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取材/編集:Mizuki Sikano

ネット上で歌い手として活動をしてきた二人、伊東歌詞太郎とNORISTRY。オリジナル曲も発信する彼らだが、現在でも歌ってみたの投稿を続けている。

 

そんな歌い手活動を続ける彼らに、歌ってみたへの愛を語ってもらおう。本記事は後編。

伊東歌詞太郎×NORISTRY対談インタビュー

▲前編インタビューをチェック!

誰でも手軽に始められるようになった歌ってみた

ー前回はお二人から、海外の歌ってみたシーンの話から、伊東さんによる“ちょっとキケンな歌の向き合い方”までをお話していただきました(笑)。今回はお二人から見た“2023年の歌ってみたのシーン”を振り返ってみましょう。

NORISTRY コロナ禍を経て、SNSが発展したこともあるんですけど、歌ってみたがより手軽に始められるものになっている気がしてて。最近やと、もうスマートフォンとかだけでも歌ってみたの録音ができますし。投稿サイトもニコニコ動画(以下、ニコ動)やYouTube以外に、TikTokなり、Instagramまで加わりましたよね。

ー安い音楽機材もたくさんあるし、動画の出先も増えて、皆さん歌ってみたの活動を始めやすくなってるでしょうね。

伊東歌詞太郎 始めやすくはなってるでしょうね。ただ極端な話、企業が「このアーティストをピックアップするぞ」って世に広めないと広まらないっていうのが事実としてあるんじゃないかとも思っちゃうんですよ。それは昔からそうだけど、2023年でも。

 そんなとき歌ってみたの世界は、音楽リスナーが自発的に「この人めちゃめちゃ良いよ」って拡散し合うユートピアのような場所だったから、僕は歌い手としてここまでやってこれたと思うんですよね。

ーニコニコ動画にもYouTubeにも、顔が見えない謎めいたクリエイターがたくさん居たけれど、彼らの匿名性は結果的にすごいところを際立たせていましたよね。

伊東歌詞太郎 そうですね。音楽業界の仕組みも関係なく、純粋な音楽好きが「これがいい!」って言える世界だったと思います。でも、正直に言うと、今は雰囲気が変わってしまった気がしています。やっぱり色んな企業がガンガン進出してきた印象です。

ーつまり、何者でもないクリエイターのすごい動画より、すごい人のすごい動画を目にする機会が増えたっていう意味ですよね。

NORISTRY それもありますね。やっぱり昔は、全員が無償でただ楽しんでた感じなんですよね。絵師も、動画を作る人も、歌い手も、ミキサーも全員がめっちゃ趣味だった。

新人のすごい歌い手で盛り上がる方法が欲しい

ー同人的な雰囲気は、こういったネットカルチャーの持ち味ですよね。

NORISTRY そうです。“無料でこんなん聴かせてくれんのかよ!”みたいな盛り上がりがあった。そこのテンション感はやっぱり変わったのかな。

伊東歌詞太郎 歌い手に関して言えば、主戦場がニコ動じゃなくてYouTubeになってるのが1点。それに付随してニコ動のランキングが昔と変わってしまったことが大きいと思います。ニコ動の運営は頑張ってくれてるのでちゃんとアップデートはしてるんですけど、やっぱり広告を導入してからですかね。例えば、自分で自分の広告に10万ポイントとか投下すると、再生数が少ないのにランキング1位になっちゃったりするんです。

NORISTRY それは、本当にその通りで。ホンマそっから僕たち投稿してる側も、ランキングを見なくなっていったというか。だから言葉を選ばずに言うと、“純粋な再生数でランキング載せてくれへんのやったら、もういっかな……”っていう思考回路になっちゃった。

ー今って皆さんどのように新人の歌い手の方を探しているんですかね。

NORISTRY 自分の世代より下の新人さんについてですよね? 今まではニコ動のランキングで知れてたみたいなことがあったので、やっぱり自分で発掘するのがめちゃくちゃ難しくなった。何か方法が欲しいですね。

