると思うんです。
曲の作り方についてはネットでちょっと調べればいくらでも出てくるので、曲を作ったらアップする、ということを意識してほしい。最初に曲をアップするのってメチャクチャ怖いと思うんですけど、それこそ『ボカコレ』など投稿イベントがたくさんあるので、自分で締め切りを設定してぜひ挑戦してみてほしいです。
八王子Pの『ボカニコ2023』DJセットリスト
「Gimme×Gimme feat. 初音ミク・鏡音リン」 | 八王子P × Giga |
「CH4NGE (feat. 可不)」 | Giga |
「Awake Now」 | 雄之助 feat. 初音ミク |
「シネマ/初音ミク(ボカロver.)」 | Ayase |
「Little Scarlet Bad Girl feat. 初音ミク」 | 八王子P |
「Baby Maniacs feat. 初音ミク」 | 八王子P |
「フィクサー」 | ぬゆり |
「RAD DOGS feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン」 | 八王子P |
「ヒビカセ×Sweet Devil -Special Mashup-」 | 八王子P |
「気まぐれメルシィ feat. 初音ミク」 | 八王子P |
「ラヴィ(Lavie)」 | すりぃ feat.鏡音レン |
「バイオレンストリガー feat. 初音ミク」 | 八王子P |
「Weekender Girl」 | kz(livetune) × 八王子P feat. 初音ミク |
「Glimmer feat. 初音ミク」 | 八王子P × kz(livetune) |
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