構成・編集:plug+編集部
「作曲」するのに必須なスキルは、「楽器が演奏できて、楽譜の読み書きが できる」という時代から「最低限パソコンが扱える」時代に変わりました。なんなら「タブレットやスマホが扱える」ところまで敷居が下がってきたのです。 総国民ミュージシャンであり、作曲家時代に突入です。
楽器を演奏しないのであれば、訓練された音感や培ってきたセンスがないこともあるでしょう。そんなユーザーでも作曲ソフトの機能を借りて、作曲の導 入や体験、トライができるように……という思いで、本書を書きました。
いわずもがな作曲というものは、あまりにも広大すぎます。本書の目的は、 ドラム、ベース、ハーモニー、そしてメロディという、最小の「1 人バンド」で まずは音楽の骨組み、スケッチを作ってみよう、というところにあります。(書籍まえがきより)
※本記事は、『できるゼロからはじめる作曲超入門』(リットーミュージック刊)から一部を抜粋して、再編集して構成しております。<メロディ、リズム、ハーモニー>の意味と役割を理解した上で、実際にそれらを曲に仕上げていくテクニックのみを抜粋して掲載します。一部、説明が不足する場合もありますが、なるべく、実践を優先する意向で掲載しています。「試して>学ぶ」を優先していますので、順番に読み進めてみてください。(plug+編集部)
目次
メロディのアウトラインを考えよう <アウトライン、輪郭、外形>
✍キーワード:アウトライン、輪郭、外形
初めてのメロディ作りでは、あらかじめ全体像を見通して進めることも有効です。まず、メロディのアウトラインを考えてみます。
メロディの流れや形の概要「アウトライン」を設定します
メロディを構成する、4拍(1小節の長さ)や2拍(1小節の半分の長さ)を単位とする、フレーズの中心となる音だけをつないだ輪郭や外形を「アウトライン」としましょう。よりメロディらしい細かなリズムや音の上下は、アウトラインができた後に調整していきます。
●音高のつながり方と方向
①上行:緊張感が増加する
②下行:緊張感が解放される
③保留:緊張感が保持される
●フレーズの輪郭
ある程度まとまった長さの小節があれば、アウトラインの輪郭や外形が見えます。
8小節程度の長さであれば、これらの「混合スタイル」になるケースが多いでしょう。メロディのアウトラインは、ドラマやシナリオにおけるストーリー展開に相当します。
●隣接音、遠隔音
音がつながる際の移動の大きさ(音程)のタイプです。
① 隣接音:緩やかなアウトラインによる、穏やかでスムーズな印象です。ペンタトニックスケールの隣接音は「ド ←→レ←→ミ←→ソ←→ラ←→ド」
② 遠隔音:アウトラインの角度が急になることで、アクセントが感じられます。ペンタトニックスケールの遠隔音は、両隣2つ以上離れた音
実践①:隣接音だけを使ってアウトラインを作成しよう
⇒書籍のレッスン23(P86)で作成したメロディのトラックに、2拍か4拍の長さを用いて、スケールの隣接音か保留だけを使ったアウトラインを作成してみます。アウトラインの方向や輪郭、外形を意識してみます。
実践②:遠隔音を取り入れてアクセントを設定しよう
⇒左の①のアウトラインの一部を遠隔音に変更してみます。スムーズなアウトラインの中、一部アクセントが付いたことを確認してみましょう
アウトラインを上下にズラしてみよう <装飾音、隣接音>
✍キーワード:装飾音、隣接音
アウトラインができたら、さらに豊かなフレーズになるように中心音を上下のピッチに揺り動かして装飾してみましょう。
アウトラインの中心音に、上下の揺らぎを設定します
引き続きペンタトニックスケールを使っていきます。アウトラインとして設定した中心音を元にして、上下の隣接音を加えたフレーズにデザインしてみましょう。
●上下デザインのパターン
①中心音の後、上下の隣接音に移動して中心音に戻る(凸凹)
②中心音から次の中心音に向けて、同方向に階段がつながるように間の音を加える(↗もしくは↘)
③中心音から次の中心音に向けて、いったん反対方向に移動した音を加えて、そこから跳躍してつなげる(↗↘もしくは↗↘)
④中心音の出だしを上下の隣接音からスタートさせて、中心音に戻る(↗→もしくは↘→)
実践①:中心音に戻る隣接音を使ってフレーズをデザインしよう
書籍のレッスン25(本書P90)で作成したメロディのアウトラインで、 4分音符の長さで①④のパターンを用いてフレーズをデザインしてみます(ここではサンプルとして1、2、6、7小節目に施しています)。よりフレーズらしい推進力と装飾が加えられたことを確認しましょう。
実践②:中心音に戻る隣接音を使ってフレーズをデザインしよう
左の①のフレーズに、4分音符の長さでさらに②③のパターンを用いてフレーズをデザインしてみます(ここではサンプルとして4、5小節目に施しています)。さらにフレーズに異なった印象が加えられたことを確認します。
ヒント!
