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執筆&サンプル制作:アンメルツP
イラスト:夕凪ショウ(メイン画像)/べこ(キャラクター)
動画制作&編集:plug+編集部

1-2 ボカロPはどんな作業をしているのか?

さて、ボカロ曲を作る側/クリエイター(ボカロP)にとって、「ボカロ曲を作ることの魅力」にはどんなものがあるのでしょうか?

私が考える魅力は、以下の4つです。

1誰でも歌モノ楽曲が作れる

2人間ではなかなかできない歌わせ方をした曲が作れる

3作曲者のメッセージが、ほかの人間を媒介せずに伝わる

4歌ってもらうこと自体が楽しい!

まず1つ目。直接的に分かりやすいのが、「誰でも歌モノ楽曲が作れること」です。

クリエイターの誰もが歌が上手いわけではありませんし、そもそも自分の声で作品を発表するのが嫌だという人も居ます。また、ほかの人に歌唱を頼もうにも、人脈が無い場合もあるでしょう。その場合、ボカロに歌わせることで、納得いくまでボーカル曲を突き詰められる環境を手に入れることができます。

これは、クリエイターにとって大きなメリットではないでしょうか。リテイクを何回しても文句を言われません。現在、仮歌にボカロを使っている、プロのクリエイターも珍しくはありません。

2つ目、「人間ではなかなかできない歌わせ方」をした曲が作れる点も、分かりやすいメリットでしょう。初音ミクの消失』のような高速歌唱曲が分かりやすいです。

高速歌唱の代表作「『ミクの消失』。02:03からのフレーズに注目


場合によっては、「人間の声」が制作上の制約になることがあります。例えば、人間の歌手向けに楽曲を作るときは、”得意な音域”を考えメロディを1オクターブ少しに収めるなど曲作りの工夫がよくされます。ボカロの場合、人間が歌うことを念頭に置かなくともに楽曲のアイデアを膨らますことができます。

3つ目。「特定の人間をイメージさせない」こと自体が重要になるときがあります。

これはどういうことかと言うと、前出の『カゲロウプロジェクト』など、ストーリー楽曲にとりわけ言えるのですが、作曲者の持っている世界観やメッセージなどを、ほかの人間を媒介せずに直接伝えることが可能なのです。そういった”色の無い器としてのボカロ”が魅力の1つです。

例えるなら、色の無い器(ボカロ曲)を用意して、そこに思い思いにみんなが料理(派生作品)を盛り付けていく。そうすると器も美しい、料理も美味しいで、みんな幸せになれる感覚を私は感じています。

最後に4つ目。一番大事なことをお伝えします。「歌ってもらうこと自体が楽しい!」ことです

苦労して見立てたブロックや自作プログラムが動いたときの楽しさ。さらに、自分で作った料理は美味しい。のような感覚がボカロ曲の曲作りにはあります。

自分の作詞した歌詞や、あるいはカバー曲であっても、手元でボカロが歌ってくれた瞬間、何か不思議と「承認された感」があります。

私はこの承認感がずっとやめられなくてボカロPを続けています。曲を発表しなくても、フルコーラスが完成すらしなくても楽しい。まずはこれを味わってみてほしいです!

具体的にボカロPがやっている作業は?

それでは、ボカロPが行っている楽曲制作作業はどのようなものがあるのでしょうか?本特集では、私の経験や知り合いのボカロPから聞いたことなどを踏まえ、なるべく分かりやすく解説していきます。

ボカロPと聞いてまず思うのが、「曲を作る」という行為でしょう。

この曲作りに関し、細かく見ていくと、主に以下の6つのプロセス(工程)に分けられます。

1曲の構想を練る

2作曲する

3作詞する

4編曲(ボカロ調声を含む)する

5ミックスする

6マスタリング(曲全体の音声調整)する

「ボカロを歌わせる」という工程は、ほかの楽器を演奏するのと同じ「④編曲」にあたる作業となります。もちろんそれなりの時間を掛けますが、曲づくり全体におけるボカロ調声という行為は決して比率が高いわけではありません。

それでは各工程をざっくり見て行きます。詳しい作業は次回以降の記事で紹介しますので、ここでは、全体の流れとやることの把握をしてみてください。

①曲の構造を練る

まず具体的な制作行為に入る前に、「どういった曲を作りたいのか」をはっきりさせる必要があります。「歌詞をどういう方向性にして、曲の展開(メロ、サビなど)をどうするか?」などです。この行為をしないのは、地図を持たずに山に登るのと一緒です。

