取材&編集:鹿野水月(plug+編集部) 編集協力:濱田侑佳(plug+編集部)
JASRACが運営する音楽クリエイター向けDXプラットフォーム=KENDRIX主催のイベント『KENDRIX EXPERIENCE』が3月29日(土)渋谷ストリームホールにて開催される。今回は同イベントに出演予定の音楽ユニット、Milk Talkにインタビュー。
目次
Milk Talkインタビュー×KENDRIX EXPERIENCE
Milk Talk は、Hair KidとQ.iによる音楽ユニット。多彩なシンセとブラック・ミュージックを礎としたHair Kidのトラック・メイクに、Q.iの甘い歌声を重ね合わせ独特のグルーヴを生み出している。
KENDRIXは、ブロックチェーン技術を用いた音楽クリエイター向けDXプラットフォーム。自分の音楽ファイルを発表する際に、権利者を簡単に登録できる。無料で利用できるので、自分の音楽の著作権料などが欲しいクリエイターには、プロアマ問わずおすすめできるサービスだ。
Milk Talk結成の経緯

ーHair KidさんとQ.iさんは、どういった経緯で一緒に音楽活動をすることになったのですか?
Hair Kid 僕とQ.iはアメリカのマンハッタンのアート・スペースでのライブで出会いました。そこで意気投合して、僕が“今作っている曲を歌ってみない?”と誘って。実際にQ.iと一緒に制作しているうちに、二人で何かを作ることに面白味を感じて、その後も曲を作るようになりました。
ーお二人は音楽の好みが似ていたり?
Q.i いや、ルーツも全然違うし、好きな音楽も全然違うんです。
ーではお二人は、どのような音楽が好きなのですか?
Q.i 私はHair Kidと出会ったころにLOVE SPREADというアメリカのハードコア・バンドのメンバーと友達でよく遊んでいたので、彼らの周辺の音楽もよく聴いていました。MACHINE GIRLとか、コンピューター・マジックとか……。当時は地下室でやるようないろいろなライブに遊びに行っていましたね。あとは当時から私は、ピンク・フロイドの歌詞にとても影響を受けています。今言ったような音楽とMilk Talkの音楽は全然似ていないけど、アンダーグラウンドなカルチャーにはすごく影響を受けているような気がしますね。
ー自分を貫いて自由に表現することを学んだということ?
Q.i そうですね。“流行している作風ではないけど自分の信念を曲げない音楽って格好良いな”って思ったんですよね。

ーHair Kidさんはいかがですか?
Hair Kid 僕が9歳の誕生日にお父さんにお願いしたのは、ローリング・ストーンズのライブ・チケットでした。その後すぐにギターを始めて、今でも好きなレッド・ツェッペリンの大ファンに。あとは僕のお父さんがファンク・バンドのベーシストとキーボディストをやっていたこともあって、10代のころからPファンクを好きになりました。その後知人に“これを聴いてみて”とCAPSULEの「Starry Sky」を教えてもらい、日本の音楽を好きになったんです。この曲を聴いた夜に、僕の人生は変わったんだと思うな。そこからwikipediaで渋谷系を調べるようになって、Buffalo Daughterを知って……という風に、どんどん日本の音楽を聴くようになりました。
ー中田ヤスタカを知って渋谷系に影響を受けてからは?
Hair Kid YMOなどを知っていきました。はっぴいえんどとYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)に同じメンバー、細野晴臣が入っているということが衝撃的でしたね。アメリカだったらボブ・ディランがマイケル・ジャクソンのバンドに入っているみたいなことだと思って。
Q.i Hair Kidは日本の歌謡曲もよく知っているんです。だからか歌詞を考えているときに、Hair Kidから“こういう日本語はどう?”って提案されるものが昭和のフレーズ過ぎるときがあって、Hair Kidからそういった語彙が出てくるのがちょっと面白かったりもします(笑)。

