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執筆&サンプル制作:アンメルツP
イラスト:夕凪ショウ(メイン画像)/べこ(キャラクター)
動画制作&編集:plug+編集部

3-2 一歩進んだ曲作りにチャレンジしてみよう

3-1では、曲の構造/コンセプト作りを紹介しました。ここからコンセプトに沿って、曲作りの残りの各プロセスを進めていくことになります。曲作りのプロセスの「作曲」「作詞」「編曲(オケおよびボカロ調声)」の段階ごとに、「3分の曲を完成させるために必要な知識」について解説していきます。

3-2-1 作曲編~コード進行を自力で作ろう!

ステップ2の作曲では、「小室進行」(VIm-IV-V-I/ラドミ→ファラド→ソシレ→ドミソ)というコード進行を使って1曲を書きました。フルサイズの曲を作る場合は、J-POPやボカロ曲では、「サビで使ったもの以外のコード進行」をAメロやBメロで採用し、展開を付けるケースが多いです。

ここでも「起承転結」が役に立ちます。前項【案A】を採用するとして、

《「起」や「承」のコード進行は、「結」から少し変えたパターンに。「転」では、「結」とまったく違うコード進行にする》といった考え方です。

曲中でコード進行が変わると、曲の展開にメリハリがついて、聴いていて飽きさせない効果につながります。なお、曲全体の統一感を保つため、イントロにサビと同じコード進行を使うことが多いです。

ここで、皆さんのアイデアでAメロのコード進行を作ってみましょう。以下の4つの法則に従えば、まず破綻しないコード進行が作れます。

コード進行作り基本法則

基本は、コードを構成している音(内音)を使う


I→ドミソ

IIm→レファラ

IIIm→ミソシ

IV→ファラド

V→ソシレ

VIm→ラドミ

VIIm-5→シレファ

「I」からはどこに行ってもいい

「I」以外からは先頭の数字(I,IIなど)が「3つ進む」「1つ進む」「2つ戻る」のどれか


※ループしているので「V→I」のような進み方もOK

「VIIm-5(シレファ)」はなるべく使わない

曲の最後や区切りは「V→I」で終わる

これをもとに、今回は

「I(2小節)-IV-V-VIm-IV-V-I」
(ドミソ→ファラド→ソシレ→ラドミ→ファラド→ソシレ→ドミソ)

という8小節のコード進行を考えてみました。後半が小室進行になっているので、サビとの統一感もあります。

Bメロでは別の有名なコード進行を使ってみましょう。「カノン進行」を採用します。

「I→V→VIm→IIIm→IV→I→IV→V」
(ドミソ→ソシレ→ラドミ→ミソシ→ファラド→ドミソ→ファラド→ソシレ)

このコードを実際に鳴らしてみると、どこかで聞いたような響きが得られると思います。今回のBメロではボカロの声をアカペラで重ねたいので、優しい雰囲気にもよく合うコード進行を考えました。

これで無事、1曲通してのコード進行ができあがりました。

コラム:最近の楽曲で多用される「丸サ進行」とは?

「夜に駆ける」などの最近の楽曲でも聴くことの多いコード進行として、「丸サ進行」が挙げられます。椎名林檎が「丸の内サディスティック」で使用したコード進行です。
「IV△7→III7→VIm7→I7」(ファラドミ→ミソ#シレ→ラドミソ→ドミソシ♭)
もしくは、
「IV△7→III7→VIm7→Vm7→I7」(ファラドミ→ミソ#シレ→ラドミソ→ソシ♭レファ→ドミソシ♭)※#(シャープ)は半音高く、♭(フラット)は半音低くを示す。

ご覧のように重ねる音が4音になったり、ハ長調にもかかわらずシャープやフラット(黒い鍵盤の音を使う)があるなど、上級者向けのコード進行となります。

最初は上手くメロディを当てはめるのにも苦労するかもしれませんが、使いこなすことができれば非常にオシャレで現代的な曲っぽい響きを奏でることができます。

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3-2-2作詞編~歌詞のタネを分類しよう

続いては作詞です。基本的な手法は、「アイディアをひたすら出して、その言葉をうまく歌詞の文字数に合うように当てはめる」というステップ2で紹介したものと同じです。

3分の曲の場合、通常500文字前後の歌詞となります。そのため、ステップ2の15個から多くなり、100~200個の歌詞のタネを出す必要があります。ネタ出しはとにかく頑張ってみてください。

無事に出すことができたら、歌詞のタネを分類していきます。ここでも「起・承・転・結」の四つに分類します。

さらにそれぞれを細かく「1番用」「2番用」や、「心理状態」「場面状況」などの細かいカテゴリーに分けると、歌詞を作るのに十分すぎるくらいな、5〜10個くらいの単語の束に分けられるはずです。明らかに足りないところがあれば、そこからさらにアイディアを出して行きましょう。

こうした多数のアイディアをメモ帳アプリだけで管理するには限界もあります。そこで役立つのがマインドマップです。

マインドマップによる作詞の様子。「みんなもチャレンジ」と真ん中にテーマを設定。右エリアに列挙したキーワードライブラリーを、左エリアで展開や場面/心理などのカテゴリーに振り分け、歌詞に仕上げる。メモ帳ではできない可視化と柔軟な組み換えができる