まずは、自分の好きなボカロ曲や好きな音色、メロディなど、参考となる音源を聞きながらでよいので、できる限り思い描いてみましょう。

その上で、「明るい、疾走感ある」「架空のストーリー(世界観)」「サビから始まる」「夕方をイメージ」など、テーマみたいなものを、言葉にしてメモすると良いかもしれません。

②作曲する

ここで言う「作曲」は「ボーカルが歌う曲のメロディーを作る」ことを意味します。コード進行を決めて簡単な伴奏を作り、その上にメロディーを乗せていきます。詳しい作業の内容は、次回以降に説明します。

plug+では「ゼロからはじめる作曲入門」と題し、作曲の基礎を学ぶ記事も掲載しています。ぜひ、メロディづくりやコードづくりなどの考え方を掴んでみてください。
https://plugplus.rittor-music.co.jp/training/series/dekiru-sakkyoku/

③作詞する

ボカロ曲作りにおいてはその性質上、作詞が必ず発生します。①で想定したテーマを元に、伝えたいメッセージやストーリーを言葉にしてうまく落とし込んでいきます。

よく「作詞が先か、作曲が先か」という定番の議論があります。
自分に合うスタイルがあるので人それぞれですが、最初は作曲を先にしてから作詞をするのがおすすめです。あらかじめメロディから文字数が決まっていると、後から言葉を当てはめやすいからです。

④編曲する

いよいよ、歌詞とメロディをしっかりした曲の形へと変えていきます。①〜③で作ってきたものを元に、曲の展開をつけたり、音(オケ/楽曲の音)と歌詞(ボーカル/ボカロの声)をまとめていく作業です。

オケは、ドラム、ギターやピアノ、シンセサイザーなどの楽器で曲を彩っていきます。楽器は、自分で弾く人もいますが*、DTMの場合、打ち込みで制作をしていくことを行います。

*自分で楽器を弾く場合、録音する作業が必要。

そして、ボーカルであるボカロを歌詞に従ってうまく歌わせていきます。

この編曲により、ロック/ポップス/EDMなど曲のスタイルも固まって大事な作業で、おそらく最も時間を使う作業工程です。

曲のジャンルによって使う楽器も異なります。手持ちのソフト音源や、ボカロ音源の得意ジャンルなどとも相談しつつ、テーマにしっくりくる編曲を探求していきましょう。

⑤ミックス
マスタリング

詳しくは、後ほど解説しますが、「ミックス」「マスタリング」も、編曲で作った音のバランスを整える作業です。これによってぐっと聴きやすい曲に仕上がります。

ミックスやマスタリングは奥が深い世界です。まずは曲を作ること目標に、できたらミックスやマスタリングにも挑戦するくらいの位置づけで大丈夫です。また、得意な人と共同で作業しても良いかもしれません。

著者がボカロ曲のミックスをする様子の画面。ミキサーやリバーブプラグインなどを立ち上げ音を整えます

他にもある、ボカロPの作業!

ここまで曲作りを中心に見てきましたが、ただ「曲を作るだけ」がボカロPの活動のすべてではありません。

作った曲を発表し、そこから何らかのフィードバックを得てまた次の活動へとつなげていくことで、ほかの人から「ボカロP」と認知されていくのです。

楽曲の発表手段としては、やはり動画の制作が重要です。そのためには動画の素材(イラストや写真など)とそれを動画に仕上げる技術が必要です。ボカロPは、イラストレーターや動画制作者と協力する場合が多いですが、小規模な作品では動画まで自作することも珍しくありません。

そして、投稿した後の宣伝や情報発信も大事です。より多くの人に聴いてもらうことで、反響が返ってくるため創作の意欲につながります。SNSでほかのクリエイターと交流するうちに、新しいコラボなども生まれるかもしれません。また、定期的に開催されるコンテストなどへエントリーするのも楽しみの1つです(下:「プロセカULTIMATE」に採用された際の著者曲への審査コメント)。

もちろん、ボカロ曲は作っただけで楽しいし、ボカロ・ソフトを買って自分のためだけに歌ってもらうだけでもそれは立派なボカロPであると私は考えています。

ですが、より多くの人に自分の作品を届けるとなると、いろんな努力が必要になることも事実です。そういった意味では、広報やクリエイターとしてのブランディングまで含めて「ボカロPとしての創作活動」であるとも言えるでしょう。

続きは、次のページ

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