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取材&テキスト:plug+編集部
撮影:高岡弘(*を除く)

音楽ユニットArika(アリカ)が、2023年2月15日に新作EP『1440』をリリースし活動を本格化させる。Arikaはギタリスト・大和(作曲)、声優・歌手の夏吉ゆうこ(作詞/歌)が、「アーティスト表現として音楽作品を作るユニット」として昨年9月に始動。楽曲『暁光』では、大和による艷やかなサウンドと力強い夏吉のボーカルが交差する深い世界観を展開している。
plug+では、大和、夏吉の連載記事を通し生の声を伝えてきた(『Arika プロダクション・ノート』)。同時に制作現場にも伺い、その様子を取材してきた。連載のゴールとなる本インタビューにて、ユニット活動への想い、作品作りについてお二人に聞いていこう。

1st EP「1440」(Digital)
2023.02.15 配信開始

1. 暁光
2. Daydream
3. 暮暮
4. からたち

Arika 「1440」Premium Package
2023年2月15日 発売

《Premium Package内容》
・LPレコードサイズの豪華ブックレット
・夏吉ゆうこによる手書きイラスト&歌詞カード
・アーティストビジュアル撮影時のカットを使用したフォト・コレクション
・1st EP「1440」12cm CD付き

「分かり過ぎないのがよい」という意識が共通感覚としてあった(夏吉)

●まず、現場取材をして一番感じたのが、ボーカル・レコーディングで、夏吉さんの声が安定して出るのがすごいと。声を保持する大変さはどうですか?

夏吉 確かに毎週のようにレコーディングがあるんですが、ずっと歌っているほうが声が出るんです。しばらくレコーディングが空くと出ないこともあったりしますね。声が大きい、声が強い人だなと周りから言われたりすることも多くて、歌手になった動機みたいな部分でもあります。

●やはり、昔から歌うことが好きだったですか?

夏吉 小学生のときに、音楽の授業で「声が大きいね!」って友達が褒めてくれたことがあって、初めて「声量があるんだ」って自覚したんですね。それを母に報告したら、「だったら、声楽でも習ってみる?」ことになって、結果10年くらい声楽の勉強をしていました。

●その流れで歌手や声優を目指すことになった?

夏吉 それが、「声優になりたい」と強く思っていたわけでなくて。中学・高校生の時の友達が、舞台が好きだったり、アニメソング好きだったり、そんな人が周りにたくさんいて。その子たちが、音楽関連の専門学校に行くことを目指していたりもしたので、横で聞きながら「演技や歌って楽しそうだなあ」と漠然と感じてはいたんです。

その後私は高校、短大と音楽系の学校に行くんですが、将来を意識したときに結果的に「歌の道を選んでいた」みたいな感じでした。ただほんとに実現に動いたのは、いよいよと就職という時に、働く先が決まってなくて、このままではニートになる!生活の危機が!……と焦っていろいろ探してからなんです。そこで現在、所属している賢プロダクションのオーディションを見つけて、運良く滑り込むことができました。

夏吉ゆうこ

●その後、舞台や声優のお仕事をメインに活動されながら、現在、Arikaという新たな活動に移ってきたわけですが、プロデューサーのタノウエさん曰く「Arikaはホームグランドになるような場所」とも言われていますよね。Arikaが始動したときお二人はどんな感情でしたか?

夏吉 歌わせていただくこともある職業なので、いろいろなタイプのプロジェクトに参加させていだくことは多いんです。声優であればキャラクターとして歌うことが主になるので、そのキャラに合わせて歌い方を変えていく感覚です。時には自分の聴かないような種類の音楽を歌唱したりもしますし。楽しみながらやっていますが、頑張ってコンテンツに合わせていきます!という心持ちでもあるんですよ。

もちろん、「かわいい曲を可愛くするぞ」と歌うことも大好きなんですが、一方でキャラを通さない、自分の一番やりたい音楽をやるとしたらどんなものだろう?と考えていたりもして。そんな中お声がけいただいたのがArikaだったので、歌う自分の違う面を出せる、「やったぜ!」と思いました。