マインドマップとは、自分の考えていることを樹木のように書き記す思考の整理法です。いわば「考え方の考え方」ですね。私は作詞だけではなく、この解説を書くのにもマインドマップを使っており、あらゆるアイデア出しの友とも言える手法です。

マインドマップ用のアプリは多く世に出ていますが、私が使っているのは「Xmind 8」という無料アプリです(Windows、Mac、Android、iOSに対応)。

3-2-3 編曲・調声編~ハモリを付けて重厚にしよう

編曲に関しても、事前に思い付いたアイディアに沿って各パートに楽器を加えていくことになります。動画(後日公開予定)では、編曲作業を幾つか紹介していますので併せて確認してみてください。

ピアノ・パートの編集では、Aメロは簡単な伴奏のみですのでシンプルなピアノにします。そして、コードに使われている音を、しっくり来るように4分音符や2分音符などの間隔で入れていきます(フレージング)。

Aメロのシンプルなコードを短く切り刻みフレージング
Bメロではコードを構成する音でアルペジオを作成

サビはステップ2で制作した部分を採用します。イントロはサビから流用します。ボーカルの代わりにブラス(トランペット)をメインの楽器としました。

イントロはサビのコード進行を採用した上でボーカルをブラスの新フレーズに差し替え

Bメロは、ボカロにコーラス(ハモリ)を加えてアカペラ風にすることにします。コーラスの付け方にはいろいろありますが、ここでは低い声として、コード進行で使われている音のうち1つを、全音符で「あー」や「うー」と長く歌わせることにします。

コードの音を全音符で入れ、調声でビブラートをかけてコーラスにします

続いて、サビにはメイン・メロディに応じたハモリを入れます。これも幾つかの法則がありますが、無難なのは2つ下の音か5つ下の音を使うことです。ハ長調「ドレミファソラシド」の場合、「ド」の2つ下は「ラ」、5つ下は「ミ」です。

グレーで薄く表示されているメインのメロディに重ね、ハモリ音(赤枠)を入力。2つや5つ下の音を入れ歌詞の文字をそろえればハモりになります

ボカロならではの特徴として、正確に歌いすぎるため、ハモリが奇麗過ぎてかえって聴き取りづらいケースがあります。

ハモリ用ボカロのパラメーター設定では、意図的にメイン・ボーカルとは「Gender Factor」などのパラメーターを変えたり、分からない程度に「Pitch Bend」をほんの少し揺らす調声をすると厚みが増すことがあります。ぜひ、いろいろ試してみてください。

編曲では、楽器を種類を増やしたり、逆に少し楽器を抜いたパートを作る、あるいはリズム・パターンを変えると、よりメリハリが付いた曲になります。

編曲作業を繰り返し、無事1番が完成しました。1番ができたら、曲全体の構成として1番を全コピペして2番以降を作っていくことで、3分フル・サイズの曲に仕上がります。

3-3 ミックス/マスタリングで曲をぐっと魅力的に

ここまで曲の構造から作曲/作詞を経て、編曲まで解説してきました。最後に残ったのが、「ミックス」と「マスタリング」のプロセスです。どちらも音のバランスを整え、ぐっと聴きやすい曲に仕上げる作業です。

実際に、私の曲『春待ち八重桜』のイントロでミックスの効果を確認していきましょう。以下の音声は、①編曲を終えたばかりの状態(ミックス無し)、②はミックスを行った状態です(イアフォン/ヘッドフォンでご視聴ください)。

①ミックス無し

②ミックスあり

①はなんとなく②より音が濁った感じではないでしょうか? 特に、琴とギターのどちらが主役なのかがはっきりしていません。それに対して、②は「琴が主役である」とはっきり分かります。

ミックスは音量や音の左右配置などのバランスを取って曲を整えることを言いますが、その本質は「コンセプトに沿って、主役は主役、脇役は脇役とはっきりさせる」ことなのです。

どのパートもしっかり聴かせようとして全部の音を大きくしてしまうのは、誰もが陥りがちなミスです。これは言うならば、「全員がシンデレラのお遊戯会」状態です。

しっかりとした劇を作り上げるためには、心を鬼にして主役と脇役を決めることが何より大事です。

3-3-1 ボカロ曲のミックス方法

曲を構成する楽器の音量バランスを取る

それでは具体的な方法に進んでいきましょう。まずは作曲ソフト上で、それぞれの楽器をオーディオ(WAVファイル)に変換します。以降は、このファイルをオーディオ・トラックに並べて編集していきます。この際にノーマライズ(最大音量を0dBにする)しておくと、後々の作業が楽になります。

まずは、ミキサーのトラック音量だけでバランスを取る作業を行います。それらでバランスを取った上でエフェクターによる音の色付けを行っていきます。ミックスでは、0dBを超えると音割れが発生します。

