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Text:Mizuki Sikano

国内外のアーティストが出演する音楽フェスティバル、フジロック。1日目は山奥で(新潟県)苗場の洗礼的な大雨を浴びることもなくステージを回り、アウトドアでの飲食を楽しみ、まだ1日しか過ごしていないのに既に足底腱膜炎状態だったplug+編集部員。2日目もひたすらアーティストの使用機材を観察するフィールド・ワークをしていました。楽しく、ひたすら目視で確認した楽器たちをこの記事にまとめたので、こちらも楽器を演奏する誰かの参考になりますように!

フジロック2022年2日目(7/30)

崎山蒼志(読み:サキヤマ ソウシ)

2日目にして、早速ゆっくり参戦が否めない12時。最初に訪れたRED MARQUEEに登場していたのは、19歳のシンガー・ソングライター崎山蒼志。アコースティック・ギターでの弾き語りでは鮮やかなカッティングで観客の心を一つずつ掴む。そして、バンドでのエレキギターのプレイでは、端々にパンク精神のにじませた鋭いサウンドを披露。こういった怒涛の勢いで世界観を流し込んでくるようなプレイには癖になる味がある。

そういったライブの一幕に一役買っていたのが、アナログ・セミモジュラー・シンセサイザーのMOOG Mother-32。これでシーケンスを鳴らして踊り狂っている彼は、ナードだけが醸し出す独特の色気のようなものを含みつつ、若者の強いエネルギーを放っていた。

セミモジュラーは、一機ですぐ音を鳴らすことが可能なモジュラー・シンセ。外部でオーディオやCVという音のコントロールに使用する信号を取り込んで、独自の音色を作っていくことも可能。購入用リンクはこちら。モジュラー・シンセを導入してみたいアーティストに、おすすめの機材である。ちなみに、サポート・キーボーディストの方は、NORD Nord Stage 2ROLAND RD-700GXを使っているようだった。

ORANGE RANGE(読み:オレンジ・レンジ)

初めてのフジロック出演で13時からGREEN STAGEに登場したのは、ORANGE RANGE。「以心電信」や「ロコローション」などのヒット曲を惜しげもなく披露した。会場のボルテージは相当高まっており、夜歩いていたら“いやぁ、オレンジ・レンジは懐かし過ぎてぶち上がったわ”としみじみ話す声が聞こえたりもした。

ボーカルのYAMATO、RYO、HIROKIが使っていたマイクは、おそらくSM58。 一瞬見えたロゴとその他もろもろから、SHURE QLXD2/SM58かもと推測する。

折坂悠太(重奏)(読み:オリサカ ユウタ)

15時からのGREEN STAGEには、折坂悠太が登場。民族音楽的なリズムとサウンドに言葉が重なり、民謡を聴いているような穏やかな気持ちになる午後だった。キーボーディストのYatchiがメインで演奏しているのは、ROLAND RD-2000のようで、途中入れられていた効果音などはNORD Nord Stage 3を弾いて鳴らしているようだった。

折坂が弾いていたアコギはFUJII GUITARS Classical(Orisaka Prototype)で、 エレキギターはGIBSON 1997 Chet Atkins Tennessean。 他の使用ギターを知りたい方は、以下のギタマガWebのインタビューをチェック!

SNAIL MAIL(読み:スネイル・メイル)

16時10分には、シンガー・ソングライターのリンジー・ジョーダンのプロジェクトSNAIL MAIL(スネイル・メイル)がWHITE STAGEに。“OASIS Live Forever”と書かれたTシャツを着て、ふわっと軽やかなドリーム・ポップ味を感じる楽曲を演奏しているギター女子を、最強と言わずして何と言おうか。

彼女の弾いているギターはFENDER Jaguarのようだが、 サポートのキーボーディストの方は、ROLAND Juno-DSを演奏していた。

東京スカパラダイスオーケストラ

17時からGREEN STAGEで見たのは、灼熱の太陽のような明るさを放つ、東京スカパラダイスオーケストラ。ただでさえ盛り上がっているのに、茂木欣一がゲスト・ボーカルとしてハナレグミを呼ぶと大きな拍手が、さらに“「いかれたBABY」”と叫んだら、そりゃ観客は飛ぶ。

演奏が始まるとちょっと涙を流す人も居るぐらい、あたたかなリバーブをまとうオルガンに包まれた夕方だった。ちなみに、キーボーディスト沖祐市はHAMMOND SK Proを演奏。

その後に「水琴窟 -SUIKINKUTSU-feat.上原ひろみ」を披露したのだが、そこで沖はROLAND RD-2000を使用して、鍵盤を指で駆け巡るように華麗な技術を披露。この上へ上へと盛り上がるだけでなく、しっとりと基礎体温を持ち上げるような楽曲や演奏が聴けるのも、スカパラの良いところだとつくづく思った。