大和 私も同じように普段の楽曲制作と違うアプローチができそうだなと思いました。結果、夏吉さんの歌唱力がすごいので、楽曲でやりたい可能性もどんどん広がっていきました。

夏吉 タノウエさんとはメディアミックスプロジェクト『アサルトリリィ』でお仕事をご一緒していて、普段からコミュニケーションもよく取っていたし、大和さんはロックでかっこいい曲を作るクリエイターだなと思っていたので、ご一緒できてワクワクする気持ちでしたね。このチームだと何かすごいものを作れるんじゃないか!と。「自由に歌える場所」という意味では、気持ち的にも楽にできるがArikaなので、活動していてほんとに楽しいです。

●そんなお二人が、言わば仲間としてArikaを始動するわけですが、最初に「ここを目指す」のような視線合せの作業はありましたか?

大和 作曲を始める前に、既存の曲を用いてプリプロ(プリプロダクション)してみたんですが、僕も夏吉さんの歌唱力を探る意味で、エヴァネッセンスの楽曲をリファレンスの1つで提案したんです。

夏吉 当然、英語だったので、Arikaは全部英語詞なの!?とびっくりしましたけど。

大和 タノウエさんから、夏吉さんが普段からエモ系ロックとか、ゴシック・ロックみたいな音楽が好きと小耳に挟んで、エヴァネッセンスも好きって聞いていたので。僕もロック好きだし、お互いの好きなものを確認するために(笑)。

ただ、実際に楽曲制作が走り出したらジャンルにこだわることは無くなりました。「夏吉さんが一番自然な形で魅力的に歌える曲」を探るような感じになっていきましたね。まず『暁光』のデモを形にしてみたんですが、レコーディングの過程でメロディーの音程をどんどん高くしたり、夏吉さんの高い歌唱力に対応した楽曲に変化していきました。

その後の楽曲では「これくらいならいけるだろう」ともはや無茶ぶりのようなものを入れてみたりもしていますが、夏吉さんの歌唱は毎回それを軽々と超えてきてくれるので、楽しみながら作っています。夏吉さんが作ってくる歌詞も素晴らしくて、楽曲に良い作用をしていますね。

●夏吉さんは楽曲側からの提案を、歌詞作りで応えるみたいなところはありましたか?

夏吉 作詞が初めてだったので、最初は緊張しましたね。やっぱり全然言葉が出てこなくて。締切間近になって、とりあえず制作の布陣がプロなので「もういい感じにしてくれるだろう」みたいに提出してみたり。苦戦したのは、『暁光』の出だしですね。あの部分は3人で考えました。

大和 最初はお互い手探りだったでんすが、続けて上がってくる歌詞を見てみると、すごいものが出てきたなと思いました。

大和

●共作していると、世界観やメッセージなどだんだん定まってきた感覚はありましたか?

夏吉 全員で感覚が一致していたのは、「分かり過ぎるとなんかいやだよね」ということでしょうか。聴いたとき、想像の余地を残しているような表現にしたいなと。なので歌詞も直球の言葉は使わないとか意識していますね。自分で伝えたいメッセージは、聞聴いている人にはすぐに解らないように仕込んでいたりします。それが、聴き手の想像につながるような表現になるかなと考えています。

ボーカル・レコーディングで意見を出し合う様子*

大和 夏吉さんの歌詞はある意味、夏吉さんの等身大なんだろうと思っています。だけど、どこか分かるようで分からない、掴めない感じがあって。それがArikaの魅力になっていると考えています。

夏吉 もっと俯瞰した目線で歌詞が書ければいいなと思っていたりもしますね。『Daydream』は唯一大和さんが作詞したんですが、あの境地にいきたいと思ってみたり。

大和 『Daydream』の歌詞は、僕が歌い手でないから書けたのかもしれませんね。僕の感情を直球で出すと、夏吉さんの言葉でなくなってしまう感覚があって。その点、夏吉さんの歌詞は自分で歌うからこそ、何か説得力のようなものが生まれるんじゃないかなと思っています。

夏吉 確かに。自分で書いて歌うとなると不思議な感覚になってきます。歌っている途中は、「ここにこの意味を込めたい」と強く意識したりするんですが、ミックスまでしてすごい曲に仕上げてくれたときに、自分の書いた言葉に聞こえないことがあったりします。そこでいったん歌詞が自分から離れていき、素直にかっこいいな〜と思える自分がいるのが楽しいんですよ。

夏吉さんのボーカル・レコーディング風景*

●取材を通じて、言葉で表現できない「Arika」みたいな概念があって、Arikaの楽曲が歌詞や曲を用いてそれを表現していくイメージ描いたのですが、いかがですか?