Milk Talkは“同時に二人で”作曲作業をしている


ーMilk Talkでは普段、どのように楽曲制作をしていますか?
Q.i アレンジメントはHair Kidが担当してくれているんですけど、それ以外の作業は基本的に二人で一緒にやっています。今作っている新曲の場合は、電話をつなげて毎朝3時間くらい一緒に作業をして、お昼に用事を済ませてから、夜にまた一緒に作業するということをしていて。
ー具体的にどのような手法で作業するのですか?
Q.i データを送り合うだけというのは、基本無いですね。一例ですが、同じGoogleドキュメントを開いて、“どんな歌詞がこのメロディにハマるかな”ということを話し合う。私たちは日本語と英語をごちゃごちゃに混ぜて話すので、いつもGoogleドキュメントはローマ字や漢字でぐちゃぐちゃになっています。どんな作業でも一緒に積み上げていくので、本当に親友のような感じでずっと連絡しています。
ー英語と日本語どちらも使って話すってどんな雰囲気ですか?
Q.i 私が英語でHair Kidが日本語で答えるみたいなときもあるんですよね。喋っていて面白かったのは、私がHair Kidに“心地良いって英語でなんて言うっけ”と聞いたら、“心地良いって言葉が分からん。ココイチなら分かるけど。”と言われて、それがめっちゃ面白かったですね。Hair Kidはとてもカレーが好きなんですよ。
Hair Kid 僕は“青春”って言葉が思い出せないときに、“あの青汁みたいなやつって何だっけ……”と聞いたりしてしまったことがあります。


ー異文化交流って感じがします(笑)。歌詞作りの後、サウンド・メイクも一緒にやりますか?
Hair Kid そうですね。サウンド・デザインのときには、僕のABLETON Liveの画面の前に、その曲で作りたいムードに近い二人の写真を置いておいたり、目標となる言葉を書き留めたメモを貼ったりしています。それらを見ながら、“このエフェクトも良いなと思ったけど、この写真を踏まえるとちょっと楽しそう過ぎるかな”であったり、“ドラムの音が写真の雰囲気に合わないからもっと違う音に変えよう”と話しながら一緒にアレンジをしていく。そうやっていつも二人の世界を探しているんです。
Q.i 作業を一緒にしないと、曲が出来上がったときの二人のヴァイヴが合わなくなってしまうんです。だから絶対に、このプロセスを踏むようにしています。
ー話し合いながら作曲をすれば“思っていたのと違った”とお互いなりづらいですよね。
Hair Kid あとは、メロディに合わせて2人でいろんなフレーズを試してみると、どれが1番気持ち良いのかがすぐ分かるんです。1人でやると“これでも良さそう、それでも……”と迷ってしまいますが、一緒に考えると何故かすごく早く決まる。これが一緒に作業をするメリットですね。
ートラック・メイクやメロディー・メイクはどのように行っているのですか?
Hair Kid 僕はQ.iの声をC、C#……というように一つ一つの音階に分けて録ったデータをキーボードに入れて、それを合成音声ソフトのように使ってメロディを作っています。その後作ったメロディをQ.iに聴いてもらって、さっきも言ったようにGoogleドキュメントで歌詞などを一緒に考えて、実際の声をレコーディングして、本格的なサウンド・デザインに入ります。そしてその後“この曲はMVあり?”、“ジャケットはどんなものにする?”と話し合う。
Q.i Hair Kidのサウンド・メイクがまだ完全に終わってなくても、ある程度形になってきた段階でビジュアルやジャケットをどうするか考えられるので、作業を並走できるんですよね。これも一緒に作業をする利点かもしれません。
ーMilk Talkでは、レコーディングをしてからサウンド・メイクに入るのですね。
Hair Kid 僕は5年くらい前まで、ボーカル・レコーディング前にトラック・メイクを進めてしまっていたんです。でもQ.iの歌声を聴いてからサウンド・メイクをやり直すことが多くて。だから今はレコーディングをしてからサウンド・メイクをするという順番にしています。
Milk Talkが目指す“アンビバレンスな音楽”とは

