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執筆&サンプル制作:アンメルツP
イラスト:夕凪ショウ(メイン画像)/べこ(キャラクター)
動画制作&編集:plug+編集部

ボーカロイド(以下、ボカロ)を代表とする、音声合成ソフトを使い楽曲を作る“ボカロ楽曲“が、以前にも増してメイン・カルチャーとしての市民権を得ている昨今。それに伴い、アマチュアの音楽制作でも、積極的にボカロを使った曲作りが行われてきました。

 

本企画では、ボカロ曲を作るために、知っておきたいことを中心にその魅力や制作の流れをいっきに解説。自身の楽曲制作に取り入れていくヒントを紹介します。解説は、ボカロP歴15年のベテラン、アンメルツP。なるべく多くの読者が実践できる内容を中心に制作方法をご紹介します。

 

ぜひ、はじめの一歩を踏み出してみましょう。

 

※本企画では、「ボカロ」という呼称を、音声合成ソフト/制作手法の総称として使用しております。詳しくは本ページの最終セクションの解説をご覧ください。

「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。

こんにちは。本企画にて解説を担当しますアンメルツPです。
よろしくお願いします。ボカロPを始めたのは2008年で活動歴15年です。

曲作りは2002年から開始。初音ミク」ブームの以前からVOCALOID(ボーカロイド)の存在を知ってはいましたが、鏡音リン・レン』を買ったことをきっかけに、ボカロPとしての道を歩み始めました。

代表曲は、ゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』のコンテストを勝ち抜き、2023年6月の実装が決まっている人生、鏡音リン・レンを歌わせた楽曲使えない部下 悩める上司』『お嬢様と執事の冒険などです。

また、書籍『ボカロビギナーズ!ボカロでDTM入門』などの執筆でクリエイターを支援したり、同人コンピレーションCDなどの企画にも多く携わっています。

1-1 ボカロの歴史と、ボカロを使った音楽の魅力

初回となる「STEP1」は、これからボカロ曲を作曲をしてみたい人向けに「ボカロの歴史」「ボカロPの作業」「ボカロに歌わせる基礎知識」をお届けします。

まず、具体的なボカロ曲作りについて触れる前に、これまでボカロが歩んできた歴史や、そもそも「ボカロで歌わせることに、どんな魅力があるのか?」をお話できればと思います。

もちろん別に知らなくてもボカロ曲は作れるのですが、ボカロ曲を取り巻くシーンは、動画投稿やSNSでの盛り上がりと密接に関わりがあります。こうした「過去の積み重ねを大事にしている」ことを頭の片隅に入れておくと、自分がボカロを使って何をしたいのか?が、見えてくることもあるのでお勧めです。

まず、ボカロを取り巻く状況を一言で表すと、「ブームから定番へ」という流れがあります。

振り返ると、ボカロには3つの波とも言えるムーブメントがありました。これを経て、一過性のブームから多くの人が当たり前として聴くものへ、徐々にその姿を変えていったのです。

ボカロ・シーンにおける「3つの波」

12007~2008年ごろ、初音ミク発売直後にニコニコ動画での盛り上がり

22011〜2014年ごろ、オリジナルな世界観を持った作品の台頭、ゲームやCDへの波及

32020年以降、若い世代を中心にボカロを使った音楽が広く認知される

第一波は、2007~2008年ごろ、初音ミク発売直後にニコニコ動画で起きた盛り上がりを指します。

新しい技術が好きな層、アマチュアの作曲家たちが、好き勝手にボカロの可能性を模索していたのがこの時代です。

ボカロの代名詞とも言える「初音ミク」が発売されたのが、今から15年前、2007年8月31日のことです。当時としては、非常に高品質の音声合成技術と、キャッチーなパッケージ・イラストにより、発売当初から話題になっていました。

動画投稿サイト「ニコニコ動画」を主戦場に、最初はカバー曲を歌わせることが主流でしたが、『みくみくにしてあげる♪』(ika)のようなキャラクター・ソングが注目を集め始めます。その後、『メルト』(ryo)に代表される、キャラクターへの依存度を低めた高クオリティのオリジナル曲が続々と誕生していきます。

さらに、ボカロ・シーンを盛り上げたのは、二次創作作品の出現。ミュージック・ビデオや歌ってみた/踊ってみた動画など、ニコニコ動画内で派生した作品を巻き込み、ブームが拡大していきました。