大和 そうですね。最初の『暁光』のときは、夏吉さんが歌詞を書きやすいかなと思って、楽曲テーマみたいなものを先に伝えたのですが、最近は実はそんなものは全然いらないのかも、と思ってきました。根本に考える世界観が同じなら、後はお任せで作詞してもらうほうが良いなと。もちろん、自分の中に楽曲のテーマは何かしらあるんですが、先程の夏吉さんの話みたいに「自分の手を離れて別の良さが見えてくる」可能性を楽しみたいなと思ってきています。

夏吉 大和さんの意思を聞かず書いたときは、これ刺さっているのかな? 言葉がはまっているのかな?と思っていたりしましたけど。確かに、Arikaという感覚を共通で持ちつつある気はします。

●まだ4曲を形にした段階なのでこれから音楽表現が発展していくのが楽しみではないでしょうか?

大和 はい。僕が一番考えているのは、夏吉さんの圧倒的な歌唱力をどううまく楽曲で表現するか?なんです。なので「スタイル」や「ジャンル」にはこだわらず、いかに音楽的に幅を持たせられるかを常に考えています。現在制作中の楽曲も1st EPとはまったく雰囲気が違うものを作ったりしています。

夏吉 それに合わせて、歌についてもいろいろチャレンジできるなと楽しみです。

Arikaでは、「面白いギターの音作りをやってみよう」といろいろ試していたりします。(大和)

●楽曲制作の流れは、まず大和さんがプリプロをご自身の環境で行い、その後はどんな作業になりますか?

大和 デモを作ったらタノウエさんにどうですか?と意見を聞きます。そのやり取りを通してある程度形になったら、夏吉さんとスタジオでプリプロをします。それを経てキーを決めたり、持ち帰って調整を行ったりしてサウンドを固め、本番の歌入れを行います。最終的にはミックス・エンジニアの新垣さんとスタジオに入って、TD(トラックダウン)の作業で楽曲を仕上げます。

夏吉 最初、大和さんから「オケに仮歌はほしいですか?」って聞かれたんですが、「要りません」と伝えました。もともと歌メロで覚えるタイプですし、通常のレコーディングだと仮歌があるおかげでオーダーが分かりやすいんですが、Arikaの場合自分の作詞した楽曲なので、まっさらな、先入観のないところから歌入れをしています。

大和 毎回すごい歌唱なので想像を超えてくることが多くて。プリプロを必ず行っているのは、そこからまた曲を膨らませていく作業ができるからなんです。

歌入れのテイクを繰り返し聞く大和さん、タノウエさん*

●振り返ってみてArikaだからこそできた表現はありましたか?

大和 僕は普段、メタルとか好きなんですが(笑) そんなギタリスト・大和的な視点で言うと、ドラムががんがん入っていなかったり、「ギターです!」という分かりやいギターの音ではなく、あまり聴いたことないようなサウンドに加工して鳴らしている点です。すべての楽曲にギターは入っているんですが、普段だとメインに使うことがないような特殊なギターの音を積極的に表現として活用しています。Arikaでは「とにかく面白い音作りをやってみよう」というスタンスでいろいろ試しています。

●plug+の連載ブログで音作りは詳しく紹介されていますね。Arikaの楽曲では音がシュッと無くなり静寂になり、聴き手をはっとさせる表現が絶妙ですね。

大和 どの楽曲でもメリハリは重要だと考えています。聴いている人の注意を惹きつけたいんですね。そこにはこだわっています。

●スタジオでのミックスダウンではエンジニアとどんなやり取りをしていますか?