そこで、どのパートも音量を大きくして音割れの問題を防ぐため、最初に「これだけは音量を変えない」という楽器を一つ決めてしまいましょう。これには、低音を支えるベースが最適です。通常、この基準音を最大-20dbと決めると、ほとんどのケースで全体が0dbを超えない音源になります。

以降は、一つずつ楽器を追加していき、聴きながらバランスを取っていきます。この際の追加順としては、「ベース→ドラム→ボーカル→その他」が最適です。はじめに決めたベースの音量は変えずに、他の楽器の音量を変えていきましょう。

各パートを音声ファイルで書き出しオーディオ・トラックに並べ音量レベルを調整している様子

また、すべての音が中央になっていると、少しゴチャゴチャして聴こえることもありますので、時には楽器を思い切って左右に振ってみるのもいいでしょう。今回は、Bメロのコーラスを複製して、それぞれを左側と右側に振ってみることにします。

エフェクターによる音色の調整/加工

バランスが取れたら、いよいよエフェクターの出番となります。1種類ずつ楽器にエフェクターをかけたら、そのために全体のバランスを見直す作業を繰り返します。

今回は参考例として分かりやすいように、まずはメインのボーカルにのみエフェクターをかけて解説してみます。

主要なエフェクターの種類としては以下があります。CakewalkやGarageBandなどの作曲アプリにも、さまざまなエフェクターが搭載されています。

【音量に作用するエフェクター】
コンプレッサー:音量差が大きい音(ボーカルなど)を平坦にして、聴きやすくする。
EQ:低音や高音の音量をピンポイントで上げ下げできる。

【空間に作用するエフェクター】
ディレイ:山びこのような単一の残響を発生させる。
リバーブ:風呂場で歌うような複雑な残響を発生させる。

エフェクターにはツマミが複数あり、初心者にとってはすべてのパラメーターを理解するのはなかなか大変ですが、多くのエフェクターには「ボーカル用」や「ギター用」などのプリセット(設定済みのテンプレート)が用意されています。ミックス初心者はプリセットを使っていくようにしましょう。

ボーカルへコンプレッサーをかける

コンプレッサーをかけるために、ボーカル・トラックのエフェクター欄にCakewalk付属の「Sonitus:fx Compressor」を適用して、プリセット「Vocals」を選びました。声量に少しムラがあるボカロの声を平坦にして、より聴きやすくします。この際に音量が下がりますが、パラメーター「Gain」の調整で上げられます。

ボーカルトラックにコンプを挿入して音を調整

ボーカルへリバーブをかける

次に、リバーブ「Sonitus Reverb」をかけます。コツとしては、コンプレッサーと違い、ボーカル・トラックに直接適用しないことです。「空間に作用するエフェクター」は、バス・トラックという音を通すだけのトラックを立ち上げ、そこに適用します。そうすることで、後からバス・トラックに音を通す音量(センド)を調整することでリバーブのかかり具合を柔軟に変えられるからです。

バス・トラックにリバーブを挿入。各パートからはセンドの挿入>センドの値を調整してリバーブのかかり具合を調整する

今回はプリセットを「Vocal Hall 1」とし、センド量を-17dBとしました。あまり大きくかけ過ぎると、それこそ風呂場で歌うような響きになってしまうので、ほんの少し分かるぐらいがベストです。

最後にこうしてエフェクターを適用したボーカル・トラックの音量を、再びほかの楽器となじむように微調整すれば完成となります。

3-3-2 マスタリング

簡単なマスタリングもやってみましょう。今度は、すべての音が集まるマスター用のトラックに、先ほどとは別の「Sonitus:fx Compressor」を適用します。プリセットは「Complete Mix」を選びましょう。すると曲全体の音量差が平坦になり、全体として迫力が少し増すのが分かるかと思います。

マスタリングの際はマスター・トラック(2ミックス)にエフェクトを適用する

先ほどと同じく音量が下がるので、パラメーター「Gain」を調整して、音量(Output)が一番高いところでも「-1」(音割れ0dBから少し余裕を見込んで)を上回らないようにします。今回はこれだけですが、簡易的なマスタリングが完了しました。そして、今回のすべての曲作りのプロセスが無事に終わりました。

ミックスやマスタリングによくある失敗は、「せっかく完ぺきな調整ができたと思ったのに翌日確認したら全然イメージと違った」ということ。大音量で作業をしているうちに耳の感覚は変わってしまうので、こまめに休憩をとったりして作業します。また、参考となる曲を参考トラックとしてプロジェクト・ファイルに取り込み常に聴き比べながらミックスをすると良いでしょう。

参考曲を別トラック(赤枠)に取込み聴き比べできるようにする。また、著者は左下のレベル・メーターの有料プラグイン IK MLUTIMEDIA「T-RackS 5 Full Metering」を利用し細かくモニタリングを行っている

リスナーの視聴環境も気にしてみよう!
現在、多くの人はスマートフォンで音楽を聴くため、パソコン+ヘッドフォンのほかに、必ず書き出した音楽をスマートフォンで一度再生して鳴り方を確認しましょう。

●ミックスの考え方が分かるオススメ書籍

音圧アップのためのDTMミキシング入門講座!
石田 ごうき(著)

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