ーHair KidにとってQ.iさんはどのようなボーカリストですか?
Hair Kid 甘い歌声で女性らしさがあり、デリケートな部分のある女性ボーカル。僕はQ.iの歌声の魅力を最大限に生かそうと、活動初期から“私はお姫様〜私を助けてくれたら愛してるよ〜”というような甘い歌詞を書かないようにしているんです。Q.iの甘い歌声には“お前、何してんの”というようなかわいらしくはない言葉を歌ってもらった方が面白いと思っているんですよね。
Q.i 対極にあるものを並列する表現は、私も面白いとすごく感じています。
ーQ.iさんはご自身の歌についてどのように考えていますか?
Q.i 私はHair Kidが作ったきちんとしたベースのある音楽の中で、すごく自由に、わがままに、はみ出ることも気にせず好きに歌っているなと思っています。Hair Kidは多種多様な音楽とその歴史、昔からいろいろな人が積み上げてきた技術やアイディアを知っているので、それらを組み込んだとても厚みのある音楽を作れる人なんです。だから私が自由に歌っても大丈夫なんだなと。でも最近、“もしかしたらそのはみ出た部分がMilk Talkらしさにつながっているのかも”って気が付いたんです。
Hair Kid ほかのR&Bやシティ・ポップ、ディスコをやっている日本のアーティストの歌い方って、良い意味でディスコの歴史をすごく勉強していると分かるんです。でもQ.iのルーツは全く違う。だから逆にこのQ.iの歌い方とディスコなどの音楽を混ぜたら何が出てくるかと、聴いたことのないバランスを探すのが楽しいんです。

『KENDRIX EXPERIENCE』でのMilk Talkのトーク内容
ー『KENDRIX EXPERIENCE』では、お二人が音楽を作るプロセスを覗き見できるトーク・パートとライブが楽しめるとのことですが、どういった内容にする予定ですか?
Hair Kid 楽曲制作に関するお話しをするトーク・パートでは、去年リリースした「ELECTRIC INDIGO」を取り上げて、どのようなアイディアを元に作っていったのかなどを、プロジェクト・ファイルをお見せしながら話したいと思っています。僕の担当する制作の技術的な部分と、Q.iの担当するクリエイティブ的な部分のどちらもお話しできたらなと。当日は実際に採用した楽曲のパーツだけでなく、採用しなかったものもお見せして、より深い制作のプロセスをお話しする予定です。そしてその後のライブは、いつもの僕らのスタイルでやろうと思っています。
Q.i 私は歌詞の作り方やその歌い方などの、普段の制作のマインド的なところをお話しします。あと私たちはインディーズで活動していて、SNS運用やMV制作などもすべて自分たちでやっているので、あらゆる制作をどのように二人で進めているのかというのも伝えられたらなと思います。インディーズならではの活動が、同じくインディーズで活動している方の参考になれば良いなと。

ー『KENDRIX EXPERIENCE』、お二人はどのようなことが楽しみですか?
Q.i トーク・タイムでMCを務めてくださるCOLDFEETのWatusiさんは、僕たちと逆パターンで、日本人のトラック・メイカーとアメリカ人の女性ボーカルでユニットをやっているので、その違いもお話しできるんじゃないかとワクワクしています。
Hair Kid 20年以上ファンキー・ハウスを作られてきた方とトークできることをとても楽しみにしています。たくさん準備をしているので、皆さんもこのインタビューを読みながら楽しみにしていてください!
『KENDRIX EXPERIENCE』開催概要
開催日時:2025年3月29日(土) 14時〜21時予定。開場は13時30分
会場:渋谷ストリーム ホール 〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3丁目21−3
参加費:無料
参加方法:『KENDRIX EXPERIENCE』特設サイト内の応募フォームから申し込み
特設サイト:https://kendrixexperience.com/
応募締切:2025年3月16日(日)
『KENDRIX EXPERIENCE』2024年の様子
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