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Text:ケンカイヨシ 企画/編集:Mizuki Sikano 写真:STARSHIPエンタテインメント

K-POPアイドルの人気楽曲を日本で活躍するプロの作曲家/トラック・メイカーが音楽的に分析して、解説する企画! 今回は、花澤香菜、高橋優、リサイタルズ(東海オンエア)などのアーティストやYouTuberの楽曲を手掛けている音楽プロデューサー=ケンカイヨシに、IVE(読み:アイヴ)の「After LIKE」を読み解いてもらおう。

K-POPアイドルの人気楽曲を分析/解説

はじめまして、作曲家のケンカイヨシです! 音楽プロデュースの傍ら、以前はサウンド&レコーディング・マガジンで「ケンカイヨシの見解良し!」という連載を1年半していたこともあります。今回はK-POPアイドルの人気楽曲分析として、IVE「After LIKE」を取り上げます!

IVE(アイヴ)ってどういう韓国アイドル?

今、音楽サブスクリプション・サービスのワールド・チャートにもランク・インするなど破竹の勢いのIVE。楽曲を聴いてMVを見てみると、R&Bやダンス・チューンに基盤を持つダンスと歌唱を主軸にしており、まさに今“世界的に勢いのあるK-POP”という感じです。

IZ*ONEにも在籍していた人気メンバーのチャン・ウォニョンを筆頭に、メンバーは美人というよりかは可愛い雰囲気のメンバーがそろっているような印象。それに伴い、歌のアプローチもいわゆる大人のお姉さんというよりは、少し“少女らしいあどけなさを出す”ようなディレクションをしているように思います。ボーカル・ディレクションのモデルにしているのは、2015年前後「フォーカス」をリリースしていた時期のアリアナ・グランデなのではないか?と、個人的には感じました。

「After LIKE」の音楽ジャンルは、80sリバイバル・ダンス?

おそらくこのサウンド感は、2年前くらいのデュア・リパ、特に「Levitating」などをモデルにしているのではないかと思います。具体的には、1970年代中期〜80年代前半のディスコ的ダンス・サウンド(ABBA、ボーイズ・タウン・ギャングなど)を、2000年代にダフト・パンクやマドンナがフィルターを使ってハウス化してリバイバルさせた時代があり、さらにそれを2020年代の技術と肌感で“再リバイバル”するブームがありました。「After LIKE」は、その影響を受けたダンス・ミュージックの内の一つと言っていいのではないかと考えます。

皆さんもお気付きかもしれませんが今言っている2020年代における“再リバイバル”は、2019年のザ・ウィークエンド「ブラインディング・ライツ」大ヒットから、2021年ザ・キッド・ラロイ&ジャスティン・ビーバー「ステイ」などに続く、ここ3年のビルボード・チャートで起こった80sリバイバルのことです。これには、ヒップホップのトラップがはやりにはやって少し落ち着いてきたところに、トラップのミックス感を持った80sサウンドがヒットを飛ばすようになったという経緯があります。

このリバイバル・ブームに乗った音楽の特徴は、一番聴かせたい音を引き立てるための機材=サイドチェイン・コンプ、音圧と迫力をプラスできる機材=リミッター、などを駆使して10代になじみやすいサウンドにしていることと、音楽的な部分では彼らの父母世代にも伝わる単純明快なメロディ・ラインを有していることです。

「After LIKE」のコード進行は?

「After LIKE」のアレンジは、いなたいメロディ今時っぽいミックス泣けるストリングスといったツボを抑えていますが、何よりうまいなぁ!と思うのはコード進行です。Bメロからサビにかけてハウス・ミュージックで聴けるようなピアノ・コードを当ててくるアレンジは、先ほど触れたデュア・リパの楽曲には見られなかった大きな特徴です。

基本的にはDm7→G7→CM7→FM7という強進行(編註:ルートが4度上に移動していくコード進行)に近い流れで、このコード進行はどこか“メロドラマ的な切なさ”を演出する効果があります。

ジャズ・スタンダードの「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」、冬のソナタの主題歌であるRyu「最初から今まで」、葉加瀬太郎「情熱大陸」のテーマなどに近い進行で、最近の洋楽ではあまり使われるのを聴かない、切なくてじんわりくるマイナー・コードです。このコード進行にIVEの少女っぽい可愛い歌唱が合わさることで、独特の切ない終わり方をする青春映画のような情緒を描くことに成功しています。

90sハウス的な硬いシンセ・ピアノがポイント?

誰しもが強く印象に残っているであろう間奏のストリングスが、ダサくなるギリギリ・ラインと言って良いほど大げさなのもツボではありますが、僕的に一番面白いと思ったのは“80sリバイバルの曲調にこんだけ硬いピアノを合わせちゃうの?”という部分です。

1990年前後でクリスタル・ウォーターズなどのハウス・ミュージックの名曲で聴きまくれるようなKORG M1や、小室哲哉さんが演奏していたことでもよく知られるROLAND JD-800などのデジタル・シンセサイザーで、当時はやたらと硬い音色がするシンセ・ピアノを奏でるのが流行していたのですが、「After LIKE」のピアノはその質感に近いですね。

つまり、80sリバイバルに90sリバイバルを足すことで、とても面白い化学反応を起こしている楽曲なのです。日本のアーティストだとJO1「Born To Be Wild」が、まさにデュア・リパ「Don’t Start Now」とM1のシンセ・ピアノを組み合わせたような曲だったので、ある意味構成要素がそれに近いでしょう。 

JO1はイントロのコーラスでボビー・ブラウン「ガール・ネクスト・ドア」をオマージュしていますが、IVEは昼メロ的コード進行をそこに混ぜ合わせてオリジナリティを出しています。つくづく、音楽とはオリジナリティのかけ合わせ、交配ですね。

「After LIKE」のような楽曲制作の方法を教えて!

BTSもマルーン5やマイケルといった大ヒットアーティストをモデルにしていますが、この曲に限らずK-POPは“歴史上で世界で大ヒットした曲だけを混ぜ合わせて、マニアックな要素は一切入れない。そうすれば世界的に受ける曲になるんじゃね?”という、良い意味で乱暴な戦い方をしていて、だからこそここまでの勝利を手にしている気がしています。

なので「After LIKE」のような楽曲制作をしたいならば、まずは1970年代から今に至るまでの4つ打ちダンス・ヒット・アーティストを、たくさん聴きまくってみるのが一番大事!だと思います。ABBA、ドナ・サマー、ダフト・パンク、マドンナなどを狂ったように聴きまくりましょう。

機材については、定番ですがKORGやARPの名シンセをモデリングしたプラグインを豊富に収録する、KORG Collectionを買うといいです。M1の懐かしいピアノも収録されています。これを使うと、きっと「After LIKE」で聴けるようなアタック感のあるピアノが演奏できるはずです。

ちなみに、IVEの音楽は基本的にオールド・スクールなダンス・チューンをモデルにしていると思うので、僕だったらレゲエやトロピカル、南国要素のある音を現代的なビートにしたものなどを、ぜひ提供してみたいですね!

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