伊東歌詞太郎 なので、ここ数年、やっぱり歌い手からアーティストになる方が減ってしまった印象です。代わりにどんな人が出てきてるのかっていうと、企業がちゃんと戦略を組んでやってるような、グループの歌い手とかですよね。

NORISTRY いや〜、今はグループの時代が来てますよね。

伊東歌詞太郎 それも含めて、誰かに“ピックアップされないと拡散していかない時代に逆戻りしちゃったかな”って。しっかりとしたヒットのためのロードマップに沿って活動している人たちしか最近は上がってこない気がしてます。

NORISTRYが選ぶ2023年おすすめ歌い手

ー歌い手の中でも本当にさまざまなスタイルがありますよね。ちょっとハンドルを切ってしまいますが、ここからお二人には、2023年素晴らしかった歌ってみた動画を紹介していただこうと思います。この選定基準は?

NORISTRY 僕はどちらかというと、味があったり、歌唱力で選ばしてもらいました。

伊東歌詞太郎 僕は、自分が歌ってみたをするために助けられた動画、あと“攻めてるな”っていう企画から1本、尊敬する声優の先輩の動画の3本を選んでいます!

ココル原人

ーそれぞれ3本選んでいただくようにお願いしていますが、まずはNORISTRYさんから順番に紹介していただけますか?

NORISTRY じゃあ、僕から! 1つ目が、ココル原人(以下、ココル)さんの「唱」なんですけど。もうシンプルに歌が上手過ぎるっていうので選ばせてもらいました。

 ココルに関しては、普通の地力がもう爆発してるんですけど、コピー能力もすごい長けていて。Adoさんって、めちゃくちゃ個性が爆発してるじゃないですか。Adoさんのエッセンスも取り入れつつも、自分の味を爆発させているっていうところがめっちゃ魅力。ココルに関しては、全部の動画がいいんで聴いてほしいっていうレベルです。

+α/あるふぁきゅん

NORISTRY 2本目は、+α/あるふぁきゅんの「フォニイ」なんですけど。

伊東歌詞太郎 これは、僕も聴きましたね(笑)。

NORISTRY 聴きますよね~。ホンマもう、めちゃくちゃ歌上手くて、大尊敬してるんですけど。

ーNORISTRYさん、また女声の方に行きますね。

NORISTRY やっぱり自分じゃできない歌ってみたを作っている人にあこがれちゃうんですよね。+α/あるふぁきゅんに関しては、曲とか雰囲気によって、歌声がめちゃくちゃ変わるんですよ。これは多分、意図して変えてるんですけど、僕は原曲であるツミキさんの「フォニイ」が投稿された日から、“+α/あるふぁきゅんの「フォニイ」を聴いてみたいな”ってずっと思ってて。それが満を持して投稿されたんで選びました。

ー「フォニイ」を聴いて、+α/あるふぁきゅんさんと結びついたわけですね。

伊東歌詞太郎 歌ってみたの魅力って、“自分が好きな歌い手が自分が好きな曲を歌ってくれる感動”みたいなところだと、僕も思いますね。

NORISTRY 僕の中で「フォニイ」が、難しくてかっこいい曲なんですよ。そして、上手い人が歌えば歌うほど、爆発する曲の1つだと思った。これ、本人の意図に反していたら非常に申し訳ないんですけど、+α/あるふぁきゅんって、“可愛い歌い方で始まりサビで可愛さを豪快に捨てる”みたいなことをたまにする。これに僕はグッと来ちゃう。

伊東歌詞太郎 曲ごとに“別の人間が歌ってるんじゃないかな?”っていう、バラエティの豊かさじゃなくて……中身ごと入れ替わちゃう感じの人なんですよね。だから、「フォニイ」もその中の1個に大きく当てはまる楽曲ですよね。

__(アンダーバー)

NORISTRY 最後に僕は、__(アンダーバー)(以下、アン)さんの「ノンブレス・オブリージュ」ですね。普段のアンさんって、フリーダムのイメージがもう爆発してると思うんですけど、この「ノンブレス・オブリージュ」っていう繊細で力強くて儚い曲を歌ってるっていうギャップ……これに僕は心撃たれましたね。

伊東歌詞太郎 これ、NORIさん、アンさんと一緒に歌ってましたっけ?