当時、アマチュアのオリジナル曲は、音楽投稿サイトにmp3をアップして数千ダウンロード行けば大ヒットとされていた時代です。ところが、ニコニコ動画では10万再生を超えるボカロ曲が次々と誕生しました。本当に革新的な出来事でした。

同時にボカロ曲を作るクリエイター個人にも注目が集まり、OSTER ProjectさんやcosMo@暴走Pさんなど、現在でもご活躍されているボカロPが注目を浴びていました。

その後、ボカロは順調に拡大を続け、第二波が来たのが、2011年から2014年ごろです。この時期は、キャラクターに依存しない高クオリティ作品の登場、ボカロの世間への認知がいっきに広がった時期です。

この時期は、『千本桜』(黒うさ)などの現在もボカロ・シーンを代表する名曲が次々と誕生しています。ちなみに、米津玄師が主にボカロP(ハチ/HACHI)として活動した時期もここに当たります。

カゲロウプロジェクト』(じん)に代表される、ストーリー性のある連作の楽曲が注目を集めました。

彼らのシリーズ楽曲は、既存のボカロ・キャラクターにまったく依存しない深い世界観を持っていました。その特徴から、小説や漫画などのマルチメディア展開がしやすく、その結果、楽曲の小説化や漫画化などの商業出版が活発に行われるようになりました。

また、ゲーム『初音ミク -Project DIVA-』(2009年7月2日発売)が数十万本を売り上げたり、メジャーで発売されたボカロ曲コンピレーションCD『EXIT TUNES PRESENTS Vocalogenesis feat. 初音ミク』がオリコン1位を獲得するなど、ボカロがニコニコ動画の枠を超えてさまざまなシーンへ拡大して行った時期でした。

ゲームソフト『初音ミク -Project DIVA- Extend』(筆者所有)

EXIT TUNES PRESENTS Vocaloconnection feat.初音ミク(筆者所有)

この”誰もがクリエイター”というボカロ・シーンに注目し、初音ミク&クリエイターをCMに起用したのが、YouTubeを擁するGoogle社です。CMのテーマ・ソングとして制作された『Tell Your World』(kz)はその後、長く愛される名曲となりました。また、現在、多くのボカロPがニコニコ動画のみならず、YouTubeへの投稿を行っていることを考えると、このCMの存在は重要です。

その後、ニコニコ動画でのボカロ・ムーブメントは表面上、少し落ち着きを見せるのですが、第一/二の波で撒かれた種はネット・リアルのあちこちに水面下で広がり続け、若い世代を中心にボカロを使った音楽が認知を高めていき、ポピュラー音楽として広く聴かれるようになりました。

そして、その撒いた種が大きく花を開いたのが、2020年以降の現在。この盛り上がりが第三波と言えるものです。

その1つのきっかけが、新型コロナウィルス蔓延を機に起こった一種のゲーム・チェンジです。コロナ以前、メジャーの音楽シーンでは「ライブで人気を得る」ことが当然でしたが、コロナ禍では、既存の音楽バンドやアイドルの活動が大幅に制約されることとなります。

その結果起こったのが、「動画サイトでヒットした音楽」=「ヒット曲」という現象です。

そして、ここで「発見」されたのが、水面下で武器を磨き続けていたボカロ曲、および、ボカロPとしての活動も行うクリエイターの存在でした。

例を上げればキリがありませんが……ボカロPで人気を得ていたAyaseさんのユニットYOASOBI、n-bunaさんのヨルシカなどです。彼らの作る音楽が音楽シーンの生態系において、従来のJ-POPの位置に収まったのです。

先に2007年で「10万再生を超えるボカロ曲が次々と誕生」と言いましたが、今やYouTubeでは数千万〜億単位で再生される楽曲も見かけるようになりました。

同時に、2010年代後半より出てきた、VTuber(バーチャル・ユーチューバー)の存在も、ボカロ曲の盛り上がりに一役買っています。

VTuberによるボカロ曲の歌ってみたは多数見かけますが、昔からネット文化に親しんだ中の人が今発信側に回っている傾向があります。そのため、ボカロ曲の影響を受けたクリエイターも多く、まさに“水面下で広がった種が花を咲かせた”例とも言えるでしょう。

