テキスト:宮川麿 イラスト:mucha
DTMに関する初心者向けのお悩みをサウンド・コンポーザーとして活躍する宮川麿さんが、Q&A形式で答えていくコーナー。連載でさまざまなお悩みを解決していきます!第9回は作曲家志望のカワウソから「ミックスって何?」という質問です。
目次
音楽制作におけるミックスとは?
ミックスとは?
私はトラック・メイクができるようになりたいカワウソです! お友達から“ミックスするとCDに入っているプロの音みたいに良くなる”って聞いたんだけど、そもそもミックスの意味は何ですか?
ミックスというのは、①ボーカル、ギター、ベース、ドラム、鍵盤楽器などの複数のオーディオ素材の音量/定位のバランスを整えたり、②エフェクトなどを使用してそれぞれの音色を作り上げることです! きっとプロの音源と自分の作った音を聴き比べたときに、自分のは音が小さ過ぎてビビったりしているでしょう? そんな方はミックスを勉強した方が良いですよ!
なるほど! 私の作った音をヘッドフォンでモニターしてみると、薄いし、低音がモゴモゴしているし、歌は奥まって聴こえるんです。何より全体の音量が小さくて……これはミックスが必要ってことですか!?
そういうこと! 自分で自分の音楽の欠点に気付けていることはえらい! 僕もそんな経験をした日々がありました。その問題を解決する鍵はミックスなんだけど、ミックスでは特定の周波数帯域(500Hzとか1kHzとか)を操作して音量バランスを整えたりするので、実はアレンジ作りの段階から“どのパートがどの帯域で鳴っているか把握&工夫”することがとても大事なんだ。
良いミックスは、良いアレンジ作りからスタートするのですね!
ミックスをする前に“音圧”を理解しよう
ミックスの必要性を理解するために、まずは“音圧”の意味を理解しよう。人間の耳というのは、大きい音を良く感じてしまう、という都合の良い性能をお持ちなんだよね。でも、ずっと同じ音量で聴いていると耳が慣れてきて、それが大きい音なのかどうかが判断できなくなってしまう性能も持ち合わせている。ということはミックスで、小さい音のところは小さく、大きいところは大きく作っていけば、音の大小を脳が聴き分けて、迫力を感じられるサウンドになっていくわけだ!
それが音圧を感じる要因で、ミックスをする理由なんですね! ミックスが必要な理由を、根本的な部分から理解できました!
例えば、サビ頭でドラムのシンバルを“ジャーン!”って打ったりするよね。これはサビの始まりの合図でもあるけど、このシンバルが入ることで瞬間的に音量が上がって、聴き手が迫力を感じることにもつながっているんだ。サビで楽器数を増やして、高音から低音までをカバーしたビッグなサウンドを同時に鳴らすのも定番手法。オーケストラも盛り上がる部分では皆が“ジャーン”と演奏するよね。これもすべて、音圧を感じさせる要因だよ。
そういう理由があったんですか!だとすると、①サビで音圧が感じられるようにサビ前に無音のブレイクを作ったり、②Aメロは歌+ピアノだけ→サビで楽器パートを足す、とかでもだいぶメリハリを作れそうですね! この即席テクニック、今すぐに採用します!
ミックスの必要機材は?
先ほども言ったけど、ミックスでは各パートの音量の大小バランスを演出するための処理をするよ。そのために必要な機材が、特定の周波数帯域を増やしたり減らしたりできるイコライザーと、1つのトラック内にある音源の音量ムラ(音量の大きい部分と小さい部分)の差を圧縮して軽減できるコンプレッサー。
DAWの中にプラグイン・エフェクトで、EQとコンプがありますよね。以前、友人が「EQは基本的に“欲しいポイントを上げて”みたり、“要らない音や他パートに譲りたい帯域を空ける”目的で使う」と言っていました。
EQを使うには、その録音素材で聴かせたいポイントや不要な帯域を特定する必要があるんだけど、これは純粋に耳を鍛える必要があってとても難しいんだ。だから、昨日打ち込みを始めたばかりの初心者がすぐにEQをマスターするのは困難of困難。まずは、コンプを理解して使ってみることをおすすめします!
コンプレッサーを使う理由と使い方(初心者向け)
コンプでは、ピークを抑えて音量を出していくことで音圧感や存在感を上げたり、音像の前後感を作ることができるよ。楽器や歌の音量は、一定じゃないからね。楽曲の構成楽器が少ないから“スカスカに感じられる”なんてときにも、コンプレッサーで各パートの音を圧縮すれば、音圧感や存在感を出すことができるよ。
コンプで音像をかなり変えられる、ということですね。でも実際にどのようにコンプ内のパラメーターを操作すればいいか分かりません。この地球上で一番短く、分かりやすく、教えてもらえませんか?(注文の多いカワウソ)
分かった☆ 基本的には“Thresh”と書かれたスレッショルドで決めた音量以上の音が“Ratio”=レシオで定めた 圧縮率に応じて下げられて、最後に“Gain”=ゲインで欲しい音量の出力ができる機材がコンプだよ。
ここにある“Attack”では圧縮され始めるスピードを変更できて、遅くすれば音の輪郭(トランジェント)を耳に痛いくらい強め、速くするとぼやけてしまうほど弱めることもできるので、音の前後感の操作が可能なんだ。
“Release” では圧縮を終えるタイミングを決められるけれど、これは耳で聴きながら自然にコンプを終えて元の素材の音に戻って来られるポイントを探すのが良いよ。
なんてコンパクトな説明なの! 麿先生、ありがとうございます! もうこれで自分、コンプ・マスターになれると思います!
マキシマイザーで全体的な音量アップもおすすめ
音圧を上げるための必殺兵器に“マキシマイザー”があります。これを使うと、瞬間的なピークが消えて、全体的な音量を上げていけるわけです! 僕たちプロはDAWソフトのマスター・トラックの最終段にマキシマイザーをインサートして、最終調整するように使っています。あとは、ドラム・トラックにインサートして、ピークをつぶして全体を持ち上げて迫力を出す、というテクニックもあったりします。これについてはまた次回、詳しく紹介するね!
まとめ:ミックスはアレンジの音圧操作から始まる
こうした細かい処理を積み重ねていくことによって音圧を出す工夫をしていくと良いでしょう。その後にやっと“あれ、同じ周波数帯域にたくさんの楽器が鳴っていて帯域干渉起こしてない?”とか“あれ自分の曲、全パート音が近くに聴こえるけどバランス整えた方が良いかな?”などと新たな発見が生まれ始めるはずです。そうして、アレンジでの工夫とミキシングでの工夫が合わさったときに、きっと一般の音源で聴けるような迫力のあるサウンドに仕上がります!
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