CreativeDrugStore(読み:クリエイティブ・ドラッグ・ストア)

18時からのRED MARQUEEでは、ヒップホップ・レーベルSUMMITの若手クルーCreativeDrugStore(略称:CDS)の音楽が鳴る。CDSは、ラッパーのBIM、in-d、VaVa、JUBEE、doooo(DJ)、Heiyuu(Camera)の6人組だが、普段はそれぞれソロ活動を行っている人らの集合体ということで、セット・リストも各々自分の曲で好きなものを披露していくような感じ。終始クラスの仲良し男子的なわちゃわちゃと戯れる感じが“楽しそう”で、つい仲間に入りたくなるようなフランクな香りをまとうライブだった。

最初に登場したdooooのDJではメンバーのソロ曲のミックスを披露しており、次々と画面にMCたちのMVが映し出される演出にワクワクさせられた。そこにAKAI Professional MPC 2000 XL(人肉)をリアルタイムのフィンガー・ドラムで演奏するシーンも。人肉MPCはdooooが特注で作ったものだが、MPC 2000 XL自体はこちらで購入することができる。

CDSのようにグループ名義の楽曲を作っていないと、セット・リストが自由なムードになり、MCそれぞれのキャラクターが立ったライブ・パフォーマンスが成立するようだ。ライブの雰囲気は、今年のフジロックのラインナップの中でかなり異彩を放っていたように感じる。

ちなみにplug+編集部は、フジロックから帰ってきたCDSのdooooに先日取材を敢行した。記事は近日中に公開予定なので、楽しみに待っていてほしい。

Cornelius(読み:コーネリアス)

活動自粛明けということもあり、リハーサルからステージ前方でスタンバイしているファンの表情にはちょっとした緊張が滲んでいるようだ。マスク越しでも伝わってくる同じ気持ちで登場を待っていた。重低音をみっちりたっぷりと鳴らすWHITE STAGEの音響で、小山田圭吾のプロジェクトCornelius(コーネリアス)が鳴らしていたのは、一貫して、軽く飛び跳ねるようなギターやシンセの効果音、生き生きと生っぽく動きを示すドラム、素朴で無駄のないメロディの応酬、真ん中でそれらを乗せて力強く運んでいくシンセ・ベース。そして、これらの音と映像のシンクロが心地よく、たちまち観る者の緊張感を解いてゆく。

“あぁ、コーネリアスの音楽はこうだったよな”と再認識する感覚と、“以前と少し雰囲気が変わったような気がする”感じが、ない混ぜになっているようなセット・リストと演奏だった。最後までMCはなかったけれど、眼前の美しいサウンドの一つ一つに意味があるように思えたり、彼らがどんな気持ちで演奏をしているのだろうかと思いを馳せてしまう。見れば見るほどに、興奮とリラックスを与えてくれる至極の時間だった。ついつい音を飲み込みながらぼぅっと眺めていたが、冷静になると各人の演奏力もとんでもなく高いということに気付かされたりもして最後まで感動が止まらなかった。

小山田が演奏しているちょっと不思議な楽器はMOOGのテルミンEtherwave Theremin Standard Blackだったのだが、完ぺき主義的な狂いのない演奏を披露。こんな風に弾くのはきっと難しいように思えるが、試したい方はとりあえずテルミンを購入してみよう。こういう楽器は、買って試してみるに尽きる。

キーボードを弾いていた堀江博久の使用機材は、ROLAND JUNO-DS88SEQUENTIAL TAKE 5ARP 2600 M。ベースを担当していた大野由美子は、MOOG Minimoog Model DROLAND JD-Xiを弾いていた。

まとめ:音に宿るメッセージに揺さぶられる

崎山蒼志の演奏するセミモジュラーMother-32や、Corneliusの演奏陣のMOOG、SEQUENTIAL、ARPといったシンセ・メーカーの重厚なサウンドを聴かせるパフォーマンスが、会場に居たフジロッカーの心を揺さぶる様を見ていると、音が何がしかメッセージを持つことがあるのかもしれないなと考えさせられる。

ステージ上に身を投げて転げながらMother-32を奏でる崎山の姿からも、ギターの弾き語りでは伝えられなかった何かを受け取れたし、音の一つ一つに集中するようなインストの演奏には、小山田の緊張感よりも自然体でセッションを楽しんでいる方のバイブスが感じられた。

崎山も小山田もメインの楽器としてのギターで表現ができる人たちだが、ギタリストの彼らにとってのシンセやテルミンはどんな楽しみだったり表現を持っている楽器に見えているのだろうか。あまりにどのステージでもアナログ・シンセを見かけるので、こういうハードウェアの電子音が最近のトレンド的なもののように見えていたが、音楽家にとっては言葉やメロディで表せない“シンセ”だからこそ伝えられる表現、メッセージというのをそれぞれ持っているのかもしれない。そんなことを思える、新たな気づきを得た2日目だった。

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