この装飾的なフレーズのデザインも、あまりに頻繁では印象が散漫になります。元のアウトラインをどのくらい残しておくか、ここでもバランスが大切になってきます。
アウトラインを左右にズラしてみよう<休符、シンコペーション(アンティシペーション)>
✍キーワード:休符 、シンコペーション(アンティシペーション)飾音
音の高さを上下にズラしてデザインしてきましたが、次は、左右のタイミングや長さに着目してフレーズをデザインしてみます。
個々の音で長さの変更やタイミング調整をします
●左右デザインのパターン
①小節最後の音の終わりの長さを縮めて、隙間(休符)を作る
フレーズの区切れ(ひとまとまり)を感じさせるために、次のフレーズの直前に休符を作ることはとても大事です。歌でいえば、自然な息継ぎ(ブレス)ポイントに相当する部分になります。
②小節の冒頭や途中の音の出だしや終わりの長さを縮めて隙間(休符)を作る
フレーズ冒頭に休符を作ると、想定通りの強拍から始まるフレーズとは違った、スピード感が生じて一種のアクセントになります。
フレーズ途中に休符を作ると前後のフレーズに区切れが生じますので、そこで分けられたひとかたまりのブロックとしてとらえやすくなります。
③同じ小節内の音の発音タイミングをズラして、音の長さのバランスを変更する
長くなった音は「重め」、短くなった音は「軽め」のニュアンスになります。リズム的な重心の違いが感じられて、ここにもスピード感の変化が生じます。
④小節をまたぐように調整する
小節冒頭の音を手前の小節の後半の拍までスタートをズラし、その分長さを延ばします。元のタイミングにある音は縮めます。
もしくは小節最後の音を次の小節の前半の拍までスタートをズラし、その分長さを延ばします。元のタイミングにある音は縮めます。
こちらも「強拍」にあるはずの音が「弱拍」のタイミングにズレることにより、リズム的な強めのアクセントが付加されます。
ヒント!
③や④のような、元の拍に感じられるアクセントの位置がズレるようなリズムの捉え方を、シンコペーション(アンティシペーション)といいます。このようなリズムの変化は、メロディ以外のハーモニーやリズムパターンにも応用されることが多いです。
実践①:休符を使ったフレーズをデザインしてみよう
書籍のレッスン26(P96)で作成したフレーズで、4分音符の長さやタイミングを用いて、①②パターンの休符を設定します(ここでは2、5小節目に冒頭1拍目休符への変更、3小節目の2拍目,8小節目の4拍目ラスト休符への変更を施しています)
休符の設定により、フレーズの段落区切れが感じられることを確認しましょう
実践②:強拍と弱拍がズレるリズムをデザインしてみよう
左の①のフレーズに4分音符の長さやタイミングを用いて、さらに③④パターンのリズムを設定します(ここでは3、5、7小節目に「アクセントの位置がズレる」リズムの変更を施しています)
フレーズごとに、異なったスピード感とフレーズのバリエーションを確認しましょう
ヒント!
ここで紹介したすべてのリズム的なバリエーションが必ず有効とは限りません。アクセントが活きてくるのは、アクセントがない平坦なフレーズとのバランスや対比によります。やはりここでもバランスが大事なのです。
モティーフを活用しよう <動機、部分動機、モティーフ、小楽節>
✍キーワード:動機 、部分動機 、モティーフ 、少楽節
ここまでフレーズやメロディの中心音と装飾する動きを活用してきましたが、よりムードが統一されるフレーズを考えてみます。
最小単位となる音のまとまりが「モティーフ(動機)」です
メロディやフレーズを構成する音がいくつかまとまったものを「モティーフ(動機)」といいます。音が1つだと繰り返したときに動機とは感じられませんので、2つ以上の音のつながりを最小単位とします。動機が繰り返されたり、変化しながら展開していくことで、フレーズやメロディの関連性や結びつきが感じられることになります。そしてこれにより全体の雰囲気が統一されます。
「モティーフ」と感じられるパターンには「ピッチ(音高)の動き」や「リズムの形」の要素があります。
●「さくらさくら」
「完全な形」で繰り返されたり、少しずつ変形しながら「似たような形」で繰り返されることで、フレーズやメロディが「有機的に構成」されます。
●「ちょうちょ」
ヒント!
クラシックをベースとしたアカデミックな楽典では、2小節程度のかたまりを「動機」、その動機を構成する1小節程度のまとまりを「部分動機」と定義されることが多いです。 本書では、もう少しラフな捉え方とイメージを「モティーフ(動機)」として扱っています。
実践①:リズムのモティーフを活用してみよう
書籍のレッスン27(P98)で作成したフレーズで、8分音符の長さやタイミングを用いてリズム的なモティーフを設定します(ここでは、各小節の2拍目を、8分音符同音2つに形に変更を施しています)
リズムモティーフの設定により、フレーズのムードが統一されたことを確認しましょう
ヒント!
