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企画・インタビュー:Mizuki Sikano(plug+編集部)

睡眠導入、ストレス発散などにも効果があると噂の音フェチ向け「ASMR動画」が、世界中でジワジワとファンを増やしている。最近は韓国アイドルや俳優もASMRを行っているので “自分もASMR動画を作ってみたい!”と思う人も増えているはずだ。

 

本企画では、ASMR系YouTuberきつねにインタビューし、ASMR動画の制作に必要な①必要機材類、②おすすめマイク、③音声編集/ノイズ処理の三部構成で聞いてみた。今回は、音声編集/ノイズ処理の考え方や使用ツールを教えてもらおう。

ASMRを良い音に仕上げる音声編集方法

前回はASMRにおすすめマイク18本の比較をしました。今回は撮影後に、ASMRを良い音に仕上げる音声編集方法についてお聞きしたいと思います!

きつねです! ASMR動画は音を楽しむコンテンツですから、発信者であるASMRistそれぞれが、良い音を届けたいと考えることはとても大事なこと。これからASMRをやりたい方々にとって知って損は無いと思います。

きつねさんはASMRでどんな音を目指して作っていますか?

簡単に言えば、“ゾワゾワできて眠れる音”ですね。そのためには、編集段階で不要なシーンや音は消して、全体を視聴しやすいように整理しないといけません。音について細かい話をすると、“キンキン”するような耳に痛い成分やノイズなどを消していくことで、視聴者の皆さんに“心地良いな”と思ってもらえるように頑張っています。

ASMR動画の編集手順は?

ASMR動画は、撮影してアップする前にさまざまな編集が必要なのですね! では、きつねさんの編集手順を教えていただけますか?

録音から完成までに、大きく4つの手順を踏んでいます。
①ビデオ/音声ファイルをパソコンに送る
②音声ファイルをDAWなど波形編集ソフトの中でノイズ除去
③動画編集ソフトでビデオと編集済みの音声ファイルを合わせる
④不要なシーンや音声をカット

です。

DAWなど波形編集ソフトと動画編集ソフトの2種類が必要なのですね。

私はAPPLE Logic ProというMac環境で使用できるDAWソフトと、ADOBE Premiere Proという動画編集ソフトを使っています。どちらも有料ソフトですが、これから始める方はまず無料ソフトを使ってみるのでも大丈夫です! 私もASMRを始めたばかりのころは、音声編集にフリー・ソフトのAUDACITY Audacityを使っていました。

APPLE Logic ProというDAWソフト。オーディオ編集やMIDI信号の打ち込みが可能で、主に音楽制作に使われるが、ASMRのオーディオ編集にも便利

動画編集ソフトの中にも音声編集のためのエフェクトが入っていますよね。それらも使っていますか?

使っていますね。だから、初心者の方で有料ソフトの購入を考えている場合は、ノイズ除去やリミッター、コンプなどのエフェクト入り動画編集ソフトのみを購入するのもアリだと思います! ただ、プラグインによるCPU負荷でパソコンの操作が重くなることは想定しておかないといけません

ASMRの音声編集でやると良い4つの音処理

きつねさんが音声編集で行っていることを教えてください!

①ノイズ除去(ノイズ低減エフェクト、イコライザー)
②音の増幅(コンプレッサー)
③ピークの除去(リミッター)
④【応用】低域を少し盛る

主にこの4つです。まずはノイズ除去を行ってから、イコライザーとコンプレッサーで音の増幅を行い、最後にリミッターでピーク成分を抑えます。ただ初心者の方々は、イコライザー、コンプレッサー、リミッターといったツールを使いこなすのに時間がかかってしまうはず。まずは、ノイズ除去エフェクトの設定に慣れたり、ボリューム・フェーダーを上げて音の増幅ができればOKだと思います!

ASMRで消すべきノイズってどんなもの?

“ノイズ”は、ASMRの音声編集をする上でまず直面する困難だと思います。そもそも、ASMRの録音データに発生するノイズとはどんな種類があるのでしょう?

主に、ホワイト・ノイズ(ex.“サー”と鳴る音)や部屋の環境音(ex.冷蔵庫やエアコンなどの家電が発するノイズ、近所の騒音)、家鳴り(ex.“ミキッ”などと建材が温度変化で動く音)です。

部屋の環境音や家鳴りを編集で消すのには、かなり上級なテクニックが必要ですよね?

そうですね……環境音や家鳴りは簡単には消えないので、万が一入ってしまったときには誤魔化すのはかなり難しいと思っておきましょう。撮影段階で注意が必要です。

録音前にエアコンの電源はオフに。近くに音を発する家電(ex.冷蔵庫)がないかもチェック
床マットやスリッパも、足音などのちょっとしたノイズを防ぐのに役立つ

ホワイト・ノイズの低減方法

ホワイト・ノイズはどのように消していますか?

活動したてのころは、Audacity内の“ノイズの低減”という機能を使って消していました。現在は、Logic Pro内でIZOTOPE RX Voice De-noiseを立ち上げて処理しています。

あと動画編集ソフトのPremiereの“エッセンシャルウィンドウ”内にある“会話”プリセットで“ノイズの多い対話のクリーンアップ”というのがあって、これが意外と便利なんですよね。Premiere使いの方々にはお薦めしたいです。

IZOTOPE RX Voice De-noise。左上の“Learn”でノイズを分析させてから、“Threshold”(上げるとよりノイズが減る)、“Reduction”(上げるとよりノイズが減る)を調整
ノイズプロファイルを取得するため、ノイズのみの部分を選択してAudacity内エフェクト>“ノイズの低減”をクリック
“ノイズプロファイルを取得”をクリックするとソフトが学習してくれる。その上でまた、音声全体を選択→“ノイズの低減”をクリックして設定。

ノイズを低減し過ぎると音質に影響を与えることもしばしばですね。良い塩梅(あんばい)を探るコツは何でしょう?

おそらく、慣れですね……。ノイズ除去を深くかけ過ぎると、 “モワァ〜”っと音がどんどん曇っていきます。そういった音質を自分の耳で聴いて違和感を感じたら、それ以上かけないほうが良いことは確かです。なるべく音が変わらない範囲でノイズを消していきます

音楽で邪魔になりがちなリップ・ノイズは、ASMRにおいてマウス・サウンドとして生かすところだと思います。とはいえ、不要なものとの区別をして編集したりしていますか?

区別はしますね。自分で嫌だと思うリップ・ノイズが視聴者さんにとっては大歓迎、ということがあるのがASMRなんです。日本人がマナーの観点では良しとしない咀嚼音も、ASMRとしては今大流行しているじゃないですか?

とは言え、たまに“ピチッ!”みたいな大きいリップ・ノイズが鳴ってしまうこともあります。それはさすがに心地良くないと思うので、その原因になる周波数帯域をイコライザーで目立たないように少し下げたり、誤魔化しようがないと思えばその部分ごとカットしちゃいます

あとASMRネタによりますが、固い物でマイクに触れたりして、尖った音を収録してしまう機会などもあるのではないでしょうか

ありますね。良い音でない場合は基本的にボツにしています。見た目が気に入っているなどの理由でどうしても使いたいときは、音のアタック部分の音量を削ったりして処理することが多いです。ノイズのことを考えると、やはり一番大切なのは奇麗に録音することだな、と思います。

続きは、次のページ

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