大和 新垣さんには、曲のメリハリみたいなところの調整を細かくリクエストしました。ただ、Arikaの楽曲では、曲のアレンジの時点である程度音を作り込んでいくことが多いです。例えばボーカルを変わったエフェクトで加工する場合、エンジニアさんに依頼する際のさじ加減なども現場判断だと難しいので、あらかじめ自分で作ってしまうことが多いですね。

●『からたち』の後半にあるボーカルの積極的な加工ですよね?

大和 はい。ちょっとしたギミックは、作曲の時点で「何か加工したいな」と漠然としたイメージはあるんですが、プリプロや本番のレコーディングで録った歌をいったん持ち帰って、いろいろ試してしっくりくるものを決めることが多いですね。Arikaの場合、制作のプロセス的にそれができるので。

スタジオでのミックスダウンの様子*
ミックスダウンで歌詞と録り音を入念に確認する大和さん*

●楽曲の振れ幅については、一日を4つの時間帯に分け表現するコンセプトもあり、多様にもなっていますが、それでいて統一された質感もありますよね。

大和 朝、昼、夕方、夜といっても、細かくは時間によっても違うし、人それぞれのイメージがあると思うので、想像の余白があるような仕上がりにしています。聴き手がイメージを膨らませてもらうきっかけになると嬉しいです。

夏吉 今回の制作を通じてこれから、いろいろな表現にチャンレンジしていけるのがさらに楽しみになりました。

大和 統一感という意味で、ジャケットのグラフィックにも音と共通の感覚があって、いろいろ想像を掻き立てるような抽象的なビジュアルを採用しています。個人的には、音もデザインも含めて作品全体で「かっこいいでしょ?」と言いたくなるような仕上がりですね。

●大和さんは、いろいろなプロジェクトが並走していると思いますが、アイデア出しはどのようにされていますか?

大和 僕は比較的手が早いクリエイターだと思っていて、どんどん楽曲を作ることはできるんです。ただ最近は、人に聴かせる前に一度寝かせることが多いですね。「果たしてこの音のセンスはほんとに大丈夫なのか?」と自分の感覚を疑うこともあって…そこは慎重に考えるようにしています。余裕のある大人に、とでも言いますか、そうなりたいです(笑) アイデアが出ないときもあるので、そういうときは諦めてゲームしたり動画を見たり気分転換しています。

●迷ったらプロデューサーに聞くこともありますか?

大和 もちろん。作業しながらタノウエさんの感想を聞いていますね。結構「めちゃいいですね!」という返事が多いので安心したりします。プロジェクトを一緒している経験も多い人なので、僕のこともよく知っている分、反応は信頼しています。

ライブでは特殊な音作りをどんなシステムで表現するか?を考えています(大和)

●制作が続くとはいえ、1stEPリリースでいったんの区切りですが、作り終えた感触はどうですか?

大和 まずはいろんな人に「こんなの作ったんですが、どうですか?」と伝えたい気持ちです。今回グラフィックも素敵に作ってもらって、ミックスダウンもマスタリングでもかなり良い音に仕上がりました。いろいろな人の協力のもと作品を完成させた感覚があって、自分でも何回も聴き直しているくらい気に入っています。ぜひ、まずは聴いてもらいたいですね。

●今後の予定でライブを行ういますが、楽曲の持つイメージをライブで再現するのは、大変そうですね。

大和 準備はこれからなので、どうなることやら(笑) まずは曲数も増やしたいので新たにカバー曲を含め新曲を作っていく計画をしています。先ほど言ったみたいにギターを特殊な音作りで使っている表現もあり、ライブ・システムをどう組むか?何の機材でやるか?みたいなことを考えています。いずれにしろ何か面白いことをやりたい意欲はあります。

●ライブでは、ぜひギタリスト大和さんを見てみたいのですが。

夏吉  それは見たいですね!

●では、夏吉さんがアカペラを披露するというのも一緒にいかがですか?

夏吉 別コンテンツの設定で、アカペラ部のキャラクターで演じたことはあるんですが、確かに自分のライブでやる発想はなかったですねえ(笑)

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