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テキスト:宮川麿 イラスト:mucha

DTMに関する初心者向けのお悩みをサウンド・コンポーザーとして活躍する宮川麿さんが、Q&A形式で答えていくコーナー。今後、連載でさまざまなお悩みを解決していきます!第3回はまたもボカロPを目指す小動物から、作曲と編曲の違いに関する質問です。

僕はボカロPをガチで目指すリス!麿先生、僕気合を入れて音楽の勉強を始めたけど「作曲と編曲とアレンジの違い」がよく分からなくて困ってる。

宮川麿(みやがわ・まろ)

頑張ってるね!簡単に言うと、
・作曲は「音楽作品を作ること」
・編曲は「メロディに対してコードやリズムを加えていくこと」
・アレンジは編曲と同じ意味

じゃあ、作曲家は音楽作品を作る人?編曲家はコードやリズムだけを作る人? 作曲家と編曲家の境目が分からないんだけど!

宮川麿(みやかわ・まろ)

何のこっちゃだよね。分かりやすく説明するために、ここではJポップにおける作曲と編曲の違いについて解説します。

作曲家のお仕事ってどんなもの?

僕たち作家やクリエイターの認識として、作曲は主役となる“主旋律”を作ることだと思っています。Jポップで言う“歌”の部分で、“歌メロ、メロディ、主旋律”とかで呼ばれます。よく“作曲は簡単”という話がありますが、本当にその通りで、適当に鼻歌で「ふんふん~♪」って歌えばそれが“作曲をした”ことになります!

じゃあ作曲家って結構イージーな職業で、「ふんふん~♪」で簡単になれるってこと?今すぐ僕も作曲家として事務所に所属できちゃうのかな?

宮川麿(みやかわ・まろ)

事務所に所属するようなプロの職業作家さんとなると、キャッチーだったり、発注されるイメージ通りのメロディを自由自在に作れないといけないんだ。僕も良いメロディを作るために日々勉強しているよ!さらに昨今は、編曲や打ち込み、トラック・メイクもできる作家さんが主流になってきてる。特に仕事にしたい人には必須かもしれないね。イメージ通りの曲が作れるよう、リスも編曲まで覚えていこうね。

編曲家のお仕事ってどんなもの?

編曲家は、作曲された歌メロに対してオケやバック・トラックを作っていきます。近年はDAWを使って各パートを打ち込んだり、譜面を作ったりしてから、それをミュージシャンの生演奏に差し替えてもらう、なんてことも多いです。そのレコーディングのための打ち込みや譜面作りも編曲家の仕事に含まれます。

編曲家として、オケとかバック・トラックはどんなものを作るんだ?

という声が聞こえてきますね。平たく言うならば、歌のメロディが生きるようにオケを組み立てていくのです。具体的に言うと、Aメロはピアノだけ、Bメロからドラムとベースが入り、サビでギターがジャーン!と入ってくると、その後ろでは壮大なストリングスが広がっていて、歌にはハーモニーが重なる……みたいな、展開によって構成を工夫していきます。

ボカロ曲って、曲調は本当に人それぞれでしょ?だから、リスはポップスもダンス・ミュージックもチルなヒップホップも全部作れるようになりたいの。麿先生、大体どういう楽器で構成されるか教えてくれる?

宮川麿(みやかわ・まろ)

どのジャンルにも共通しているのが「リズム」「ベース」「コード(ギター/ピアノ/シンセ)」「上モノ(ギター/ピアノ/シンセ/ストリングスなど)」が曲を構成する核であること。トラック数は30〜多いときは100trを超えます。全部が同時に鳴ることはなく、入れ替わり立ち代わりで曲のカラーを作るために演出していきます。ジャンルごとに説明してみようか!

スタンダードな弾き語り系ポップスの構成

定番の弾き語りポップスでは、アコギをメインにしながらもピアノやストリングス、エレキギターなんかも使って楽曲に彩りを加えていきます。ドラムはアコースティック・ドラムにエレキベースが定番です。

Aメロはアコギのストロークをメインに、Bメロからオブリガードのピアノやブラスが入ってきたり、サビにはストリングスやエレキギター、パーカッションなどを入れて盛り上がりを演出したりして組み立てます。先ほど説明した核の部分に基づいて整理すると、弾き語りポップスにはボーカル以外に、以下のようなパートが必要です。

リズム:アコースティック(生音の)・ドラム、タンバリン、シェイカー……etc.
ベース:エレキベース
コード:ピアノ、エレキギター、アコースティック・ギター
上モノ:ストリングス、トランペット、トロンボーン……etc.

ポップス制作におすすめのNATIVE INSTRUMENTS Kontakt

確かによくおすすめされるから名前だけなら聞くんだけど、値段が高いよね。ちょっと正体不明というか……Kontaktってどういうものなの?