VTuberの一例。多種多様なインフルエンサーが所属するバーチャルライバープロジェクト「にじさんじ」

ボカロ曲はさまざまなSNSに広がりを見せました。その中のひとつにTikTokがあります。数十秒の動画がメインという気軽さから、多くの派生作品が生まれるようになりました。

TikTokでのボカロ曲の扱いが特別なわけではありませんが、YouTubeとは違う文脈で新しい楽曲が発掘されることも多く、その中でもともと作品数が多いボカロ曲が多くの支持を集めることになるのは自然である気がします。

もともとTikTokはダンス動画に強いSNSだったのですが、ニコニコ動画の「踊ってみた」動画で培われた文脈とも親和性が高いのもあるでしょう。ニコニコ動画ユーザーより利用者の世代は若いのですが、2007~2008年のニコニコ動画で起こったようなムーブメントが、形や規模を変えながら歴史を繰り返していると、個人的には感じています。

また、ボカロ文化の発祥地ともいえるニコニコ動画においても、ボカロPの登竜門となっている「ボカコレ」などの大規模なイベントを通じて、オープンにボカロ・シーンを盛り上げる動きが出てきました。また、有名なクリエイターの動画再生が伸びるのはYouTubeですが、ニコニコ動画では熱心なボカロ・ファンが投稿されるボカロ新曲を定期的にチェックしています。それが新人発掘の場として現在でも機能をしています。

ボカコレの公式ページ(The VOCALOID Collection)
サイト内でのランキング・ページ

さらに、2020年以降のボカロを語るのに欠かせない存在が、Z世代にも支持が高い*スマートフォン・ゲームプロジェクトセカイ カラフルステージ feat. 初音ミクです。

*Z世代が選ぶ!!「好きなスマホゲームTOP10」(Simeji調べ)第1位

プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク のWEBサイト

アクティブ・ユーザーが約200万人おり、ボカロ曲のショーケースとしてプラットフォームの機能を果たしています(楽曲リスト)。ゲームの収録楽曲は、ボカロと人間が一緒に歌うものも多く、ある種ここ十数年で磨き上げてきた「ボカロ」の技術およびキャラクターとしての一つの到達点であるとも言えます。

プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』のゲーム画面。様々なボカロ楽曲を楽しめるリズム・ゲーム。バーチャル・シンガーとオリジナルキャラクターが織りなすストーリーも人気

こうして、ボカロはいろいろな現象を経て、一般にも認識されるようになってきました。ここに至るにはクリエイターの皆様の努力も当然ながら、見逃せないのが「ボカロ」、すなわち合成音声自体も常に進化をし続けている点がございます。

そもそもボカロとは?

本来「ボカロ」とは、何でしょう? 正式名称である「ボーカロイド(VOCALOID)」は、YAMAHAが開発した音声合成技術のことを指しています。また、後ほど詳しく説明しますが、ボーカロイドの技術を用いた作曲ソフトなども含めた行為の総称として用いられることもあります。

YAMAHAのボーカロイド技術は常にブラッシュ・アップがされており、現時点での最新版は『VOCALOID6』となっています。

VOCALOID6の製品ページ

2010年代からは、YAMAHAのボーカロイド技術とは別に開発された合成音声技術も登場し、注目を集めるようになりました。

代表となるのが、テクノスピーチブイシンクソニー・ミュージックエンタテインメントフロンティアワークスなどの企業が集まったプロジェクト『CeVIO AI』です。文字通りAI技術を使用しているのが大きな特徴で、人間の歌い方を高い精度で再現できることから人気を集めています。

代表的なところだと、「可不」などの新規参入者や、「結月ゆかり」「IA」などこれまでボーカロイドを採用していた音声(ボイス・バンク)などを巻き込んで盛り上がっております。

CeVioAIの製品ページ
CeVio AIの製品情報ページ

またボカロといえば代名詞的な存在だった「初音ミク」においてさえ、最新版の『初音ミク NT』ではボーカロイドではない独自の合成音声技術を採用しています。

こうした歌う合成音声全体を引っくるめたものを、ほかに便利な呼び方が無いため「(広義の)ボカロ」「ボカロ曲」と呼ぶことが最近では一般的となっております。本特集でもその意味で使われている部分があります。

また別の動画でボカロを歌わせるための基礎知識を取り扱いますが、「さまざまな選択肢が現在は存在している」ということだけ頭の片隅に置いてもらえばと思います。

続きは、次のページ

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