トキチアキ インタビュー／ボカロPのMVイラストレーター連載『#音の絵師』

必ず紙と鉛筆でイラストを描き始める

ー“まずはすべて紙に描く”というのがこだわりなのですね。

トキチアキ　もちろんデジタルに挑戦して、いろいろなデバイスやソフトを試してみた時期もありました。でもそんな中ある人に“トキは鉛筆で描いたラフの線が一番良いよ”って言われたことがあったんです。絵の上手い人がたくさん居る中で、“私にしかない強みってこの線なんじゃないか”と思って、これで勝負することにしました。

　何とか線の良さを残したままデジタル化できないかなと思い、編み出したのが今の方法です。紙と鉛筆で何度も描き直しをするのですごく時間がかかるんですけど、私にとってはこの方法が一番良くて。気持ちを奮い立たせて100％全力で描くというよりも、少し力を抜いて気軽に描いた方が良い線を描けます。

ーこの自由な線は、トキさんの気持ちの乗り具合も関係しているんですね。

トキチアキ　本当にそうですね。酔っ払っているときの方が思っているように描けたりもする（笑）。どうせ絵を描くんだったら、自分の手癖で描けた方が楽しいじゃないですか。自分の好きなものを研究して描き続けて、それが自分の絵柄になったから、今は“自分の好きなもの”と“自分らしさ”がイコールでつながっているような気がしてうれしいです。

トキチアキ描き下ろしオリジナルイラストTシャツ「Throw opps!」

ー今回「音楽家」をテーマに、イラスト描き下ろしていただきました。どんなイメージで制作をしましたか？

トキチアキ　“何かを生み出す”って本当に吐きそうになるくらい大変なことなんですよね。イラストレーターとして生計が立つようになったころの私は“仕事がもらえてうれしい”という気持ちだけで突っ走っていたんですけど、2022、3年ごろにそれができなくなってしまったんです。考えていることは山ほどあるのに、作品にしようとすると上手くいかない……生み出すことの難しさや苦しさに直面していた時期でした。

　音楽家の方にもきっと、頭に湧いてくるイメージを形崩さないようにグッと抑え込んで、吐きそうになりながらも形にするという苦しさがあると思うんです。そんなことをイメージして描きました。

ー耳をふさいでいるのは、頭の中のイメージが外に漏れないようにしているってことなんですね。

トキチアキ　そうです。背景の爆発は“これを絶対にやるんだ！”という制作意欲の爆発と、イメージを上手く形にできないイライラの爆発の二つの意味があります。

ー音楽家とイラストレーターの違いってどんなところだと思いますか？

トキチアキ　音楽と絵とでは、人に見てもらえるようになる手段が全然違うのかなと思います。音楽って、街中で歩いていても自然と耳に入ってくるじゃないですか。でもイラストって、見ようとしないと目に入らないと思うんですよ。例えば一枚の紙に描かれた絵があったとして、それが裏返しに置かれてしまっていたら、誰かがひっくり返さないとその絵を見ることも“良いな”と思うこともできないですよね。絵が自然と誰かの目に入るってなかなか難しいことだと思うので、見てもらうためのきっかけ作りについて、最近よく考えています。

ーこのイラストもですが、トキさんはイラストによく漫画のトーンを貼っていますよね。

トキチアキ　これはロイ・リキテンスタインの作風の影響です。この人も作品にトーンを貼っていて、私はその漫画っぽいスタイルが好きなんですよ。少ない色味の中で表現の幅を広げられるので、よく使っています。

ー今後の活動でやってみたいことはありますか？

トキチアキ　ぬいぐるみを作りたいです。固定キャラクターがあればそれをぬいぐるみにしたかったんですが、まだそういった存在が居ないので、まずはそこから考えていこうかなと思っています！

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