宮川麿(みやかわ・まろ)

Kontaktはソフト・サンプラーで、さまざまなソフト音源を鳴らす装置!プロにも愛用している人が多い定番!Kontakt単体にさまざまな音が入っているんだけど、KontaktのKompleteって書かれたパッケージの製品には、ピアノからシンセやストリングス、パーカッションまで、ポップスに必要な音はほとんど入っていて便利だよ!

NATIVE INSTRUMENTS Kontakt

ダンス・ミュージックの構成

ダンス・ミュージックは、ドラムの音色とビートでジャンルが変わるというくらい、ドラム・サウンドが大事。EDM、ダブ・ステップ、トランス、ハウスなど、各々の特徴のある音色を選ぶのがキモになってきます。ベースはシンセ・ベースがメインになり、アナログ系の太めの音色が定番です。これもまたジャンルによって音色が変わりますので、自分の作りたいジャンルがどれかなのかを明確にしてから望むと、ゴールに辿りつきやすいですよ。ボカロ系ではEDMやダブ・ステップ、トランス系でよく聴ける派手なシンセの音色が好まれる傾向にあります。

リズム:ダンス系ドラム(キック、スネア、クラップ、ハット、シンバル、パーカッション……etc.)
ベース:スラップ・ベースやシンセ・ベース(両方使うことも)
コード:エレキギターのカッティングやコード、厚めのシンセ・ブラス、ピアノ……etc.
上モノ:シンセ・リード、ピコピコやキラキラのシンセ・シーケンス

ダンス系制作におすすめのVENGEANCE SOUND Avenger

宮川麿(みやかわ・まろ)

ダンス・ミュージックに強いVENGENCEのフラッグシップで、EDM、トランス、トラップ、ハウスまでダンス系の定番音色がたくさん入っており、分厚いシンセ・リードから、ドラムまで入っている守備範囲の広い子。完成度が高い派手な音色も多いので即戦力になってくれるよ!プリセットの数も多くて、曲のジャンルで指定して探すことも可能だから、ダンス・ミュージックが苦手な人でも使いやすいのが良いね。

VENGEANCE SOUND Avenger

チルなヒップホップの構成

主にメインとなってくるのは、ローファイなピアノやエレピ、レコードから切り取ったようなドラムです。音数は少なめに、すき間を生かしたシンプルなパターンをループさせていきます。どのパートでも、いわゆるテープやレコードで鳴らしたときのようにピッチをうねらせたり、歪んだサウンドに加工するのがポイントです。最近はローファイにできる専用プラグインで、テープ・シミュレーターといったものも多数出ています。それらを使うと手持ちの音源もすぐローファイ化できて、便利です。

リズム楽器:サンプリング・ドラム(キック、スネア、クラップ、ハット、シンバル、パーカッション、フィンガー・スナップ……etc.)
ベース:低音の効いたサブベース
コード楽器:ローファイなピアノやシンセ・パッド
ウワモノ楽器:カリンバ、ベル、ボーカル・チョップ、シンセ・アルペジオ……etc.

チルなヒップホップにおすすめのSPECTRASONICS Keyscape

宮川麿(みやかわ・まろ)

SPECTRASONICSの鍵盤楽器専用音源で、定番のグランド・ピアノからエレピ、チェレスタやデジタル・キーボードまで多種多様の鍵盤楽器を収録してるのが特徴だよ。シネマティックなサウンドやローファイでレトロな音色まで幅広くプリセットされているんだ。クオリティが高くて、質感も良いので、僕も制作には必ずと言っていい程使っているよ。Omnisphereを組み合わせるとプリセットが拡張されて、より魅力的な音色が増えるのも面白いところ。細かいエディットもよりできるようになり、さらに強力になるよ。

SPECTRASONICS Keyscape
SPECTRASONICS Omnisphere

麿さん、いろいろと教えてくれてありがとう!ジャンルごとに楽器パートが変わるだけじゃなくて、音色加工用のエフェクトの方向性まで変わっていくんだってことを学べたよ!編曲って大変な作業だなぁー。

話は戻り、つまり作曲と編曲の違いは?

僕のイメージでは、作曲を0から1を生む作業とすると、編曲は1を10にする作業で捉えています。編曲はあくまでメロディがある前提なので、そのメロディが輝く方法を追求しながら進めていきますが、作曲は何もない状態から一番主役のパートを作らないといけないのです!

宮川麿(みやかわ・まろ)

皆さんへ最後に余談ですが、Jポップでは作曲には印税(編註:著作物の発行/販売部数に応じて支払われるお金)が発生します。編曲には印税が発生しません(泣)。その代わりに、編曲家には“編曲料”というような形でギャランティが支払われます。作曲家にはそういったものはなく、基本的には印税がギャラになります。こういった部分も作曲と編曲の違いの一つだったりします。

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