このように、モティーフと捉えられるためのリズム的な特徴には、休符の配置なども含まれます。なお、モティーフの変化、展開の手法としては「リズムや音程の変化(拡大や縮小)」や「音型を維持した音の追加や削除」、「分裂、断片化」などが考えられます。
実践②:ピッチの動きのモティーフを活用してみよう
左の①のリズムモティーフのフレーズに、さらにピッチの動きを設定します(ここでは前半4小節間は2つ目の8分音符をすぐ下の隣接音に、後半4小節間はすぐ上の隣接音にピッチの変更を施しています)
ピッチの動きの要素が加わったことで、よりモティーフとしての認識が確実になったことを確認しましょう
ヒント!
②のような、前半 4 小節は「下の隣接音」への、後半4小節は「上の隣接音」への動きの変化は、モティーフの変化と展開と考えられます。
8小節のメロディを構成してみよう <楽節(大楽節)、セクション>
✍キーワード:楽節(大楽節) 、セクション
メロディの大きな単位となる8小節ですが、4小節間の前半に対して、後半4小節間をどのようにつなげていくかを考えてみます。
折返し地点後も「反復」と「対比」のイメージを持って
8小節間の「大楽節」をマラソンの全コースと捉えると、4小節目終わりまでの前半「小楽節」が「折返し地点」に当たります。書籍のレッスン29と30では、1小節目から2小節目の終わりまでを「スタート~中間地点」として、4小節終わりまでの後半を「反復・展開」や「対比」などで構成してきました。
さらに「折返し地点」の後、ゴールまでの後半の「小楽節」4小節間も、同様にそこまでのフレーズを「反復・展開」「対比」のイメージで組み合わせてみます。
●「ちょうちょ」
前半4小節間と、後半4小節間が、リズムやピッチが、少しだけ変化していますが、ほぼ似たような反復・展開になっています。さらに、この後につづく展開を期待する構成です。
●「大きな栗の木の下で」
・最初の1小節とピッチの向きが対比された1小節の組み合わせで、2小節のフレーズが構成されます。
・それに続く2小節は冒頭の1小節と似たようなモティーフと、その後半を延長したような別の展開のモティーフが続き、ここまでで前半4小節を構成。
・さらに直前に展開されたモティーフを延長し、回想的に2小節目と同じリズムモティーフが続きます。
・最後の2小節は、冒頭の2小節のフレーズが完全な形でリピートされて、曲が完結、閉じられた印象となります。
フレーズ同士の「反復・展開」「対比」と感じる要素は、モティーフのときと同じです。
ヒント!
またもやマラソンに例えると、5小節目から8小節目の後半「小楽節」は「折返し地点~ゴール」までです。前半と同じ気分のまま走るか、全く雰囲気やペースを変えて走るか、ゴール直前で元の印象を取り戻すか、そのまま違った印象でゴールするか。ストーリーやペースを考えてみましょう。
実践①:冒頭「反復」で構成したものを、さらに「反復」してみよう
書籍のレッスン29の②(P109)で作成した4小節間のフレーズを、さらに後半に反復・展開する形で8小節フレーズを構成します。
たいへんシンプルで、繰り返しが多いことで覚えやすいメロディになることを確認します
実践②:冒頭「反復」で構成したものを、続いて「対比」させてみよう
書籍のレッスン29の②(P109)で作成した4小節間のフレーズを、今度は、後半に対比するフレーズをつなげる形で8小節フレーズを構成します(ここでは、音の長さや動きの方向による対比を施しています)
後半のストーリーが違うことで、メロディの流れが閉じられるような印象を確認しましょう。
実践③:冒頭「対比」で構成したものを、後半は「反復」してみよう
書籍のレッスン30の②(P113)で作成した4小節間のフレーズを、後半は反復・展開する形で8小節フレーズを構成します。
前半、後半の大きな流れによる、ゆったりとしたメロディのスピード感を確認しましょう
実践④:冒頭「対比」で構成したものを、後半も「対比」してみよう
書籍のレッスン30の②(P113)で作成した4小節間のフレーズを、後半も対比するフレーズをつなげる形で8小節フレーズを構成します(ここでは、遠隔音への動きから、強拍がズレるリズムの隣接音によるフレーズの対比を施しています)。
後半、大きく印象の異なるフレーズが現れる、心変わりっぽいメロディを確認しましょう
ヒント!
どのようなフレーズの組み合わせで8小節のストーリーを構成するかは、次の章で説明する「曲のどの部分に当たる8小節か?」(どの「セクション(段落)」か?)という、より大きな視点が大事になります。
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