NORISTRY そうなんですよ。ライブで歌わせてもらったっていうのも、もちろんあるんですけど、シンプルに「ノンブレス・オブリージュ」を初めて聴いたときに、 “これ、人が歌えるのかな?”って、久しぶりに思った曲。僕自身も歌ってみたで投稿してるんですけど、1回挫折して、1年間空けてるんですよね。フツーダムに対するアンさん自身の気持ちとかもプライベートで聞いたりしてるので、それも相まってグッと来たというか。

ーアンダーバー星の国王の表情は、非常に豊かだという話ですね。

NORISTRY (笑)。でも、本当に、“フツーダムの時のアンさんの歌声って、すごい繊細だな”って、僕は思ってて。その繊細な歌声と、この曲の繊細さがすごくマッチしてる。あとこの曲の繊細なだけじゃない……世界に対する不満が爆発してる感じもアンさんと合う。 “めちゃくちゃいいな”と思ったんですよね。

ー自分のやった表現との違いは、どういうところがありましたか?

NORISTRY 僕が歌った「ノンブレス・オブリージュ」に関しては、自分の中での正解を100%表現したつもりで投稿してるんですけど。アンさんも、やっぱ全然違う。“僕はここ、もっと静かに歌うけど、アンさんは大きい声で歌ってるな”とか、逆に、“僕はここ、大きく歌ってるけど、アンさんは繊細に歌ってるな”みたいな比較がすごいできました。

伊東歌詞太郎が選ぶ2023年おすすめ歌い手

雪見

伊東歌詞太郎 雪見さんの「KING」って動画。僕も、「KING」を歌うにあたって、さっきも言ったように人の声で聴かないとあまりディティールが頭に入ってこないので、この動画を参考にさせてもらいました。すごくメロディ・ラインとか一番覚えやすくて。本当にめちゃくちゃお世話になったっていうことで、今年の歌ってみた動画の1つ目みたいな感覚で選ばせてもらいましたね。

コーラスとかまで聴きやすいくらい声が前に出ているミキシングで、もう気持ちいいくらいボーカルを前面に出すっていうのが面白かった。このやり方はニコニコ動画としてはとてもスタンダードなミキシングなので。歌い方については僕やNORIさんとは違って、サラッとリズムを取っていくような感じです。

ー普通の楽曲のミキシングじゃなく、歌ってみたに適したミキシングってありますよね。

伊東歌詞太郎 そう、面白いです。ミキシングをどうするかっていう問題は、やっぱり僕もずっと興味深くて。声をどれくらい大きく出すのかっていうところなんですけど、NORIさんは多分、自分でミキシングするじゃないですか。

NORISTRY いや、してないです。メイン・ボーカルくらいやったら出来たんですけど、僕、ハモリとかコーラスでアレンジすることが多くて、それが思うようにミックス出来ひんかったんですよね。上手な方がね、世にはいっぱいいらっしゃる。

伊東歌詞太郎 ミックスは本当に難しいですよね。まずYouTubeやニコ動などプラットフォームによって最適なものがあったり、自分の求める音像と聴く人達の好みが違うからバランスを見ないといけない。

あと、動画投稿をあまりやってこなかったミキサーの人に頼むと、素晴らしいものにはなるんですけど、プロっぽ過ぎて引かれちゃう可能性もありますし。

『無名歌唱祭』から174番の方

伊東歌詞太郎 2曲目はですね、『無名歌唱祭』っていう、もう知名度とかじゃなくて歌だけで勝負する攻めた企画から1曲。この企画、動画も本当に白バックに歌詞だけが出てくるんです。

僕が紹介するのは、「ののど/陽光を泳ぐ」、174番の方(笑)。この人は、本当にまず自分で録って、ミキシングして、応募してっていうのがありありと分かる内容で。“その中での完成度っていうものが非常に高い”と感じたものなんです。無垢な感じが、僕の心をギュッと離さない感じですね(笑)。

ー『無名歌唱祭』どんどん広まったら良いですよね。これ、お二人も参加すればいいのでは?

伊東歌詞太郎 僕もNORIさんも、ここに参加する可能性もありますもんね?

NORISTRY 全然あります。“参加したときにどうなるのか?”みたいな興味も、もちろんありますよね。

林勇

伊東歌詞太郎 じゃあ、最後は林勇(以下、林)さんがやられてるOfficial髭男dism「Cry Baby」。ご本人がマイキー役の声優だから、ってことだけじゃなく良い点がいっぱいあるんですけど。ちなみに僕自身、林さんとすごく仲良くさせていただいていて、林さんがラーメンを食べられる時期になると「歌詞君、ここ行こうよ」って誘ってくれるんです(笑)。

林さんは音楽活動もやられているので、歌がお得意な方です。僕自身は最初この動画を“企画ものなのかな”と思って聴いたんです。でもまたこれ、ミキシングがまず素晴らしいんですよ。ピッチとニュアンスの残し方がもう最高のバランシングになってる。動画ともとても合っていて、良い感じです。

ー最後に、お二人が注目している歌い手を1人紹介していただきたいです。

NORISTRY 僕は、お冷やって子なんですけど。めちゃくちゃハスキーでとにかく声がいいんで、聴いてみてほしいですね。僕がハスキーとは真逆の声なんで、あこがれてしまう。あと、ツヤもある感じがするのが非常に魅力的ですね。

伊東歌詞太郎 僕はですね、Impatiens(インパチェンス)さんでいいのかな? “本当に自分で一生懸命にやってるんだな”っていうところの方から選んでます。そして「アンノウン・マザーグース」は初投稿なのに、ここまでの完成度。自分の声を自分できちんと認識してるのが伝わってきます。

 本当は初投稿じゃないかもしれないけど…(笑)。でも、“この人って、すごい才能があるんじゃないかなって、可能性を聴くのが面白い”という「歌ってみた」としての楽しみ方があると思います。

一般化しながらも歌ってみたのサブカルな一面を保ってほしい

ー今回の対談、お二人の歌ってみたへのこだわりとか熱い想い、期待感がどれだけあるのかビシビシ伝わってきたなと感じました。ちなみにお二人から見て、今後どういう歌ってみたシーンが育ったら理想的なのですか?

NORISTRY 僕としては、 “もっと一般化して欲しい”って気持ちと、“サブカルチャーな一面を保ったままでいてほしい”っていう二つの気持ちがあります。でも、海外にも歌ってみたが広がってほしいんですよね。

 そう考えると、やっぱりまふまふさんが『NHK紅白歌合戦』に出られたみたいに、もっと歌い手がスターダムを手にしたり、メジャー・アーティストの方々の“ボカロ曲”歌ってみたとかも増えたら良いんだと思うんです。今はまだ皆さん、J-POPをカバーしているイメージなので。

伊東歌詞太郎 僕の場合は、まず自分がボカロ曲の歌ってみたを投稿して、ここまで色んな人に聴いてもらえるようになるとは思ってなかったんです。元々は、下北沢で売れないバンドマンでしたし。

 この界隈が発展するも衰退するもわからないけれども、これからも“どういう風に形を変えていくんだろうか?”って心構えで、歌ってみたシーンを見ていきたいと思っていますね。

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